報と盲 下る報いと見えてなかったもの

報と盲 下る報いと見えてなかったもの

 

 

とある高校の教室にて、数人の生徒を周りに引き連れた細身の女子生徒が
太目の女子生徒を足蹴にしていた。
「ふん、このデブスが!ただでさえデカイ体してるんだから、態度ぐらい小さくなさい!」
「・・・ご、ごめんなさい」

 

太目の女子生徒は暮日智穂子(くびれ ちほこ)。
柳世に陰湿な言葉を言う細身の女子は、大湖原満日(たいこはら みちか)。
彼女の体はただ細いだけでない。
純白の肌にすらりとした手足。
胸やお尻は形良く突き出ていて、腰周りは綺麗にくびれている。
そして、端正な顔。
更に勉強、スポーツ共に優秀な才色兼美の美少女だ。
だが、性格はとても悪く、智穂子の様な太めの女子をいじめている。
この事を一番快く思ってないものは、他でもない満日の父、新太朗(しんたろう)だった。

 

今日も自宅で新太郎が満日をその事で叱っていた。
「どうして、暮日さん達をいじめるんだ!?」
「・・・あんな何の努力もしてないような奴ら、何の価値も無いわ!」
「彼女をいじめるお前こそ、何の価値も無い!!」
「!?」
新太郎の一喝に満日は一瞬動揺を見せるが、何事もなかったかの様に表情を戻し、
何も言わないまま、外へ出た。
「どうして分かってくれないんだ・・・」

 

だが、満日の内心では強い苛立ちが渦巻いていた。
(どうして、お父さんは分かってくれないの?
 あんな奴らよりずっと・・・私は・・・私は・・・!)
満日が視線を上げると、
お婆さんが道路をゆっくりと横断しているのが見えた。
信号が変わり、車が来た。
お婆さんはまだ道路を歩いていた。
「!!」 
次の瞬間、車は跳ね飛ばしてしまった。――お婆さんを助けた満日を
地面に叩きつけられた満日は、お婆さんの無事と、自分の全身に走る激痛を認識し、気絶した。

 

 

満日は虚ろな意識の中、声を聞いた。
父、新太郎と朱色の髪をした、見知らぬ女の人の声だ。
「・・・お願いします、リーファさん・・・」
「・・・いえ、今の私は‘朱の女‘です」
それだけ聞いてから、満日は痛みに耐えきれず意識を失った。

 

 

次に目覚めた時、満日は病院のベッドの上にいた。
「あれ・・・痛くない?」
あの激痛は、きれいさっぱり消え失せていた。
その代わりに、体全体が重く、ダルイ。
まるで自分にかかる重力が倍になったかの様だ。

 

満日が立ち上がる。体にかかる重力がより増した。
そこから動く度に、体に違和感が走る。
満日は、そんな感覚に耐えながら、病室の隅に向かい、
置かれていた鏡を見る、そこに映っていたのは――
「・・・!?」
肥満体に変貌した自分の姿であった。
その横幅は、以前の倍近くあり、
重力ではなく、体重が倍になったのだと、満日は即座に気付いた。

 

肌の白さやきめ細かさはそのままだが、今の体型ではまさに「豚に」真珠であった。
頬は真ん丸く膨らみ、目は元の形を保っていたが、
鼻は頬肉のせいで低くなってしまい、豚の鼻の様だと、満日は思った。
細かった顎周りにも容赦なく肉が付き、首を飲み込み、分厚い二重顎を作っていた。
指の先までぶくぶくと太くなった腕に、脚と脚の隙間など無い丸太の様な脚。
胸やお尻もとても大きくなり、やや垂れ気味になっていた。
そして、お腹はメートル越しのサイズをもって突き出ていて、
病院着の上からでも、三段腹になってるのが分かる。

 

大湖原満日 164cm 46kg 83・57・78
→98kg 98・111・96

 

呆然としたままの満日の頭に、ある可能性が浮かんだ
肥化治療。重傷の怪我であってもただちに回復させるが、
その代償として肥満化してしまうという治療法。

 

でも、どうして自分に・・・
こんな体になるぐらいだったら、痛みに耐えてでも自力でリハビリを・・・

 

そう考えている内に病室に、見知った顔が入って来た。
クラスメートたち、その先頭にいるのは智穂子だった。
(・・・!!)
気まずそうに顔を見合わせる満日とクラスメート達。
その空気の中、智穂子が口を開いた。
「大湖原さん、大丈夫?」
「「「!?」」」
「暮日・・・さん・・・・?」
「何て言ったらいいか分からないけど・・・大湖原さんなら元の体型に戻れるって、私、
 信じてます」

 

その言葉を聞くなり、
クラスメート達は智穂子を病室の外に連れ出し、問い詰めだした。
その声は、病室の中の満日にも聞こえてた。
「ど、どうして大湖原さんに優しくできるのさ!?」
「言いなりになっていた私達が言えたことじゃないけど、あんなにいじめられてたのに・・・」
「確かにあれは辛かったけど・・・それ以上に大湖原さんが辛そうに見えたの」
「え?」
「それに大湖原さんは勉強も部活も、それに生徒会の活動も頑張ってた。
 でも、みんなは大湖原さんを褒めなかった。
 そっちの方がひどいと思ったの・・・」
「「「!?」」」
クラスメート達は、絶句した。
思い返してみれば、満日がいじめを始める前から、
彼女を褒めたりした覚えは殆ど無かった。
彼女が自分達を手伝ってくれた時にも、お礼を言ったことも無かった。
・・・あまりに頑張る満日を疎ましく、或いは妬んでいたのだ。

そして、褒めなくなってしばらくしてから、満日は智穂子たちへのいじめを始めた。
「私も一応褒めてはみたけど・・・意味は無かった。
 やっぱり頑張ってないから説得力が無かったのかな・・

 

その言葉を聞いた満日は涙を流していた。
(見ててくれた・・・暮日さん、私の事見ててくれたんだ・・・それなのに、私は気づかずに・・・
 ごめんなさい!ごめんなさい・・・
(・・・これからは皆のペースに合わせないといけないなぁ、
 皆のやる気を引き立てる様に、頑張りたい。
 もっとも、この体じゃあ、みんなと合わせるのも、やっとだろうけど・・・
 まずは、暮日さんに言わなきゃいけない。
 ごめんなさいを・・・それから)

 

「ありがとう」

 

 

 

また、新太郎も智穂子の言葉を聞き、自分の過ちに気付き、涙を流していた。
(すまかった、暮日さん!私が間違っていた!!
 満日がとても頑張っていたことは知っていた。だが、周囲から孤立することを恐れた私は
 満日の頑張りを否定してしまった。いじめを始めたことを知り、更に強く否定した。
 だが、それが間違っていたんだ!!私が認めるべきだったんだ・・・)
(落ち着いたら、満日と話をしよう。まず、私の方から謝って、
 そこから何が間違っていたのか、これからどうすべきかを話しあおう・・・
 いや、最初に言うべきことは・・・)

 

「よく頑張ったな、満日」

 

 

 

満日を肥らせ、美しさを奪った朱の女――、
正確に言えば、重傷を負った満日に、肥化治療を施し、
肥満化と引き換えに回復させた女、リーファ・フェフは、
満日と新太郎の涙を見て、その一言を聞いて、満足げに病院を去っていった。
その後ろに、友人であるライディ・マウナスも付いてきた。

 

「ダイエットインストラクラーの営業をしなくていいの、リーファちゃん?」
「肥化治療の後に、ダイエットインストラクターとして接触するのは、
 精神的影響を見て、可能な限り和らげることが主な目的だから・・・
 大湖原さんにそれは必要無いと思うんだ。
 辛い目に会っても、彼女のことを思いやる友達がいるし、
 お父さんもこれからはちゃんと娘の頑張りを見てくれると思うからね」
リーファは足早に帰っていったが、ライディは立ち止った。

 

 

(楽観的・・・とは言わない。リーファちゃんの見立ては正しいと思う。
 だからこそ、それにつけこむ奴らが出てくる・・・)
ライディが路地裏に入り、携帯を取り出す。
「・・・はい、外田さん、『私』は準備万端です。それじゃあ始めましょうか」
ライディは、その怒りを吐き出すかの様に、一度強く唇を噛みしめた後、
満面の作り笑いを浮かべた。
「醜い肥化治療を行う奴らの・・・粛清をね♪」

 

 

おわり
そして、過去作「偽と正」に続く・・・


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