肥に至る病 悲劇のダヌバー医師

肥に至る病 悲劇のダヌバー医師

 

 

「激しく痩せた後、緩やかに太っていく」
ヨーロッパの地でそんな奇妙な病気がじわじわと広まりつつあった。
多くの医学者がその研究に取り組んでおり、彼女もその一人だった。

 

ソフィー・ダヌバー(sophie・dnuober)
華やかな顔立ちにほっそりとした肢体をした美女であるが、
その実、高い技術と熱い使命感を併せ持つ優秀な女医である。

 

彼女は、寝食を、もとい食を惜しんでまで、今回の研究に取り組んでいた。
「ダヌーバー先生、一旦切り上げて昼食にしませんか」
「ありがとう、でも私はもう少し続けるから、あなたは休みなさい」
「先生が倒れては元も子もありませんよ」
「大丈夫、睡眠と休息は一応とっているわ」
(食事はあまり取ってないけど・・・太る病気を研究しているからどうしても食欲が沸かないのよ・・・)

 

ソフィーは、その調子で殆ど食事をとること無く、
研究を続け、病気の感染経路を判明させた。

 

そして今、病院の講堂でその発表が行われようとしていた。
医者、記者、そして患者の関係者。
全国から駆けつけた無数の来客の視線を一身に受けるソフィーだが、
その肢体はかなり痩せこけていた。
今にも倒れてしまいそうなか細さだが、
それでも彼女の瞳には強い意思が宿っていた。

 

 

「この病院の職員一同の大いなる助力のお陰で、『緩・肥満化症』(仮)の感染経路を発見する事ができました。急激な体重減少の後の緩やかな体重の増加というこれまでに例を見ないこの病ですが 」
ソフィーが病気の感染経路への説明を行おうとした正にその時、
その病の症状が彼女を襲った。

 

ソフィーの体が空気を入れた風船の様に、ゆっくりと膨れ上がっていく、
見ていた人たちも元が細すぎたので最初は気づかずにいたが、標準体型を過ぎた頃には流石に気づきだした。
ソフィーも自身の変化に気づき・・・自分が研究し、発表しようとしていた病気に感染したことに気づき、言葉が止まってしまう。
その頃には、ソフィーのシルエットも丸いものに変わりつつあり、そして――
ブチッ・・・ビリビリィ! 
白衣のボタンが弾け、柔らかい腹肉がちらりと見えた、かと思いきやその腹肉が肥大化したかの様に全身の膨れる速度が急加速し、白衣を完全に引き裂いてしまった。
酒樽の様に真ん丸とした肥満体に成り果てたソフィーは意識を失い倒れ込んだ。
その際の地響きの様な衝撃音は、却ってその場を静寂に支配させたのであった・・・

 

 

 

 

こうして、ソフィー・ダヌバー医師は病の症状を、身を持って知らしめた。
痩せぎすの美女だったダヌバー医師を正反対の肥満体にしたことから、
『緩・肥満化症』(仮)は「ダヌバー」のスペルを反対にした「リバウンド病」と正式に命名され、
ソフィーを襲ったその症状は(ソフィー自身の同意を得た上で)大々的に報道された。

 

・・・しかしその悲劇のインパクトが大きすぎて、日を改めてソフィーが発表したリバウンド病の感染経路が一般に広がることは無く、病院側は「ダイエットによる免疫の強化」を一般に呼びかけ、ダイエットの手法の研究に力を注ぎ、リバウンド病のそれ以上の研究はおなざりにされてしまった。
そして、世間もソフィーの悲劇を目の当たりにしたことから、熱心にダイエットに取り組んで行き(特に女性)その結果は顕著になりつつあった―――

 

 

―――今はまだ神のみぞ知るリバウンド病の正確な症状、それを簡潔に言えば
「感染者の体重の減少を引き金とし、その減少分以上に体重を増加させる」というものである。
ソフィー以前の感染者は、別の病気やストレス等による体重の減少が引き金となり、
ソフィーは研究への没頭と食欲の衰退による体重の減少が引き金となった。
(肥満化の程度が激しかったのは研究を通じて、大量のウイルスに感染してしまったから)
また、この病気の女性に対する感染力はかなり高い。
「とある処置」をすれば確実に発症を防げるが、逆にその「とある処置」をしなければほぼ確実に発症する。
だがその「とある処置」は未だ発見されていない。
そして人々はダイエットに熱中している。
その状況が生む結果は―――――


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