710氏その4
「…ねぇタダノ… 本当にこの道で合ってるの?
さっきから同じところをグルグル回ってる気がするんだけど…」
「反応は確かにこの先から出ているんだが… おかしいな。
一通り廻った筈なのに、道が無いとは… 隠し扉を見逃したか…?」
「コノアタリニ、スキマガアルゾ? ココヲ、シラベテミタラドウダ」
金のバケツ… ではない、デモニカスーツに身を包んだ男と一人と一匹の悪魔が、
ショッピングモールのような迷宮を練り歩く。
タダノと呼ばれた男と、毛むくじゃらな身体にゾウのような鼻が生えた悪魔… ノズチに、
それに愛らしい少女のような姿をした… モー・ショボーと呼ばれる悪魔。
彼等は彼是2時間以上、ショッピングモールのような世界… カリーナを彷徨っていた。
今まで彼等が巡っていた世界とは違い、カリーナは奇怪な仕掛けが多かったのが一番の原因だろう。
視界の一切を奪われるダークゾーンに、『隠れ場』と呼ばれる空間。
普通の世界ならば考えられないような仕掛けに彼等は翻弄され… そして、今に至る。
しかしながら、ノズチの見つけたマップの空白を元に、ようやく彼等は先に進もうとしていた。
「ヌ、タダノ… アレハ…」
「あれは… 隠れ場への入口か! 奴め、此処を利用したんだな…」
「…ふう、やっと先に進めそうね」
先に進む道への取っ掛かりを手に入れ、安堵する面々。
そうして、装置の中に入ろうとした瞬間… モー・ショボーだけが、急に背後に引っ張られた。
「!?」
背後を見れば、そこに居たのは青い鎧に身を包んだ悪魔… モムノフ。
モー・ショボーは思わず目を見開き、叫ぼうとしたが…
大きな手にふさがれた口からは音さえ漏れず。
眼の前に居たタダノ達は、モー・ショボーに気付く事なく隠れ場へと転移してしまった。
「(タダノ…っ、助けて、タダノっ!!)」
「おおっと… あいつ等に戻られると流石にヤベェからな。此処は先に安全を確保させてもらうぜ」
必死に助けを求めるモー・ショボーに、下劣な笑みを浮かべながらモムノフは装置に立つと…
モー・ショボーと共に、姿を消した。
ついで、タダノ達が姿を現すも、そこには既にモー・ショボーの姿はなく…
後の祭りだったのである。
「…まあ、ここなら問題ねぇか。アイツ等も此処までは追って来れねぇだろうしな」
「…っ、は、ぁ…っ、何のつもり…!?」
タダノ達がまだ入る事が出来ない隠れ場に逃げ込んだモムノフは、モー・ショボーから手を離し…
そして、袋小路にモー・ショボーを押し倒す。
モー・ショボーは必死に抵抗しようとするも、探索で消耗した身体では
モムノフを払いのけることなど出来る筈もなかった。
「何のつもり、だ? 決まってんだろ…
ニンゲンなんかに付いた奴には、お仕置きしねぇとなぁ…?」
「…ふざけないで… 私はあのニンゲンの方が強かったから、タダノについて行っただけよ…
咎められる謂れなんて…」
「ハハッ! あんなニンゲンなんかが強かっただぁ? 尚更だなぁ…
そんな脆弱な悪魔は、此処で鍛え直してやるよ!!」
可笑しそうに笑いながら、手に取った物をモー・ショボーに見せるモムノフ。
それを見た瞬間… モー・ショボーの顔が、少しだけ曇った。
それは、ショッピングモールに置かれている食料品…
中身は悪魔用だが、オーカスの為に用意された特注品で。
「これを食えば、お前みたいな雑魚でも少しはマシになるだろ… ほら、喰えよ」
「…っ、やめて… やめて! 判ってるの!? それはオーカスの為に用意された…」
「そうだぜ、オーカス様用の食事の一部だ… くくっ、さぁて、どうなっちまうのかなぁ…?」
「やめなさいって言って…っ、んぐ、ぅ…っ!?」
必死に抵抗するモー・ショボーの口に… モムノフは、詰め込むように食料品を押し込んだ。
飲み込むまいとするモー・ショボーだが、消耗している身体では抵抗できる筈もなく…
少しずつ、少しずつ嚥下していって。
モムノフは、少し嚥下する毎に新しい食料品をモー・ショボーの口に詰め込んでいく。
「んぐ…っ、んー…っ!!」
「ほらほら、もっと食えよ… そうじゃねぇと強くなれねぇ…?」
そこまで言って、モムノフはモー・ショボーの変化に気付き、手を止めた。
…モー・ショボーの顔は食料品を詰め込まれたからか、頬を膨らませていたが…
それとは別に、ぷっくりと… 頬に、丸みが付き始めていたのである。
それだけではなく、体内に入り込んだ食料品で膨れていた腹も、次第に柔らかく、
服を押し上げるように膨らみ始めて。
「…んぐ…っ、ん…っ、んぅぅっ!?」
「…ハハッ、ハハハハッ!! 良かったじゃねぇか、
もしかしたら第二のオーカス様になれるかも知れねぇぜ!?」
そんなモー・ショボーの様子にモムノフは気を良くしたのか、可笑しそうに笑い。
モー・ショボーも自分の身体の異変に気が付いたのか、必死に身体をじたばたさせて、
抵抗し始めた。
だが、それでも彼我の力差は埋めようがなく…
モムノフは、無慈悲にモー・ショボーの口に食料品を詰め込んでいく。
詰め込まれれば詰め込まれた分、モー・ショボーは息苦しさから飲み込む他なく。
飲み込んでいく度に、愛らしかった顔はぷくぷくと、丸くなり始めて。
服はビリ、と音を立てて破れ… 破れた隙間からは、脂肪に塗れた腹肉が、柔らかくはみ出し。
腕は次第に真下に降ろせなくなり始め、足は丸太のように太くなり。
…そして、尻肉は巨大な桃のように膨らみ… 服を引き裂くと、
まんまるとした身体に申し訳程度の布が絡みついて。
最早自前の羽では飛ぶことさえ叶わぬようになったモー・ショボーの姿を見て、
モムノフは漸く食べ物を詰め込む手を止めた。
「…ククッ、アハハハッ!! 良かったなぁ… オーカス様みたいになってるぜ、
身体だけだがなぁ!!」
そう言いながら、モムノフは大きく張り出したモー・ショボーの腹を突き…
それだけで、モー・ショボーの身体はたぷんと波打ち。
小さく声を漏らしながら、羞恥と屈辱にポロポロと涙を流すモー・ショボーは…
小さな、小さな声で呟いた。
「………ラ」
「…ハ? 何だよ?」
「…ガルーラ!!」
「…え… うげふっ!?」
叫ぶようなモー・ショボーの声と同時に、モムノフの身体が壁に叩きつけられる。
突然吹き荒れた強風に、モムノフは何が起きたか理解が出来なかったが…
理解させる間もなく、モー・ショボーは更に叫んだ。
「ガルーラ! ガルーラ、ガルーラ、ガルーラガルーラガルーラガルーラガルーラガルーラガルーラ
ガルーラガルーラッッ!!!!!」
「ちょ、ちょっとま」
モムノフが何を言おうとしたかは解らない。
…次の瞬間、恐ろしい程の烈風と共に、モムノフの姿は消し飛んでしまったから。
「はぁ、はぁ…っ、うぷ…っ」
汗を流しながら、荒く息を付き…湧き上がるゲップを抑えるモー・ショボー。
重くなり、膨らみ、飛ぶことさえままならなくなった身体だが…
彼女にとっての救いは、食料品で魔力が回復したことだった。
そのおかげでモムノフを撃退する事が出来て… 更に。
「…モー・ショボー、此処か!?」
タダノを、此処に呼ぶことができたのだから。
「…えっと… モー・ショボー、か…?」
「…あ… い、いや…っ、見ないで…見 ないでーーーーッ!!!」
…無論、それが幸か不幸かは、解らないが。
因みに、後日モー・ショボーはタダノと激烈なダイエットに挑戦する事になるのだが、
それはまた別のお話。
#真・女神転生 STRANGE JOURNEY,メガテン