卒業制作
僕はしがない美大生。
このままじゃ大学に残れるか微妙な日々を送っている。
でも塑像・彫刻は大得意。皆から芸術の悪魔って呼ばれてて、先生達からも評価されてる。
卒業制作はもちろん彫刻。同級生の鮫島さんにモデルになって欲しいとお願いしたら、なぜか簡単にO.K.してくれた。
翌日、制作室に来て服を脱いでもらった。
軽く催眠をかけて金縛りにした後、ポーズをつけてみる。
ほっそりした手脚にくびれたウェスト、無駄のない腰回り。
僕の好きなスマート体型だ、きっとダイエットしてるんだろうな。
でも裸婦モデルとしては、ちょっとボリューム感が足りない。
今制作ではルーベンスみたいな健康美を顕した像を作りたい。
もう少し肉付きの良い体だったらいいのに。
そういえば確か制作室の倉庫に年代物の粘土があったな。脂臭くて誰も使っていない代物だ。
それが「肉粘土」であり、使いこなせるのが限られた人々でしかないのに気づいたのは僕だけ。
折角だから使わせてもらおう。
僕は粘土をこねて、鮫嶋さんの体につけ始めた。
まずは手脚。思春期前の子供みたいに骨張った腕や股に、粘土で「肉付け」する。
冷たい粘土を鮫嶋さんの体に塗りつけ、僕の思念を込めながら撫でるように優しく形を整えてゆく。
しばらくすると冷たい粘土は肉体に同化し、暖かくて柔らかい皮下脂肪になる。
手脚の肉付けの後、上半身から順々に粘土を付けていく。
胸部、肋骨の浮き出た醜い凹凸を埋めるように粘土を付ける。
さらに粘土をこね、半球状にして鮫嶋さんの胸に付けた。
うん、だいぶ理想的な体の型が見えてきた。次はウェストに肉を付けよう...
...小半日後。へそ周りの肉付けまで終わり、下腹に肉粘土を付け始めたころ、白い肌は赤みを帯び、ポーズを取ったまま動けない鮫嶋さんの息が荒くなってきた。
そして粘土を付ける僕の手が下腹部を過ぎ、さらに下方に達したとき、指先に湿ったものを感じた。
きっと彼女の躰は暖かくて柔らかな肉体を得た快感で歓喜に震えてるのだろう。
無理なダイエットという呪縛から彼女の躰を解放してあげることができた事に、僕は深い満足感を得た。
全身の肉付けが終わり、改めて鮫島さんの体を観察。
柔らかな手脚に大きな胸、ふっくら張り出した下腹、豊かな腰回り。
脂肪の凹凸感や肉皺も表現できたかな?
地母神的な要素と通俗的な卑猥さを兼ね備えた肉体をうまく顕した素材が出来て、
僕は満足した。
「よし、明日から彼女をモデルにして卒業制作にとりかかろう」。
そう思いながら外を見ると、もう日が暮れていた。
こりゃいけない! 慌てて彼女の催眠を解いて、僕は謝った。
催眠の解けた鮫嶋さんは、「気にしないでいいよ、別に今日は予定も無かったし」
と微笑みながら服を、手早く着る・・・ でなくてお腹を凹ましながら窮屈そうに・・・ 着ようとしたがファスナーが閉まらない。
彼女は「あれ? なんでSサイズなんだろ、朝LLサイズ着てきたはずなのに」と首を傾げた。
あっ、世界を改変したのに服サイズを大きくするのを忘れてた!
「鮫島さんゴメン」僕は心の中で謝りながら、部屋の隅にある黒い毛皮を着せてあげた。
後日。卒業制作が終わった頃。
夜、彼女はいつも僕の尻尾をいじりながら、「こんなのが生えてる人間なんて普通いないわよ、まるで漫画の”虫歯菌”みたい」と笑う。
えっ! カギ尻尾生えてるのって僕だけなのか?
カギ尻尾って変なの?? 僕の親も生えてるし、普通だよね!
付記
まだ肉粘土が実習室に100kg以上残ってんだけど、どうしよう。
誰でも使えるように僕の「念」でも込めておこうかな。