334氏その9

334氏その9

 

 

ここは魔界の魔王城。
その最上階にある魔王の間で、魔王リリスは玉座に座って、
いらただしげに手すりをコツコツと叩いていた。
真っ黒なメイド服を着た侍従悪魔が傍に近づき、問いかけた。
「どうしたのでございますか? リリス様」
「どうしたもこうしたもなイ。お前は気に障らんのか、明日に控えた忌まわしき祝祭を!」
「祝祭? ……ああ、クリスマスのことですね。
確かに我々悪魔にとってキリスト教関連のお祭りは好ましくはないものですが……」
侍従悪魔が顎に手をあてていると、リリスは彼女を睨んだ。
「お前は何も分かってはいなイ。問題は……最も大きな問題は……
クリスマスが幸せな人間達のカップルであふれるということダ!」
「へ!?」
「あいつら、楽しそうにしテ……私は暗い魔王城で仕事だというのニ……許せン」
「(それは個人的な嫉妬というものでは……)」
「ということでクリスマスをぶち壊しにすることを決めタ!」
リリスは玉座から立ちあがった。

「ぶち壊す……とは、どうするのでございますか?」
「うム、それはだナ……」
彼女は侍従悪魔に耳打ちをした。
「ほう、それは面白そうな作戦ですね」
「だロ? それではあいつを呼んでくるのダ。クリスマスの夜にプレゼントを配るあの小娘――
サンタクロースをナ」
「承知しました」
リリスから指示を受けると、侍従悪魔は部屋を出ていった。

 

数十分後――
「おー、ここが魔王の部屋かー。大きくてでっかいなー」
陽気な声が陰気な魔王の間に響き渡っていた。
声の主は赤い服を着た小柄な少女――サンタクロースである。
彼女は侍従悪魔が止めるのも気にせずに、部屋の調度品等を好き勝手に触っている。
リリスは少し眉をしかめて大仰に咳をした。
「こほン。よく来てくれたサンタクロースヨ。私が魔界の王リリスダ」
仁王立ちのリリスにサンタクロースが走り寄った。
「おお、本当の魔王だ。こんちは、サンタクロースでーす」
「なんかヤケにテンションが高いやつだナ…」
「それで今日は何用だい? 私はこれからプレゼントを配る準備をしなくちゃならないから
忙しいんだ」
「今日は私からお前にささやかなプレゼントをしたくてナ。後ろを振り返るがいイ」
サンタクロースが振り返ると、そこには人一人がちょうど入れるくらいの大きさの
ガラス張りシリンダーが置かれていた。
「うへー、なんだこれ?」

「これは、肥満k……ではなく、体力を増強させる装置ダ。
これから世界中を回らないければならないお前とって役に立つだロ?」
「確かに毎年、一晩で世界中の家にプレゼントしなくちゃいけないのはきついんだよね。
でも、悪魔からのプレゼントなんてあやしいなー」
「ぜ、全然あやしくないゾ。そうだ、装置を試してみないカ? 時間はあまりないんだロ?」
「そうだね、じゃあ体力をつけさせてもらおうか」
「(単純な奴で助かった……)」
リリスに勧められるまま、サンタクロースはシリンダーの中に入っていった。

 

「それでは始めるゾ……ふふフ」
リリスが装置に取り付けられたダイヤルを少し回すと、シリンダー内が赤く光り、
サンタクロースの体が輝きだした。
「すごい、すごい! 体の内側から力があふれてくる」
「喜んでもらえて良かっタ……本番はこれからだがナ」
リリスはさらにダイヤルを回す。
次の瞬間、サンタクロースの体が縦に縮み始めた。
と、同時にウエストを中心に体全体が横に膨らんでいった。
「きゃ、わ、私のお腹が!? どうなっているのこれ!?」
せりだしていく腹の脂肪をつまんで顔を歪めるサンタクロース。
そんな彼女をリリスはシリンダーの外からS気たっぷりの笑顔で眺めていた。
「ははハ、まんまと騙されやがっテ。この装置はお前をデブにするための装置なんだヨ。
立派な古典的サンタ体形にしてやるからナ!」
「嫌だ、デブになんてなりたくない! 出して! ここから出して!!」
丸くなっていく頬に涙を溜めてガラスを叩き続けるサンタクローズだが、
その間にも彼女の体は変化を続ける。

 

すらりと長かった足は10センチは短くなってしまった一方で
太さは以前の1.5倍にも肥大していた。
そのため、スカートがぴちぴちに張りつめてしまい、
外から大根のような足の輪郭が露わになっている。
さらに、腰周りにたっぷりと脂肪がついていったため、まるで浮き輪をはめたような
2段腹ができあがってしまい、それがスカートのベルトを覆い隠してしまっている。
ふくよかながらハリを保っていた胸は、余分な脂肪がついてしまったためだらしなく垂れ下がり。
首は二重アゴにとって代わられ、完全に無くなってしまった。

 

サンタクロース

 

「ふム、もういいだロ」
リリスが青いボタンを押すとシリンダーのガラスが床に沈み込むと、
変わり果てた姿になったサンタクロースがよろけて尻もちをついた。
「なかなか素敵な体になったじゃないカ?」
「ぜ、絶対に……許さない、から……ね」
少し低くなった声で半泣きになりながらリリスを睨みつけるサンタクロース。
「今の丸い体形では迫力ゼロだナ。むしろ可愛らしいゾ♪」
「うるさい!」
突き出たお腹を弄ぼうとするリリスの手を払いのけ、サンタクロースは口笛を鳴らした。
途端に、彼女の目の前にソリを引いているトナカイが現れた。
「復讐したいのはやまやまだけど、クリスマスのプレゼントを届ける方が大事だから
今日はおあずけだ。次会った時は覚悟しておけ!」
颯爽とソリに乗り込むサンタクロース――のはずだったが、
足が短くなったせいでソリの縁まで足が届かなかった。
おまけに大きくなったお腹が邪魔して、動きが鈍い。
「んっ! んっ! くそっ、太ったせいで……」

「くくク、仕方ないデブサンタだな」
四苦八苦しているサンタクロースの背中をリリスが苦笑しながら押した。
ころん、とサンタクロースがソリの中に転がり込んだ。
「う、ぐ、ぐすん……覚えてろーっ」
そう言い放ってトナカイのたずなを引いて飛び立つサンタクロース――のはずだったが、
彼女が激太りしたせいでソリは飛び立てない。トナカイが顔を真っ赤にして頑張ってはいるのだが。
「そ、そんな……私、そんなに重い、の……?」
「まア……少なく見積もっても30kgは増えてるだろうからナ」
「うわぁーん!!」
リリスの冷静な突っ込みに耐え切れず、サンタクロースはソリから転げ落ち、
そのまま弾むようにして魔王の間から出ていった。

 

次の日――クリスマス。
「あの……リリス様? 
昨晩、サンタクロースは結局プレゼントを配ることができたみたいですけど」
侍従悪魔が玉座で水晶玉を見つめて笑みを浮かべていたリリスに話しかけた。
「改造して馬力を増したソリで、だロ。この水晶玉で見ていたから知っていタ」
「では、リリス様が提案した作戦は失敗ですね。
サンタクロースを太らせ、プレゼントを配れないようにするつもりだったのでしょう?」
「確かにその作戦は失敗したが――クリスマスを台無しにすることには成功したゾ」
そう言って、リリスは侍従悪魔に水晶玉を見せた。
そこには大パニックに陥った人間界の様子が映し出されていた。
世界中で、雪だるまのように太った女性が男性を追いかけまわしていたのだ。
「これは!?」
「ふふフ、実はナ、昨晩サンタクロースを太らせた時に彼女の体に魔界産肥満化ウィルスを
仕込んでおいたのダ。このウィルスは人間の女性だけに感染し、感染した者を瞬時に太らせる。
サンタクロースが昨晩世界中を飛び回った時に、このウィルスが人間界中にバラまかれたと
いうわけサ」

「うわぁ……えげつないですね」
「さらにこのウィルスの素晴らしいところは性欲をも高めるというところダ。
肥満した女達はそこらへんの男を見境なく襲う。
くくク、人間達ヨ、たっぷりとクリスマスを楽しむがいイ」
「これが本当のサンタ苦労す、苦しみます……ですか?」
侍従悪魔のダジャレは魔王城の石造りの壁にむなしく消えていった。


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