672氏による強制肥満化SS

672氏による強制肥満化SS

『同居人』

 

 

 

今の俺は部屋には同居人がいる。ちょっと我侭だけど、有能で可愛い同居人が。

 

『知ってるか?妖精ってのはちゃんと実在するんだぜ』

 

数年来の付き合いの悪友は、ずっと前からそう主張していたんだ。
奴によると、人間が見えなくなっただけで、今も彼らは近くに居るらしい。
その話になると、俺は肩を竦めて返すのが通例だった……筈なんだが。

 

「……えへ。ごめん、美味しそうだったからついつい」

 

俺が大学から戻って戸棚を空けてみると、ポテチ(Bigサイズだぞ)を丸々一袋空けたコイツがいた。
こんな大仕事をすると、顔どころか体中汚れそうなものだが、そういう事はないらしい。流石は妖精といったところなのか?

 

「い、いつもの仕事は済ませておいたからっ!これは労働の正当な対価だよ!」

 

そう、コイツは一人暮らしで汚れがちな俺の部屋を、完璧に掃除してくれるとても有能な仕事人なのだ。
身長約30cmくらい。ちょっと大き目の人形と同程度のサイズにしては、とてもよく働く。
掃除だけではなく、裁縫や洗濯までやってくれるコイツは掛け値無しに優秀だ。
最も、欠点が無い訳じゃないんだが。

 

「またか……で、今日はそれ一袋なのか?」
「えーと、なんか白くて黒いのが詰まった甘いのを」

 

調べてみると、饅頭が一箱丸々消えていた。そう、コイツはお菓子に目がないのだ。特に甘い物が。
よく見ると、腹は少し……いやかなり膨れ、服を大きく押し上げている。ポテチだけでは、流石にこうはならないだろう。
悪友曰く。『妖精は昔から菓子とミルクを好むものなのだ』ということだそうだが。
まあ別に、消費されるのはお菓子だけではないらしい。俺が作った食事もその対象である。
半日かけて鍋一杯に作ったシチューを、見事に平らげて鍋の中で寝てた時は少し殺意を覚えたが。

 

コイツと出会ったのは一月前のこと。
俺がくだらない講義にうんざりしながら帰ってくると、荒れ放題だった部屋が綺麗に片付けられていた。
まさかお袋でも来たのか?と戦々恐々と辺りを見渡すと、そういう訳ではないようだった。
がたがた、ごとごと。耳をすませると、そんな音が部屋の隅から聞こえてくるではないか。
綺麗好きの泥棒……?そんなありえない存在を想像しつつ、近寄ってみた俺の目に映った奇妙なもの。
それは、暴れるビンだった。否、正確にはマーマレードのビンに詰まって暴れるコイツであった。

 

「くっ、ふぬっ……ぬ、抜けない……」

 

とりあえず、状況は理解できた。多分、中身を平らげたせいで、出られなくなったのだろう。
あれ?童話か昔話にそんなのなかったか?そう思いつつ、呆然としてとりあえず見守る俺。

 

「ふぬっ、むむむ……あうう、どうしよう……」

 

困ってる。なにこれ可愛い。細い手足に膨らんだお腹がアンバランスだけど。
とりあえず、せっかくだし声をかけてみるか。

 

「お困りかね?可愛らしい不法侵入者さん」
「あ、ちょっと足を引っ張って……って、ええっ!?キミ、ボクが見えるのっ!?」

 

驚かれた。俺も驚かされたこの状況は、彼女にとっても予定外だったようだ。
とりあえず、話をし辛かろうと優しく手伝うと、すぐに脱出は完了した。

 

「ふう。どうも……ところで、ちょっと喉が渇いちゃった」
「図々しい侵入者だな。何がいいんだ?」

 

話を聞くと、俺の部屋を見事に片付けたのはコイツの仕業らしい。
で、ちょっと報酬を物色してた所、ビンに入った甘そうな物が目に入ってしまったそうだ。
どうも、頭はあまりよろしくないんだろう。木に登って、降りられない猫みたいだな。

 

「やー、ホント大変だったんだからね?ちゃんと自分で毎日掃除すること!基本だよ?」
「それが出来てたら汚れはしない。ところで、このクッキーも食べるか?」

 

目を輝かせながら菓子に飛びつくコイツ。きっと戸棚の奥にあったから気づかなかったんだな……
少し話をしてみると、俺のように彼女達の存在を認識できる人間は、もう殆ど居ないらしい。
昔はちらほら居たんだけどね、とクッキーも全部あっさりと平らげて肩を竦められた。

 

「けぷっ、ごちそうさまでした。うーん、満足満足♪」
「そりゃ、それだけ食べればな……」
「でも、ケーキとか有ったらもっと良かったんだけど」

 

贅沢ものめ。と言うか常備するものじゃないだろう、ケーキって。まあ常識なんて無いんだろうけど。
しかし、部屋は本当に綺麗になっていた。物は試しと、姑チェックをしても問題なし。
昨日までの惨状を考えると、これは本当に驚異的だ。感動した旨を伝えると、無い胸を張っていた。
もし俺がやるとなると、休日が数日潰れるか、途中で投げ出すかだろう。まあ多分、後者なのだが。

 

「さて……それじゃ、ボクはお仕事も終わったし……」
「え?もう行くのか?」
「そりゃね。あんな罠に引っ掛からなかったら、キミに見つかる事も無かったんだけど」

 

あれは罠に分類されたのか。そうなると、人間界は妖精にとって罠で埋め尽くされてるんじゃないか?
しかし、このまま行かせてしまう……のは少し困る。また汚れるのは目に見えているからだ。
まあ、掃除の事を抜きにしても。こんな可愛い妖精と、このまま別れてしまうのはいかにも勿体無い。
どうしたものか。頭をフル回転させ、悪知恵を働かせる。こういう場合、有利なのは人間と昔から相場が決まってるのだ。

 

「いや、悪いが俺一人だとまた直ぐに散らかしてしまいそうだ。掃除のやり方を知らないんだし」
「ええ?またボクに片付けさせるつもりなの?」
「うーん、手取り足取り教えて貰えれば有り難いんだが」
「まあいいけど……正直、ちょっと心配だったし。た・だ・しっ!ボクは高いよ?」

 

乗って来た。やはり頭はあまりよろしくない様子だ。
高いといっても、このサイズだしたかが知れてるだろう。……多分、きっと、おそらく。
どの程度が相場なのか……妖精の雇い賃など、生まれて初めて考える難問に直面する。

 

「あー、じゃあ三食昼寝におやつ付き……いや、俺昼は大学だから二食かな?」
「あ、じゃあそれで。宜しくお願いしまーす」

 

即答だった。いいのかそれで、と思って聞いてみると、これで色々苦労しているらしい。
彼女曰く、気づかれないように食べ物を頂くのって難しいんだよ?との事だが。
ビンに嵌った姿を晒していては、説得力は皆無だな。まあこの言葉は言わないで心に仕舞っておいた。
こうして、男一人の静かな生活から一変した、騒がしい俺とコイツの生活が始まったのだ。

 

 

 

……そして、一月。コイツも俺も、すっかりこの生活に慣れてしまった。
帰ってくると綺麗な部屋と、出迎えてくれるコイツと、食べ散らかされたお菓子。
休日は約束通り、小さな教師と一緒に掃除をする。と言っても、普段から片付いてるせいで楽なものなんだが。
コイツが来る以前を考えると、とても人間的な部屋で生活できてるよな、としみじみ思う。
変わったのは部屋だけではない。例え食料目的でも、出迎えがあると少し嬉しい。

 

「喜べ、今日はベリータルトを買って来てやったぞ。晩飯の後で食べるとしよう」
「やったあ!……でも、それならポテチは我慢しとけばよかったかも。げぷ」
「卑しい奴め。と言うか、明日食べると言う選択肢は無いのか」
「え?だって、明日は明日で他に食べるものあるでしょ?この前、テレビで見たアレなんていいなあ」

 

本当に、この小さな身体の何処に入るのか。そう言いたい位、コイツはよく食べる。
最初はこのサイズなら安く済むだろう、と思っていたがまったく全然そんな事はなかった。
まあ、本当に人を雇うよりは遥かに安いし、それにこのやり取りもなかなか楽しいものだ。

 

「お前、またリクエストか?俺の財布は今日もダイエットに成功したと言うのに」
「うぐ。……日本の食べ物が美味しすぎるのが悪いんだよっ!」

 

そう、コイツは確実に太ってきている。まあ、あれだけ食べれば当たり前なのだが。
細かった身体には程よく肉が付き、折れそうだったウエストも小鹿のようだった足も、今は柔らかな脂肪に覆われている。
二の腕もたぷんとたるんでいるが、不思議と服には余裕がある。明らかにサイズ変わってそうなものなのだが。
……むしろあの食事量でありながら、全体的にはまだぽっちゃり程度で済んでいるのが奇跡なのか?
最も本人にこの事を言えば、頭を蹴られ胸を張って労働量の多さを主張されそうだが。

 

「で、今日の夕食は?コンビニ弁当は味気なくて嫌なんだけど」
「安心しろ、俺が作る。……しかし、料理だけは出来ないんだな」
「出来ない、じゃなくてやらないの。だって契約外だもーん」

 

まあ実際、この身長で人間サイズの素材を調理するのは面倒だろう。調味料とかも使い辛いだろうし。
そう言えば、お気に入りのマーマレードは小さなスプーンを使って食べているようだ。コイツも少しは学習したな。
さて、今日の夕食の準備は少しゆっくりと行うとしよう。考えの足りない同居人と、他愛もない会話をしながら。

 

「ねえねえ、これ美味しそうだと思わない?杏で作ったマフィンだってさ」
「お前、さっきアップルパイが欲しいって言ったばかりじゃないか……」

 

 

 

『知ってるか?妖精ってのはちゃんと実在するんだぜ』

 

この話題に、俺が肩を竦めなくなった時。悪友は、にやりと笑っただけだった。
もしかすると、アイツは俺にそういう才能が有る事を知っていたのかもしれない。
もしも、悪友も俺と同じように妖精と同居しているのなら、一度見てみたい。そう思った事も有ったが、やはり止めておいた。
お互い秘密の一つが有っても問題はないだろうし、逆にアイツを他人に見せたいか、と問われれば答えはノーだ。
それに、お前そういう趣味だったのか、と言われるのも……まあ、これは見抜かれていそうだが。
そう。こんな生活を始めて、俺は知ったんだが、俺にはどうもそういう性癖が有ったらしい。
いや、こんな幸せそうに食後のデザートを平らげるコイツが悪いんだ。そういうことにしておこう。

 

「げふ、ごちそうさまでしたっ♪うーん、今日のチョコレートケーキは絶品だったね」
「ホールで買ってきて、俺が1でお前が5という配分に疑問を覚えなくもないんだが」
「えー?ボク、難しい計算わかんなーい。げぷ」

 

大きく膨れ、ぼってりとした腹を撫でつつ、大満足のコイツは今日も順調に体重を増やしている。
丸く柔らかい肉の乗ったお腹に、ぽってりとした太もも。そろそろぷにぷに、と言う表現が怪しくなってきた二の腕。
顔は整って愛らしいままだが、次第に丸みを帯びてきているのは隠せない。子供みたいなほっぺただな。

 

「お前、いつかその羽で飛べなくなるんじゃないか?」
「ふふん、人間の頭じゃ解明できない秘密が、この羽には隠されてるのさ」
「……確かに科学的に言えば、その羽で飛ぶのは元から有り得ないんだが」

 

まあ妖精なんて非科学的なものを前にして科学もないだろう。
そういえば、そろそろお前なんて呼び方は止めたいな。本人曰く名前は無いらしいが、そのせいで呼び辛くて仕方ない。
名付け親になる……まさか、結婚する前にこんな難題に突き当たるとは思わなかった。

 

「あ、しまったな。飛べなくなった、責任取って!……って言えば、働かなくて済んだのかも」
「馬鹿を言うな。お前には、随分と立派になった二本の足があるだろう」
「ぶー、羽無しで掃除やるなんて無理なのにー。ボクの日々の苦労を知らないんだからぁ」
「と言うか、飛べなくなったとして、それは俺の責任なのか?」

 

まあ、もしもそんな事になったとしても変わらず養ってやってもいいんだけどな。
そんな言葉は内に飲み込み、コイツの笑顔をまた見るために、わざと隠しておいた物を取り出す。

 

「ところで、行きつけのケーキ屋がな。常連客に新製品を試食して欲しいと」
「な、なんて嬉しいサプライズっ!?ボク、幸せっ!」
「本当は明日にとっておこうと思ったんだがな。と言うか、お前まだ入るのか」
「甘い物は別腹って言うでしょ?それじゃ、いただきまーす♪」
「その小さな体の別腹ってどこだ。また動けなくなっても知らんぞ」

 

この調子じゃ、ぽっちゃりがでっぷりになるのも時間の問題だな。猛然とケーキに挑む同居人を見て俺は思う。
まあ、それはそれでいいか。俺のストライクゾーンは存外広かったようだ。
それに、この笑顔は反則だろう?ついつい、これを見たいがために甘いお菓子を貢いでしまう。

 

今の俺は部屋には同居人がいる。ちょっと我侭でぽっちゃりしてるけど、有能で可愛い同居人が。


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