逆転

逆転

 

 

***

 

「おはよー!お、今日もデブが来てるね」
「…あ、あの…」
「ん〜?なに?聞こえない」
「…デブって言うのは、やめて…」
「あっははは!デブはデブじゃん!別に、あんたをどう呼んだって私の勝手だし!」
「…やめて…うう…」

 

***

 

「ねえ、あんたってさ、体重何キロくらいあんの?」
「……」
「え?100キロ?100キロ超えてんの?」
「…ちがう…そんな事…」
「だってこのお腹とかすごいじゃん!絶対100キロいってるって!」
「や、やめて…お腹触らないで…」
「良いじゃん、減るもんじゃないし。まあ、減った方が嬉しいんだろうけどさ、あはは!」
「……。」

 

***

 

「やっぱさ、デブっていっぱい物食うの?」
「……。」
「あんたお菓子とかいっぱい食べそうだよね」
「…そんなことないよ…」
「ウソ。だって山盛り食わなきゃそんなお腹にはならないよ」
「……。」
「妊婦もびっくりの巨大腹じゃん」
「…やめて…やめてよ…」

 

***

 

やめてよ…
やめろよ…
やめろ…

 

***

 

「――…っていう事も、あったわよねー…」
「そ、そうだっけ…?」
今、私の前にいるのは私のクラスメイト。
初めて会った時は、クラスで一番の大デブ女子だった女の子。
「ねえ…どんな気持ち?」
「…え?」
そう言って、今はクラス一番の美少女とも噂されるスタイル抜群の女の子は、
黒い髪をかき上げながら私のお腹をゆっくり撫でた。
「今度は自分がブクブクのデブになって、ねえ、今…どんな気持ち?」
「ひゅあ!?」
思わず変な声が出る。大きく丸く突き出た自分のお腹を、庇うように身をよじる。

 

立場逆転(無名氏SS・逆転)

 

「や、やめて…」
「え、どうして…?減るものじゃないから良い、って…以前、あなたが言ったのよ?」
目の前の女の子は、凍えるような冷たい目を細めてクスクスと笑う。
「そ、それは…」
「散々馬鹿にしてくれたじゃない…太っていた私を…。やめてって、言ったのに…」
もう一度、お腹の、今度は鳩尾(みぞおち)の下の辺りをくすぐる様に撫でられる。
「ひゅっ!?や、やめて…」
「やめない。何のために、誰もいない裏庭に連れてきたと思ってるの…?」
逃げたって逃げられない。私が全力で走ったって、追いつかれて終わりだ。
助けなんて呼んでも意味が無い。放課後の学校の裏庭には、私達2人以外、誰もいない。
「ねえ、どう…?ブクブクに太っちゃって…かっこ悪いわね…。ふふふ…」
この1ヶ月で、私は100キロ以上の激太りをした。
…原因は分からない。ただ、丸くずっしりと突き出たお腹は、
そして倍以上の太さに膨らんだ腕や脚は、紛れもなく私の身体だった。
「……。」
「普通は…。ううん。絶対あり得ないよね…1ヶ月で、人間が、こんなに勢いよく太っちゃうなんて…」

「…え?」
どういうこと?
「うふふ…?貴女のその身体、私がやったの。」
「!!?」
目の前の綺麗な顔が、私を見つめる二つの瞳が、冷たく歪む。
「なんで!?どうして!?」
「…しかえしに。ね?」
「な…でも、どうやって!?」
「こうやって。」
そう言うと、目の前のクラスメイトは歌うように、叫ぶように、声を上げた。
「C*/3l**エJzz**;/.10k!*!〜!!」
何語かは分からない。言葉とも金切声とも思える叫び声。
その声に呼応するように、私の身体が膨らみ始める。
「ひ、ひぃ!?」
太ももがむちむちと太くなり、お腹が風船に空気を入れるようにさらに膨らむ。
二の腕はまた一回り太くなる、頬のむくみが大きくなってゆく。

「%$**):@~k〜……。…貴女にしかえしするために覚えた呪いの歌。
 これ、体力をとても使うから、私は痩せる一方だったよ。」
彼女は、地面に四つん這いになってぜえぜえと息を乱す私を、
可哀想な物を見るような目で見下ろして。
「この歌、制御が難しいの…明日から、学校、休まないでね?
 どれくらい太らせたか分からないと、加減を間違えて爆発させちゃうかも?」
私にとって絶望でしかない一言を呟きながら、クラス一番の美人が笑った。
「ふふふふ…?ねえ?安心して?貴女がどんなにブクブクに太っても、私は友達でいてあげる…」
「あ…あ…」
クラス一番の美人は膝をついて、私の両頬にそっと手をあてた。
「でも、私は貴女をユルサナイ。貴女が、200キロ、300キロ…どんなに、もがき続けても…
 この“歌”で苦しめてあげる…」
「や、やめて…」
私の、ふりしぼるような声を聞いて、彼女は――
「やだ。」
クスクスと笑った。

 

***

 

今日も、私はクラスの笑いもの。
300キロに届きそうな体を揺すって。
私は今日も、皆の笑いもの。
クラスで一番可愛いあの子が、今日も声をかけてくる
「おはよう。今日もデブが学校に来ているわね」
凍り付くような、穏やかな笑顔で。

 

―終―
#立場逆転


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