悪魔との契約
その日、自分の部屋に戻ると部屋に見慣れないものがあった。
「待っていたぞ。俺と契約してくれ」
その黒い物体… 大きさは手のひらサイズ、あぁ、悪魔だコレ。
それも絵本に出てくる虫歯菌みたいなもの凄くベタな。
(契約?こういうのは大抵、悲惨な末路になるんだよな…というか俺悪魔が目の前に居るのに意外と冷静だな)
などと考えていると、その悪魔は思わぬ一言を発した。
「俺とお前は共通の趣味を持っている。太った女が好きなんだろ? それも美人を醜く太らせるのが」
おいおい、何故知ってやがるんだ。誰にも話した事は無いのに。
「俺と契約すればそれは自由自在だ」
俺は先程までの考えは吹っ飛び、思わず口を開いていた。
「詳しく聞かせてもらおう」
「あの垂れ下がった二の腕の贅肉がたまらんよなぁ」
「お前もいい趣味してるぜ。たしかにあの突き出たケツは魅力的だ」
気が付くと、俺は悪魔と3時間程盛り上がっていた。主に嗜好的な話を。
初めて趣味をカミングアウトした相手が悪魔とは…
しかし、この悪魔、話がわかる奴だ。
「そろそろ本題といこう、俺の名前はファトエル。見ての通り、大した悪魔じゃない。俺は人間の絶望感やなんかを食ってるんだ。それも主に女が醜く肥え太ったときの絶望感ってやつをな。そうこうしてるうちに俺もそういう趣味に目覚めちまった。しかし最近の女はダイエットに夢中で商売あがったりなんだ」
「なるほど、よくわかるぞ!」
「悪魔ってのは人間界では人間と契約しないと術を使えん。俺の術を使ってくれないか」
「でもなぁ… 大抵こういうのはマンガとかだとリスクがでかすぎて最後は俺が破滅するしなぁ…」
「いやいや、同じ趣味の同士にそんな事しないって。しかもお互いにメリットしかないし」
確かに、魅力的過ぎる話ではある。
俺は肥満化させて楽しみ、こいつは絶望感を食う… いい取引だ。
こいつも悪魔の癖になかなかにいい奴だし。
「じゃあ、とりあえず明日1日能力使ってみてくれ。お試しって奴で」
「…随分軽いなぁ」
翌朝、通学電車でファトの奴から説明を受けた。(俺は高校生だ)
まず相手を見る。
そして何kg奪いたいかをイメージ… よし、あのオヤジから3kg…
すると、頭に「3」というイメージが出た。
そして体重を奪ったオヤジの腹がへこみ、ズボンに余裕が出たようだ。
オヤジは不思議そうにベルトを締め直す。
「これで3kgストックされたぞ。どんどんやってみろ。但し、取り過ぎないようにな。そいつの体重以上取るとミイラみたいになって死ぬから」
「オッケー、程々にだな」
ファトは肩の上に乗ってるが当然周りには見えないし声も聞こえない。
結局、通学途中に100kgほどストックした。
学校では誰を太らせてやるか… 楽しみだ。
通学途中、雑誌でも買うかとコンビニに寄ると頭の悪そうな、しかしなかなか美人の女子高生がファッション雑誌を読みながら店の床の上で座りこんでいた。
取り巻きの女も2人周りにおり、邪魔この上ない。
(邪魔だなぁ… いつも居るんだよなこのグループ。…そうだ、こいつで試してみよう)
相手を見て「太らせる」と念じると、頭に数字のイメージが浮かぶ。
107と出たので107kg分ストックしてあるという事だ。
(とりあえず… 50!)
横目で見ながら念じてみた。すると頭の中の数字107が57に減る。
座っていた女のシルエットがぶるん、と膨らみ、腹がみるみる出てきた。
プチンとシャツのボタンがはじけ、白い腹があらわになる。
ブチブチと音を立てながらスカートが裂け、下着もパンパンに膨らんでいく。
「キャアアアァァ!!!???」
叫び声をあげて立ち上がる女。
反動で腹と尻の肉がドサッと揺れ、巨大化し垂れ下がった胸はかろうじて留めていたブラをはじき飛ばす。
その横顔は先程までの整った輪郭は消え失せ、だらしなく顎の脂肪が垂れ下がっていた。
本人はもちろん、周りの女もパニック状態。
他の客、店員もあっけにとられていた。
一瞬で3桁くらいの巨体になった女は半裸の姿で野太い声を上げ、泣き叫んでいる。
そうしている間も汗がダラダラと流れ、まるで稽古後の力士のようだ。
(…素晴らしい)
妄想の中だけでしか得られなかった興奮が目の前に広がっていた。
「久々にいいもの見れたぜ。ごちそうさん」
肩に座るファトも性欲と食欲が同時に満たされ、満ち足りた顔をしていた。
「満足だろ? どうだこの能力の感想は?」
しかし俺は間髪入れず、
「いや、もう50、追加だ」
頭の中の57のカウンターが7を示し、泣き叫んでいた女の動きが一瞬止まると、胸・腹・尻が別の生き物のようにズズズ… とせり出し、みるみる段差を作る。
膝の辺りまで腹の肉が垂れ下がり、下着を裂いて丸見えになりつつあった局部を隠した。
重量に耐え切れなくなったのか文字通り特大の尻餅をついて再び座り込んだ女。
店内が少し揺れ、もはやそこには見慣れた人間のシルエットは消えていた。
顔は美しかった面影をかろうじて残しているものの、身体は文字通り肉の塊。
振袖のように豪快に垂れ下がる二の腕、日本の日常ではまず見れない、すさまじいまでのデブが泣きながら叫ぶ。
「いやぁぁぁ! 見ないでぇぇぇっっ!」
豚の鳴き声のような特大の泣き声の響き渡るパニック状態の店内を抜けると、興奮しながら俺はファトに話しかけた。
「契約しよう。欲しいのは俺の魂か? 寿命か? 何でも言ってくれ」
こんな素晴らしい能力のためなら多少の犠牲は仕方無い。
「契約成立だな。代償? そんなもんいらん。昨日言ったろう? 礼を言いたいのはこっちだよ。…それにしても恐ろしい奴だなお前。悪魔の俺でもあそこまではせんぞ。しかしあの女の極上の絶望感は格別だった…」
俺はいささか拍子抜けしたが… 学校に着いてからも主に男から体重を奪いながらいろいろと考えていた。
(一気に体重を増やすのもいいが、俺としては過程も楽しみたいんだよな… それにあそこまで太らせてはあの女はもうお目にかかれないだろうし… もう日常生活怪しいレベルだったもんなぁ… 携帯で動画撮っときゃよかったなぁ… やはりここはジワジワと周りを増やしていくか。毎日楽しめるし。どう思う、ファト?)
(俺は構わんぞ。さっきので100年分は食えたし、ゆっくり増えていく絶望感もまた格別だから)
それからは男や中年、老人の体重を少しづつ奪いつつ、周りのクラスメイトや道行く女子高生、お姉さんなどに(かわいい子や美人は念入りに)少しづつ体重をばら撒いていった。
こうして1年が過ぎる頃には俺の通う高校はとても愉快なことになっていた。
生徒のほとんどは平均よりかなり太め、とくにかわいい子に限ってみれば重量級ばかり。
もっとも、デブに劣等感を出すため、スリムな子も多少は残してはいるが…
太った子は体型とともに気持ちも緩んでくるのか、行動もどこかだらしなくなっていった。
まぁ、最初はいくらダイエットに励もうとも、体重がどんどん増えてくれば心も折れるだろう。
休み時間にはげんなりした男どもの目も気にせずボリボリと菓子を貪り、夏場は教室中が汗臭い。
サイズが無いのか、頻繁に制服を買い換えるのが面倒なのか1日中ジャージで過ごす子もいる。
学校の自販機の炭酸ジュースは常に売り切れだ。
体育の授業は揺れる肉が壮観で、はみ出た腹はもう見慣れた。
美人揃いで有名な強豪の女子バレー部は部員があまりに太り過ぎて活動停止になった。
よその高校からは、うちは「メス豚養豚場」と呼ばれているらしい。
俺のクラスはというと例えば、クラスメイトの伊藤千晶。
彼女はスラリとした長身に綺麗な顔立ちで、モデルとしても活躍していたとびきりの美人。
おまけに性格も良い高嶺の花だった。
少なくとも、俺などでは相手にしてもらえないのは必至だったんだが… 今では俺と付き合っている。
もっとも、俺の日頃の活動のお陰で今ではクラス1の大デブと化しているのだが…
ファトいわく、モデルとして将来を期待された彼女の肥満による絶望感は相当大きかったらしく、かなりのご馳走だったらしい。
競争相手の激減と、太って落ち込んでいるときに俺が優しく対応したのがよかったらしく、とんとん拍子に仲は進み、付き合うことになった(男の友人からはデブ専か? といわれたが)。
まさに俺の理想の「美人のデブ」であり、俺はこの幸運を喜び、ファトも祝ってくれた
(ホントに悪魔かコイツ)。
デートの日、少し待ち合わせ時間に遅れて千晶がノソノソと肉を揺らしながらやってきた。
以前のモデル時代を知っているだけに私服姿の千晶は俺を興奮させた。
整った顔立ちはそのままながら、以前に比べたるみ、血色の良くなった顔。
胸は格段に巨大化し、まるでスイカのようでその下には見事な突き出た立派な段腹。
それを隠すシャツは、普通の店ではまずお目にかかれないサイズだ。
かつてのスレンダーさは見る影も無く、歩くたびにブヨブヨと贅肉が揺れる。
太股は1本が以前の彼女のウエスト並で、長く太い足が伸びる。
近くで見ると長身ゆえにその巨大感はすさまじく、特大サイズのジーンズでもきつそうな尻の肉は特に目立つ。
「たまらんな」
ファトも思わず漏らしてしまう。同感だ。
「お待たせ〜、ゴメンね。どうも最近歩くのが遅くなっちゃって… …私、こんな体だから一緒に歩くの恥ずかしいでしょ?」
とんでもない、と俺は首を振り、一緒に食事に行った。
街を歩くと、若い女性はみな程度の差はあるが肥満化し、反対に俺が体重を奪った男性や中年以降の女性はとてもスリムだ。
(我ながら、よくやったもんだな)
「どうして急に、若い女の人ばかり太ったのかなぁ?」
超大盛りのパスタを食べながら、千晶がつぶやく。
さすがにこの巨体を維持するにはかなりのカロリーが必要らしい。
お腹をさすりつつ、
「ほんの1年くらいでこんなみっともない姿になるなんて…」
たしかに、膨れ上がった腹肉は座ったことで更に存在感を増していた。
そんな事言うもんじゃないよ。と優しく言うと彼女は喜んでくれた。
(俺がやったなんて知ったら殺されるな…)
(まさに悪魔だな)
(お前が言うな)
千晶を家まで送り、帰り道。
最初に太らせたあの女子高生とすれ違った。
1年あまりで痩せたらしく、この街では、まぁ、大きいね。レベルのデブだ。
(住人はもはや感覚が麻痺しており、100kg程度では驚かない)
ピチピチのジャージ姿で、ドスドスと、巨大な尻を振りながら歩いていた。
「いい眺めだったな。毎日、女どもが鏡を見たり風呂に入るたびに、以前の自分の写真を見るたびに… 美味い絶望感が街中からどんどん流れ込んでくるぜ。まったく、お前と組んで正解だった」
「まだまだ体重のストックはたっぷりあるんだ。これからがお楽しみだぜ? しかしこの前のアメリカ修学旅行は最高だったな。さすが肥満大国… しばらくは体重に困らんな」
アメリカで1トンほどの体重を手に入れ、俺はこれからの予定に頬を緩ませる。
「本当にどっちが悪魔か分からんな…」
その後、マスコミから「肥満の街」として話題になり、一部の特殊な嗜好の人が押し寄せたり、俺の頑張りすぎで魔王クラスの力を手に入れたファトと、パワーアップした能力のお陰で日本はアメリカ以上の肥満大国(若い女性に限る)になるのだが…
それはまた別の話。