私のアイドル
金本 有香(かねもと ゆうか) 18歳 身長:156cm 体重:42kg B:82 W:56 H:77
メイクラークプロに所属するアイドル、顔も良いしスタイルも悪くないのだが余り人気は無い。
「キャラの方向の転換・・・ですか?」
ある日、私は高月(たかつき)社長に呼ばれた。
私売れてないし、もしかしたらクビ?とも思ったのだけど、
どうやらそうではないようで一安心した。
「ごめんね、僕としても金本君にはそのままで行って欲しかったんだけどね・・・
どうしても売り上げを優先するとねぇ・・・」
社長は非常に申し訳ないと謝ってくれた。
こっちとしてはクビじゃないからどちらかと言えばありがたい話だ。
「いえ、私が売れないのが問題ですから・・・」
「いや、金本君は可愛いよ!ただ僕たちに売る力が無かっただけなんだ・・・」
「・・・」
少しの間だ沈黙が流れた。
そんなに大きくない事務所だからプロデュースも社長の仕事になっている。
だから彼を責めるわけには行かない。ただでさえ色々忙しいのだから。
「それで、方向を変えると言ってましたが?」
「ああ、そのことなんだがね。金本君。
君にはぽっちゃり路線に行って頂きたい」
「・・・はい?」
「あの・・・ぽっちゃりですか?」
「うん、ぽっちゃり。
はっきりと言ってしまえば君には太って貰おうかなと」
なんですかそれは・・・
「あの社長・・・その路線はどうかと・・・」
「いやいや!最近は太った女性の愛好家達も結構な人数になっているだよ!」
これを見てくれと社長はノートパソコンをいじり、とあるネットのニュースページを見せてくれた。
そこにはとある調査会社がネット上でアンケートをとった物で、
最近のアイドルの体型についてどう思うかという物だった。
そこには『細すぎる:59% 丁度良い:34% もっと細い方が良い7%』という結果が載っていた。
「最近のアイドルは細すぎるという意見がやっぱり多いんだよ。
つまりだ、今ぽっちゃり系のアイドルを売り出すというのは他の会社の一歩先を行けるんだ。
なので今がもっとも良いと思うんだ!」
言いたいことは判った。だが・・・
「で、ですがそれは一部の話では・・・」
「一部でも需要があるのは事実だよ。
マイナーな料理屋がつぶれないのと一緒さ」
「そ、そもそもそういうのはグラビアの方の話では・・・」
「確かに最近は樽ドルというのもあるね。
でもね、僕が目指しているのは『歌って踊れるぽっちゃりアイドル』なんだよ」
あほか。
「流石にそれは難しいんじゃ無いですか?」
「そんなこと無いよ。芸人さんで太ってるけど踊りで笑いを取ってる人も居るし、
お相撲さんなんて普段凄い稽古してるけど太ってるでしょ?」
「それとこれとは流石に別問題です!」
「うーん・・・やっぱり駄目かなぁ」
「駄目だと思いますよ・・・」
「でもねぇ〜」
そういうと社長はPCをいじりはじめ─
「もう告知しちゃってるんだよね〜」
ウチの事務所のHPを見せてきた。
そこには
『メイクラークプロが送る、全く新しいアイドル!その名もぽっちゃりアイドル!
今までのアイドルとはひと味違うぜ!』
なんて見出しがデカデカと書かれていた。
「!?なにやってんですか!」
「あっはっは!」
「あっはっは!じゃないですよ!最初から断らせるつもりなんて無かったんですね!」
「ごめんね〜ウチも厳しいんだ・・・
僕としてもこんな手段は取りたくなかったんだけどね。
それに新しいプロデューサーも雇ったし・・・断られる訳にもいかなくてね。
こっちとしても先行投資しちゃってるし」
「ひ、卑怯な!」
「卑怯で結構、経営者というのは時には残酷で無きゃいけないんだ」
「・・・そんなにウチやばいんですか?」
「これこけたらワンチャン倒産まである」
「 」
「というわけで、宜しくね。あ、発表は4ヵ月後の29日だから」
ポンッと両手を私の肩に置く社長。
最悪である。
社長に『新しいプロデューサーが来るから顔合わせしておいてね』と言われ、
事務所の一室で待つことになった。
今だやる気は起きないがそれでも挨拶は大事だろう。
そんなことを考えているとノックの音が響いた。
「はい、どうぞ」
「失礼します」
ハスキー、中性的よりもやや下位の通りの言い声が聞こえた。
ギィと扉を開けて入ってきたのは、なかなかどうしてのイケメンだった。
少しくせっけのある髪に、中性的なすっと鼻筋の通った顔立ち、身長は180近いだろうか。
スラッとした体型でまるでモデルのようだ。
「初めまして、金本さん。
今日から貴女のプロデュースを担当することになった森丘 真琴(もりおか まこと)です。」
「ど、どうも。金本です」
なにを照れてるのだ私は・・・
「お話は聞いてます、女性として大変心苦しい事だと思いますが頑張っていきましょう」
「は、はい」
「では今後の活動ですが、暫くは体系作りに専念して頂きます。その後は─」
暫く森丘さんと方針について話し合った。
とりあえず暫く太りながら下地となる筋肉を作るらしい。
これが無ければ踊れないだけで無く、垂れてしまうらしい。
そうするとまるで中年太りのようでみっともないのだとか・・・
それは流石に全力で回避したい。
その後ダンスレッスンや歌のレコーディングなんかをやるそうだ。
「大まかな流れは以上になります。
なにか質問はありますか?」
「えっと・・・体系を作るのは判るのですがどうやって?」
「それは専門のトレーナーさんを用意してありますよ。
あとこれを飲んで頂きます」
そう言うと森丘さんは水筒を取り出した。
「なんですかこれ?」
「ちょっとしたドリンクです。基本的にはこれを毎日一定量摂取して頂きますので」
「はぁ・・・」
「それとおやつにこれを食べて頂きますね」
今度はメロンパンのような物を渡してきた。
「これですか?・・・食べてみても?あとその飲み物も」
「ええ、どうぞ」
まずはパンから。
味は中にチョコレートがあるのか、少々甘めだが普通に美味しい。
飲み物はなんというか・・・ココアにピーナッツを足したような味だった。
「これと平行してこちらが用意した食事をとっていただきます。
つらいとは思いますが、頑張りましょう!」
「はい・・・」
これからのことを考えるだけで憂鬱になるわ・・・
あれから一ヶ月がたった。
この間私はひたすらに食べた。
カツ丼や牛丼はもちろん。ラーメン・ピザ・揚げ物。これでもかと食べた。
もちろんいわれた菓子パンとドリンクは毎日とっている。
最初の頃は甘い生活に嬉しさを感じても居たが、日常になってしまえば最早何も感じない。
それよりもだ─
「増えたなぁ・・・」
体重の増加率がヤバイ。
一ヶ月で15kg増だ・・・
元が42kgだからまだ「ふくよか」とも言はれるだろうが、
新しい服と昔の服を比べるたびに『あ、私太ったな』と実感する。
「いい感じですね、欲を言えばもう少しバストが欲しかったですが・・・まぁいいでしょう」
森丘さんにスリーサイズのデータを読んでもらう。
なかなかに恥ずかしい・・・
「ではもう少し体重を増やしたら今度は振り付けの練習をしていきますよ」
「え・・・?これ以上増やすんですか?」
正直に言うと、個人的には十分にぽっちゃりといえるレベルだ。
「ええ、流石にあれだけ大々的に打ち出したんです。
もう少しインパクトを出したいんですよ」
「言いたいことはわかりますが・・・そもそもどの程度まで増やすつもりなんですか?」
そう聞くと森丘さんはすこし考え込みながら
「そうですね、その時のファンの方の期待なんかにもよりますが、
90kgかもしくは100kg超ですかね」
そう告げた。
「─は?90ですか・・・?」
それはもう完全にデブの領域だ。
「うん、少なくとも社長はそのつもりみたいですね」
「いやいや、流石にそれはぽっちゃりで済むレベルじゃないですって!」
「その辺は男性と女性の価値観の差だと思いますよ」
「なわけないでしょ!」
「と言われましても・・・社長の決定には逆らえませんし、何より・・・こうなってますし」
そういいながら携帯をいじってネット掲示板を見せてきた。
そこに書かれていたのは
「『メイプロの大型(文字通り)アイドルがやばい? 29スレ目』?」
どうやらワタシの事についてのようだ。
そこには─
286:名無しのアイドル好き。:ksVDEAs112
やっぱり気になるのは体重だよな?
287:名無しのアイドル好き。:Mesayys980
俺的予想でいくと85↑は硬いな
288:名無しのアイドル好き。:VAsJJUt657
個人的にはいっそ100kg越えくるといい感じだな
289:名無しのアイドル好き。:lsjhu88bum
↑デブ専乙
290:名無しのアイドル好き。:ksVDEAs112
でも個人的にはそれぐらい思い切ってやって欲しい気もするw
291:名無しのアイドル好き。:oomyyhku86
まぁ最近は細い子ばかりだからなぁ・・・
これで120kgのアイドルとか来たらワンチャンアイドル界に旋風くるで
そんな感じでいろいろ書いてあった。
スレの中には『売れない』とか『いくらなんで70kg位で終わり』などと言う意見もあった。
しかし、全体的な意見は『85kg越えは確実、もしかしたら120kg越えあるか?』と
言った感じだった。
「これを見る限り、ファンの方々は皆さん120kgより上の体重をお望みのようです
一部は冗談でしょうが中には本気で望んでる方もいらっしゃいます。
期待されてる方が居る以上、それをこなしてこそのアイドルと言えます」
嘘だと言って欲しい。
さらに一ヶ月が経った。
現在の体重は83kg。食事の効果もそうだが、ダンスの振り付けの練習が始まったため、
筋肉が付いた分、予定よりも体重が増えたのだ。
地味にバストとヒップがメートル越えだとわかってショックだったりもする。
森丘さんと社長はいい事だと言っていたけど・・・
それでもまだまだらしい・・・
打ち合わせの途中でふと社長が言ってきた。
「なかなか順調のようだね、金本君」
「ええ、不本意ですが」
「はは、本当にすまないとは思ってるよ。
言ってしまえば君は人柱だからねぇ」
「・・・でも仕方なかったんですよね?
納得しきったわけではないですが・・・理解はしたつもりです」
「そうか、ありがとうね」
そういうと打ち合わせは終わりなのか、社長は奥へと引っ込んでしまった。
「社長もあれで結構悩んでるようなんですよ。
『自分の勝手で彼女には苦労を〜』なんてよく言ってます」
「・・・森岡さん」
「はい?」
「森岡さんは成功すると思います?」
「・・・させるんですよ、成功」
そう答えた森丘さんはにっこりと笑っていた。
「・・・ですね、ここまで来たら戻れませんもんね」
決まった。
こうなればとことんいくしかないだろう。
やるしかないのだ。
「レコーディングお疲れ様でした。
はい、ドリンクです」
いよいよ私の発表を来月に控えたある日。
その時に同時発表する新曲のレコーディングを終えたのだが・・・
「森丘さん。やっぱり私太りましたか?」
「・・・ええ。こちらとしては思惑通りというところですが、やっぱり一般の方からすると・・・」
やっぱりか。
体重はこの前100kgを越えた。
三桁。
これが現実であることを認めたくない。
しかし、目の前にあるこの前測ったスリーサイズのデータが「お前はデブだ」と告げてきている。
すべてのスリーサイズがメートル越えというデータ。
地味にヒップが一番でかいというデータ。
なんというかあざ笑われているようだ。
「はぁ・・・」
どうしたってため息が出る。
「やっぱり疲れますか?」
「まぁ・・・肥るって大変なんですね・・・」
ダンスの振り付けを覚えるためには長い時間運動しないといけない。
もちろん筋肉もつく。というか無いと踊れないし。
それ自体はいいんだけど、代謝があがるのが問題なのだ。
もちろんこの脂肪がそう簡単に落ちるわけが無いのだが・・・
あとやっぱりアイドルということで、吹き出物なんかはNGだし、肌荒れもよろしくない。
スキンケアも重要なのだ。
だらだらすれば肥るのは簡単なのだが、そうもいかないし。
最近はカロリー摂取のために例の菓子パンとドリンクを多めに取っている。
「この後衣装合わせですが、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ、今日の仕事はそれで終わりですよね?」
「はい」
衣装合わせがそんなに疲れるか?と聞かれると答えはYESだ。
そりゃ普通はただ立っているだけだし、そこまで疲れないと思う。
でも私は100kg越えなのだ。
そうするとただ立つというのが意外とくる。
それが下手すると2時間以上かかるのだ。
というか太ももが足を閉じていても当たるという事実が心を折りに来る。
なので結構重労働なのだ・・・
「はい、お疲れ様でした。」
「お疲れ様でした」
結局1時間以上かかってしまった。
「うーん・・・このペースだと予想修正大目にかけたほうがよさそうですね」
「予定ではこの位をですね・・・」
森丘さんが向こうで衣装さんといろいろ打ち合わせしている。
衣装さんには大変申し訳ない。
デザイン字体は決まっているのだがなにぶんこっちも体重がうなぎのぼりだ。
その上で私はどこが肥りやすいとか、そういったことを色々考えながら
デザインし直してもらっている。
「では、そのようにお願いします」
「わかりました。ではまた今度」
どうやら打ち合わせが終わったらしく、森丘さんが近づいてくる。
「お待たせしました。社長から今日はそのまま帰っていいとのことなので、お送りします」
「ありがとうございます」
お言葉に甘えて送ってもらうことにする。
正直最近は歩くのが厳しくなった。
「・・・恨んでくださって結構ですよ」
「はい?」
車に揺られていると森丘さんが急にそんなことを言ってきた。
「我々大人の勝手な理由であなたに辛いことを強いてしまって・・・」
「・・・別に、気にしてないですよ。
そもそも私だって断ろうと思えば断れたんですから」
そう、多分あの社長の事だ。
私以外にも何人か候補がいたはず。
多分あの場で断れば「そっかー」で済ませたはずだ。
「じゃあ何で受けたんですか?」
「多分・・・売れてない自分がいやで、心のどこかで売れたい!って望んだからですかね?」
自分が売れてないのはわかっていた。
でも「別に売れなくてもある程度のファンがいるからいいっか!」なんて、強がったりもしてた。
もちろんそう思ってたのは事実だし、実際少ないけどファンがいたのは確かだ。
でも、やっぱり売れたいとは思ってた。
「だから断らなかったんだと思います。
だから気にしないでください」
「・・・ありがとうございます」
それっきり会話もなく、私は家まで送ってもらった。
「照明どうだー!?」
「舞台装置準備いいな!?」
いよいよ私のお披露目の日だ。
周りではステージの準備で大忙しだ。
なんというか、わくわくがとまらない。
「金本さん、そろそr準備入ってください」
「あ、はい」
森丘さんに言われて準備に入る。
さぁ、いよいよだ。
「皆様。本日はメイクラークプロのアイドル発表会にお越しいただきありがとうございます」
司会進行役の社長が挨拶を開始する。
思えばこの四ヶ月、私は『変わる』ために動いてきた。
今日が私の新しい一歩になる。
「それでは登場していただきましょう。
身長156cm、上から127、119、141!体重140kgの超!大型アイドル!
金本有香ちゃんです!」
社長の言葉とともに幕が開く。
照明の光が差し込んで私に集まる。
「みなさ〜ん!私のお肉に埋もれてください!
それではいきます!お聞きください!『私のアイドル』です!」
「ふぅ、やれやれ・・・まったく君の読み通りか」
「社長の、でしょ?」
「僕は素材を選んだだけ。
この状況を作り上げたのは君。まったく食えない人だねぇ〜
まったく、あれから数ヶ月でこの人気か・・・」
「ふふ、でも社長ほどではないですよ?男装させるなんて」
「ああ、あれ?いやーその方が金本君もやる気になるかなって思ったんだけど、
あんまり変わらなかったかな?」
「まったく・・・でも売れてよかったですね、彼女」
「ほんとだよ。見てよこの新聞。
『新たなるアイドル!未だに成長を(横にも)続ける!?ぽっちゃり系アイドル爆誕!』だってさ」
「彼女言ってましたよ?『売れたかった』って。
社長がプロデュースしたんなら何で売れなかったんです?」
「うーん・・・そればっかりはわからないかな?」
「またまた・・・じゃあ私は彼女との打ち合わせがあるのでこれで」
「はい、いってらっしゃい。よろしくね」
「では、失礼します」
「「何で売れなかったか」か・・・多分、彼女はこうなる運命だったのかもね」
金本有香のスリーサイズ。
一ヶ月目:身長156 体重:57 B:92 W:74 H:86
二ヶ月目:身長156 体重:83 B:104 W:97 H:101
三ヶ月目:身長156 体重:110 B:114 W:107 H:123
四ヶ月目:身長156 体重:140 B:127 W:119 H:141
?ヵ月目:身長156 体重:232 B:162 W:157 H:178