知りすぎる事
吉川 未樹(よしかわ みき) 15歳 身長154cm 体重48kg
何かと好奇心が強い少女。
変な本を見つけてしまい・・・
「・・・というわけで、これが平安時代の始まりになる訳だな」
黒板にカツカツという音をたてながら、先生が文字を書いていく。
・・・と、その時チャイムが鳴って先生がおっとという顔をする。
「じゃあ今日はここまでだな。号令!」
「きりーつ」
日直の直川君が号令をかけ、それに合わせて礼をする。
教室を出て行く先生と終わった終わった〜なんて良いながら休憩するみんな。
・・・なんだか物足りない。
「おーい、ミキミキ?」
「・・・あれ?莉子ちゃん?」
「あれじゃないって・・・呼んでたんだから返事ぐらいしてよ」
「あ・・・ごめんなさい!」
やっちゃった・・・
考え事があるとぼーっとしちゃうのは悪い癖だってわかってるんだけどついやっちゃう・・・
「まぁどうせいつものでしょ?」
「あ・・・あははは・・・うん」
「ミキミキはホント好きだよね〜勉強」
「うん・・・楽しいし」
「うぇ・・・アタシには無理だわ・・・」
そういって莉子ちゃんはやれやれって感じで頭を振る。
「別に私だっていつも勉強してるわけじゃないよ?」
「うっそだぁー。この間だって珍しく教科書以外の本読んでると思ったら
良く分かんない文字の本だったじゃん」
「あれはただの英語だって・・・」
・・・中身は教科書みたいな物だけど。
「へぇ・・・どんな本?」
「えっと・・・その・・・」
「ほらぁ!」
「そ、それより何の用だったの!?」
これ以上言われる前に話題を変えなきゃ・・・
「・・・まぁいいけど。ほら、今日一緒にカラオケ行くって話してたよね?」
「うん」
「・・・ごめん!今日どうしてもバイトにシフトいれないといけなくなったの!!」
顔の前で手を合わせてこっちを拝むように頭を下げる莉子ちゃん。
「別にいいって。また今度行こうよ」
「ホントごめんね?今度なんか奢るから!」
そう言ってから、鞄を掴んで教室を出て行く莉子ちゃん。
その背中を見送りつつ、私はこの後どうしようかと考えるのだった。
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昔から、私は好奇心が強かった。
何でも知ってないと気が済まないタイプで、何かとあるとお父さんやお母さんに質問していた。
・・・多分、色々と手のかかる子供だったと思う。
自分である程度調べられるようになってからは、殆ど毎日図書館に行ってた。
高校に入ってからもそれは変わらずで、もうすぐ来る夏休みに私はウキウキしていた。
当然、図書館に入り浸れるからだ。
学校に通うために一人暮らししてることもあって、
家に居るよりはこっちの方が楽しいって言うのもあるし。
インターネットでもいいけど、嘘の情報も多いって言うし・・・
だから今日も図書館に行こうと思っていた。
思っていたんだけど・・・
「・・・閉館?」
図書館に着いた私の目の前にあったのは、閉じられた扉と一枚の張り紙。
【本館は7月10日を持って閉館となります。皆様の長い間のご利用に感謝すると共に──】
閉館は昨日。
ここ1ヶ月位は忙しかったのもあって行ってなかったけど・・・まさか閉館してるなんて・・・
「・・・はぁ。帰ろう」
やや落ちかけた夕日を見ながら、私はぽっかりと胸に穴が空いた気分で帰るのだった。
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「・・・あれ?ここって・・・」
帰り道。
何気なく回りを見回しながら歩いて居た時、私は一軒のお店を見つけた。
ちょっと前は確か・・・白い鯛焼き屋さんだったはず。
そこが変わって、今は小物屋さんになってるみたいだ。
【美貌換金屋】
そう描かれた看板がぽつんと立つだけのお店。
・・・なんだか妙に惹かれる。
「こ、こんにちは〜・・・」
恐る恐る扉を開けて中に入る。
中は結構広く、色々な物が所狭しと置いてある。
「いらっしゃいませー」
ドアベルが鳴り終わった頃、店の奥から声をかけられた。
そっちに目線をやると、ワンピースの上にジャケットを着た美人な人が立っていた。
「ど、どうも・・・」
そう挨拶して、私は店の中へと入っていった。
綺麗なガラスの小瓶に、宝石のような物が埋め込まれた指輪。
他にもサイコロや30%と書かれたシールみたいな物まである。
「・・・あれ?」
そんな小物達の中で異彩を放つ物がぽつんと置かれていた。
黒く、分厚いハードカバーの本。
背表紙には作者の名前が書かれてないし、明らかに他のとは雰囲気が違いすぎた。
「そちらにご興味が?」
「きゃっ!・・・え、ええ・・・あれも売り物なんですか?」
突然割り込んできた店員さんにビックリしつつ、彼女にそう聞く。
「ええ、この本は一見ただの白紙の本ですけど知りたい出来事を思い浮かべながら
一枚ページを取ると・・・」
そう言って店員さんは本から無造作にページをはがした。
真っ白い紙がひらひらと目の前で揺れる。
「ちょ、ちょっと!?」
「・・・こうやって知りたいことが書かれるんですよ?」
店員さんがそう言った瞬間、さっきまで真っ白だった紙に文字が浮かんでくる。
そこには・・・私の個人情報が全部載っていた。
「・・・!?」
「ふふっ・・・興味が湧きましたか?」
「・・・」
私は、店員さんの顔から目が離せなかった・・・
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自分の部屋に戻り、あの店員さんから貰った本を開く。
真っ白なページだけが続く本。
・・・ざっと1000ページ位はありそう。
「・・・これを使えば」
知らないこと全部が調べられる。
ニュースで放送しなくなったあの飛行機消失事件の真相も。
みんなが気になってる学校の試験範囲も。
何もかも・・・
「・・・でも、これを使うと・・・」
『御代は今は頂きません。ですがその本を使う度にお客様からある一定の美貌を頂きます。
ご心配なさらずとも決して健康を損なうようなことはありませんので』
店員さんの言葉が頭の中で再生される。
美貌・・・それがなんで有るかは店員さんも分からないという。
だけど、それで死んだりは絶対にしない。
髪の毛を何センチ貰うとか、肌荒れが酷くなるとか。
精々その程度だって言ってた。
本の力は本物。
ならその言葉も本当のはず・・・
「・・・」
・・・試したくてしかたなかった。
私は一枚ページをちぎり、今度の期末試験の範囲を知りたいと願った。
少しして、紙に文字が浮かび上がる。
「・・・そっか、ここが範囲か」
現れた文字は詳細な試験範囲が各科目全て載っていた。
「・・・体は、異常なさそう・・・?」
紙に文字が全て現れてから、私は体を確認する。
さっきと比べても別段何も変わった感じはしない。
一安心をした私は、もう一枚取ると再び知りたいことを頭に思い浮かべるのだった。
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「いよいよ夏休みだねぇ」
「うん、そうだね」
終業式の後、莉子ちゃんとこの前行けなかったカラオケに行くため私は駅前へと向かっていた。
うるさい位の蝉の鳴き声を聞きながら、アスファルトの照り返しを受ける。
・・・でも明日から夏休みかと思えばこの位なんて事は無い。
今年は特にあの本もあるし・・・これで一日中調べ物が出来る。
「でもホントーに助かったわぁ・・・あのテストの奴」
「アレぐらい授業聞いてればわかるよ」
「マジで?アタシ全然分かんなかったわ・・・」
「莉子ちゃんは寝てる事多いからじゃ・・・」
「お、言ったなぁ?」
「あ、ちょっと・・・くすぐらないでぇ!」
後ろから莉子ちゃんにくすぐられる。
こそばゆくて逃げようとするけど、莉子ちゃんは中々離してくれない。
「・・・ふーむ。ミキミキちょっち・・・てかかなり太った?」
急に手を止め、そう聞いてくる莉子ちゃん。
「あ・・・うん、試験勉強やる時に夜食とか摘んでたし・・・」
「あー分かる!夜ってお腹減るよね!?」
・・・と言っても、そんなに夜食を食べた記憶はないけど・・・
やっぱり夜は太りやすいんだろうか?
そんな事を話しつつ、カラオケ屋さんへと向かう。
「よぉーし!いっぱい歌うぞ−!」
「私も・・・少し練習したから頑張る」
「お、いいねぇ!気合い入ってるじゃん!」
そう・・・発声練習の仕方とカラオケでの上手な歌い方も、簡単に調べられる。
インターネットのよく分からない説明とは違う分かり易い正しい情報。
勉強もあって少ししか練習しなかったけど、実際に歌ってみたらそれでも前とは全然違った。
莉子ちゃんも色々と褒めてくれたり練習方法を教えてって言ったりしてくれた。
・・・やっぱりあの本は貰っていて正解だった。
支払いの美貌が何か分からないけど・・・問題は特に無いみたいだから大丈夫だと思う。
さぁ・・・明日から気になってること調べに調べようっと!
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「・・・あ、あれ?」
気がつくと、本の紙があと数枚しかなかった。
辺りには読み終わった紙が散乱してるし・・・
「集中しすぎた・・・はぁはぁ・・・かな?」
机の上の時計を見ると、時間は八時を指していた。
・・・八時?
「朝・・・」
カーテンから差し込む日差しは今が朝だと言うことを示してる。
もしかして丸一日使っちゃった?
「・・・流石に・・・はぁはぁ・・・お腹空いた・・・」
そう思うと急にお腹が減ってくる。
私は立ち上がろうと体に力を入れた。
・・・はずだった。
「あ、あれ?」
だけど私の体はぴくりとも動かなかった。
まるで全身に重りが付いた見たいに、全く動かなかった。
長い間床に座りすぎてて血の巡りが悪くなっちゃったのかもしれない。
そう思って、足をマッサージしようとした時だった。
【ぶにょん】
「・・・え?」
手が、足に沈み込んだ。
何か、とてつもなく柔らかな"何か"に手が飲み込まれていく。
【ぶにぃ・・・】
視線を下に向けようとして、首の回りに違和感を覚える。
まるで、"何か"が動きを阻害してるみたいに。
手で触ってみると、さっき足に有った物と似ている。
「・・・なにこれ?」
睡眠不足なのか、頭がボーッとする。
私は手で首をもう一度触り、首も触られている感覚なのに気付く。
「・・・あ・・・え・・・?」
そこで私は、ようやくぶにぶにとした物が私の皮膚である事に気付いた。
無理矢理顔を下に向けて、自分の体を確認する。
「い、いやぁぁぁあああああああああああああ!?!?!?」
私の体は・・・全身贅肉に覆われていた。
足は殆ど全部お腹の肉に埋まり、おへそなんて全く見えない。
その足も見えてるところはまるでドラム缶みたいに太くて、横に平べったく垂れてしまってる。
胸はお腹の上にドーンと乗り、視界の殆どを奪っていく。
指はまるで一本一本がフランクフルトみたいな太さで、腕その物だってまるで人の腕には見えない。
息が苦しいと思ったら、ホッペのお肉が口をすぼめているみたいで全然口が広がらない。
まるで、昔見た映画の化け物みたいだ。
「何!?なんで!?」
頭の中では分かっているつもりでも、口から出るのはなんでって言葉だけ。
動かない体を揺すりながら、考える。
・・・理由なんて一つしか無い。
「・・・本」
あの本。
美貌を代金に何でも教えてくれる本。
美貌はきっと私の細い体で・・・これは代金を支払ったと言う事なんだ・・・
「・・・そ、そうだ!痩せる方法!」
本のページをめくり、頭に思い描く。
痩せる方法・・・いや、元の体型に戻る方法を。
やがて浮かんでくる文字。
はっきりするのが待ち遠しくて、手に自然と力が入る。
やがて現れた文字は・・・
『正式な支払い契約の元行われた支払いを元に戻すのは不可能である』
私の心を、完全に砕くのだった。
吉川 未樹
身長:154cm
体重48kg → 58kg → 1127kg
B:86cm → 93cm → 243cm
W:61cm → 68cm → 418cm
H:79cm → 85cm → 368cm