ご注文はワープですか?

ご注文はワープですか?

 

 

梶岡 麻澄(かじおか ますみ) 28歳 身長164cm 体重58kg
持ち前のだらけからか30代前にして未だに恋人が出来ない女性。
ある日変な店を見かけて・・・

 

 

 

 

『だからいい人なんだって・・・ねぇ聞いてるの?
 アンタ昔からだらだらしがちだからしっかりした人をね?』
「ちゃんと聞いてるって・・・でも別にまだ結婚は・・・」
『そう言って30になってからじゃ遅いのよ!?
 私らの頃なんか30過ぎたらいき遅れだったのよ!?』
「はいはい・・・電車乗るから切るね」
『ちょっと麻澄──』

 

私は携帯電話の通話終了ボタンを押してお母さんからの電話を切る。
正直言うと余計なお節介はやめて欲しい。

 

「・・・結婚かぁ」

 

興味が無い訳じゃないが、恋人すら居ないのにどうなのと思う。
恋人も欲しいとは思うけど、面倒くさそうだし・・・

 

「・・・そもそも自宅片付けなきゃ無理ね」

 

自宅の状況を思い出しながら、私は軽くため息を付く。
足の踏み場も無い・・・とまでは行かないけど、かなりアレな状況ではある。
一人暮らしの女なんてそんな物だろう。

 

「・・・まぁ、まだいっか」

 

私はホームに入ってきた電車に乗り込みながら、恋人についての結論を出すのだった。

 



 

「・・・あれ?こんな所にお店あったっけ?」

 

駅からの帰り道。
酒の肴を購入した私は普段見かけないお店を発見した。

 

「・・・美貌換金屋?」

 

店先には小さな看板が出ているだけのこれまた小さなお店。
窓から覗いてみるとどうやら小物ショップらしい。

 

「・・・そういえば朝グラス割ったんだった」

 

今朝牛乳を飲んだ際に間違って落として割ったのを思い出し、
私はグラスぐらい有るだろうと店に入ってみた。
カランカランとドアベルが小さな音を立て、中から少し古めかしい匂いがする。
モダン調・・・っていうんだろうか?
ちょっと小洒落たお店の中にはいくつかの棚が並んでおり、
奥のカウンターには女性が一人立っていた。

 

「いらっしゃいませ」

 

穏やかな顔でそう言ってくる女性。
真っ黒いワンピースに赤いジャケット。
なんだか独特のセンスというか雰囲気というかである。

 

「あの・・・グラスとか有ります?」
「グラスですか?少々お待ちを」

 

そう言って店の奥に引っ込んでいく女性。
私は何となく辺りを見回してみると、一つのベルが気になった。
小さなハンドベルで、よくお高いレストランでウェイターを呼ぶのに使うような奴だ

 

「・・・」
「それが気になりますか?」
「うひゃぁ!」

 

じっとベルを見ていたらいつの間にか来ていた女性が後ろから話しかけてきた。
思わず驚いて変な声を出してしまったけど・・・うひゃぁは我ながら無いと思う。

 

「ああ、失礼を。驚かせてしまいました」
「あ、い、いえ・・・あ、グラスは・・・」
「こちらなんていかがでしょう?」

 

私は女性が差し出してきたグラスを眺める。
切り子みたいな綺麗な模様入りの紫色のグラスだ。
・・・ちょっとどころじゃ無く高そう。

 

「あ・・・これは・・・」
「お気に召しませんでした?」
「いえ、その・・・予算的に・・・」
「ああ・・・そう高い物ではないので大丈夫ですよ。1400円ですので」
「うぇ?」

 

安い・・・でもなんで?

 

「こちら工房の方で試作に作った物でして・・・きちんとした商品ではないのです」
「そ、そうですか」

 

試作品・・・ねぇ?
最近よくお弟子さんに握らせた寿司を格安で〜みたいなお店が流行ってるみたいだし、
そういうのかな?

 

「じゃあそれを・・・あ、あとこれなんですか?」
「そのベルは行きたい場所を思い浮かべながら鳴らすと、
 10分間だけそこに移動出来ると言う優れものです」
「・・・はい?」

 

急に何言ってるんだろうこの人。

 

「移動って・・・」
「お試しになりますか?」
「はい?」

 

お試しって・・・どこに?

 

「そうですねぇ・・・例えば目の前の道路とか」

 

そう言って女性は私の手を握ると、空いている方の手でベルを持って軽く振った。
リーンと綺麗な音が鳴って、一瞬辺りが暗くなったと思ったら私たちは外に立っていた。
慌てて店の中を覗くと、確かにさっきまで私が立っていた場所が見える。
呆気にとられる私を横目に、女性は再び私の手を取ってベルを鳴らした。
また一瞬暗くなった後、私はさっきの場所に同じ様に立っていた。

 

「な、なな・・・」
「いかがですか?一度鳴らすと思った場所に、二回目を鳴らすと元居た場所に戻ります。
 ただ10分が過ぎれば強制的に元居た場所に戻されますけどね。
 1日10分以内でしたらなんどでもご利用頂けます」

 

淡々と説明する女性の声を聞きながら、私は頭を抱えるのだった。

 



 

「・・・これどうしよう」

 

あの後、グラスと一緒にこのベルを持って帰った私は小さな部屋の中で唸っていた。

 

「・・・と、とりあえず話を整理!
 まずこれは1日10分間どこか別の場所に移動出来る道具で・・・
 1回鳴らすと行きたい場所に、2回鳴らすと元居た場所に移動する。
 10分過ぎると強制的に元居た場所に戻る。
 お金はかからないけど利用する度に私の“美しい部分”が失われる・・・
 移動する距離によって失われる量は変わる・・・」

 

ダメだ、口に出してみたけど余計に頭が混乱する。

 

「そもそも美しい部分が消えるって何よ・・・
 何が消えるかはあの店員さんも分かんないって言うし・・・」

 

いきなり目玉が消えるとかは無いって言ってたけど・・・

 

「・・・でも使えるなら便利だよね」

 

ちょっとした買い物とか。

 

「・・・お酒、足りないし・・・肴も・・・ちょっと試しに使ってみようかな」

 

コンビニをイメージして・・・あ、靴履かなきゃ。
玄関でやった方が良いわねこれ。

 

「よーし・・・コンビニコンビニ・・・」

 

近所のあそこでいいか。
私はゆっくり落ち着いて場所をイメージし、右手に持ったベルを鳴らす。
リーンと澄んだ音がして、辺りが一瞬暗くなった後すぐに明るくなる。
見回すと、そこはコンビニの角・・・トイレのある扉の前の細い通路だった。

 

「・・・成功、よね?」

 

身体を確かめつつ、私は持ち物を確認する。
財布・・・よし、携帯・・・電源きちんと入る。
服もどこも変になってない。
腕や足も大丈夫・・・あ、顔。

 

「鏡・・・トイレ空いてるかな?」

 

近くのトイレを確認すると誰も入ってないようだ。
私はトイレに入り込むと、鏡を確認する。
昔からあるそばかすにいつもの眼鏡。
太めの眉にちょっともっさりな髪。
普段通りの私の顔が鏡に映っていた。

 

「・・・ほっ」

 

大丈夫そうだ。

 

「時間10分だっけ?」

 

私はトイレから出ると、コンビニで会計を済ませて外に出た後ベルを鳴らして
部屋へと戻るのだった。

 



 

それから数日。
私は何度もこのベルを使っていた。
一度楽なことを覚えると人間堕落する。
分かっていてもついつい楽だ楽だと使ってしまうのだ。
実際、これは非常に便利で、コンビニは勿論、テレビに映った有名店にちょっと買い物・・・
なんてことも出来る。
でも・・・

 

「使い過ぎに注意・・・ね」

 

店員さんに最後に言われた一言。

 

『使いすぎにはくれぐれもご注意を』

 

軟らかいトーンのままだったけど、なんだかこの言葉だけは“圧”みたいな物があった。

 

「・・・それに少し太って来ちゃったし」

 

ここ最近の運動不足のせいか、お腹が前よりもつまめる様になってきてる。
確かにこれだとまずいかもしれない。

 

「・・・控えよう」

 

そう思った私は久々にきちんと歩いて買い物に行こうと、玄関へと向かうのだった。

 



 

「やば・・・使い過ぎた」

 

月末、家計簿を見て私は何とも言えない顔をしていた。
ついつい楽な移動方があると、コンビニでの買い物が増えてしまった。
その分家計は圧迫される訳で・・・

 

「まずいわね・・・これじゃ家賃も・・・」

 

どこをどう切り詰めても5000円程足りない。
私はちらりとベルを見る。

 

「・・・」

 

万引き・・・このベルを使い始めてすぐに考えついた事。
スーパーなんかで商品を持って、このベルを使って家に商品を持って帰る。
誰も分からない万引き。
テレビで言うには現行犯以外じゃ万引きは逮捕出来ないし、
お店の外に出るのを止められない限りは大丈夫。
でも・・・

 

「・・・うぅ」

 

最低な行為だということはわかっている。
でも・・・このままだとお金が足りないのだ。

 

「・・・こ、今回だけ」

 

私はベルを掴むと、近所のスーパーを思い浮かべながら鳴らした。

 



 

「ふぅ・・・やっぱりピザは美味しいわ」

 

3ヶ月後。
私はすっかり家から出なくなっていた。
1度やると抵抗感が無くなるのか、2回目の万引きをするのはすぐであった。
その内万引きではなく、銀行の金庫に入ってお金をくすねるようになった。
仕事もやめ、今では必要な額のお金をちょろまかしてすぐに家に戻るようになっていた。
欲しい物は通販サイトを使い、食事はもっぱら宅配ピザ。
当然身体はドンドンと太っていき、今ではぽっちゃりからデブの域になっている。
みっともなく垂れた腹に、その上に乗っかる胸。
尻はLのジャージでもきつく、腕は二の腕がぶるぶるだ。
最近は顎にも肉が貯まってきていて、二重顎になるのも時間の問題だろう。

 

「・・・お金、また取ってこないとなぁ」

 

近くに置いてあるお金をちらりと見ながら、私はそんな事を呟く。
月の初めに20万取りに行くのだけど、最近は20万でも足りなくなってきている。

 

「・・・今度から30万取れば良いか」

 

足りないのだから多く取ればいい。
私はそう結論づけると、ピザを食べるのを再開した。

 



 

「げぇーっぷ・・・流石にLサイズ2枚は多かったわね」

 

更に数ヶ月後・・・もはや何日経ったか分からないけど、私は同じ様な生活を続けていた。
体重は・・・分からないけど100kgを越えているのは確かだろう。
もしかしたら200近いかもしれない。
飛び出た腹はまるでエプロンみたいに前に垂れ下がり、胸は持ち上げるのも億劫になるぐらい重い。
足は両手で回らないどころか、手が4つあっても回らないだろう。
腕も当然贅肉だらけだし、基本的に油でぎとぎとしてる。
背中は最近椅子の背もたれが埋まるようになってきたし、顎は首と繋がっている。
サイズが無いのと暑いからで最近は殆ど丸裸で過ごしてるが、
これが意外となれてしまえばなんでも無かった。

 

「・・・さて、そろそろお金取りに行かなきゃ」

 

ここ最近ほぼ唯一の運動は銀行に潜り込みに行くのと、ピザを受け取る為の玄関への移動。
あとは精々風呂に入るために風呂場に行くだけだ。
そのお風呂すら最近は面倒くさい。

 

「人間ここまで堕落するとむしろ清々しいのね」

 

そんな事を呟きつつ、私はベルを振った。
ところが・・・

 

「・・・あれ?」

 

ベルはリーンと音を立てたが、場所は部屋のままだ。

 

「ど、どうしたの?イメージが足りなかった?」

 

もう一度銀行の金庫をイメージしつつ、ベルを振る。
ベルは綺麗な音を立てるが、やっぱり移動は出来なかった。

 

「な、なんで!?」
「ですから、使いすぎにはくれぐれもご注意をと申したのに」

 

慌てる私に、そんな声が後ろからかけられた。
後ろを振り返ると、そこにはあの店の店員さんが居た。

 

「て、店員さん?」
「お客様は随分とこのベルをご利用なさった様ですね。
 そのせいで、お客様の美しいな部分が無くなってしまったようですね」
「う、うそよ!!大体私の何を持っていったというの!?
 髪の毛も肌質も何も変わってないわよ!?」
「今回お客様のお支払いに使った美しい部分・・・それはお客様の心です」
「な・・・」
「どうやら随分と醜い心になられたようで・・・
 元から少し汚れていましたけど今ではただの泥のようですね」
「あ、アンタに何が分かるって言うのよ!!」
「さぁ・・・何分醜い物には興味が無い物でして・・・」

 

おちょくるような口調の女に、私は自分でも信じられないぐらいイライラが収まらない。
思わず立ち上がって詰め寄ろうとした時、部屋のインターホンが鳴った。
直後、扉を激しく叩く音が続く。

 

「な、なによ・・・」
「警察・・・ではないでしょうか?」
「な、なんで警察が!?」
「ふふ・・・ほぼ毎日の様にお金を盗んでいれば気付かれますよ。
 幾らそのベルを使っても・・・ね。それに証拠の隠滅を怠れば・・・すぐに警察は見つけますよ?
 例えば髪の毛とか・・・随分お手入れをお忘れのようで」
「あ・・・」

 

良くドラマでやってるけど・・・DNA鑑定?本当に?髪の毛で?

 

「まぁ正確には髪の毛の毛乳頭という部分でやるそうですけど・・・
 まぁそれだけボサボサなら皮膚の一欠片ぐらい簡単に落ちてそうですね」
「・・・」
「では私はこれで」
「ま、まって・・・お金、お金上げるから・・・助けて・・・」

 

懇願する。
この人の不思議な道具なら・・・
きっと別の道具なら・・・
きっと私が逃げる方法があるはず・・・!

 

「嫌です」

 

だけど・・・店員さんは私に向かって満面の笑みでそう答えた。

 

「先ほども申しましたけど、私は醜い物が嫌いですので・・・
 では、またお会い出来るといいですね」

 

そう言って、店員さんは消えてしまった。
それとほぼ同時に玄関の扉がこじ開けられて、何人かの男の人が入ってくる。
私はそれを見ながら、ただただ笑うしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

梶岡麻澄
身長164cm
体重58kg  →  65kg →  87kg  → 162kg
 B:93cm → 97cm →  99cm  → 121cm
 W:68cm → 75cm →  98cm  → 139cm
 H:91cm → 96cm → 108cm → 148cm


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