415氏その3
#ドラゴンクエスト4,ドラクエ4,Dragon Quest W,DQW
・プロローグ
町や村と言った文化的集団をあまり作らない魔族にとって、建造物…特に、様々な用途に耐えうる、広くて頑丈な部屋は貴重品だ。
にもかかわらず、個人の研究室が与えられているバルザックは、寝返り組としては破格の厚遇を受けていると言って良いだろう。
それもひとえに、錬金術師たる彼の知識が有益であるからに他ならない。
バルザックの専門分野は、進化の秘法と名付けられた一連の生体改造技術だ。
人間であった頃、師から奪い取った ― 本人に言わせれば、思い通りにならぬからと言って世界の宝を闇に葬ろうとした愚物の手から救い出した―資料を基にしているため、従来とは基礎研究の段階から異なる切り口で、この失伝技術に取り組む事ができたのだ。
慢性的な人材不足に悩む魔族がここ数年の間にここまで戦力を整えられたのは、彼のもたらした技術があってこそである。
しかし、光あるところ常に影が生じる。
バルザックは、研究記録を持ちだす際に師を殺害していた。
そんな気はなかったと言えば嘘になるが、縁者にこうまで恨まれては、
研究にも差し障ると言うものだ。
自らの軽率さを恥じながら、彼は捕虜に声をかけた。
「裏切り小僧に取って代わられるとは、可愛らしいではないか。なあ、エドガンの娘達よ。」
「ッ!あんたが!あんたが父さんの名前を出すなッ!」
怒らせてしまった。
場を和ませようと褒めたつもりなのだが、姉のマーニャはお気に召さなかったらしい。
ポリポリと頭をかきながら、隣に転がされている妹の方にも一応声をかける。
「そう喚かないでくれたまえ。部屋に響く。」
「………」
ボソボソと呪詛を呟いているが、聞き流す事にした。
求めに応じて音量を絞ってくれている分だけ、まだ話が通じている方だろう。
勝手にそう結論付け、すぐに次なる懐柔策を実行に移す。
「ところで腹は空かんかね?私はこれから昼食なのだが…」
「バカにするのもいい加減にしろッ!卑怯者!正々堂々と戦えッ!」
「…くっ…ダメ、力が…」
取りつく島もないとはこの事だ。
むき出しの敵意をぶつけられ、バルザックは白旗を上げた。
せっかく共同研究に誘おうと思っていたのに、二人ともずっとこの調子である。
これではとても次の報告会に間に合わない。
少々強引な手を使わざるをえない事が、どうにも心苦しかった。
「出来ればもう少しわだかまりを解きほぐしたかったのだがなぁ。年頃の娘とは難しいものだ。」
「…バルザック殿、何かおっしゃられましたかな?」
「いやなに、いつまでも人の心など残しておくものではない、と言ったのですよ。」
食堂のカレーうどんをすすりながら、バルザックはかぶりを振った。
・第一章
「はあ!?冗談でしょ」
囚われてから数日、個室に移されたマーニャは何度も耳を疑った。
「助手として、進化の秘法の研究に参加してほしい。」
そんな言葉を皮切りに、バルザックはなんとマーニャを勧誘し始めたのだ。
魔法の扱いに長け、身体能力も高いマーニャには、主に現地調査や大掛かりな実験装置の操作などを担当してもらいたい云々…
話が給与や余暇に及んだ所で、マーニャは心底呆れはてた。
この男は本気で、自分を味方につけられると思っているのだ。
「冗談ではない。私は本気で君達を仲間に迎えたいと…」
「あたしは…あたし達はねえ!あんたを殺したいほど憎んでるのよ!?それをッ!」
バルザックは苦虫をかみつぶしたような表情になった。
これほど優れた魔力を、研ぎ澄まされた技を、なぜ殺し合いにばかり使いたがるのか。
それでも、短気は損気と気を取り直し、辛抱強く語りかける。
「正直なところ、当初は君たちを勇者のおまけ程度にしか見ていなかったがな。
今では掘り出し物だと…」
「おまけ!?言うに事欠いておまけですって!?」
とは言え、少々時間をかけ過ぎた事も、また事実だ。
それに、一言しゃべる度に遮られるようでは、いつまで経っても話が進まない。
遺憾だが止むを得まい、バルザックは意を決してマーニャを制した。
「もがっ!」
「少しは人の話を聞きたまえ。」
「ぐぅぅ…っ」
嘘も方便と言う言葉もあるが、これから共にやっていく相手を騙すような真似には、
やはり気が乗らない。
バルザックはなるべく威圧的にならぬよう、耳元で囁いた。
「いいかね、マーニャ君。君たちは我々の敵だ。それは理解しているね?」
「…」
「その敵が、われわれの領域を犯し、敗北した。」
「…」
「つまり君たち姉妹はいつ処刑されてもおかしくない立場にあるわけだ。」
「…っ!」
悔しそうに睨みつけてくるマーニャをなだめるように頷き、バルザックは手を離した。
相変わらず表情は険しいが、あばれうしどりのような体の動きはもうない。
バルザックは内心気合を入れ直し、躊躇いがちに話しを続けた。
「だが、君が協力してくれるなら…」
「…交換条件ってわけ?」
「そうだ。君の妹、ミネア君の無事は保証される。」
長い沈黙の後、先に動いたのはマーニャだった。
「わかったわ…その代わりミネアは…」
「ああ、約束しよう。」
なんとか、了解は得られたか。
予定よりもずいぶん遅れてしまった。
最もデリケートな時期を過ぎた今、急ピッチでスケジュールを進めなければならない。
お互いの認識の致命的なずれに気付かず、バルザックはホッと息を吐いた。
「では、早速準備にかかろう。その格好ではとても研究などできないからな。」
「準備?ハッ、服でも脱がせようって…ひぎぃっ!?」
突然、得体のしれない触手のような物を肛門に突っ込まれて、マーニャは悶絶した。
これも生物なのか、グネグネと動いて、腸の奥まで入り込んで来る。
そちらでの経験もあるにはあるが、この異物感は尋常では無い。
「おげ…な、なにを…ぐぁぁ…」
「おっと、驚かせてしまったか。まあ、じきに慣れるから、少しだけ我慢してくれ。」
バルザックがスイッチを押すと、突き刺さった触手チューブが脈動を始めた。
大きなコブがゆっくりと根元から移動し、彼女の体内にまで潜りこんで行く。
コブはやがて先端に達し、そこから何かが噴き出した。
「あううっ…あ、な…何…この、感じ…」
ごぼごぼと不快な音が聞こえる。
ドロドロした得体のしれない液体がマーニャの腹を満たして行く。
不思議と嘔吐感は無かったが、それでも気味が悪い事に変わりはない。
全身がむずむずと違和感を訴える中、マーニャの体に最初の異変が起きた。
「…えっ?」
「うむ、最初はこんなものだろう。」
見下ろした視界の中で、細くくびれたウエストが一回り太くなる。
初めは液体で腹が張ったのかと疑ったが、そうではない。
注入が止まった後も、膨張は続いた。
それどころか、加速度的にブクブクと腹が膨れ、垂れ落ち、ついには割れ始める。
経験はなくとも見世物小屋で見た覚えはあった。
これは肥満だ。
「しばらく供給管は抜かないように。栄養剤が漏れてしまうからな。」
「何よこれぇ!?い…い、嫌がらせのつもりかしら!?」
なんとか余裕を見せようとするが、声の震えは抑えられなかった。
チューブを抜こうともがいても上手くいかない。
ほんの数秒前までキュッと締まっていた尻が肥大化し、チューブを圧迫していたのだ。
「では、また後でな。」
「ま、まちなさい!まって…ひぃっ!?」
部屋を出ようとする背中に向かって、マーニャはあわてて腕を伸ばす。
一瞬の間に、その細腕は倍近い太さになっていた。
・第二章
「ふぅ…」
あれでよかったのだ。
彼女もいつか分かってくれるだろう。
しかし、胸が痛む。
「失礼するよ。」
「…ぁぁ」
バルザックの入室に、弱々しい声が答えた。
太めという表現では世辞が過ぎる、掛け値なしに見苦しいデブ女が寝台に横たわっている。
「ああ…いやぁ…もう許して…」
「むむむ…まだ慣れんかね。」
「なにが、むむむよ…あなただって元は人間でしょう?どうしてこんな酷い事ができるの…?」
バルザックが近づくと、女は怯えたようにベッドの隅に縮こまった。
その動作だけで、彼女の周りにムワッと熱風が巻き起こる。
バルザックには、部屋の温度が1度上がったように思われた。
「酷い事ではないよ。最初に説明しただろう?これは研究の為に必要な…」
「あああ!聞きたくない!聞きたくないッ!お願い!やめてぇぇぇ!」
泣き叫んで耳をふさぐ女に、バルザックもさじを投げた。
先程と同じようにチューブを手に取り、女に向ける。
女はとうとうブルブルと震えだした。
「いっ、いやあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁーーーッ!!!」
「うぐ…狭いんだからもう少し音量を下げてくれないか。まったく、君はおしとやかな女性と聞いていたんだがね…ミネア君。」
マーニャに持ちかけた取引は無意味だ。
ミネアとは彼女より先に話がついており、魔王軍からもバルザック預かりの「客員」と認められていた。
マーニャが身を捧げずとも、ミネアの無事は保証されていたのだ。
もっとも、この状態を無事と捉えているのはバルザックだけだったが。
「さあ、今日の分だ。」
「うわあああああーーーッ!やだああああぁぁぁぁーーーーッ!!!」
バルザックは、なすすべもなく蹲るミネアの尻タブを容赦なく割り開き、チューブをねじ込んだ。
ミネアの拒絶などお構いなしに、その体に痛ましい変化が起き始める。
既にブヨブヨの腹が僅かに膨らみ、一瞬遅れて、全身の肉付きがひとまわり増した。
最初の数回ほど急激な変化はないが、ミネアの体は確実に、常軌を逸した肥満体に作り変えられようとしているのだ。
「も、もう太らせないで!お願い!お願いします!これとめてええええええ!!!」
「もう少し我慢しなさい。あと10秒だから。」
おかしい。
初日から充填時間は変わっていないはずだ。
変化量で言えば、むしろ体への負担は減っているはずなのだが…ミネアは日に日に音を上げるタイミングが早くなって行くように思える。
バルザックは一人首をかしげた。
・第三章
「うぷっ…」
もう何日になるだろう。
時間の感覚が無い。
聞きなれた足音を聞きつけて、マーニャは僅かに顔を持ちあげた。
「また、なのね…」
「ふむ、やる気は十分と言ったところかな?いい傾向だな。」
にこやかに語りかけてくるバルザックに、嫌味を返す気力もない。
一体自分は今、どんな姿になっているのか。
マーニャはこの部屋に鏡が無い事に心底感謝した。
「では、早速。」
「う…うはぁぁ…」
ヌルリとチューブが侵入した。
すっかり異物に慣れたアナルが、注入を快楽と判断してジクジク疼く。
何の刺激も無い、もう踊る事もできない体を寝台に横たえて過ごす日々の中、これだけが唯一の娯楽だった。
「ん?どうした、おかしな顔をして?」
「なん…でも、無いわよぉ…」
「隠す事はない。明らかに様子が変だ。どこか調子が悪いのかね?痛いところは…」
「う、うる…さいぃ…」
調子が悪くないわけがない。
むしろ体中が不健康極まりないように見える。
進化の秘法によって急速に太らされたマーニャの体は、体重150kgに達しようとしていた。
玉のような汗を流し、涎をこぼして耐えるマーニャにとっては、心配そうなバルザックの声も言葉責めにしか聞こえない。
「あまり無理はするなよ。ほら、済んだぞ。」
「え…も、もう…?」
「ああ、よく頑張ったな。あともう少し、この調子で行こう。」
他人に、それも父の仇に感じている所を見られたというのに、怒鳴りつける事さえできなかった。
体力の低下、精神的な疲労、理由はいろいろと思い浮かんだが、そもそも敵の前で快楽に我を忘れる事自体が、以前の男慣れした自分からは考えられない。
「(羞恥心が麻痺してきてる…!?)」
手早くチューブを片づけて退室するバルザックを見送りながら、マーニャは底冷えするような焦りを感じていた。
・第四章
ここにいると、自分が自分で無くなるようだ。
ミネアは自我をつなぎとめるため、必死に気晴らしを探した。
「今日の昼食は…ああ、香草のスープ…アレ美味しいのよね…夕食は…」
ミネアは占い師である。
水晶玉やタロットなど、一通りの方法は学んでいたし、道具が無い時の代替手段として、天上のシミなどを用いた簡易占いもかじっていた。
「牛のステーキ…残念、脂っこいのも思ったほど悪くはなかったけれど…」
こうでもしなければ、名前すら忘れてしまいそうだ。
自我を保つため占いに没頭するミネアは、その対象がいつしか食べ物ばかりになっている事にも気づいていなかった。
「ステーキは嫌いかな、ミネア君?」
「………」
まるで、太り過ぎて飛べなくなったドラゴンのようだ。
今の自分と比べても遜色ない肥満体がキビキビと動くのを、ミネアは不思議そうに見つめた。
「ふん?これが気になるかね?」
誤解したバルザックの言葉を聞いて、初めて気付く。
なにか台車を引いている。
「栄養剤の投与はもう終わりだ。今日はゆっくり体を休めてくれたまえ。」
「え、終わり…?」
そう言えば、昨日ボンヤリとそんな言葉を聞いた気がする。
幻聴ではなかったのだ。
永遠とも思えた苦痛が終わる。
狂おしいほどに望んだ地獄からの解放が、間近に迫っているのだ。
「ほ、本当に?本当にもう太らせないのですか?」
「うむ、明日からはバリバリ働いてもらうから、覚悟しておくように。」
信じられないほどの開放感に、ミネアは躍り出しそうになった。
何をさせられるのか分からないが、少なくとも今より酷い事などこの世に有るまい。
むしろ、仕事を命じられた方が幾分気が楽と言うものだ。
「あああ、長かったぁ…辛かったぁ…ようやく…ようやく、ここから出られるのねッ!?」
「窮屈な思いをさせて悪かった。いよいよ、君の力を存分に発揮してもらえる環境が整ったわけだ。」
思わず跳ね起き、バルザックにどすどす駆け寄るミネア。
ねぎらうように置かれた手が汗を散らし、汚らしい音を立てるのも気にならなかった。
「では…今一度、辛い特訓を乗り越えた君の体を称えよう!」
バルザックが手を引くと、扉の陰に待機していた台車が室内に引き入れられた。
鏡だ、大きな姿見が変わり果てた女体を映している。
小ぶりで美しいと評判だった乳は、人の頭ほどは有ろうかと言う巨塊に化けていた。
ウエストがどこか分からない。
胸と腰の間がくびれていたはずだが、そんなものはどこにも見当たらなかった。
重力に頭を垂れた肉が、臍のあたりから無様にぶら下がっている。
その代わりと言うべきか、正面からは見えないはずの尻が、ハッキリと確認できた。
柱のような足と体の連結点で、息をするたびに形を変え、存在を主張している。
「あぅ…こ、これが…私…?」
「ああ、正真正銘君の体だ。これからの君に必要な物が全て詰まっている。」
バルザックが悪びれもせずに追い打ちをかける。
金縛りにあったように鏡を睨みつけたまま、ミネアは感情を爆発させた。
「酷いッ!!!酷過ぎます!!!一体何の恨みがあってこんなことを!!!!」
太らされている事は分かっていたが、まさかここまでとは思わなかった。
全身が粟立ち、双眸がギラリと輝く。
怒りのままに、瞬間的にミネアの魔力が高まっていく。
その力が臨界を超えて吹きあがった瞬間、ミネアの視界が暗転した。
「…っ!?これは…?」
目の前に自分が見える。
大きなベッドの上で服をはだけ、バルザックに甘えている。
そして、その腹には…
「嘘…そんな…やめて…私はそんな…」
ミネアは占い師である。
張り詰めた魔法力を鏡に叩きつけた事で、彼女は無意識に未来のビジョンを見てしまったのだ。
「やめて…おねがい…私の顔で…そんな事…」
懇願したところで、一度読みとってしまった暗示は消えない。
これは自分自身が手繰り寄せてしまった運命なのだ。
近い将来、自分がとる信じられない行動を目の当たりにして、ミネアは心が折れる音を聞いた。
「恨みって…最初にちゃんと説明しておいただろう?いいかね、君達の仕事は…」
ゆらりとミネアが振り返った。
先程までの鬼気迫る表情ではない。
ブクブクにむくんだ肥満顔にもかかわらず、怪しい艶めかしさを纏っている。
「や、待てよ。マーニャ君の方にはこの事を話してあったかな?」
「姉さんはどうでも良いでしょう?」
以前はゆったりとしていた占い師の装束が、窮屈そうに引き千切られ、パサリと床に落ちた。
導かれし者ミネアの旅は今終わったのだ。
・第五章
「やぁ悪い!君が憤るのも当然だ、済まなかった!」
マーニャに手を合わせて謝るバルザック。
この地獄のような肥育の最終日だという今日になって、突然詫びを入れてきたのだ。
「ぶふ…何よ、いまさら…おふぅぅ…」
「助手の件を依頼しておいて、業務内容をちゃんと伝えていなかった。雇い主にあるまじき不手際だ。本当に申し訳ない!」
「助手ぅ…?」
記憶をたどると、確かに今の状況は、そのような話から始まっている。
そんなものは自分を痛めつけるための口実にすぎないと思っていたマーニャは、目を丸くした。
「あ、あの話…本気だったのね…」
「酷いな、疑っていたのか!いや、仕方あるまい。納得の行く説明ができなかった私の落ち度だ。」
神妙な顔で何度も謝るバルザックに手を引かれ、マーニャは部屋を出た。
思ったよりは動ける。
驚いた事に、ここに入れられてからまだ半月と経っていないらしい。
それでも格段に重くなった足取りでついていくと、バルザックは研究室の扉の前で立ち止まった。
「知っての通り、私はあまり話上手ではなくてね。挨拶がてら、先輩に仕事を教えてもらうと良い。」
「先輩…?先輩ですって!?一体何人こんな目に合わせたの!?本当にあんたって…」
「研究室では騒がないように。」
研究の事となると、途端に余裕が無くなるらしい。
有無を言わせぬマホトーンでマーニャを黙らせると、バルザックは扉を開いた。
「あ、お疲れ様です。バルザック様。」
マーニャと同様、太りに太った後ろ姿が、椅子に座っている。
艶やかな紫髪と褐色の肌が美しい。
聞き覚えのある声でしゃべるその女に、マーニャは愕然となった。
「(ミ、ミネアッ!)」
「調子はどうかね、ミネア君。」
「うーん、もう少し調整しないと、役には立たないかと。」
さも当然といった調子で、ミネアはバルザックと会話している。
何かの結果を占わされているらしく、テーブルの上にタロットを広げていた。
「(バルザック!ミネアに何をしたのッ!?)」
「そうか、道のりは長いな。」
「はい。でも大事な初仕事、頑張りますよ!」
和気あいあいと会話を続ける二人に、いらだちが募る。
洗脳でもされているのか?
マーニャの血が沸き立った。
「(あんた!どこまでミネアを辱めれば気が済むのッ!?)」
「ミネア君、作業しながらで構わないんだが。」
「はい?」
「実は今、新人が見学に来ていてね。仕事について少し説明してやってくれないか。」
マーニャの怒りもむなしく、ただヒューヒューと息の抜ける音だけが漏れる。
すぐそこに姉が居るなどとは夢にも思わず、ミネアは話し始めた。
「あら、新人さん?はじめまして、助手のミネアです。
こんな恰好でごめんなさいね。今ちょっと手が離せなくて…
それで、ここでの仕事内容についてでしたね。」
「(違う!ミネア!あなたはそいつの仲間なんかじゃない!目を覚ましてッ!)」
「えー、私達のお仕事は、バルザック様の研究のお手伝いです。
基本的に自分の特技を生かしてお仕事します。
私は元占い師なので、実験結果の予測だとか、仮説の検証をお手伝いしてます。」
「ミネア君はとにかくデータに強い。彼女のおかげで、研究がとてもはかどっているよ。」
相槌を入れるバルザックの顔に侮辱的な表情はない。
悪意などではなく、心底正しい事と信じ切って、ミネアをこんな風に扱っているのだ。
ぶつけようのない怒りが徐々に冷め、マーニャはこの異常者に恐怖を覚え始めていた。
「ふぅ、それから…あなたがどこまで進んでるのか分からないんだけど…
私、すごい体でしょう?これにもちゃんと理由があるんです。
私達の一番大切なお仕事は…」
「(こ、こんな事に理由なんてない!こいつは、あたし達を傷つけて楽しんでるだけなのよぉ!)」
反論が届かないもどかしさに、マーニャの目から悔し涙がこぼれた。
困り顔のバルザックが背中をさすってくる。
鬱陶しいと感じつつも、それを振り払う勇気はもう無かった。
「はぁん、バルザック様の…赤ちゃんを産む事…なんです。」
「(…えっ?)」
信じられない言葉を耳にして、にわかにマーニャの表情が険しさを増した。
ミネアの様子は分からない。
椅子の背もたれがこちらを向き、はみ出した贅肉だけがミネアの惨状を物語っている。
「はぁ…はあぁぁ…進化の秘法は…あはぁ、扱う生き物によって、アプローチがまるで変わってくる…デリケートな技術なんです…だから…ふひっ…動物実験があまり当てにならなくて…」
先ほどとは明らかに違う、興奮のにじみ出た息遣いが、耳触りに響く。
マーニャは、ミネアが振り向かないでほしいと思った。
もし予感が正しければ、妹はすでに…
「あぁ…ま、魔族の実験台が必要なんですぅ…」
「ミネア君、その向きでは体が見えない。こっちを向いてくれたまえ。」
クルリと椅子を回して、ミネアが振り返った。
「だから!私が!私の卵子と、バルザック様の精子で!たくさん、たくさん実験台を作らなきゃいけないんですッ!!」
なんとかそこまで喋り終え、ミネアは絶頂を迎えた。
母乳を吹きながら、腫れあがった乳房がびくびくと痙攣する。
のけぞって晒された裸体は、マーニャのそれと瓜二つだった。
同じサイズに肥育された肉を、同じくらい醜く蠢かせている。
強いて違う点を上げるなら、下腹がマーニャのそれよりもさらに大きく、歪に膨らんでいる事だ。
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
いつの間にかマホトーンが切れていたらしい。
マーニャの絶叫が研究室に響き、バルザックは顔をしかめた。
しかし、興奮し切ったミネアはお構いなしに、自らを貶める言葉を吐き続ける。
「イヒヒヒヒッ、驚きましたぁ?
このバケモノみたいな体も全部そのためなんですよ!
いくら子宮が進化しても、人間の体じゃ結局耐えきれなくて流産しちゃいますもの!
だから、こうして赤ちゃんの栄養をたっぷり蓄えられる家畜に進化させていただいたんです!
素敵でしょう?力もないし、動きも鈍いから、バルザック様に何をされても絶対に抵抗できないんです!最高でしょう?
私は道具なんですっ!助手なんて名乗ってますけど、本当はバルザック様の思い通りになるしかない道具なんですよぉっ!」
堕ち切ったミネアの姿を見せつけられ、最後の気力が粉々に崩れた。
無駄だったのだ。
全てを投げ打って生かした妹は、死よりも過酷な運命に囚われていた。
「…おわりよ…あたしたち…もう、おわりだわ…」
「こらこら、マーニャ君。勝手に終わらせないでくれ。」
バルザックが声をかけても反応しない。
代わりに、快楽の余韻に浸っていたミネアが声を上げた。
「へ?姉さん?」
慌てて顔を向け、目の前の人間を確認する。
自分と同じく人外の体にされた姉の姿を見て、ミネアは驚きの声を上げた。
「あらやだ、本当に姉さん!もう、言ってくれればよかったのに。」
明るく弾んだ声。
自分の境遇にまるで不満など感じていないようだ。
「…バルザック様。」
「む、落ち着いたかね、マーニャ君。」
「…はい。」
「それはよかった。で、何を言おうしたのかね?」
「あたしも…」
もう戻れない。
マーニャは過去に決別するように、力強く言い放った。
「あたしにも、ミネアと同じ仕事を、させて下さい。」
・第六章
「あら、バルザック様。姉さんのお腹…」
水晶玉をのぞいていたミネアが、突然マーニャの腹を指さした。
「あはっ、やっぱり!」
「どうしたね、ミネア君?」
ニタニタ笑うミネアの胸を揉みつぶしながら、バルザックが問いかけた。
魔物の掌にも収まらない爆乳が、グニャリと歪んで母乳を垂らす。
ミネアは、たまらず喘ぎながら答えた。
「ひゃはぁ!い、今占ってみたらぁ…排卵日、今日だったみたいで…」
「ほう、それはなんともタイミングがいい!」
「本当に!?」
ミネアの言葉を受け、マーニャの顔に狂気じみた笑顔が広がって行く。
早く続きを言えとばかりに向けられた視線に応えて、ミネアは宣言した。
「はい、危険日です…んん、姉さんのカラダ…あああ妊娠準備万端で…ああ危険日ど真ん中でああああーッ!イくぅ!おっぱいイくぅぅぅ!!!!!」
最後まで言い終える前に、ミネアは限界を迎えた。
分厚い脂身を震わせ、犬のように涎をまき散らす姿は哀れみを誘うが、彼女に慈悲をかける者など、ここには一人もいない。
唯一そうであった姉は、妹の痴態をうらやましそうに眺めていた。
「…はぁ、はぁ…バ、バルザック様…姉さんを…」
「うむ、少し休んでいたまえ。」
「はい…私の姉さんを、よろしくお願いします…」
バルザックの手招きに応え、マーニャは邪魔そうに踊り子装束を放り投げた。
太り過ぎた体はそれだけの動作で発熱し、寝そべった床に人型のシミを作る。
自ら堕とした女の哀れな末路を見ても、バルザックの心には罪悪感など露ほども湧かなかった。
「さあ、マーニャ君。ミネア君に教わったことを復唱してごらん。」
「は、はい!ありがとうございます!」
穏やかな猫撫で声でバルザックが促す。
マーニャは待ちかねたように股を開き、太い二の腕で両膝をガッチリとホールドした。
本人はM字開脚のつもりなのだろうが、押し出された腹と太ももが隙間を埋め、全く文字には見えない。
ブロック状にカットされた食用肉のようだ。
哀れなマーニャは、ただ貪られたい一心で、屈辱的な言葉を紡いだ。
「はぁ、はぁ…い、いま…あたしのお腹の中で…バルザック様に進化させていただいた子袋で…孕みごろの卵子がお侍ちしておりますぅ…」
「ほうほう、それで?」
「ふふ…頑張って、姉さん。」
優しく微笑んで姉を応援するミネア。
ポーズもセリフも、マーニャが自分で考えた物だ。
それが、愛する姉がどこまでも共に堕ちてくれる事の証明に思えて、とてもうれしかった。
「あたしは…これから一生、この卵子を…バルザック様に…捧げ続ける事を誓います…」
「くすっ、うふふふふ…」
感極まって笑いだしたミネアに気付いているのか、いないのか、マーニャは熱に浮かされたような顔でバルザックだけを見つめている。
「どうか、マーニャの体を…バルザック様の研究に、提供させてくださいませ…」
「君の体を、私の研究に?具体的にどういう事をするのか、ちゃんと理解しているのかな?」
念を押すように問いかけながら、バルザックは弛んだ皮膚をかき分けた。
すっかり出来上がったそこを焦らすように、カリ高い亀頭が秘裂をなぞる。
汗にまみれ、それ以上に愛液にまみれたそこは、凌辱者を待ちわびてヒクついていた。
「ハイ!承知しております!あっ、まずはバルザック様がお手すきの時に…マーニャのお股をブチ抜いていただきます!」
「こうかな。」
バルザックがグイと腰を突き出す。
何の抵抗も無かった。
支えを失った復讐心は一突きで粉砕され、ヒダと言うヒダが愛液のシャワーで仇を歓待する。
「くほぉぉぉ…それから中をぉ…カキ回して、存分にお楽しみいただき…ッ!」
「ほうほう、それで?」
ピストンが開始された。
極太の肉棒が膣壁を擦り上げ、子宮口を殴りつける。
歓喜の声を漏らしながらも、マーニャは口上を続けた。
「あひぃ!あ!せ、精子を!バルザック様の遺伝子を、奥にお迎えしまあががががぁッ!!」
「はしたないわ、姉さん。よがるか喋るかどっちかにして。」
呆れ顔でたしなめるミネアも人の事を言えた口ではないのだが、本人に自覚は無いらしい。
苦笑しながら、バルザックは続きを促す。
「はぁ…はぁ…授けてただいた精子と、あたしの卵子を…子宮で配合して!バルザック様の為に、何度でも…!何匹でも実験台を生産しますぅッ!」
「いちいち気取った言い方をしなくてもよろしい。」
ひと際長いストロークの一撃が、マーニャの子宮口に激突した。
否、改良に改良を重ねた肉の凶器が、そんなもので止まるはずも無い。
硬い先端がすっかりトロけた穴をこじ開け、マーニャの深奥に攻め込む。
「ふぎいいいーーーッ!!!ご、ごべんなざいぃぃぃ!孕まぜでぇぇっ!ばるじゃっくざまぁぁぁ!あだじを孕まぜでぇぇぇ!!種付けじでぇぇええーーーーッ!」
白目をむいてよがり狂うマーニャ。
まるで、そうすれば胎内が広がるとでも言わんばかりに腹の贅肉を引っ張り、へこへこと腰を踊らせる。
一拍置いて滝のように流れ込む精を感じながら、彼女はなおも叫び続けた。
「あああ熱いぃいぃぃぃいい!!!卵がッ!あたしの卵がぁァァーーッ!!!」
「ぐううううう、卵がどうしたッ!?言え、マーニャ!!」
「ちなみに今こんな感じよ。」
ガチガチと歯を鳴らしていななくマーニャの目の前に、水晶玉が差し出された。
半透明の球体が映っている。
その周りに、小刻みにゆらめく細い線が無数に生えていた。
「お、犯されてますぅっ!マーニャの卵ぉぉぉ!バルザック様の種に輪姦されてッ…うれし泣きしてますぅぅぅぅ!!!!」
そのうちの一つがにわかに激しく動いたかと思うと、まとわりついていた他の線がパッと弾かれた。
「おめでとう、姉さん。」
蓄えさせられた肉の意味が、ようやく実感できた。
嫌がらせでもなんでもなく、これは必要な物なのだ。
その事を一足先に理解し、受け入れた妹の姿が、マーニャにはとても眩しく見えた。
・エピローグ
「うぬ、こやつも例の上位種であったか!」
戦況は当初考えられていたほど不利ではなかった。
天空の勇者と導かれし者たちが、各地で獅子奮迅の活躍を見せていたのである。
ある者は秀でた力を、ある者は優れた才覚を持って苦難を乗り越え、一堂に会した強者達。
いずれ劣らぬ5人の勇士を率いるのは、伝説の天空人の血をひくと言う勇者だ。
否応なしに人心を集め、常に結果を出してのける彼らは、まさに向かうところ敵なしの英雄と言った所なのだが…
「ライアン、トルネコ、下がってて!あたしが引きつける!」
「いやはや…見た目に油断してました。こりゃ、私じゃ追いつけそうにありませんね。」
そんなはずはない。
自分達が戦っているサイ男は、素早さを犠牲にして、物理・魔法防御の両立を図った魔物だったはずだ。
だが現実に、敵はキラーピアスを握ったアリーナの拳を互角の早さで捌いている。
「つぅ、硬ぁい…」
「姫様、ここは私にお任せを。ザラキ!」
何度戦ってもこの魔物は苦手だ。
なにしろ、ルカニを受けたと思ったと直後には砲弾のような巨体が目前に迫っているのだから、注意のしようが無い。
今回はクリフトの昇天呪文で事なきを得たものの、これにまで対策を立てられたらと思うと肝が冷える。
「ふむ…伏兵はおらぬようです。勇者どの、お怪我は有りませんかな?」
「大丈夫だ、ブライ。皆もお疲れ様。」
ここ最近、種族的な特徴を全く無視した能力を持つモンスターが増えてきたように思える。
特異個体や亜種などと言った言葉では説明できない数だ。
まるで、種全体が突然進化を遂げてしまったような…進化?
ふと、死力を尽くして打ち破った地獄の王の姿が頭をよぎる。
魔物達がこぼした進化の秘法と言う言葉…その成果がこれだと言うのか。
「(厳しい戦いになりそうだ。)」
仲間たちに弱気の虫を移さぬよう、勇者は心の中で呟いた。
「報告するわ、バルザック様。」
旧サントハイム城。
研究成果が認められ、一介の研究者からプロジェクトの責任者にまで上り詰めたバルザックの新たな拠点である。
かつては王の物だった寝室で、バルザックは助手から報告を受けていた。
「サイ男の強化実験は成功よ。以後、量産体制を整え…処置済み個体を…ライノソルジャーと呼称して…っ、あ…特別、待遇をぉ…」
「ふむん、それは結構。して、何か気付いた点はあるかね?」
興味しんしんと言った様子で助手に訪ねるバルザック。
「ふわぁぁ…ざ、ザキ系統の…あん…呪文への耐性がぁ…まだ心許ない…ッ」
「む、やはりか…仕方あるまい。また何か考えるとしよう。」
報告を聞き終え、バルザックは思索にふける。
と、用を済ませたはずの助手が、バルザックにすり寄った。
「ね、ねえっ!」
「うん?ああ、すまんすまん。もうイッていいぞ。」
くん、とバルザックの腕が持ち上がった。
その先では、長く太い異形の指が、助手の股間に突き刺さっている。
「おごおおおおおーッ!イくぅうううーーーーッ!!!」
開発され尽くしたGスポットを抉られ、助手は快楽にのたうち回った。
浅黒い肌に白銀の踊子衣装が映える。
「そうそう、何事も簡潔が一番だよ。」
「ひがああぁおおーッ!ああああ!うあああああああァーーーッ!」
擦られ、こねられ、獣のように吠えるたび、ブラからはみ出した乳房がプルプルと震える。
褌の食い込んだ尻が暴れ回り、あたりに湿った熱気をまき散らした。
しかし、何よりも惨いのは、衣装の間から突き出た腹だ。
デップリと張り出した肉塊は無数の引きつれと青筋に覆われ、その中心を生々しい肉割れが走っている。
「ひぃぃぃッ!マ、マーニャまたイきますッ!ブタ穴ほじられてイぎますぅぅーーッ!」
恥丘を探っていた親指がクリトリスを掘り起こし、トドメとばかりに擦り上げる。
たちまち、甘ったるい悲鳴が部屋の外まで響き渡った。
涎を垂らし、歯を食いしばり、それでもマーニャは決して視線を外そうとはしない。
彼女は失神する瞬間まで、身も心も捧げたバルザックに、熱い崇拝の眼差しを注ぎ続けた。
「バルザック様…姉さんばっかり構っちゃいやです…」
と、背後から突如抗議の声が上がる。
もう一人の助手のミネアだ。
膝立ちでローブの裾をたくしあげ、自慢げに腹をさすっている。
「むー…」
「分かった分かった、そう拗ねないでくれ。」
もう人の子を宿せないそこには、先月仕込まれたばかりの20体目が今にも産まれ落ちんと蠢いていた。
いつかの予知の通り、進化の秘法に蝕まれた姉妹は、肉体も、生殖も、生死さえも管理されながら、永遠にこの魔物に支配され続けるのだ。
(完)