820氏その1
#型月,TYPE-MOON,月姫,メルティブラッド,MELTY BLOOD,メルブラ
2週間後。
「…秋葉、今日は図書館で研究をするので、お昼は…。」
「そう。琥珀!」
「はいは〜い! お弁当ですシオンさん。」
巨大な重箱であるそれを見て、シオンはがっくりと肩を落とす。
この図書館で研究と言うのは実は嘘であり、せめて昼食だけでも外で食べて
半強制暴食を防ごうと考え出した、シオンの必殺技であった。
最初のうちは結構効果があり、なんとか昼食は逃げられていたのだが、
この頃秋葉が弁当作戦を思いつき、昼食も逃げられなくなっていた。
しかも、野良犬にでも弁当をやろうものなら、無言で図書館までついてくる翡翠に報告され、焼死しかけた。
「翡翠、今日もシオンを手伝ってあげて。」
「はい。」
翡翠は一礼して、シオンの後ろについてくる。
シオンはため息をついて、屋敷の外へ出る。
ちなみに、翡翠はただの監視役であり、全く手伝ってくれない。
そもそも研究というのが嘘なのだから、手伝うものがないのかもしれないが…。
無言で図書館に向かうシオンと翡翠。
翡翠はさすがに外でもメイド服とはいかないため、私服である。
シオンも秋葉に借りた私服である。
もちろんあれだけたらふく毎日食べさせられれば、無事な訳なく…。
「ふぅ… はぁ…。坂道が… 辛い。」
今の秋葉に負けず劣らずまるまると太っていた。
ミニスカートから見える足は丸太のようで、ほっぺの肉は歩くたびにぷるぷるふるえて柔らかそうである。
二重のあごも汗で光り、胸はもともと大きかったサイズが、脂肪によってさらに強調された。
お腹など、見るも無惨な太鼓腹である。足元もお腹で全く見えないほどだ。
(早く、早くワラキアの件を解決しなくては…、私は…)
ぜぇぜぇと、息を切らしたシオンは今日も図書館を目指して歩いていく。
重い体を必死に動かし、シオンはなんとか図書館に到着した。
「…ふぅ、ふぅ。よ、ようやく着きました…。」
図書館に来るようになった当初は、息切れなどまるで皆無。
余裕で着いたものだが、今となっては贅肉だらけの体が枷になり、もう地獄のような道のりである。
「お疲れ様です。シオン様。」
そう言うと翡翠はタオルを取り出し、シオンに手渡す。
「…ありがとう、翡翠。」
たっぷり肥満した太い腕で、シオンはタオルを受け取る。
今は夏であり、ましてや一日の1番暑い真昼間である。
なによりシオンのこの肥満体だ。汗をかかない方がおかしい。
(さて、今日もなんとか時間を潰すとしましょう。)
シオンは古文書の閲覧室に向かった。
ここに来て本を読んでいれば、なにかしらの研究資料を探してるように見えるのだ。
実際はただ読んでいるだけで、研究というのは名ばかりだが。
本当は部屋で、機関の書物を読んで本当に研究に勤しみたいのだが、
部屋にいると頻繁に秋葉のおやつが出るので図書館に来るしかないのである。
まぁ…、図書館に来ても、十分すぎる強制栄養補給が待っているのだが…。
今日のお弁当の中身は何かと思うと、ため息が出るシオンだった。
無事にお弁当を食べ終わり、お腹の苦しさに椅子にもたれて休むシオンの耳に、
…すげぇ腹… ヒソヒソ… 外人さんだわ… ヒソヒソ… いつも、どんなもの食ってんだろ…
(まただ…。)
やはりここまで太ると、かなり目立つ。
今のシオンほど太っている人など、まずいないからだ。
(はぁ…、かなり太ってしまったな…。)
シオンはお腹を揉んでみる。手が5センチほど平気で埋まり、餅のようにモニュモニュと柔らかい。
(秋葉はなぜ私を太らせたのだろうか…。)
もう何度も考えてきた事だ。
最初は、あの場に一緒に居たのに、一人だけ太ってしまった秋葉が腹いせにやっているのか、と思った。
(でも、違う。秋葉は聡明だ。そんな意味のない、やつあたりなどする人ではない。)
なら、答えは簡単だった。
(…操られている…。)
あの夜、霧散したタタリ、ワラキアの夜。
あんな現象は初めてだったが、考えるうちに秋葉の行動のおかしさと共に、わかってきたのだ。
(タタリにとりつかれている…? …そんな事がワラキアには可能なのだろうか…)
その事に気付いてから、シオンは秋葉への抵抗をやめた。
ワラキアの夜が彼女を操っているのなら、彼女の命は彼に握られているも同然だからだ。
(下手に逆らえば、秋葉が危険かもしれない…。しかし…。)
もはやメロンのような胸、贅肉で膨れているためまったく嬉しくないし、あいにく胸より腹の方が成長してしまっている…。
(…こんな体にされるのは… 避けたかった…。)
シオンも女性、体型に気を使わない訳がない。
しかし、行き先に困っていた自分に寝泊まりを許可し、
吸血鬼化の研究にも協力してくれている友人、秋葉のためだ。
(こんな体ぐらい…!)
勢いよく立とうとしたシオン。しかし、腹が机にひっかかり盛大な音を立てて机を倒してしまった。
周りからの痛い視線。
…ほんとにデブね… ヒソヒソ… なんなのあの体、あれでも女? …ヒソヒソ …
(…私だって… 太りたくなんかなかった…。)
涙を飲んだシオンだった。