年と経験
川口梅子(かわぐち うめこ)87歳 身長151cm 体重45kg
戦後の日本の中、一代で日本有数の商家へとのし上がった女傑。
だが、その人生に後悔をしている・・・
「・・・はぁ」
最近はため息をついてばかりだ。
今年で私も87。
この年まで結婚せずに働いてきた。
今でこそ女性の地位向上だのなんだのと周りが叫び始めて幾分か女性も社会で認められるように
なったが、戦後のあの時代ではなにもかも犠牲にしてようやく辿りつける場所だった。
そう、私のように・・・
「青春は確かに捨てた・・・それも自分の意思で・・・」
だが・・・それでも・・・
「若い子達が羨ましい。しがらみも何もなくはしゃげる彼女たちが・・・」
それでも・・・嫉妬せずにはいられなかった。
「・・・仕事が無くなって暇になったからかしらね。下らない事ばかり考えてしまうわ」
下らない愚痴を言っても仕方ないわね。散歩にでも行きましょう。
椅子から立ち上がり、私は散歩用の杖を持ち出すと、使用人達に言って外に出た。
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「再開発だの何だのでこの辺も変わったわね」
コツコツと杖を突きながら、私はすっかり変わった道を歩く。
煉瓦造りだった道はコンクリートとアスファルトで覆われ、どこか私をあざ笑うかのようだった。
「・・・あら?」
ふと、そんな私の目に細い路地が飛び込んできた。
日が当たらないのかやや薄暗いそこは、私が昔見た光景が広がる場所だった。
「・・・」
私はその路地に吸い寄せられるかのように奥へと入っていく。
煉瓦の硬い感触。
その感触を楽しむかのように歩く私は、つい奥まで入り込んでしまった。
気づけば、辺りは全く知らない場所であった。
「まずいわね・・・どこか道が聞けそうな場所は・・・」
辺りを探す私の目の前に、一軒のお店が見えた。
外に出ている立て看板には、小さくこうかかれていた。
「美貌・・・換金屋?」
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カランカランとドアベルが鳴る。
ゆっくりと私は体を店の中へと入らせる。
中は雑貨屋の様に様々な小物が所狭しと並んでいる。
「いらっしゃいませー」
カウンターの奥に居たのか、女性が奥から出てくる。
黒いワンピースの上から赤いジャケットを羽織り、眼鏡をかけている。
手にはさっきまで読んでいたのか黒い装丁の本を持っており、にこやかな笑みを浮かべている。
・・・少々お近づきにはなりたくないセンスね。
「ご利用は始めて出ですよね?」
「ごめんなさいね。道を聞きたいだけなの」
「あら、そうでしたか。どちらまで?」
「奉木町の方へ行きたいのだけれど・・・」
私がそう聞くと、女性は本を置いて紙とペンを手に取り、さらさらと地図を描いてくれた。
「こう行けば大通りに出ますので、あとはわかるかと」
「そう。ありがとう・・・お礼に何か・・・」
買いましょうか?と言おうとした私に、女性は待ってくださいと言ってきた。
「その前にこのお店の仕組みをご説明しないといけませんね。
このお店はずばり、お客様の欲しい物とお客様の美貌と交換するのです」
「美貌?」
「はい!例えば肌の張り。例えば美しい髪。
そういった美的価値が見出せる物とお店の品を交換するのです」
「・・・老人だと思って騙そうとしてないかしら?」
少し語尾を強めに言うと、女性は手を振ってそうじゃないと言う。
「滅相も無い。
あ、よろしければ一度体験してみませんか?
こちらなんかお勧めですよ?」
そういって女性が取り出したのは二本の瓶だった。
赤い瓶と青い瓶の二本で、二つとも液体が入っている。
「こちら若返りの薬となっております。
赤が若返りの薬で、青が歳を取るお薬です。
使用方法は簡単で、このコップ一杯飲めば一年分若返ります」
そう言って女性は小さなコップを手にした。
良く薬の瓶なんかと一緒に箱詰めされてる奴だ。
「で、こっちの青いのが逆の物。使い方は一緒です」
にっこりと笑う女性に、私は怪訝そうな顔しか出来なかった。
「そんな感じの漫画、昔読んだわよ?」
「さて、何のことでしょう?」
露骨に視線をずらす女性を見て、私はため息を付いた。
「・・・それ頂くわ。お代はどうすれば良いの?」
何となく商品を買う気になった。
女性を哀れに思ったのもあるが、気になるのも確かだ。
元々こんな婆なのだ、今更美貌がどうのと言うほどでもあるまい。
「あ、それでしたらこちらで自動的に回収させて頂きますからお気になさらなくて結構ですよ。
ただし!用法用量はきちんとお守り下さいね?」
「そう・・・じゃあありがとうね」
そう言って私はお店を出る。
流石に長居しすぎたもの。
「またのご利用をお待ちしておりますね」
その言葉を背中に受けながら、私はゆっくりと歩き出した。
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「・・・本当に効くのかしらね?」
私は瓶を手に眺めながら、考えてみる。
「・・・物は試しか」
今更何を怖じ気づくのか。
正直に言えばどうせこちらから払う物なんてもう無いだろう。
少しでも若返るのなら、例え下らない冗談でも・・・!
「・・・一日1杯まで。つまり1年だけって事ね」
私は赤い瓶の蓋を開け、コップに注いでいく。
肝油の様な匂いが漂い、懐かしい気分にさせる。
そして、それを煽った。
「・・・まず」
以前飲んだ青汁に薬品臭さを足したかのような味がする。
「・・・とりあえず続けてみましょうかね」
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一週間程経ったある日、久々にあった友人にこう言われた。
『貴方少し若くなった?』
思わず化粧品を変えたと誤魔化した。
教えてくれと頼む友人を横目に、私は内心喜んでいた。
最近若くなったことは自分でも薄々感じていた。
だが、こうやってはっきりと他人から言われてしまえば確信せざるを得ない。
心なしか肌のハリも戻って皺がなくなってふっくらした気もする。
「ふふ・・・素敵・・・!!」
これをうまく使えば失った青春を取り戻せる・・・
私は今日も薬を飲んで寝るのだった。
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あれから一ヶ月ほどたった。
外見もだいぶ若々しく見えるようになった。
だが・・・
「う・・・やっぱりこの服もキツイ」
私は手にしていた服をクローゼットに戻すと、自分の腹を見た。
中年太りなのかお腹だけがぽっこりと飛び出て、胸がその上に乗っかってしまっている。
「そんなに暴食した記憶はないのだけれど・・・少し気をつけましょう」
そんなことを考えながら私は大きめのワンピースを手にするのだった。
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「・・・もう我慢出来ない」
あれから一週間。
私はどんどん若くなる体に対してこう思っていた。
『もっと早く若くなりたい』
今でも十分若い。
だけど、もうすぐ夏なのだ。
海で男と一夏の青春という物を過ごしたいと言う欲求が抑えきれない。
それに・・・
「若くなればこの肉もすぐ落ちるはず・・・!」
私はそう考えながら腹の贅肉をつかむ。
かなりの厚みの脂肪が手でつかめる。
それだけじゃない。
体中どこもかしこも肉だらけだ。
胸はかなり大きくなり、飛び出た腹の上にドデンと乗っている。
まるで大きな桃のようになった尻はずっしりと重く、太ももは女の物とは思えない程太い。
顎はたぷたぷと肉で揺れ、首周りもかなり太くなった。
二の腕はもっちりとしていて、触るのが怖い。
最近は食欲まで体系にあわせて増大していて、かなりまずい。
以前は忙しくて太る暇すらなかったからある意味新鮮ではあったが、出来れば体験したくなかった。
「後一週間で10代まで若返る・・・そこからダイエットすればきっと・・・!!」
私はそう信じ、薬を多く飲むことにした。
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「あー・・・おいしいなぁ・・・」
私は目の前の料理をひたすら食べていた。
おいしい料理がいっぱいあって幸せだ。
でも・・・なんでこんなにいっぱい料理が食べれるんだろう?
「母さん・・・!しっかりしてくれ・・・!!」
私のことをそう呼ぶ男の人がいる。
でもどう見ても私より年上だ。
「お兄さん誰?」
「覚えてないのか・・・!?俺だよ・・・あんたの息子だよ・・・!」
息子・・・?どうみても私よりも年上なのにそれは無理があるでしょう。
・・・あれ?年上?
私には息子がいたような・・・あれ?
・・・そもそも私って何歳だっけ?
駄目だ・・・頭が痛い・・・
「お腹すいた・・・」
そうだ、お腹がすいた。
だからご飯を食べなきゃ。
だってしょうがないよね、こんな体だもん。
まん丸なお腹。
なんだか妊婦だったころよりも大きいみたい。
・・・あれ?妊婦だった頃?
・・・まぁいいか。
それに胸も大きい・・・まるで西瓜みたい。
いや、西瓜よりも大きいかも。
お尻はさっきからかなり大きな椅子なのに窮屈になる位大きい。
なんだかこのまま立ち上がったらはまって抜けないかも・・・
太ももだってまるで昔住んでいた家の大黒柱みたい。
あの家懐かしいなぁ・・・
・・・どこだっけ?
「おい、母さんは一体どうしたんだ!?」
「そ、それが・・・私たちにも何がなんだか・・・」
横でさっきの男人が白衣の人と話している。
まぁいいや・・・ご飯食べよう。
そういえば腕も大分お肉ついたなぁ・・・
まるで昔の私の腰みたい。
・・・あれ?なんで昔の私なのにこんなにお婆ちゃんなんだろ・・・?
変なの・・・
そんな事よりもご飯食べよう。
あーあ。
年とってもいいから贅肉を減らす薬とかないかなぁ・・・
川口梅子
身長151cm → 157cm → 160cm
体重45kg → 48kg → 63kg → 99kg → 145kg
B:87cm → 89cm → 96cm → 117cm → 138cm
W:59cm → 60cm → 73cm → 99cm → 121cm
H:80cm → 83cm → 95cm → 114cm → 139cm
「やれやれ・・・だから用法用量はきちんとお守り下さいって言ったのに・・・
代金は自動で頂きますって言いましたのに・・・
それに気付かないなんてやっぱり老いは怖いですねぇ」