余裕の引き算

余裕の引き算

 

 

堀出 美里(ほりで みさと) 27歳。身長162cm。体重42kg。 B:88 W:53 H:81
せこい性分で何でもなるべく安く済ませたい人間。本人は節約だと言いはっている守銭奴。

 

 

 

 

 

 

「これは・・・こっちのスーパーが安いか。じゃあここを最初に回ってこういけば安く済むわね」

 

チラシを相手ににらめっこしながら私はルートを頭の中で作り上げる。
少しでも出費を抑えたい私はこうやって最も安く済む道順を考えながらチラシを比べる。
これはこれでゲームのようで面白い。
守銭奴なんて言う人も居るけど少しでも安く済む方がいいじゃないの。

 

「他に買う物はなし・・・っと。じゃあ行きましょうか」

 

最後の確認をしてから、私は着替えて買い物へと繰り出した。
まずは遠くのスーパーからだ。

 



 

「うん、予定通り。これでまた少し浮いたわね」

 

私は両手にぎっしりと詰まった袋を持ちながら、悠々と自宅へと向かっていた。
近場で買うよりも200円以上は浮いただろう。

 

「・・・ん?」

 

ふと、私の目の前に変な店があった。
小さな店で、白黒のシックな外見で、『美貌換金屋』と書かれた看板だけが外に出ている。

 

「・・・どんな店だろ。何か安い物有ればいいわね」

 

その店に興味が湧いた私は扉を開けて店の中に入ったのだった。

 



 

カランカランとドアに付いて居るベルが鳴り、店の奥で動く気配がする。

 

「いらっしゃいませー」

 

店に入ると、これまた変な格好の女性が居た。
黒いワンピースだろうか。その上に赤いジャケットを羽織っている。
その女性がニコニコと笑いながらカウンターの向こうで立っている。

 

「ご利用は初めてですね?」
「あ、はい・・・」
「あ、お店の説明ですね?では説明させていただきます!
 当店はお客様のご希望をお客様の美貌と引き替えに変えさせていただきます」
「美貌?お金じゃなく?」
「はい!例えるならば・・・何か欲しい物があるという方にはその代金に見合った分の
 お客様の美しさを頂くシステムです」
「美しさ?」
「そうですねぇ・・・例えば美しい髪の毛をお持ちならそれを、綺麗な肌をお持ちでしたら
 その質感をといった感じですね」
「はぁ・・・」

 

胡散臭い。それもこれ以上無く。
そう感じながらも裕子はどこか引かれる物があった。

 

「お客様、何かお悩みでは?」
「悩みは特に・・・強いて言うなら出来るだけお金を浮かせる方法が知りたいですね」
「ふむふむ・・・でしたら良いものがございますよ」

 

女性はカウンターの下を漁ると、シールのような物を取り出した。
『5%』や『20%』などの数値が書いてあるシールが何枚もある。

 

「こちらを貼ると書かれた数値の分だけ物の価値を割り引けます。
 例えば伝票などに貼ればその分だけお値段が下がるという感じですね」
「は、はぁ・・・」

 

本当ならすごいけど・・・そんな物有るわけ無い。

 

「正し、割り引いた分はどこかで払って頂きますけどね。
 まぁお金で払うわけでは有りませんが・・・
 ささ。是非一度お試しを」
「じゃ、じゃあ・・・」

 

女性に勧められるまま、私はそのシールを受け取った。
なんで受け取ったのかは、私にも分からなかった・・・

 



 

「こんなのが本当に効くのかしら・・・」

 

手の中にあるシールを弄りながら、私は一人呟いた。
あのお店に行ってから数日後。
私はスーパーに買い物に来ていた。
何となく持ってきてしまったシールが手の中で自己主張をしている。

 

「・・・一回試してみるか」

 

悪戯心というか、好奇心というか。
手の中のシールの中にある『5%』と書かれた一枚をはがし、目の前の適当な商品に貼ってみる。
すると、貼ったシールが見る見るうちに消えてしまった。

 

「なっ・・・」

 

慌てて商品の値札を見る。
さっきの価格よりも5%引かれた数字がそこには書かれていた。

 



 

「まさか本当に効くなんて・・・」

 

スーパーで買い物を済ませた私は、自宅でシールを弄っていた。
レジで商品を通す時、内心どきどき物だったがレジでも割引された価格のまま表示された。
誰もおかしいと感じていない。
ただ一人、私だけがそれに気付いている。

 

「・・・これは・・・素晴らしいじゃない」

 

シールを見つめながら、私は心の奥に何か・・・
そうちょっとしたお宝を入手した様な気持ちが湧いていた。
シールはまだまだある・・・これさえ有ればもっともっとお金を浮かせられる。

 

「ふ・・・ふふ・・・素晴らしいわぁ・・・」

 

私はシールを大切に袋に仕舞うと、今後の事に胸を躍らせた。

 



 

「はぁ・・・いいわぁ・・・こんなに安く手に入れられるなんて・・・」

 

目の前に有るいくつかの商品を眺めながら悦に入っていた。
今まで欲しくても諦めていた商品が私だけが安い価格で入手できる。
これが嬉しくてたまらなかった。

 

「ふぅ・・・次は何を買おうかしら」

 

目の前の商品を片付けて、私は次のチラシを取りに立ち上がった。

 

「・・・ん?」

 

何となく、立ち上がった時の体に違和感を感じた。

 

「・・・気のせいかな?」

 

長い時間座っていたせいか、少し立ちくらみしたのかもしれない。
余り深く考えないまま、私は改めてチラシを取りにいった。

 



 

「うーん・・・少し太ったかな?」

 

鏡を見ながら、私はお腹をつまんでみる。
ぷにぷにとした脂肪が指に返って来る。
少しとは言え、いつの間にか腰のくびれの上にうっすらと脂肪がのっていたのだ。

 

「最近買い物を近場で済ませるようになったから運動量が減ったのかな・・・」

 

ここ最近の行動を思い出しながら、私は鏡から視線を外す。
そのままスポーツ店のチラシを手に取り、ダイエット器具を見る。
シールはまだまだ有るし・・・少しぐらいなら買ってもいいわよね?

 



 

「や、痩せない・・・」

 

私は体重計に乗りながら頭を抱えていた。
ダイエット開始し始めたときの体重が確か62kg。
今は79kg。15kg以上増えてる・・・

 

「何で痩せないの・・・?」

 

ダイエットグッズも毎日使っているのに・・・
安いお店巡りを再開して運動量も増やしているのに・・・

 

「もう少し運動量増やさないと駄目なのかしら」

 

体重計から降りると、私は日課となったチラシ確認をしはじめた。

 

「あ、これいいかも。ちょっと値段貼るけどシールが有るから大丈夫よね!」

 



 

思い荷物を引きずりながら、私は歩いていた。
手に食い込むのはシールで安く買った日用雑貨だ。
ただ・・・

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・お、重い・・・」

 

息を切らしながら、一歩一歩足を踏み出す。
ちょっと前ならこの程度の重さで音を上げる事なんて無かったのに・・・

 

「荷物だけじゃなくて・・・はぁはぁ・・・いつの間にか体も重いくなったわね・・・」

 

一歩ごとに汗が噴き出し、体中の肉が揺れる。
その度に実感する。

 

(ああ、私太ったな)

 

視線を何気なく下に落とす。
元々自信の有った胸は、大分丸く大きくなった。
ずっしりと重くなった胸を支えるお腹もなんだか妊婦のよう。
お尻なんかこの前ジャージを履こうと思ったら引っかかってなかなか上がらなかったし・・・

 

「どうして・・・ふぅふぅ・・・痩せないのかしら・・・?」

 

私は何度目か分からない疑問を考えながら、ゆっくりと自宅へと戻っていった。

 



 

「よいしょっ・・・とぉ!!」

 

かけ声をあげて、私は椅子から立ち上がる。
最近は力を入れないと上手く立ち上がれなくなってきた。
立ち上がった途端に足にぐっと重さがのしかかる。

 

「また太ったかしら?」

 

体を触ると、ぶよぶよとした感触が返って来る。
お腹に平手を押し当てると、手首までズブズブと沈み込んでいく。

 

「痩せないわねぇ・・・」

 

ポンポンとお腹を叩きながら、私はのそのそと体を動かす。
その時、視界の端に以前買ったダイエット器具が目に入った。

 

「・・・あれも最近使ってないわね」

 

ここ最近、体が重すぎてまともに運動すら出来なくなってきた。
買い物も浮いたお金で買った車での移動が増えたし、
最近は手料理もしないでお総菜とかで済ませることも増えた。

 

「・・・そりゃあ痩せないわよね」

 

片方がスイカみたいに胸。
まん丸になって、妊婦よりも大きくなったお腹。
ズボンを押し上げて形が丸わかりになっちゃうお尻。
まるで丸太みたいな太もも。
昔の私の腰ぐらい有りそうな二の腕。
それが今の私だった。

 

「まぁ死ぬわけじゃないし・・・別に良いわよね」

 

車の鍵を手にして、私は買い物へと出かけた。
シールはまだまだ大丈夫だし。

 



 

「ああ・・・おいしい・・・」

 

私は目の前にあるすき焼きを食べながらにんまりと微笑んだ。
一人前2000円だけど、半額シールを貼れば二人前分買っても大丈夫。

 

「あ・・・お肉追加しようかな」

 

近くに置いてある皿をたぐり寄せ、肉を追加する。
それだけの動作で腕が重い。

 

「・・さぁ、食べるか」

 

気にしないことにして、私は食事を再開する。
最近仕事場にも行かなくなった。
元々私自身の仕事はデータのやりとりが出来れば問題無いし、
体の不調を理由に自宅でできる環境を整えた御陰で外出する必要もなくなった。
そのせいか、最近さらに体重が増えたと思う。

 

「・・・ま、まだ大丈夫よね?」

 

何となく不安になり、自分の体を見る。
さっきから机に付いている胸。
大きくなりすぎたのか最近垂れ始めた気がする。
机の間に詰まったお腹。
胸に遮られて上からじゃ見えないけど、この前鏡を見たら股間が隠れてた。
お尻は最近椅子からはみ出て、二個並べて丁度な感じ。
太ももはもう閉じられなくなって、最近股ズレが酷くて困る。
腕は肉が付きすぎて、さっきから箸を使うたびにぶるぶる揺れている。
指先とかフランクフルトみたい。
その指で顎を触ってみると、首との境目が見当たらなかった。
ホッペを掴むと、指の間から肉がはみ出るのが分かるし・・・

 

「だ、大丈夫よね・・・?」

 

自分の体がどれだけ太っているか確認した私は、その不安を振り払うかのように食べ始めた。

 



 

「ぶひぃ・・・ふひ・・・お、重いぃぃいい・・・」

 

一歩一歩、体を歩かせる。
その度に汗が吹き出る。
久々の買い物。
ここまで車で殆ど何もせずに来ているのに、駐車場からスーパーまでの間で息が上がっている。
走ったわけでも無く、ただ単純に歩いただけでだ。
どうしようもなく、私はその場で立ち尽くす。

 

「はふぅ・・・」

 

深呼吸をして息を整える。
後ろを振り返ると車から10m程しか離れてない。

 

「ホント・・・痩せなきゃね」

 

そう思ったのは何度目だっただろうか。
そして行動に移さなくなったのはいつからだっただろうか。

 

「・・・怠け者になったわね。私も」

 

自分の堕落っぷりを実感する。
ついこの前まで2km3km平気で歩いていたはずなのに。

 

「・・・少しは頑張ろう」

 

重い体を必死に動かしながら、私はスーパーへ移動し始めた。
途中で何度も休憩を挟みながら。

 



 

「これとこれとこれ。あとこっちもお願いします」

 

近くのファミレスに入り、片っ端から注文する。
最近はスーパーで買い物するより、伝票にシールを貼った方がお得だと気付いてからは
ずっとファミレスだ。
それに駐車場が近いのも嬉しい。
暫く待った後、運ばれてきた食事を食べる。
・・・最近油っぽい物が増えたような気がする。
まぁおいしいからいいんだけど。

 

『ヒソ・・・ヒソヒソ・・・』
「・・・ん?」

 

ふと、視線を感じた。
そっちの方を見ると若い男女のカップルが私を見ている。
どうやら私のことを噂しているらしい。
その視線を受けて、私は自分の体を見る。
200kgを越えた体はどこもかしこも贅肉だらけ。
向こうの女性はすらりと痩せている。
あっちからしたら私はよほど醜く映るだろう。

 

「・・・っ!!」

 

急に自分の体が恥ずかしくなる。
醜い。
醜い体。

 

「私だって・・・なりたくてなったわけじゃ無いわよ・・・!!」

 

急いで食事を食べ終え、伝票に割り引きシールを貼り付けた私は、逃げるように店を後にした。

 



 

そして、私はついにその日を迎えた。

 

「・・・シールがあと少ししかない」

 

あれだけあったシールが残り数枚しかない。

 

「あのお店に行かなきゃ・・・」

 

私は立ち上がろうと体に力を込める。
それだけで体が悲鳴を上げる。
息は切れ切れになって、これだけの行動で数分かかる。
なんとか立ち上がった私は、目の前の鏡を思わず見てしまった。
丸い。
ただひたすらに丸い。
なんというか、普通の人にあるメリハリが一切ないのだ。
どこもかしこも脂肪だらけ。
贅肉。油。いらない物だらけ。
無駄だらけの体だった。

 

「・・・こんな体になったんだ、私」
「おやおや、少し見ない間に随分とお変わりになりましたね」
「っ!?」

 

声に驚いてそっちを見る。
そこにはあの女性店員が居た。

 

「お久しぶりですね。お元気でしたか?」
「・・・元気に見える?」

 

皮肉で返す。
見れば分かるでしょうに。

 

「ええ。生きていれば儲けものですから。
 それよりも、ご入り用ですか?」
「え、ええ。あのシールをもう一度売って欲しいの」
「ああ、あのシールですか?
 すみません、もうあれは無いんですよ」
「そ、そんな・・・!!」

 

これがもう無いなんて・・・!!
あのシールが無いのにこんな体でどうやって生活すればいいのよ!!
食費も普通の人の数倍はかかる。
まともに動けないから外出するには車が必要だし、ガソリン代も馬鹿にならない。
服だってまともに着られる服はオーダーメイドにするしか無いのに・・・!!

 

「まぁまぁ。そう睨まずに。ではこちらはどうでしょう?」

 

女性はポケットからスッと何かを取り出した。
それもシールのだった。

 

「こちらは体に貼るタイプでして、これを貼れば今のお悩みは全て解決ですわ。
 まぁお悩みを解決すれば良いという物でも無いのですけどね。
 それでもよろしければどうぞ」

 

私は迷わずそのシールを受け取った。

 



 

私は確かにお金に悩むことは無くなった。
それもそうだろう。

 

「はぐ・・・むぐ・・・むぐ・・・」

 

私の目の前にはいつでも食事がある。
これがシールの効果だ。
私の不満、つまりいつまでも生活出来る状態を保つ。
それを叶える為のシール。
いつでも私の目の前には食事があり、いつでもきちっとしたサイズの服を纏い、
いつでも清潔な体を保てる。
私はもう無駄や節約を考える必要は無い。
だってお金があったって今の私ではどうしようもないからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

身長:162cm
体重:42kg → 62kg → 79kg  → 112kg → 133kg → 153kg → 178kg → 212kg → 243kg → 301kg
B:88cm → 98cm → 110cm → 129cm → 131cm → 139cm → 147cm → 154cm → 159cm → 167cm
W:53cm → 69cm → 84cm  → 108cm → 125cm → 141cm → 153cm → 171cm → 184cm → 201cm
H:81cm → 94cm → 104cm → 117cm → 126cm → 128cm → 138cm → 150cm → 162cm → 189cm

 


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