473氏による強制肥満化SS
3,
あの後、何度も何度もためして、消化吸収をコントロールする魔法だけはちょっぴり成功した。
夜が明けた今、あたしのお腹は人間の妊婦くらいのサイズまで小さくなっている。
「うう… でも、いきなりデブった……。」
当然かも知んないけど、エネルギーを栄養に変えて吸収した分、お腹が引っこんで体がひとまわり大きくなった。
座ってると太ももの肉が広がって気になるし、二の腕とかもタプタプしてきた。
胸もちょっと大きくなった気がする。
…お腹さえ完全に引っこめばまだ“ふっくら”程度で済む… かな…?
だけど、それより今問題なのはさっきからずっと頭がクラクラすることだ。
「うぇぷ…… キモチ悪ぃ…。」
食べさせられたエネルギーがめちゃくちゃ濃かった上、それをムリヤリ消化したから胸焼けがすごい。
こんなんじゃとても外に逃げ出すなんてできない…。
「よい……しょ……」
お腹をかかえて立ち上がる。
丸く膨らんだお腹が重くて、歩くだけでも一苦労だ。
「ふぅーーー…。」
あたしはベッドに横になった。体がだるくてこれ以上動けない。
あまりの満腹感で気がヘンになりそう。
昨日まではお腹ペコペコで、おいしい心をお腹いっぱい食べたいなー、なんて思ってたけど、こんなにいらない。
人間がこんなに危ない生き物だったなんて…。
「つかれた…… ねむたい……。」
昨日の夜からずっと、必死でエネルギーを消化していたからものすごく疲れた。
このままちょっと寝たら胸焼けも治るかな……。
「……ぅん…。……あれ… もう夜…?」
あたしが目を覚ますと部屋はもう暗くなっていた。いつの間に寝ちゃったんだろう。
「そうだ… ここから逃げ…。……っうわぁ!!?」
ふと横を見るとそこにはユウが立っていた。
部屋の灯りくらいつけなさいよ!! ビックリするから!!
「…ただいま… プラン…。」
「ただいまって…… ひぃっ!!?」
ユウの顔を見て、小さな悲鳴をあげてしまった。
そこにはどんな悪魔でもかなわないような怖い顔があった。
口は耳まで裂けそうなくらい笑っているけど、眼は鬼みたいに怒ってる。
「な… なに…? その顔… どうしたの…?」
あたしは震えが止まらなかった。歯がカチカチ鳴っている。
「いや… 今日許せないことがあってさ…。せっかくだから色々ストレスを溜めてきてみた。お前のために。食べてよ。もう朝の分は… 消化… シタンダロ……?」
“ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…”
ユウの体から真っ黒なエネルギーが噴き出した。
ものすごい憎悪… っていうか部屋が揺れてる!
あんたどこの暗黒騎士よ!!
魔人やデーモンでもこんなオーラ出さないわよ!!
なんで人間からこんなエネルギーが出るの!?
こんなとんでもないエネルギー食べさせられたら今度こそ破裂しちゃう!!
「イヤよ!! お腹いっぱいでもう入らな……」
“ガッ”
「んぶっ……!!!」
またユウがあたしの口に噛みついた。
そして真っ黒でドロドロのエネルギーがあたしに流れ込んでくる。
“ドクン… ドクン… ドクン…”
「!? …んんっ!!! んんんんっ!!!?」
このエネルギー濃すぎ!! 体の中が熱い!! 苦しい!!!
「……ふぅ…。」
ユウがやっとあたしから離れた。
あたしのお腹は真っ黒なエネルギーで山のように膨れ上がっている。
「……………。」
もう喋れない。何を言おうとしても口がパクパク動くだけ。
目の前が真っ暗に…… あ、部屋が暗いんだっけ。
「フフ… アハハハ…… お前は便利だね。日頃の欝憤を晴らす良い道具だ…。フフ… 今日はもう… いいや…。…おやすみ。」
それだけ言うと、ユウは部屋から出て行った。
…たぶん… 体をピクリとでも動かしたらこのお腹は弾け飛ぶ…。
…お腹が爆発して、痛さでのたうち回って死ぬあたし…
そんな想像が頭の中で膨らんでいった。
きっと明日もあいつはあたしに無理やり食事をさせるんだろう…。
――――もしかして明日死ぬのかな…――――
天井を見上げる両目から涙がこぼれ落ちたのがわかった。
4,
「…なんだ… まだ消化していないのか…。」
「ぐ… ぎ… うるさい… わよ…。」
夜が明けて部屋に入ってくるなり、一晩中苦しみに耐えていたあたしに向ってユウは冷たい言葉を言い放った。
「じゃあ、消化が終わるまで待っててあげるよ。今日は日曜日で、休みだからずっと家に居るし。」
そう言ってユウはベッドの横に座った。
あたしを見つめる不気味な笑顔がイヤでも目に入る。
そんな… じゃあ、あたしは巨大なお腹に押しつぶされるようにベッドに横たわる、このマヌケな姿をこいつに見られ続けるってワケ…?
「ちょっと… どっか… いきなさい…よ …ぅ…」
人間なんかにこんな姿を長々見られたくない。…まぁ、いまさらな気もするケド…。
「どっか行く…? やだね。俺はお前に心を食べさせるついでに、お前が苦しむ顔も見たいんだ。」
にっこりと微笑みながらとんでもない事を言うユウ。
こいつの方があたしよりよっぽど悪魔みたいだ。
「あなた… あたしを… どうしたいの…?」
「うん? そうだな…。一番やりたいのは俺のイライラする気持ちを全部お前に食べさせる事だけど…」
そう言ってユウはあたしのお腹に手を置いた。
「こうやって、毎日ありったけの心を食べさせたら、お前がどうなるのかっていうのも見てみたい… かな。さぞ、オモシロイ事になるんだろうね…。今からワクワクしてきた。…クスクス…」
…もうダメだ…。あたしきっと、こいつの魔の手から逃げられないんだ…。
こいつはあたしがたとえ地獄に逃げ帰ったとしても、追いかけてきてあたしを殺す気なんだ…。
「お願い… ゆるして… たすけて… 死にたくない……。」
「殺したりなんかしないよ。俺はお前で遊びたいんだ。オモチャは壊れたら遊べない。だから殺さない。」
…誰かこの子に倫理道徳を教えてあげて下さい…。
ユウは本当に、あたしがお腹のエネルギーを消化し終わるまでずっと見ていた。
あたしが魔法を使うときに顔を歪めたり、お腹の痛さで思わず声をあげる度にクスクス笑い声を漏らすユウは地獄の番犬なんかよりもずっと怖い。
…昨日と今日で、消化吸収の魔法はすっかりマスターしたのかもしれない。
昨日は一日かかっても半分しか消化できなかったエネルギーが、今日は半日ちょっとでほとんど消化できた。
必死になれば案外なんでもできるようになるものね。
「クスス…。でも、お腹のサイズは変わってないね。」
ユウがあたしのお腹を中指でぷにぷにつついた。
「う… やめなさいよ…。」
あたしはユウの手を払いのけた。
とてつもない濃さのエネルギーを大量に吸収したあたしの体には、そのエネルギーと同じくらい大量に贅肉がついた。
体中がむくんでいる感じ。今まで何も無かった場所に体の一部が広がる感じ。
体が重い。腕を動かすのだってだるいくらい…。
「ヤダ… こんな体… お願い… もうやめて…。」
「やめる? 何を? 心を食べさせてるのは俺だけど、お前がいきなり太ったのは俺のせいじゃないよ。」
そ ん な わ け あ る か。
「お願い… 地獄に帰して…。」
「やだね。さて、今日の分だ。」
そう言ったユウの目と口が裂けるように開いたかと思うと、既にユウはあたしの口に噛みついていた。
“ドクン… ドクン… ドクン……”
―――あたし、もうダメなんだ…―――
この人間はどうしてこんなに危ない奴なのさ…
この人間はどうしてこんなに真っ黒なのさ…
だれか、こいつを何とかしてよ……。