人を呪わば穴二つ
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成績優秀で、運動神経もよくって、顔もそこそこいい。
自分で言うのもなんだけど、世間一般から見れば私は十分すぎるくらい出来のいい人間なんだと思う。
でも、自分が恵まれていると思ったことは一度もない。
なぜかって?
それは、私より成績もよくて、運動神経もよくって、ずっとキレイな人間がすぐ近くにいるから。
その人間とは…私の双子のお姉ちゃん。
中間テストで私は学年10位、お姉ちゃんは学年4位。
マラソン大会で私は8位、お姉ちゃんは5位。
生徒会の選挙で私は書記、お姉ちゃんは副会長。
そして…片想いしていたクラスメートも、告白されたのはお姉ちゃんのほう。
常に一歩先を行かれてしまう。
いくら周りから褒められたって、こんなんじゃ自分に自信を持てるはずもない。
いつしか私はお姉ちゃんが大嫌いになっていた。
「由紀、もういい加減寝る準備をしたら? 最近夜更かし癖がついたんじゃないの?
そうやってだらしない生活を続けていると…」
お姉ちゃんのお説教が続く。
お姉ちゃんはいつもこうだ。それはよくない、ああしろこうしろ、
もっと考えて行動しなさい、等々。
ほんの数分生まれる時間が違っていただけなのに、なんでこうもえらそうなんだろう。
「あーもー、わかったよう! 寝ればいいんでしょ!」
「何、その言い方? 由紀のことが心配だから言ってるんじゃないの」
怒るお姉ちゃんを無視して私は自室に直行し、ドアを閉めた。
それでもお姉ちゃんの小言が聞こえてきたが、布団を頭から被るとようやく聞こえなくなった。
「もーいい加減にしてよ…」
言っていることが正しいだけに余計に腹が立つ。
逆恨みなのかもしれないが、どんな形でもいいからお姉ちゃんをギャフンと言わせてやりたい。
最近はそんなことを思ってばっかりだ。
でも、具体的な手段は全く思い浮かばない。
「何かないのかなあ…お姉ちゃんを見返してやる方法…」
「お困りのようですな」
「ひゃっ?」
突然聞こえてきた甲高い声に、私は身体を固くする。
「…空耳?」
「いえいえ、空耳でも幻聴でもありませんよ」
また聞こえた。慌てて布団から頭を出し、周囲を見回すと、枕元にタキシードを着た身長50cmほどのおじさん?が立っていた。
「危害を加えるつもりは全くございませんのでご安心ください。ワタクシは悪魔の悪魔太郎と申します」
「あ、アクマ?」
はいと頷き、悪魔太郎はミニサイズの名刺を差し出す。
それには『呪い専門 悪魔太郎』と書いてあった。
「呪い専門? ってか、変な名前ねえ」
「この国では一般的な名前を付けたつもりでしたが…違和感があるようでしたらただ『悪魔』と呼んで下さっても結構です」
「はあ」
名刺を手に私は首をひねる。
「で、何の用? まさか私を殺しに来たとか?」
「いえ、ですから危害を加えるつもりはございません。本日はビジネスのお話を少々させて頂きたいと思いまして。お客様はお姉様に対していろいろと鬱屈した思いがおありのようですが?」
「う…まあね」
「そしてお姉さまに仕返しがしたいと」
ずいぶんズケズケとものを言う悪魔だ。
まあ悪魔なんてそんなものかもしれないけど。
「まあ…ぶっちゃけそうね。そりゃ殺してやりたい、とかまでは思わないけど」
「そうでしょうそうでしょう。そこでワタクシにお手伝いができればと思いまして、このようなコースをご用意させて頂きました」
そう言って悪魔はどこからか広告らしき紙を取り出し、私に手渡した。
その後悪魔はいろいろなコースを勧めてきたが、余りにも対価が高くて契約する気にはなれないものばかりだった。
「もっと安いのはないわけ?」
「はあ…あるにはあるのですが…」
そう言って悪魔は一枚の広告を差し出す。
「【たるんだお腹であの子もガックリ・アンチダイエットコース】… 1ヶ月につき寿命半日・もしくは525円? めちゃくちゃ安いじゃない!」
「はい。ただし、その分お客様に頑張って頂かなくては呪いにならないのですが…」
「どういうこと?」
「これは契約者の体型の変化がそのまま相手の体型の変化へと繋がる呪いなのです。例えばお客様が1kg太ればお姉様も1kg太る、というように。」
「げ、何それ」
「ワタクシどもの手間が非常に少ないため、このような値段設定となっております。実を申しますとほとんど利益はないのですが、ワタクシどもの上司がこのような体型変化の呪いが非常にお好きな方ですので…」
「そうなんだ…でも、うーん…どうしよう…」
自分が太れば相手も太る、か。
太るのは嫌だけど…お姉ちゃんも太るんだよね…
「てか、いくら太らせてもお姉ちゃんがダイエットしちゃったら結局意味なくない?」
「その点はご安心ください。呪いで増加した体重や脂肪は、お客様がご希望されない限りはお姉さまがいくら努力されても減らすことはできません」
「そっか。ま、そうでなきゃ誰もそんな呪いかけないもんね」
でもやっぱりデブはちょっとなあ…
でもどうせこのまま鬱々として過ごすくらいなら…ん?
「あ、ちょっと。契約した後に私がやせたら、お姉ちゃんもやせちゃうの?」
「はい。ただし、お客様がご希望の項目についてのみ変化させるということも可能です。」
「つまり、太った分は変化させるけど、やせた分は変化させないとかができるの?」
「はい。そのオプションを追加される場合、対価は通常の5割増となりますが」
「そっか…じゃあ太った後に私だけダイエットとかもできるんだ…うーん…それなら…」
「ご契約なさいますか? それではここにサインを」
悪魔がサッと契約書を差し出す。
その勢いに釣られてしまい、まだ迷っていたのだが私は契約書にサインしてしまった。
「ご契約ありがとうございます。このご契約は自動的に更新されていきますので、解約されたい場合はまたご連絡下さい」
こんなあっさり決めてよかったのかな、と少し後悔に似た気持ちはあったけど、契約してしまった以上仕方ない。覚悟を決めて頑張ろう。
(えーい、もう玉砕覚悟だ! 見てなさいよ、お姉ちゃん!)
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