魔法のすごろく

魔法のすごろく

 

 

「3ね。1、2、3、と。あーん、2キロ太るかあ」
「んじゃ私ね。5! …げ、また太るの?」

 

私とまりちゃんが熱中しているのはすごろく。
といってもただのすごろくではなく、マスに書かれた内容が具現化してしまう魔法のすごろくなのだ。しかもどういう趣味の人間が作ったのか、マスに書いてある内容は体重の増減に関することがほとんどだ。
幸い誰かがあがれば元に戻るということなので、ちょっと遊んでみようということになったのだ。

 

「ほら、まりちゃんの番よ」
「はいはい、2ね。…3キロ増える」
まりちゃんの身体がふっと膨らむ。
「うう…ホックがキツイよお」
かなり細いスキニーデニムをはいているまりちゃんは苦しそうにホックを外す。
「ていうか、脱いじゃった方がいいんじゃないの? これ以上デブッたら脱げなくなるよ」
「うー…そうする」
もう既に脱ぐのもきついようだったが、なんとかまりちゃんは足を引っこ抜いた。
まりちゃん自慢の引き締まった細い足。
それが今はふよふよした脂肪をまとってかなり印象が変わってしまった。
元が細いから大根足とまではいかないけど、標準並かそれ以上には太くなってる。
「はい、えみちゃんの番だよ」
「それじゃ…えい!」
サイコロはコロコロと転がり、4の目でとまった。
私はコマを4つ進める。
「えーと、自分と一番近いマスにいる人間から2キロ体重を吸い取る、と」

まりちゃんの身体が横に縮み、私の身体が膨らむ。
「う…私も腰が苦しいかも…」
私はスカートを脱ぐ。
ていうか、脱ごうとしてスカートに指をかけたら既に限界に来ていたようでスカートのホックが弾け飛んだ。
「あー、このスカート気に入ってたのに…」
「あははは、パンツの上にお肉が乗っかってる」
「うっさい!」
まりちゃんの言うとおり、パンツのへりにぽてっとしたお肉がのっかっている。
全く贅肉のないおなかが私の自慢だったのにな…
「んじゃまた振るねー。3と」
こうして私たちはすごろくを進めていった。

 

・・・・・・・・・・

 

「ふう…えと…ウエストが5センチ大きくなる」
まりちゃんの腰周りがふくらみ、3段腹をさらに強調する。
「ほら、えみちゃんの番だよ」
「うん…ねえ、サイコロどこ?」
「そこに落ちてるじゃん」
まりちゃんは私の股のあたりを指差すが、胸とおなかがじゃまになってよく見えない。
ちなみに私たちはすでに全裸になっている。
着られる服などとっくにになくなってしまっていた。
「ないよー」
「取ってあげるよ…よいしょっと」
のっそりとまりちゃんが動き出す。
なんだかトドのようだ。
「ほら…そこに…うー…」
「どうしたの?」
「いや、その…うまくしゃがめなくて…」
どうやらおなかの肉がつかえてしまってしゃがめないようだ。

「いいよ、自分でとるから」
私は手探りでサイコロを探す。
少し動けばすぐに見つかるだろうが、これだけ太ると動くのも億劫になってくるのだ。
「あ、あったあった。それじゃ振るね。…ちぇ、1かあ…体重が10%増える…」
私の身体が一回り大きくなる。
すっかり大きくなっていた胸はさらにふくらみ、自重でだらんと垂れ下がる。
なんだか巨大なへちまって感じだ。
「はあ…それにしても暑いわね…」
汗を流しながら私は愚痴る。
「こんだけ太ればねー…ねえ、えみちゃん何キロ太った?」
これまた汗を流しながらまりちゃんが尋ねる。
ふんだんについたほっぺの肉のせいで目が細く見える。
前はぱっちりした目がかわいかったのになあ。
「ええと…90キロは太ってるかな…」
他にも二重顎になるとか足が太くなるとかの指示があるからもっと重くなっているはずだ。
「あははは、すごいねー」

「えみちゃんこそ何キロ太ったわけ?」
「え? えーと…わかんない、けど…60キロくらい?」
サバを読んだようだ。
まあ気持ちは分かるけど。
「でも、あとちょっとでゴールだもんね。がんばろ!」

 

・・・・・・・・・・

 

「…4。何も…なし…へへ…ラッキー…」
肉饅頭、じゃなくてまりちゃんが喜びの声を響かせる。
響かせるといっても地響きのような低い声という意味だけど。
「私ね…3…お尻に…10キロ…脂肪がつく…」
畳3畳を占拠していた私のお尻がさらに広がる。
もっとも、ここまで大きくなると10キロくらいでは大して変わらないけれど。
「えみちゃん…今…何キロくらい…?」
「さあ…500キロは…越えてるけど…」
切れ切れに私は答える。
こうして喋るだけでも息が切れるのだ。
「なんか…鏡餅みたい…」
あはは、とまりちゃんが笑う。
ていうか、どこまでが顔なのだろう?
首が太くなりすぎたせいで顎のラインが埋もれてしまい、よく分からない。
「うっさいわね…そっちこそ…見られたもんじゃないわよ…」
「へへ…それは…言わない…お約束だよ…」

そう言って笑うまりちゃんはどこまでも明るい。
「まりちゃんは元気ねえ…」
流石に私はもう笑えなくなってきた。
以前の私の腰よりも太い腕。
立っていても(立てないけど)床に届くおなかの肉。
こんな状態で元気を出せるのはよほどの楽天家だろう。
「んじゃ…私の番ね…えい!」
まりちゃんが自分のおなかの上でさいころを振る。(もう床に手が届かないのだ)
出た目は6。
…ん? ということは…
「やったー! あがりだー!」
そう、まりちゃんはあと6マスというところまでコマを進めていたのだ。
「あはは、これでやっと戻れるね!」
まりちゃんの身体がどんどん縮んでいく。
私の身体も縮んで…縮んで…あれ?
「戻らない…なんで?」

「ちゃんとあがらなきゃダメなんじゃない?」
「そうなのかな…」
私は何度かさいころを振ってコマを進め、あがりに到達させた。
それでも身体は元に戻らない。
「な、何で…何で…」
「ねえ、これ、ちょっと…」
まりちゃんがすごろくの説明書を差し出す。
その最後の行には新しいルールが追加されていた。
『このゲームで元に戻れるのは1位の人間のみである』
「…え? ちょ、ちょっと…」

 

・・・・・・・・・・

 

…その後、私が元の身体に戻れたのは1年も先のことだった。
脂肪除去手術を何度も繰り返して300キロほど余分な肉を落とし、残りの肉は動物園から借りたサルを相手にすごろくをしてなんとか落とした。
ていうか、最初からサルを相手にすごろくすることを思いついていればもっと早く戻れたんだけど…

 

教訓:好奇心は身を滅ぼす。…いや、君子危うきに近寄らず、かな?

 

おしまい


トップページ 肥満化SS Gallery(個別なし) Gallery(個別あり) Database