メタボボックス

メタボボックス

 

 

「これは……」
生徒会室に戻っためだかが見たものは、床に倒れ伏している善吉だった。
正直、シュールなことこの上ない。
「どうした、善吉」
手を腰に当てたまま、近くへ寄り座り込む。
そこでやっと理解した。
ドッキリか何かかと思ったが、違う。
どうやら、意識を失っているようだ。しかも傷ひとつなく。
「案ずることはないよ。少し眠ってもらっただけさ」
背後から声がした。
この部屋に入った時に確認した。
その限りでは無人だった。
扉の開いた音もしない。
けれど、振り返ると女がいた。
「貴様……」
その女の髪は白髪で。

螺子によって、両手を肩に止められていた。
「安心院(あじむ)なじみ―――!」
奇怪な格好のその少女を、めだかはそう呼んだ。。
「何かようかい、めだかちゃん。それと、僕のことは親しみを込めて
 安心院(あんしんいん)さんと呼ぶように」
「貴様、善吉に何をした?」
飄々とした安心院に、めだかは鬼気迫る表情で問う。
「さあ? 何かしたっけね。そういえば何かあったような気もするなぁ?」
全く要領をえない。
(善吉は少なくとも息がある。それは先ほど確認した。
 この女のスキルによってもっと酷い状態にされているかもしれないが、命に別状はないはずだ)
黙るめだかを一瞥し、安心院はあさっての方向を向いて言った。
「ああ、思い出した。スキルを使って、目覚めない体にしてあげたんだっけ。
 ほら、僕のせいで頑張りがいのない人生にしちゃったからさ、せめてものお詫びってやつだぜ?」
その言葉で、めだかの理性は引きちぎられた。
めだかの怒りを引き出すことが、彼女の狙いとも知らず。

 

おかしい。
理性を失った私の中、それでも思った。
私は今、全力で攻撃している。
安心院はそれをほとんど避けている。
避けてはいるが、何発も当たった。
それらに全く手ごたえがないのだ。
「おっと、少し休戦だ。いい加減服がきつくてね」
安心院が飛び退く。
「どういう……つもりだ」
彼女に攻撃は通じていない。
それならば、間合いを開ける必要もないだろうに。
「だから言っただろう。服がきついんだよ」
やつは何を言っている?
彼女を見れば、どこか漠然とした違和感を感じる。

 

服がきつい?
彼女はゆったりとした巫女装束を着ている。
しかし―――
「貴様、その恰好はなんだ」
私は問う。
彼女は明らかに違っていた。
まず、ゆったりとしていて体型の見えなかった巫女服は、
ほんの少し引っ張られているように見える。
螺子で止められている手の甲には変化はないが、
袖がめくれて見えた腕はぷくぷくとした脂肪に覆われている。
足が太くなったのか、緋袴がぴったりと張り付き、足の動きも丸見えだ。
そして、腹も巫女服を内側から押し、交差した手の下に無視できないでっぱりを形作る。
顔の輪郭も丸くなり、二重顎の兆しさえ見えた。
ほんの少しとは言えない増量。
体重にして、10キロと言ったところだろうか?
「『脂肪遊戯(オーバーウェイト)』ってところかな? 僕の持つスキルの些細な一部。

 外的刺激を食べるマイナスだよ」
「攻撃を吸収するスキル、という事か」
これで違和感の正体はわかった。けれど、どうやって打倒すれば……
「いや、少し違うね。吸収した刺激は溜め込むだけじゃない」
安心院は静かに私へ歩み寄る。
その間、私は善吉がされたことの痛みも忘れ、ただ突っ立っていた。
「ほら、こんなこともできる」
安心院は、右肩を使って軽く私をついた。
それだけだ。
それだけだというのに、私は自分の体に違和感を感じた。
腰回りが……きつい。
「分かったかな? これは溜め込んだ刺激を相手に移すこともできる。
 もちろん、脂肪と言う形でね」
脂肪を移す、と言ったか。
「しかし、脂肪を移している割に、貴様の体は変わらぬように見えるぞ」
「そりゃそうさ。今移したのは微々たるものだからね。

 ただ、いつまでも太ってるままも気分が悪い」
そのセリフが終わると同時に、安心院は元の体型に戻った。
脂肪を移したのなら、私の体に変化があるはずだ。けれど、私は変わりない。
「例の、一兆分の一のスキルか」
淡々と呟く。
「そうさ。スキル『淑女の嗜み(ダイエット)』で、僕はいつだって理想の体型を作り出せる。
 蓄積された刺激はそのままでね」
なんと都合のいい能力であろうか。
「それでも、私は許すことができんのだ。善吉をあのような目に合わせた貴様を!」

 

ここから先、語り合うために言葉はいらない。
ただ、拳で互いを理解するのみ!
その信念を胸に、目の前に立つ安心院に殴り掛かる。
手加減はしない。
常人の目から見てみれば、握った手はいくつにも分裂して見えたことだろう。
しかし―――
「めだかちゃん、僕の説明聞いてたのかい?」
本人は一歩たりとも動いていない。
まるで、空を殴っているような感触に飽き飽きしてきた頃。
「そろそろかな」
反撃は唐突に始まった。
「ほら」
少し、肩で突かれただけだった。
けれどその一瞬で、体に何かが流れ込む。
何故だかとても熱いけれど、叫び声はあげない。
その代り、悲鳴を上げたのは制服だった。

もとより常人以上の大きさの胸を包んでいた部分が、肥大化により破けそうになっている。
足も太くなっていき、たまらず私はブーツを脱ぐ。
腹のあたりに熱いものが流れ込んでいき、そして……
バギンッ!

 

ついに、スカートのホックが壊れた。
さらに、壊れた部分から肉があふれ出し、あっという間にスカートはただの布きれとかす。
私はたまらず尻餅をつき、改めて自分の体を見渡した。

 

腕はもとの太さの2〜3倍といったところだろうか。
くまなく脂肪で覆われ、関節についた脂肪で閉じることもままならない
太ももの太さは、もとのウエストなどとうに超えていた。
スカート破りの手伝いをした尻は太い足が連結されるだけの貫録を以て、
いまの私の全体重を支えている。
尻肉は横に広がり、今の体重で尻餅をついたというのにまったく痛くはない。
大きく前に飛び出した腹は太ももの間に鎮座し、おかげで足も閉じれなくなっている。
もともと大きかった胸は今もその張りを保ち、スイカほどの大きさに成長している。
ぷくぷくとした手で顔を触ってみれば、頬の肉で目は細くなり、
二重あごも当然のようにできていた。
「そんな……」
私は、今まで太ったことがなかった。
故に、一瞬でここまで太ってしまった現実に心が折れそうになっている。
「めだかちゃん、確かに君は主人公だ」
安心院が私の前に立つ。
「けれど、そんな体系の主人公がジャンプに居てもいいのかな?」

やめろ。
「さあ、仕上げだよ」
そう言って、安心院は私の腹に座った。
「『淑女の嗜み(ダイエット)』は、こんな使い方もできるのさ」
途端、私の腹が鳴った。
昼食はきちんと食べたはずだ。
けれど、空腹は容赦なく襲ってくる。
「何を……」
必死に我慢しながら問いかける。
「特に何も? ただ、ここ一か月の君の行動を変えさせてもらったぜ。
 ダイエットは日々の積み重ねだからさ、多少は過去もいじれるのさ。
 ここ一か月の君の評判は大食い生徒会長って感じかな」
……だめだ、我慢できなくなってきた。
けれど、これだけは……。
私の上に座っている安心院に触れる。
「私の異常性を覚えているか……」

『完成(ジ・エンド)』。それは、全ての能力を完成させる力。
「お前のスキルは、こんなこともできるようだぞ」
私が意識すると、安心院に異変が起きた。
そう、私と同じように太り始めたのだ。
「へえ、いったい何を仕掛けたんだい?」
「『淑女の嗜み(ダイエット)』を使わせてもらった。その語の本来の意味は食事療法だからな。
 太らせることもできなければいけないはずだ」
つまりは、単なる意趣返しである。
けれど、これが意外と効果抜群だったようだ。
「ふむふむ、同じスキルでの能力的にはそっちが上か。これじゃ打消しは出来ないみたいだね」
そう言って、彼女は太り過ぎでずり落ちてきた緋袴を両手で支えている。
腹もすでに丸出しだ。
「あ、言い忘れてたけど、人吉君は本当に眠ってるだけだよ。ちょっと確かめてみるといいぜ」
そして、消える。
おそらくは腑罪証明(アリバイブロック)と呼んでいたスキルでも使ったのだろう。
「善……吉……」

声帯が変化したのか、声がうまく出ない。
重い体を引きずって、彼に近づく。
すると、寝転がっていた善吉はゆっくりと起き上がった。
「ん? ……めだかちゃん!? どうしたんだよ、その体!」
善吉が驚いて目を見張る。
「いや……いろいろあってな」
私は弱く笑う。
「しかし、すぐに痩せられるはずだぞ」
安心院から奪ったスキルを使えば、すぐに痩せられるはずだ。
さっそく意識してみる。
……あれ?

 

 

どうやら、痩せることには使えないようです。

 

(完)
#めだかボックス,黒神めだか


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