劉備、救う為に薬を飲むの事

劉備、救う為に薬を飲むの事

 

 

黄巾の乱が終結してから、しばらく経ったその日。
桃華村の外れで、劉備と華佗がばったりと再会した。

 

「久しぶりですな、劉備どの」
「お久しぶりです、華佗さん。ところで、その瓶に入ってる物は一体何ですか?」
華佗は、異様な色をした液体の詰まった水瓶を背負っていた。
「この薬を飲んだ者は無双の剛力を得られるが、一度飲むたびに重い代償を負うことになる。
あの太平要術の書には及ばないとは言え、十分危険な代物だ」

 

 

そう話していた2人の耳に、轟音が聞こえてきた。
「この音・・・何か爆発したのか?」
「あっ!あっちの方には、孔明ちゃんや子供達が・・洞窟の中に薬草を取りに行って・・・」
「何!?助けに行か・・・」
2人が向いた方には、十数人の兵士が立っていた。
彼らは土色の肌を、いや土そのものの肌をしていて、
その目には生気とは全く別の、暗い輝きがあった。

 

「劉備殿、下がっていて下さい」
「は、はい!」
華佗は水瓶を下ろし、兵士達の方に向かっていった。
兵士は腰に下げた剣を、抜かずに華佗に殴りかかって来た。
(剣を使わないのか?)
疑問を覚えながらも華佗は、兵士の拳撃をかいくぐる。
そこから、拳で一人の兵士の腹を打ち据え、その兵士は倒れた。

 

だが、動揺したのは仲間を倒された兵士達ではなく、倒した華佗だった。
(この手応え・・・人では無い!?)
その疑問に答えるかの様に、倒れた兵士は砂になって、崩れ去っていった。

 

そして、その様に気を取られた隙に、他の兵士達が華佗を殴りつけた。
「ぐっ!がっ!」
華佗は兵士達の攻撃に晒される。
急所への直撃はかろうじて避けていたが、見る見る内に傷が付けられていく。

 

 

「あわわ・・!・・・」
劉備は何も出来ずに震えていたが、やがて華佗が置いていった水瓶を見据えた。

 

「り、劉備どの・・それを飲んではいけ、ぐがっ!」
華佗は止めようとするが、その間にも兵士に殴られる。
そして、その姿が劉備の決意を固めた。

 

劉備は水瓶に口を付け、中身を少し飲んだ。
そこから殴りかかった。

 

「と・・・とりゃ―!」
その一撃に込められた力と振り抜かれる速さは、
関羽や張飛達に匹敵する程だった。
華佗への攻撃に集中していた兵士達は、
その一撃になぎ倒され、砂になっていった。

 

「これが薬の力・・・しかし、代償が・・・」
その代償は、すぐに明らかになった。
「ひ、ひやぁぁ!!」
劉備の体が瞬く間に膨れ上がった。数字にして、20kg程の増量だった。
顔は余り変わらなかったが、服は今にもはち切れてしまいそうになっている。
元から大きかった胸は頭よりも大きくなって、ここだけは服が破れてしまって
深い谷間が見えてしまってる。
たるみ気味だったお腹も、胸に次いで大きく突き出ていた。

 

「これが重い代償・・・劉備殿、俺を助ける為に・・かたじけない!」
「華佗さん、まずはみんなを助けましょう!」
「ああ、そうだったな!」

 

二人が駆け付けた洞窟の入り口は、落ちてきた岩に塞がれていた。
その直径は10数メートルに及び、重さはどれ程になろうか――
僅かに隙間があるが、どうあがいても人は通れそうにない。
ただ、声だけが聞こえてきた。

 

「・・・誰か!誰か聞いてますか!?」
「孔明ちゃん!」
「孔明殿!大丈夫か?」
「私は大丈夫です・・・でも・・・」

 

孔明は黙り、その代わりにか弱いうめき声が聞こえてきた。

 

「誰か怪我をしてるのか!?様子はどうなんだ!」
「なるべく早く手当をしないと・・・
「だったら、この岩を・・・」
劉備は躊躇う事無く、再び水瓶に手を伸ばした。
「劉備殿、それ以上は駄目だ!」
華佗は、劉備の手から水瓶を取ろうとしたが、
傷ついた体では、今の劉備の力に及ぶはずも無かった。
「華佗さん、止めてくれてありがとうございます・・・でも・・・ごめんなさい!」
劉備は、水瓶の中身を、飲みほした。

 

「よい・・・っしょぉ!!」
それによって得られた力は、洞窟を塞ぐ大岩を取り除くに足る物だった。
そして、その力の代償は――

 

「そんな・・・!」
洞窟から出てこれた孔明たちが見たものは、
肉塊となり果てた劉備の姿だった。
当然の如く、服は引き裂かれ、肉に満ちたその姿は丸見えになっている。
その重さは、彼女が取り除いた大岩と同等であろうか。
大岩を動かすほどの力が付いた手足も、体の肉に遮られ、全く動かなくなっている。
ただ、その身動き出来ない巨体は、大地の様な安定感を醸しだしていて、面影を残したまん丸い
顔には、自分がこうなったにも関わらず孔明達を救えた事に安堵する笑みを浮かべていた。

 

左導師の于吉が近くの崖からその様を見ていた。
「黄巾の乱は奴らのせいで血と涙が流れる前に止められてしまったから、それで集まった感情で
復活させても、やはり力不足だったか・・・次は、あの宦官辺りを使って、じわじわと負の感情を
集めることにしましょうか」
于吉は、姿を消した。
「?」
その気配を感じた華佗はその方を見上げるも、やがて視線を下ろし、
頬を緩めた。

 

そこでは、義勇軍の皆が劉備の体を持ち上げて、全員で村に帰ろうとしていた。

 

(あの于吉がどんな術を手に入れようが、どんな策を用いようが、彼女達は負けない。
確かな覚悟と絆があるから――)
「さて、俺も頑張らないとな!」
華佗は傷ついた体を引きずりながら、去っていった。

 

おわり


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