停止は楽ちん
川上 綾(かわかみ あや) 25歳 身長158cm 体重50kg
ものぐさな女性。何かにつけてめんどくさがるタイプ。
「・・・髪の毛伸びてきたなぁ」
私は自分の髪の毛を触りながら、ため息をついた。
流石に邪魔になってきたから切りに行かなきゃいけないのだが、それすら面倒くさい。
「・・・行かないわけにもいかないか」
流石に目にかかるほど長いと邪魔だし。
「・・・仕事の終わりにいくかぁ」
私は化粧を軽く整えた後、鞄を持って玄関に向かった。
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「はぁ・・・さっぱりしたのは良いけどこれまた切りに来るんだよなぁ・・・」
散髪が終わった後、私は自宅に向かいながら今日何度目かのため息をついた。
今日だけで髪の毛が伸びなきゃ良いのにと何度思ったことか。
「・・・ん?」
ふと、普段通る道のはずなのに見覚えの無い店があった。
モダンな外観のお店で、雑貨屋みたいだ。
「・・・こんなお店あったっけ?」
私は何となく気になり、お店の中へと入った。
カランカランとドアベルが鳴り、奥からいらっしゃいませという声が聞こえた。
そっちの方を見ると、一人の女性がカウンターの奥に立っていた。
黒いワンピースの上に赤いジャケット。
・・・ちょっと変わった服装だとは思うが口には出さないようにしよう。
「なにかお探しですか?」
「いや・・・ただ何となく入っただけなので」
「そうですか・・・折角ですので色々と見ていって下さい」
少し残念そうに女性はそう言うと、カウンターの辺りでなにか商品の手入れをし始めた。
ちらりと横目でそれを見てみると、なにやら小さな瓶を拭いている。
どうやら薬の小瓶らしいが、なんだか気になる。
「おや、気になりますか?」
どうやら見てるのが気付かれたのか話しかけられてしまった。
「あ、いや・・・それどんな薬ですか?」
「こちらは成長を止める薬でして、止めたい物を考えながら飲み込めば体の一部がそのままで
成長しなくなります。まぁ寿命は止められないんですけどねぇ・・・」
「・・・はい?」
成長を止める?
どういう事?
「例えば髪の毛ってどんどん長くなりますよね?
これを飲んでしまえば髪の毛の長さが変わらなくなります。しかも抜け毛も無くなるんですよ」
「・・・いやいやいや、それはいくらなんでも」
ありえない。
そう言おうとした私を、女性はにっこりと笑いかける。
まるで私の事を見透かしたみたいだ。
「まぁ折角ですから飲んでみませんか?
とはいえお代としてちょっとした物を戴きますけど」
「お代?」
「ええ、ウチは美貌換金屋と申しまして・・・代償として美貌を払わないといけないんです。
例えば美しい肌を欲しい方が居ればその代わりに髪の毛を戴いたりという具合ですね」
「・・・」
なんて言うか、怪しい。
・・・が、逆にここまで怪しいとただの冗談にも思える。
「・・・それ本当に効くんですか?」
「ええ、勿論です。よければ使ってみますか?」
私の質問によどみなく答える女性。
私は"嘘もここまで来ると凄いな"なんて感心してしまい、その商品を持ち帰ったのだった。
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家に帰った私はベッドに寝転びながら、持って帰ってきた薬を眺めて居た。
蛍光灯の光を受けて輝く瓶の中には青い錠剤が幾つも入っている。
「・・・」
私は瓶から一粒薬を取り出すと、髪の毛が伸びないようにと願いながらその薬を飲み込んだ。
その後おもむろに一本毛を抜き取ると、それの長さを測る。
「・・・15cm」
一週間計測してこれが長くなってなければ女性の話は本当。
長くなっていればタダの冗談だったと言うこと。
「・・・でも毎日測るの面倒だなぁ・・・」
それさえ無ければと思いつつ、私は布団をかぶって寝たのだった。
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「・・・伸びてない」
一週間後、私は髪の毛を測りながらそう呟いた。
この一週間面倒くさいのを我慢しながら測った結果、髪の毛の長さは全然変わってなかった。
偶然かとも思い一回につき10本位抜いて試したが、それでも変わってなかった。
わざわざデータをとった甲斐がある。
「これなら・・・」
手入れが面倒な爪も、肌荒れも、産毛も。
色んな場所に手間をかけなくてよくなる。
「・・・よっし!!」
思わずガッツポーズする私。
その際体に一瞬違和感があった気がしたが、私は気にしなかった。
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それから私は色んな事を薬の力で止めた。
爪はいつでも良い長さだし、肌も荒れないし唇も乾燥しない。
むだ毛は剃った状態でキープだから常につるつるだし、もう何も怖くなかった。
でも・・・
「・・・太ったなぁ」
代わりになのか太った。
一ヶ月しか経ってないはずなのに既に体重は10kg以上増えた。
服は手直しを何度もしているが、それでも追いつかない。
「・・・これが"お代"?」
薬を使う代金。
美貌をお代にすると女性は言っていた。
ならこれが代金なの?
「・・・まぁこの程度で済んだのならいいか」
様々な面倒事から解放されてこの程度。
代金ということは"薬を飲んだ"分なのだろうから、この程度で済むなら安い物だと思う。
「まぁこれから気が向いたら痩せればいいか」
私はそう結論づけると、布団に潜り込んで寝たのだった。
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「ふっ・・・・ぐ!」
さらに一ヶ月後、私はスカートと格闘していた。
「なんでサイズがあわない・・・の!?」
一昨日新しく購入したばかりのスカートがなぜか入らない。
一旦休憩のために腹に込めた力を抜くと、脂肪がたっぷりと前に迫り出す感覚が私を襲った。
「・・・もしかしてまた太った?」
私は自分のお腹を見ようと俯く。
だが見えるのは最近無駄に大きくなった胸だけだ。
仕方なく姿見を覗いた私の目に飛び込んできたのは、まるで相撲取りのような女の姿だった。
胸は肌のハリもむなしく重力に負けてすこし垂れ気味になる程大きくなってしまった。
その下の腹はまるで妊娠でもしているのかと言うほど大きくなってボタンを留めるのを
阻害してくる。
足はまるで丸太みたいで歩く度に内側が擦れるほどになってしまった。
腕も当然肉が付いたせいで動かしにくくなったし、顎は大分丸くなってたぷたぷしてる。
「なんでこんなに太ったんだろ・・・?」
最近は少しはやせようと思ってダイエットをしているはずなのに・・・
色々と考えていた私に、一つの考えが浮かんだ。
「・・・もしかしてあの薬?」
もしも・・・もしもあの薬が「成長を止める代金」ではなく、
「成長を止め続けるための代金」だったとしたら?
購入ではなくレンタル契約のような支払いだったら?
そしてそれは効果事に重複したとしたら?
「・・・か、解除して貰わなきゃ!!」
成長を止めるのをやめないと私はどんどんと・・・!!
私はスカートを無理矢理履くと薬の瓶を持ってあの雑貨屋を探しに外へと飛び出した。
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「出来ない!?」
「ええ、出来ません」
あのお店に駆け込んだ私はすぐさま女性に瓶を見せて解除するようお願いした。
ところが返ってきた返事は不可能という答えであった。
「どうして!?」
「その薬はですね・・・実のところ特定の細胞の生まれ替わる能力を壊す物なんです。
つまりは成長する為の機能を破壊するんですね。
そしてそれを治すことは出来ません。
まぁ自分で願って壊したんですから不可能なのは当たり前ですよね?」
「そ、そんな・・・じゃあ私はただ太っていくだけなんですか!?」
「ええ、そうなりますね。まぁ安心してください、健康に害が出るような太り方はしませんから」
私の質問に女性は軽く・・・本当に軽く返した。
私は愕然とし、その場に崩れ落ちるしかなかった。
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それからしばらく経った。
望みをかけて一度医者にもかかったがなぜ太るのかは全くの謎だと言われてしまった。
・・・まぁあの女性の言うとおりに健康体のままだとも言われたが。
結局太り続ける私は仕事をやめ、今はこの体を写真や動画で撮りネットに公開して生計を
立てている。
意外なことにこの手の女性が好きな男性は多いようで、割となんとか生活出来るようには
なっている。
食欲自体は今までと変わらないため食料はそんなに多くなくて済むのも要因の一つだろう。
それよりも・・・
「よいっ・・・しょっと!!」
私はベッドから立ち上がろうと必死に両足に力を込める。
それだけでまるで大きな石を担いで立ち上がろうとしたかのような重さが足にかかる。
なんとか立ち上がるが、すでに息は切れ切れになっている。
今はまだ立ち上がれるが、もう少し太ればきっと立ち上がれなくなるだろう。
「・・・今日の分の写真撮らなきゃ」
暗い未来をなるべく考えないようにして、私はカメラを手に取り写真を撮る。
撮れた写真を確認すると、そこには考えられないほど太った女が写っていた。
胸は片方が赤ん坊一人分と同じかそれ以上ぐらいありそうだし、その下の腹はまるで小さな山だ。
立ち上がっている今の状態ではお腹がまるでエプロンみたいに垂れ下がり、股間をすっぽりと
隠してしまう。
足はドラム缶みたいに太くなってるし、腕は指先まで肉が詰め込んであるみたいにぶよぶよだ。
顔は顎と首が一体化してるし、頬の肉が多くなりすぎて最近は喋るのすら辛い。
体重はもう長いこと量ってないけど、恐らくすごい重さになっているだろう。
そして、こんなに太っても私は未だに重くなり続けている。
「・・・もういや」
もう人とは言えないような体。
歩くことすら大変な体。
きっと・・・私はどこまでも太るだろう。
それこそ寿命が尽きるまで・・・
そんな私を支えてくれる人なんてきっといやしない。
「そんなの嫌ぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!!」
頭を振り回す私を、慰めてくれる人はいなかった。
川上綾
身長:158cm
体重:50kg → 53k g → 64kg → 92kg → 358kg
B:87cm → 89cm → 97cm → 113cm → 167cm
W:65cm → 65cm → 78cm → 99cm → 224cm
H:83cm → 89cm → 93cm → 107cm → 207cm