820氏その1

820氏その1

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#型月,TYPE-MOON,月姫,メルティブラッド,MELTY BLOOD,メルブラ

 

 

「こ、これがタタリ…。吸血鬼なの…?」
長い黒髪を風になびかせて驚愕の表情を浮かべた女性、遠野秋葉は隣にいる女性に聞いた。
「はい…。実体が定まらないため、正式名称は一定しないのですが、私達はワラキアの夜と呼んでいます。」
紫色の長い髪をみつあみに束ね、紫色の服を着た外国人の女性、シオンは答えた。
「彼は付近の人々の想像、または噂等を情報源にその姿形を変え、具現します。なので、今はなるべく何も考えないで下さい。とんでもないものに具現する可能性があります。」
「…ええ…わかったわ。」
目の前に、形を作らず、まるで空気が渦を巻いたような姿のタタリを見据えて
秋葉は冷静にシオンの忠告を聞いていた。
「今はとりあえず彼がこの場を去るのを待ちましょう。」

 

そんな緊迫感ただようタタリの発生現場、遠野の屋敷の庭を屋敷の中から見ている二つの人影。
「ひ、翡翠ちゃん大変です。秋葉様が、ピンチです!」
あわてふためく割烹着姿の女性、琥珀が隣にいる彼女とうりふたつの顔をした、
メイド服を着た女性にヒソヒソと話しかける。
「はい。一体あれは何なんでしょう? 姉さん。」
極めて無表情にメイド、翡翠は琥珀に聞く。どうやら双子の姉妹であるらしい。
「ん〜、遠くだし、なんだかよくわかりませんねぇ…。助けに行きましょう! 翡翠ちゃん!」
そう言うとすぐに走り出そうとした琥珀を翡翠が止める。
「姉さん…。ただあれに興味があるだけでしょう…。」
ぎくっとして琥珀は翡翠を振り返る。
「何を行ってるの翡翠ちゃん!私は純粋に秋葉様のお役に立つために…」
「だいたい私達が行ったところで、間違いなく足手まといですし、危険です。」
琥珀はう〜…と口惜しそうにうなると、
「それもそうね…。わかったわ翡翠ちゃん。」
行くのをあきらめ窓から外を見る。
その時、ニャアンと一声ないて屋敷の飼い猫(正確には本当の猫じゃない)レンが、

部屋に入ってきて琥珀に擦り寄った。
「あら? レンさん。そういえばご飯の時間ですねぇ。ちょっと待ってて下さいね〜。」
琥珀はパタパタと走って厨房を出ていくと、ケーキを持って戻ってきた。
「はい! レンさんどうぞ。」
レンは嬉しそうに鳴くと、ケーキを食べ始める。
「ふふ、ケーキを食べる猫なんて、レンさん以外きっとどこにもいませんね。」
ケーキを食べるレンを見ながら琥珀が呟く。
「でもレンさん。ケーキばかり食べてると、真ん丸に太ってしまいますよ〜?」
普段は猫でも人間の姿も持っているレンは、女の子なりにやはり体重は気になるようで、
食べるのを止めてしまった。
「あ… すいませんレンさん。冗談ですよ〜。気にしないで食べて下さいな。」
しかし、レンはぷいとそっぽを向くと毛づくろいをして部屋から出て行ってしまった。
「あらら…、残してしまって…。レンさんも気になるお年頃なんですかねぇ。」
琥珀がケーキとお皿をお盆に乗せて、片付けようとした時だった。
「姉さん…。なんかあの渦巻きの様子が変です。」
翡翠が窓の外を指差しながら琥珀を呼んだ。

 

「秋葉! 気をつけて! 何かに具現します!」
ワラキアの夜は渦巻き状の姿を歪ませて、広がっていく。
「くっ… 何なのこれは…!」
「わかりません…。しかし依然、実体はありませんので空間自体に作用する事象に変化するようです!」
やがてタタリは広がるのを止めたと思うと、爆発するように遠野家をつつむようにドーム状に広がった。
「なっ…!?」
しかし、黒い塵のようになって降り注いだ後、すぐに空気に溶けて見えなくなってしまった。
「どうしたって言うの…。」
秋葉は困惑の表情を浮かべている。
「すみません秋葉、こんな事は始めてで私も混乱しています…。」
しかし、タタリが何を起こしたのか、彼女らはすぐに身を持って知る事になる。
「…? 秋葉…、なんだか顔が丸くなっていませんか…?」
「…? シオンあなた何を言って…。」

 

プニっ

 

そう言って顔を触ってみた秋葉は異常な感触に驚く。
「な、何よこれ…!」
顔どころかその顔をつねっている指も、腕もむくむくと膨らんでたぷついてくる。
「いやっ…嫌ぁ! 何が起こってるの!?」
秋葉の身体はどんどん膨らみ、否、太っていく。
脚はロングスカートに隠れて見えないが、ふともものシルエットが外にまで見えるほどには
だいぶ太くなってきているようだ。
胸は… というと、太っていくために膨らんではいるものの、依然シオンと同じくらいである。
しかし、なによりも細かったウエストラインが見る影もない。
すでにバストより胴周りの方が太いのが見てわかる。
膨らむ腹が服をぐいぐい押し上げて顔を出さんとしている。
当然そんな腹にスカートが耐えるハズもなく…
「うぅ… くっ… 苦し… い…。」
ついにバキンッとホックが壊れる。
しかし、腹とともに膨れ上がるお尻にひっかかり、なんとか脱げるにはいたらなかったが、
脂肪でだぷんっ! と脂肪に包まる巨大な腹がまる見えになってしまった。

「ハァ… ハァッ… 身体がお、重い…。」
ついに秋葉は自重に耐え切れず、ドスン! と尻餅をついた。
しかしなお、身体は膨れあがり、シャツの袖も下から裂け始め、太すぎる二の腕があらわになる。
「ふぅ… はぁ…。」
座っていても腹がのしかかって重いのか、秋葉は苦しげに肩で息をしている。
その腹も膨らみ過ぎてだぷんと弛み、下着とふとももの半分までも隠してしまっている。
脚は太くなりすぎたためか、閉じれずに投げ出している。
「…あ、あぅ…。何なのよ… こ、これは…。」
口を開くと二重顎になり元のほっそりとした顔はもはや想像もつかない。
そして秋葉が太り始めて5分ほどでようやく変化がおさまった。
「と、止まったの…? はぁはぁ…。」
真ん丸の太鼓腹があまりに大きすぎて、前に身体を傾けられず、
後ろに腕をついてのけ反って座ったままシオンに聞く。
「…え、えぇそのようです…。」
ちなみにシオンは変わらず普通の身体をしている。
「…くっ…、な… 何で私だけ… ハァ… はぁ、こんな身体に…。」

身体全体をたぷつかせながら必死に起き上がろうとするも、
突っ掛かって起き上がれない秋葉を助け起こしながら、シオンは必死に何が起こったのか考えていた。

 

「つまり、この屋敷の空間自体が、まるごとワラキアの夜という事なのね…?」
「簡単に言えば、そういう事になります。」

 

翌朝、食堂でシオンは起こった事態について、自分なりに考えた結果を秋葉に説明していた。

 

「それはわかったわ。でも、一体なぜ私がこんな身体にされたのかしら…。」
秋葉は身体を見下ろしてみる。
かつて夢見た、理想のバストがそこにある。
…が、その胸の下、丸々と脂肪を溜め込んだお腹が目に痛い…。
それを見て、秋葉はため息をつく。
「すみません秋葉。何故そうなったのかは、ワラキア(作者)の意思によるものなので、私にもわかりません…。」
「…そう…。ともかく、ワラキアには消えてもらうわ。ここ、美咲町が彼の最後の発生地よ…。」
秋葉の髪が赤くなっていく。尋常ならざる殺意を感じ、シオンは息を飲んだ。
「…協力してちょうだいね?シオン。」
「も、もちろんです…。」
シオンはちらりと、扉の前でけむりをあげて倒れたままの志貴を見る。
彼は先程、寝ぼけ眼で部屋に入ってきて、
「あ…秋葉か…? お前、いつの間にそんなにデb」
…次の瞬間、彼は焼死体になって転がっていたのだ。
(…ともかく、今の秋葉の前で、ふくよかな身体つきの事に関する言葉を発してはいけませんね。)
シオンは肝に銘じたのだった。

 

「秋葉様〜! シオンさ〜ん! ごはん出来ましたよ〜!」
明るい声と共に厨房の方から、琥珀が朝食を乗せた台車を押して歩いて来る。
次々と机に並べられる料理にシオンはあぜんとした…。
ごはんはいつもの2倍、いや3倍はあるだろう。
バターとハチミツをたっぷり乗せたトースト3枚に、これまた山盛りのサラダ。
そして何より、朝からおかずはステーキである。
「…あの、琥珀…。こ、これは一体…。」
「…? シオンさん、何を言ってるんですか〜 朝ごはんですよ〜。」
琥珀はさも平然と答える。
机の反対側、秋葉の方には、並の量の質素な朝食が置かれている。
「…どうしたの? シオン。食欲がないのかしら…? それとも、私の家で出る料理が食べられないとでも言うのかしら…?」
くすくす、と髪が赤いままの秋葉がシオンを見て微笑む。…しかし、目が笑っていない。
「そ、そういう訳では…!」
「なら…、早く食べたら…? 冷めてしまうわよ…?」
恐怖。今の秋葉にシオンが感じるのは、その感情のみだった。
「…は、はい。では、い、いただきます…。」

命の危険を感じてシオンは必死に朝食を食べ続けた…。

 

数十分後。
「…ふぅ、ふぅ…… う、うぷっ…。」
何とかシオンは朝食を食べ終えていた。
「ご、ごちそうさまです。…秋葉。……げふ…。」
苦しげに、シオンは椅子に寄り掛かる。
そのお腹は、見た目でわかるぐらいに膨らんでいた。
「いいえシオン、居候と言えど客人であり友人のあなたに、これくらいのおもてなしは普通よ?」
秋葉はとっくに朝食を食べ終えて、コーヒーを飲みつつシオンを見張っていたのだ。
「…ありがとう秋葉。で、では私は部屋に。」
「待ちなさいシオン。琥珀! デザートを持って来て!」
「はいは〜い! お待ちくださいね〜♪」
琥珀が厨房から大量のミニケーキとシュークリームを持ってくる。
「はい! シオンさんの分です! 召し上がって下さいね〜♪」
(デ、デザート!? あれだけ食べさせてなお、食べろと言うのですか…!)
山ほどシュークリームの乗った皿が、シオンの前に置かれる。
「琥珀…秋葉の分は、ないのですか?」

秋葉の前にデザートはなく、いまだ優雅にコーヒーを飲んでいる。
「…シオンさ〜ん。なんでかって、見ればわかるじゃないですかぁ。秋葉様があれ以上に太っ」
焼死体が二つに増えた。

 

「ご、ごちそうさまでした…。秋葉。」
ようやくデザートを食べ終わり、食堂を後にしたシオンのお腹はほぼ限界だった。
「う…、ゲプッ…。」
(秋葉は何を考えているのか…。マズイ… このままでは私まで…。)
苦しげにお腹を抱えながら、シオンは部屋に戻るとベッドに横になった。

 

その日から、シオンに用意される食事全てが物凄い量になり、言い訳して逃げようものなら、
「どこへ行くの…?」
と、秋葉が髪を真っ赤に染めて聞くので、そのたびシオンは命からがら完食していった。

 

 

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