334氏その4
私達がいる世界とは次元が異なるパラレルワールドがいくつか存在する。
今回、お話する世界もその中のひとつ。
中世ヨーロッパのような文明に、剣と魔法とモンスターが混在する世界。
その世界の中の国のひとつにマーロ王国という国があった。
キリスト教のような一神教の司祭が治めており、経済的にも文化的にも発展している。
マーロ王国には十字騎士団という組織が存在する。
「汝、暴食するなかれ」「汝、姦淫するなかれ」「汝、怠惰になるなかれ」の教えの元、
国内の治安維持を担っている戦闘集団だ。
十字騎士団にはマリアという若い兵士が所属している。
ショートカットにした赤い髪に端正な顔立ち。
剣の技能は卓越しており、若干20歳ながら騎士団内でも5本の指に入る実力者だ。
ある日、彼女は司祭に呼び出された。
白い髭を蓄えた老司祭はマリアに言った。
「北の洞窟に巣食った悪魔どもを退治してきてほしい。」
「承知いたしました。」
忠実なマリアは二つ返事で答えた。
田舎道を歩いて数時間、マリアは北の洞窟の入り口にたどり着いた。
暗い穴の中からピリピリと強い魔力を感じた。
(どうやら敵は手ごわそうだな)
気配を押し殺しながら様子を窺っていた。
しばらく様子を見ていると、洞窟から2つの影が現れた。
人型の体に角としっぽが生えている。
魔力の量から考えて下級悪魔だろう。
「リリス様にも困ったもんだナ。前回いた世界を放り出して新しい世界にくるとハ。」
「コーリやカハシ、ナスハといった新入りの実践訓練だとサ。」
「あいつらはリリス様のお気に入りだからナ。仕方ねえヨ。」
おしゃべりをしながらこちらに近づいてくる3匹との間合いをはかり、
すきをついて切りかかった。
数秒の間に、悪魔たちの胴体が2つに割れた。
悪魔たちの死骸を一瞥した後、マリアは暗い洞窟の中に入って行った。
松明をともしながら洞窟を進んでいくと、ひらけた空間にでた。
壁には人形がたくさんかかっている。
「気味の悪いところですね。」
マリアがつぶやくと闇の中から声が聞こえてきた。
「私のコレクションたちを気味が悪いだなんテ、失礼ネ。」
とっさにマリアは剣を構え、闇に問いかける。
「あなたは悪魔ですね?」
「そうヨ。小尾…じゃなかった、コーリという名前ヨ。」
奥から大きな気配が近づいてきた。
ズシズシズシ・・・
「ん、何か足音が変じゃないですか?」
そういって松明を掲げたマリア。
目の前には、北欧風のドレスを着たブクブクに太った女の子がいた。
「ぷっ、なんですかその格好?」
ドレスをぱつぱつにするほどたるんだ腹。ぶよぶよとした二重あご。脂ぎった髪。
冷静な口調とはほど遠いその姿にマリアンヌは失笑してしまった。
「し、失礼ネ!私も好きでこんな姿になったんじゃないワ!」
顔を真っ赤にして反論するコーリ。
その様子を醒めた目で見つめるマリア。
剣をコーリに突きつける。
「何か事情がありそうですが、私には関係のないことです。
おとなしく切られなさい。脂がついて剣が駄目になりそうですが。」
マリアンヌのその言葉を聞いたアリスは、一転冷徹な笑みを浮かべた。
「あラ、実力差が分かっていないようネ。
リリス様からいただいた力のお披露目ヨ。」
コーリの体から魔力がほとばしった。
「エクスチェンジ!」
次の瞬間、彼女の手にはドレスを着た太めの人形と鎧を着た細めの人形が握られていた。
「ふフ、楽しいショーの始まりヨ♪」
そういうと、コーリは太めの人形の腹を裂いて中の綿を取り出し、
細めの人形の腹の中に押し込んだ。
次の瞬間、ぷよん、とマリアの腹が一回り大きくなた。
「な、なにごとです!?」
「あはハ、「エクスチェンジ」という呪術を使ったワ。
この呪術は人形を依り代とすることで対象者の脂肪を入れ替える呪い。
つ・ま・リ、あなたにはこれから私の脂肪をぜーんぶ受け止めるノ♪」
コーリの無情な笑みにマリアは驚愕する。
軽く見積もっても、アリスの体重は100kgを超えているではないか。
それが全部自分にくるとなると…。
「やめてください!」
「もう遅いワ。さてト、どこを太らせてあげましょうカ?
お腹?お尻?それともその貧相な胸かしラ?」
コーリが人形の綿を移し替えていくと彼女は痩せていき、反対にマリアの体は肥満していった。
引き締まっていたウエストには見る見るうちに肉がついていく。
みっしりと筋肉がついていたヒップは、うっすらと脂肪がついたかと思うと、
ぶくぶくと膨らんで肉が垂れ下がり。
部隊内では貧乳で有名だった胸はスイカほどに膨らんで。
数分後、やっと肥満化が終わった。
「あ、ぃやあ…」
マリアは変わり果てた体を見渡して絶望の声を上げた。
戦士のたしなみとして体形維持に気を使っていた彼女にとって
その変化はかなりのショックであった。
目を上げると、すっかり痩せたコーリの姿が目に入った。
「あはハ、どっちがデブかしらネ。」
そう言い残すと、コーリの姿は闇に溶けて、消えた。
マリアはさらに下層をめざす。
その足取りはあまりにも重く、満足に走ることさえできなかった。
しかし、彼女の目は国への使命感で燃えていた。
「この身がどうなろうとも、この洞窟に巣くった悪魔だけは滅ぼしてやる!」
長い階段を下りると、祭壇のようなところに出た。
石造りで作られた壁がたいまつでちろちろと照らされている。
「「まってたワ。」」
声が聞こえたほうを振り返ると、そこには二つの肉塊がうごめいていた。
「「に、肉塊じゃなイ!」」
マリアの心を読んだのか、肉塊…いや悪魔達は声をそろえて喋った。
片方の悪魔は金髪、もう一方の悪魔は後ろに束ねた黒髪だ。
どちらもヒトの形を保っていないほど肥満している。
「私の名前はカハシ、肉欲を司る悪魔。」金髪が喋った。
「私の名前はナスハ、食欲を司る悪魔。」黒髪が喋った。
「「二人合わせて堕落ガールズ!」」
「なんです?こいつら…」
マリアは呆れた様子で、二匹を見ていた。
「とりあえず、切り倒しますか…」
マリアは剣の柄に手をかける。
「おおっト、そうはいかないゾ。」
ナスハが羽を生やし、こちらへ飛んできた。
巨体とは思えないほどの超スピードだ。
(は、早い!)
あっという間にマリアはナスハの肉の下敷きになってしまった。
「あ〜ン、私も〜♪」
カハシも歩み寄ってきた。
「じゃア、二人でしようカ♪」
ナスハはそう言うと、マリアを起こし、カハシと一緒に彼女を挟み込んだ。
ちょうど、マリアがナスハとカハシにおしくらまんじゅうされたようになった。
「う、ぶ、なに…を?」
マリアを暑苦しさにうめき声をあげた。
「ちょっト…ね♪」
二匹の悪魔がほほ笑むと、悪魔達の肉がまるでラードのようにうごめいて、
マリアを包み込んでいった。
「う、むぐっ…」
全身がスライムのようなピンク色の肉に包まれたかと思うと、
それらがマリアの体に吸収されていく。
鼻から、耳から、全身の穴という穴から吸収されていく。
と、同時に彼女の体がブクブクと膨らんでいった。
数分後。
そこには悪魔達の肉を全て受けてしまった変わり果てた姿のマリアがいた。
団子のようなシルエットで、どこが顔かすら分からない状態だ。
それをすっかり痩せた悪魔達が笑って見てましたとさ。
おしまい