なぎさの成長期

なぎさの成長期

 

 

「おっはよー、勇くん」
「…おぅ、おはよう」
小学校へ向かう途中のいつもの道、いつもの時間になぎさと出会う。
当たり前だ。わざわざいつもこの為に、この時間に登校しているんだから。
クラスメイトの泉なぎさ。幼馴染で、小さい頃からよく知っている。
くりっとした大きな目と、眼鏡が特徴のかわいらしい子だ。
明るい性格で、男女問わず人気がありクラスの中心でいつもニコニコ笑っている。
眼鏡に隠れているが、素顔はそれはもう可愛い。
もう少し成長すればかなりの美人になると俺は見ている。
そんな訳で、俺は昔からなぎさに絶賛片思い中だ。
「来週から冬休みだねっ。楽しみ〜」
「そ、そうだなぁ」
いつも学校に着くまで、なぎさと世間話をしながら歩くこの時間は俺にとって、一番幸せな時間だ。
何せ、学校では競争相手が多すぎてゆっくり話もできやしない。
この至福の時間も、長期の休みにはしばらくお預けになる。
休みは嬉しいんだが、複雑な心境だ。

そして冬休みを迎え、俺はすっかり暇をもてあましていた。
なぎさの家に電話して遊びに誘う度胸ももちろん無いし、外は寒いので家でだらだらとコタツで携帯ゲームで遊んでいる。
ある晩の事、布団の中でゲームに熱中し、ついつい深夜になってしまい、妙に目が冴えて眠れない。
暇潰しに、姉が部屋に置いていった雑誌を読んでみた。

 

「恋の悩みが叶う魔方陣」 ☆魔方陣の中央に指を置いて、
 願い事を念じてみよう☆

 

馬鹿馬鹿しい。と思いつつ、何となくやってみる。
我ながら痛い奴だと思う。次の瞬間、目の前には…
「私を呼んだのは貴方? …ってまだお子様ですね。よく悪魔召喚なんてできましたねぇ」
目の前に全身黒尽くめ、腰までのロングヘアーの綺麗なお姉さんが現れた。
おっとりした長身の美人といった感じで、不思議とあまり恐怖は感じない。
「え? そんなデタラメな魔方陣で… あらあら、丁度印刷ミスで私の魔方陣になっているわ。それに今は午前2時22分22秒… 召喚条件は揃っていますね。貴方、運がいいですわね。いや、運が悪いのかしら?」
突然の事で、言葉も出ない。
「偶然呼び出したというなら、契約して頂けそうも無いですね。それではごきげんよう」
「ま、待って! …実は、今、好きな子がいるんだ」
これには、悪魔でも流石に目を丸くした。
「この私に恋愛相談ですか? うふふ、分かりました。面白そうなので、お話伺いますね」
この悪魔の名はファタナエル。
本人が言うには、なかなか優秀な悪魔らしい。
「その娘さんが好きなんですね? それでは、サービスです。彼女のもっともそうなる可能性の高い未来、お見せしますわ。これで貴方と彼女が付き合っている所が映れば… いいのですがね?」
ファタナエルが取り出した水晶玉に、中学生になったくらいのなぎさの姿が映し出される。
眼鏡やめたんだな。胸も大きくなって大人っぽい… くっ、可愛いぜ…

「次です」
「なっ…」
思わず声が出てしまう。
そこにはテレビの中で初々しい笑顔のなぎさが映っている。
「その後、スカウトされ、国民的アイドルとして活躍、共演したイケメン俳優と結婚して幸せに暮らしたと。現在の要素ですとこれが一番確実な彼女の未来ですわね。 …とても貴方の手の届く女じゃありませんね」
水晶玉に次々に出てくるリアルすぎる映像。
「くっ… 嘘だっ…」
「貴方も分かってるんでしょ? 彼女と貴方じゃ、住む世界が違いますよ」
たしかに、薄々感じていた。
クラスのアイドルで明るく、スポーツ万能、性格もいいなぎさと、
人並みの外見で何の取り柄も無い俺。
どう考えても釣り合わない。
小学生の頭でも分かる現実… 落ち込む俺に、悪魔が囁く。
「一つ、手がありますよ? もっとも、本当に彼女を貴方が好きなら。ですが」
「なっ… 本当なのか!?」
完全に悪魔の掌の上で俺は見事に弄ばれていた。

言われるがままに、悪魔と契約を結んでしまったのだ。
「…これで結構です。報酬は成功してから頂きますので。うふふ… 要は他の誰からも彼女が見向きもされなくなればいいんですよ」
「ど、どういう事だよっ。まさか、なぎさを…」
「用件は済みましたので、ごきげんよう」
ファタナエルが指をかざすと、俺は意識を失う。
気付くと朝、布団の中にいた。あれは夢だったのか?
妙にリアルな夢だったが… 一応手元にまだ雑誌はあるが、恐ろしくてとてももう一度試す気にはならない。
机の奥に雑誌を突っ込み、もやもやした気分で冬休みを終えた。

 

新学期、いつもの時間に登校すると、なぎさと案の定出会う。
「お、勇くんおはよ〜。今年もよろしくねっ」
「あぁ、よろしく…」
あれから心配で仕方なかったが、なぎさに特に変化は見られない。
やっぱりあれは夢か?
だが歩いていると、ある違和感に気付く。胸が若干大きくなっている…
…まぁ、もう5年生なんだから当然か。成長期だもんな。
それからも、なぎさはどんどん女らしい、丸みを帯びた体つきになっていった。
胸や尻が膨らみ、ブラもつけるようになったようだ。
「いっくよ〜!」
ぷよん。
体育の時間のサッカー、少し胸が揺れ、体操服姿のなぎさに俺は思わず見とれてしまった。
バシィッ!
なぎさの撃ったシュートはキーパーの俺の顔面を見事に直撃。
「ご、ごめ〜ん。大丈夫? 勇くん」
さすがスポーツ万能だ。強烈だぜ…

この頃には、あの悪魔との契約などすっかり忘れていた。
しかし、しばらくすると次第になぎさのボディラインが崩れていく。
6年生になる頃には、ぽっちゃりを通り越し、肥満といってもおかしくない体つきになった。
(泉さん、ちょっと太りすぎよね)
(そうそう、たしかに可愛いけど、あれじゃね〜)
などといった声もクラスで聞こえる。
さすがになぎさ本人や周りも、自分の体型に違和感を感じだした。
どう考えても、おかしい。
まさかと思い、雑誌を机の奥から取り出し、あの時間にファタナエルをもう一度呼び出してみる。
あっさりと目の前に悪魔は再び現れた。やはりあれは現実だったのか…
「貴方ですか。そろそろ報酬頂こうと思っていたので丁度いいです。どうです? 彼女はそろそろ見苦しくなってきたでしょう? フフフ、ライバルが減って、これで独り占めできますね」
「じょ、冗談じゃない! あんなデブじゃかわいそうだ! 元の姿に戻してくれよ!」
「私の魔力で痩身は無理ですね。可哀想に、彼女の未来… 貴方のお陰で大きく変わりそうですよ?」
水晶に映される未来の「もっともそうなる可能性の高い」映像。
そこには、人並みはずれた巨大なデブが映っていた。
「う、嘘だろ… これがなぎさ…」

中学、高校とその巨体が原因で馬鹿にされ、苛められるなぎさ。
就職もうまくいかず、みすぼらしい格好で歩き、皆から嘲笑されるなぎさ。
その反動で過食が進み、更にぶくぶくに肥え、病院に入院するなぎさ…
以前見た華やかな未来は、もうそこには無かった。
「う、うわぁぁっ!」
「私は完璧主義ですので… 他の男性が誰も見向きもしなくなるまでまだまだたっぷり太らせて差し上げます。報酬のこれからの貴方の罪悪感、彼女の絶望感。ゆっくり頂きますので… それでは、またのお呼びをお待ちしております」
以降、いくら魔方陣を使おうともファタナエルが現れる事は無かった。

 

それからもなぎさの体重はどんどん増えていき、クラスのアイドル、泉なぎさは誰もが認める汗臭いデブに変わり果てた。
洋服はサイズが追いつかず、すぐにぱつんぱつんになってしまいにじんだ汗とともに非常に見苦しい。
夏場のプールの授業ではムチムチの新しいスクール水着が張り裂けんばかりで、見ているこちらが気の毒になるくらいだった。
しかも、食事制限や運動でもいっこうに体重は減らずに常に右肩上がり。異常な肥満化に病院にも行ったが健康上は何ら問題は無く、成長期という事で片付けられてしまう。
体重が3桁を超えるくらいになると、クラスでも浮いた存在になり、休み時間も、一人、教室の隅でじっとしている事が多くなった。
運動も辛くなったのか、体育の時間も見学しがちになる。
「…おはよう… 勇くん」
「お、おぅ。大丈夫か? 何か辛そうだけど」
「…身体が重くって… 気にしないで。先に行ってていいよ…」
毎朝の世間話も、表情は暗く元気が無い。

 

それから更にまた時間が経過し…
近所の悪ガキが指を指して笑う。
「お、豚が帰ってるぜw」
「よくあんな身体で歩けるなぁ〜 気持ちわり〜」
俺はすぐにそいつらに駆け寄り、問答無用でぶん殴り、撃退する。
こんな事を繰り返すうち、喧嘩もずいぶんと強くなってしまった。
「気にするなよ、なぎさ」
「…うん。慣れてるから」
今にも泣き出しそうな、横幅だけなら俺の三倍はあろうかという肥満体が、無くなった首で申し訳なさそうに頷く。卒業式を間近に控える現在、なぎさの肥満化はようやくにして止まったが、150kgの大デブになってしまったのだ。
(具体的な数値は身体測定の後に女子が言っていたのを聞いた)
150cmほどの身長に対し、あまりにも異常に多い体重。
顔はまだ幼さの残るぷっくりとした顔立ちなのに、不釣合いに巨大な胸・腹・尻。
腕や足も、大人の男のそれよりはるかに太い。
背中には立派な脂肪の段差ができており、服の上からでもはっきり分かる。
全国広しといえども、ここまで見事に太った小学生なんてまずいない。
子供用の服はまず入らないので、小学生なのに太りきったおばさんのようなゆったりとした服装をいつも身に付けている。

この巨体では着たい服ではなく、身体に入る服を選んで買わざるを得ないのだろう。
黙っていても人が寄ってくる魅力は消え、今では小学校内でも馬鹿にされ、すっかり玩具扱いになってしまった。活発だった性格もなりを潜め、暗く落ち込み、常にメソメソとしている。
クラスメイトもその異常な速度の肥満化を気味悪がり、距離を置いており今やまともに付き合いがあるのは俺だけだ。
正直、俺も当初はデブになったなぎさの外見を気持ち悪く思い、彼女の人生を台無しにしてしまった罪悪感から、仕方なく守っていたんだが…
最近は、このブヨブヨの身体をいとおしく思うようになってきた。
たるんだ顎も、子供が居そうな巨大な腹も、極太の足も、もしかしてこれはこれで、いいんじゃないか?
元はとびきり可愛いわけだし…
太った今も、見ようによってはコロコロして可愛いしな… などと思いだしたのだ。
…俺はおかしくなってしまったのだろうか?
これはもしかしてデブ専に目覚めるというやつなんだろうか?

 

まぁいい。俺にできるせめてもの罪滅ぼしは、彼女を守ることだけだ。
いつもの帰り道、なぎさの鈍重な歩く早さに合わせ、俺もゆっくりと歩く。
歩くたびに胸や腹の肉が、見事にぶよんぶよんと揺れている。
「いつもゴメンね。こんなデブな私の面倒見てもらって」
以前の可愛らしい高音は消え、すっかり太くなってしまった声
。聞く度に良心が痛む。
「気にすんなよ。お前とは… 幼馴染だからな」
と一応答えるが、…違う。元はといえば、俺のせいだ。
「来月からは中学生だな」
「うん、この前ね。制服買いに行ったんだけど、私のサイズ、お店に置いてなかったんだよ。あはは…結局取り寄せて貰ったけど… お店の人も、私見て驚いてたし… なんで、こんなに太っちゃったんだろう」
大きな身体を恥ずかしそうに縮めながら、落ち込んだ声のなぎさ。
「おいおい、元気出せよ。中学生になりゃ、楽しいこともあるさ」
「そうだね。あの… 勇くん、迷惑なら、ゴメンね。みんな気持ち悪がって私を避けてるのに、勇くん優しいから… 中学生になってからも、私の… 友だちでいてくれる?」
「あ、あったりまえだろ! 俺が、一生、守ってやるから」
思わず、とっさに言葉が出てしまった。
というか、これプロポーズの台詞みたいだな… 恥ずかしい。

俺の返事に一瞬きょとんとしたなぎさだが、すぐに表情が明るくなる。
「…うんっ、ありがとっ」
あぁ、久しぶりにこいつの笑顔を見た気がする。
…何だ、デブになろうが、やっぱり可愛いじゃないか。

 

「やれやれ、これじゃあんまり負のエネルギーは頂けそうにありませんね…」
魔界から二人を見るファタナエルは愚痴っぽく吐き捨てた。
彼女の予定では、勇は醜く肥えたなぎさをさっさと見捨て、一生強い罪悪感にさいなまれる予定だった。
大デブになったなぎさは、痩せている時よりも悲惨な人生で、これから多くの挫折と絶望感を味わう予定だった。
しかし、彼女の見通しは見事に外れつつある。
水晶玉には二人の未来が映っている。
「現状、可能性が最も高い未来」
そこには幸せそうに歩く成長した勇と、相変わらずの大デブだが笑顔のなぎさが映っているのだった。これでは、いただける負のエネルギーは彼女の予想より大きく下回ってしまうだろう。
「困りましたねぇ。最近は他の悪魔さんも頑張ってるようですし、もう少し、お仕事しないと…」
そう言うと、彼女はだるそうに人間界へ向かった。


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