334氏その1

334氏その1

 

 

ある時、古本屋で奇妙な本を見つけた。
「『悪魔を呼び出す方法』?」
ちょうど暇を持て余していた俺は、興味本位でその本を購入した。

 

本に書いてある通りに、魔方陣を書いてイモリの黒焼きやらなんやらを添える。
「ベタすぎる方法だけど、本当にこれで呼び出せるのか?」
半信半疑で呪文を唱えた。
その瞬間、魔方陣から煙が上がり、褐色の肌の女性が姿を現した。

 

アニス

 

「わらわを呼んだのはお前か?」
とがったしっぽ・突き出た角。
「も、もしかして本当に悪魔?」
「そうじゃ。わらわが魔界の王、デ・アニス・ド・シャンピニョン・アメグスt・・・」
「じゃあさ、お願いとか叶えてくれたりすんの?」
「こらぁ!話を最後まで聞かんか!
ごほんっ。わらわが人間界に来たのは、人の肝をすするため。お前も生贄になってもらうぞ!」
口をくわっ、と開けて威嚇する魔王。
「あわわ・・」
あわてた俺は何か武器になるものはないかと手もとを探った。

 

すると、たべかけのアンパンを見つけた。
「そ、そうだ。魔王様、人間の内臓なんてまずいものよりも、
こっちのほうが美味いと思いますよ。」
俺はアンパンを差し出す。
「ふむ、下等な人間が食すものなぞたかがしれているが、お前を喰う前の一興じゃ。食べてやろう」
魔王はアンパンを眺めていたが、ぱくりと齧った。
「・・・」
「どう?」
もぐもぐと咀嚼するうちに、魔王の顔がほころびはじめた。
「う、うまい!!こんなおいしいものは食べたことがない!」
そう喋った後に先ほどまでの自分の言葉を思い出したのか、罰が悪そうに言った。
「か、勘違いするでないぞ!人間の食べ物にしては上手いと言ったのじゃ。
わらわが魔界で食べていた豪勢な料理には及ぶべくもない。
・・・しかし、もっと同じものはないか?」
「もしかして気に入った?」
「ち、違うぞ!魔界へ帰った時の話の種に先ほどの味をよく味わってみたくなっただけじゃ。

ほれ、早くせい!」
(悪魔のくせに面倒くさい奴だな・・)
明日の昼食用にとっておいたアンパンの包みに手を伸ばす。
「うむ、やっぱり美味い・・・い、いや、まずいのう。
こんなまずいもの今まで食べたことがない。」
包みに入っていたアンパンを全て食べてしまった魔王は、おごそかな態度を取りつくろって言った。
「し、しかし、地上でもこのようなものがあったとは。
これは研究して魔界の地上侵略計画に役立てねばならぬな。
よし、決めた!しばらく人間界に滞在する。」
「ええ〜」
こうしておかしな同居人ができた。
「ア、アンパンが上手かったからとかそんな理由ではないぞ!」

 

 

 

「おい、アニス。」
「な、なんじゃ、無礼な!魔王様と呼べ。」
「働かずにいるただ飯喰らいに敬称を付けるほど俺はお人よしじゃない。
お前、この1カ月、喰っちゃ寝て、喰っちゃ寝て繰り返しじゃないか!」
俺が働いている間、こいつは人間界の調査と称して、近所のカフェ(ケーキバイキング1500円)やファミレス(食べ放題2000円)に行きまくっているのだ。
俺が家に帰ってくると、食べ過ぎたアニスが横になってTVを見ていることもしばしば。
「ふん、下等な人間には理解できぬのだ。魔族の長たるもの、自らが率先して人間界の食物を食し、研究しなければな。」得意そうな顔でほほ笑むニート魔王。
「その高貴なるご研究のおかげで我が家の家計がやばいんだけど。
このままだと、食費を削らなきゃいけないなあ。」俺はわざとおおげさにいった。
「しょ、食費を減らされるのは困る。そうじゃ、何かひとつ願いを叶えてやろう。」
「じゃあ、お腹見せてくれませんか、ま・お・う・さ・ま」
「!?ぜ、ぜ、ぜぇ〜たいダメじゃ!!絶対だめ!」
「どうしてですか〜?そう言えば、家に召喚された時に来ていた露出の高い服、
今は着てないですよね。なんで、今はゆったりしたワンピースなんか着てるのかな〜?」
「そ、それは・・・。」
「何か見せられない理由でもあるんですか〜?例えば、太った、とか。」

「ギクッ!」
「まさか、偉大なる魔界の王様が食べ過ぎでデブったとかないですよね。」
「そ、そこまでいうなら・・見せて・・やろう!ほれっ。」
めくったワンピースの下に現れたのは、褐色のアニスのお腹。
しかし、その形は1カ月前とはかなり変わっていた。
引きしまった腹筋はなく、かわりに、ぼてっとした贅肉が下着の上に乗っかっていたのだ。
はずかしがるアニスが身をよじるたびに、お肉が嬉しそうにぷよんぷよんと揺れる。

 

アニス

 

「やっぱりデブじゃないか!このニート魔王がぁー!」
「ち、ち、ち、違う!これは、わらわの魔力が脂肪の形で蓄えられうんたらかんたら・・」
角がとれたむちむち顔で必死に言い訳する彼女。
「とりあえず、運動して痩せるまで食事抜き!」
そういって俺はでっかくなったアニスの尻を叩き、家から追い出した。

 

「むむむ、下等な人間の癖につけあがりよって・・。
しかし、あやつ最近わらわに対する扱いがひどくないかのう・・・。」
追い出された後、アニスはとぼとぼと歩いていた。
自然と通いなれたレストランがある商店街へ足が向いてしまう。
「そこの美しいお客様、流行の服はいかがですか。」
商店街を歩いていると、アニスは服屋の店員に声をかけられた。
「わらわのことか?」
「そうです。いまだとショートパンツやTシャツが全品50%OFF。
本当にお美しいお客様にしかお勧めしておりません。」
「本当にお美しいとな!?わらわの美しさを理解しているとは人間の割には
なかなか見込みのあるやつだな。少し話を聞こう。」
「は、はぁ・・・(このデブ、自分の姿を鏡で見てから言えっての。
セールストークだってわかるだろ、普通)」
「何か言ったかの?」
「いえ、何も。こちらのズボンなどいかがですか?」
店員が示したのは、今のアニスの胴周りではあきらかに入らないと分かる品物。

勧められるままに試着すると、ホックが閉まらずお腹のお肉がはみでてしまう。
「う、うむ。しかし、わらわの体形では、少し、ほんのすこ〜しだけちっちゃくないかの?」
「そんなことはございません。大変よくお似合いだと思いますよ。
(ウソに決まってんだろ。こっちは早く売って今月のノルマを達成したいだけだっつの。)」
「そ、そうか?そこまで言うなら買ってやるか。あ、あとこのかわいいTシャツもな!」
いそいそと財布を取り出す。
「まいどありがとうございます!(あ〜あ、暑苦しい顔をあんなに嬉しそうにさせてなぁ。
角とかしっぽとかのアクセサリーも付けてるし。ま、とにかくこれでノルマ達成・・と)」
店員の心の声にも気付かずにご機嫌で店を後にしたアニスだった。

 

服屋で購入したTシャツとズボンに着替えた彼女。
しかし、だらけきった体のラインをごまかせるはずもなく、
通行人の注目を(悪い意味で)集めていた。
肉の塊がふたつついているようなバストはサイズオーバーのTシャツを押し上げ、
ブリッジをつくっている。
また、Tシャツに収納しきれなかった三段腹がズボンの上に乗っかっている。
少しでも腰を曲げれば破けそうなほどに引っ張られたズボンのお尻が、
体を揺すりながら歩くたびに左右にスイングする。
それらの肉の隙間に汗がたまるため、黒い汗しみがまだら模様をつくっている。
痩せていたころの怜悧なカリスマ性のかけらもみられないが、
本人は先ほどの店員のお世辞に満足しているのか(気持ちの上では)足取りは軽かった。

 

なじみのケーキ店の近くに来て、料理の香りにひくひくと鼻をひくつかせる。
ダイエットという5文字が脳裏に浮かんだが、前回来た時のクーポン券が
財布に残っているのを見つけてしまった。
今日が最後だと自分に言い聞かせ、のそのそと店に駆け込んだ。
店員の小動物を見るような視線にも気付かず、
いつものようにケーキ50個の詰め合わせを注文する。
それらを20分で食べ終わるころには、お腹は一回り大きくなっていた。
席を立とうと伸びをするアニス。
その瞬間、お腹の下からブチっという音がしてズボンのボタンが弾け飛んだ。
と同時に、お尻の下からビリッという音がして限界まで耐えていた生地が引き裂かれた。
しばらくは何が起きたか分からずに辺りをみまわしていた彼女だったが、事態をようやく飲み込むと顔を真っ赤にし涙を浮かべながら、観衆の失笑が聞こえるなかそそくさと店を後にした。

 

夜遅く、俺はアニスの帰りを待っていた。
(さっきは言いすぎたかな)
しょんぼりして出ていったアニスを見て俺は後悔した。
もともと興味本位であいつを地上に呼び出したのは俺なのだ。
帰ったら仲直りしようと、あいつの大好きなアンパン(100個)を買った。

 

ガチャリと扉が開く音がして、アニスが帰ってきた。
ぱつぱつのTシャツを着て破れたズボンを手で隠しながら、まるまるした頬に涙を浮かべている。
「の、のう。おぬしも笑っておるのだろうな。この、食欲に勝てず暴飲暴食を繰り返し、
オークのようになったみじめな魔族の王を・・・。」
「すまん。さっきは俺もいいすぎた。太ったままのお前でいいよ・・。」
「ほ、ホントか?わ、わらわは、もはや、人間の心の声さえ聞こえぬほど
魔力が弱まっておるのだぞ。」
「ああ、お前がただの人間になってもいい。」
「美人でなくなった私でもか?」
「ああ」
「性格も尊大で傲慢だぞ?」
「それでもかまわない。」
「おぬし・・・人間のくせにっ・・・」
柔らかなアニスの全身に抱きしめられながら、俺はこれでよかったんだよなとつぶやいた。

 

2カ月後
「ねえ、お昼まだ〜?」
「さっき朝食べたばかりだろ」
「え〜、お腹すいたよー」
「ごろごろ転がるな、家具が壊れるだろ。アンパンやるからおとなしくしてて。」
「わーい。」
俺はベッドの上にでんと座っているさらに肥大したアニスにアンパンを投げてやった。
アニスはおいしそうにアンパンをほうばった。
ここ数カ月で、彼女の魔力は消え失せ、完全にただの人間になった。
性格も素直でおとなしくなった。

 

一度だけ、魔界から彼女の部下が彼女を連れ戻しに来たが、変わり果てた彼女を見て失望して帰ってしまった。もっとも彼女はそんなことはどうでもよく、俺といるだけで幸せらしいのだが。
「ねえ、お腹すいたー。」
そういってアニスは豊満な肉体を擦りよせてくる。
やっかいな同居人ができたもんだ。

 

おわり


トップページ 肥満化SS Gallery(個別なし) Gallery(個別あり) Database