双子の見分け方
魔王:年齢:不明 身長:197cm 体重:78kg
魔族を統べる魔王。本名は誰も知らない。
実力主義の魔族のトップだけあってその能力はすさまじい。
ニーシャ:年齢:1567歳 身長:161cm 体重42kg B:88 W:54 H:75
メーゴス(人型の魔物で、灰色のような肌に銀色の髪、紫の瞳が特徴な種族)の双子の姉の方。
魔術に長け、その実力から一目置かれているが、悪戯好きで良く魔王をからかっている。
ミシェ:年齢:1567歳 身長:161cm 体重42kg B:88 W:54 H:75
メーゴスの双子の妹の方。同じく魔術に長ける。
姉と一緒で悪戯好きで姉と結託して良く魔王相手に色々やる。
世界背景
:魔族と人間の戦争は先代魔王の時代に終結。
それから3000年ほど経っており、双方の関係も割りと友好。
魔族はトップである魔王を中心としている。人間達は各国の首脳が集まり連合を形成している。
ここは魔王城の主たる魔王の部屋・・・
この部屋で優雅に椅子に腰掛けるその男こそ・・・
「・・・」
魔王、その人であった。
彼には今、一つのある悩みがある。それは・・・
「魔王様?どうなされましたの?顔色が優れませんわよ?」
「あらヤダお姉様、魔王様の肌の色は元々紫で、とてもとても、
優れた顔色だなんてそもそも言えませんわ」
「あら、そうでしたわね。」
そう、こうやってクスクスと笑うこの双子のサキュバスの所為だ。
性根が悪いのか─魔族としては良い事かもしれないが─はたまたただの悪ガキなのか・・・
魔王はこの二人から色々と悪戯を受けていた。
例えば朝起きたらベッドの中に何故か人間の使う爆弾が入っていたりとか。
風呂に入っていたら上から毒の沼の水が降ってきたりだとか。
しかも質の悪いことになまじ優秀なため、クビにしたくとも出来ないのが現状である。
「おめーら、そんなに余の仕事増やしたいの?」
「あら?そんなこと無いわよね?ミシェ」
「勿論ですわ、お姉様」
「ならよ・・・何で余の名義でこんなもん買ったわけ?」
魔王が指さす先にはどういうわけだか、
この石造りの威厳ある部屋には似合わないとってもファンシーなぬいぐるみが鎮座していた。
しかも無駄にでかい。2m近い身長を持ち、筋骨隆々の魔王とそう変わらないでかさなのだ。
「あら?私(わたくし)達はただただ、魔王様のこの寂しいお部屋を彩ってあげようと」
「まるで私達が何か企んでるようでは無いですか。私悲しいですわ」
「よくそんなことが言えるなオイ。
十中八九この中なんかヤベー物入ってるだろ」
しかもかなりの確率で魔王は怪我する程度で済むが、普通の魔族とかにはヤバイ物。
つまり何が出てきたとしても魔王が対処しなければいけないのだ。
「おめーら不敬罪って知ってるか?」
「あら、私達ほど魔王様を敬ってる者は居りませんわ!」
「まったくですわ。酷いお人ですこと」
「・・・」
頭痛がしてきた魔王は早速このファンシーでなんだか見てると
精神的に不安になるぬいぐるみを処分することにした。
中を透視で調べると中央部分になにやら魔力反応があるようだ。
「よっと」
ずっぽりとぬいぐるみの腹に手をつっこみ、中にある謎の物体を取り出す。
そして中身を確認しようとした瞬間─
「なんだと───」
謎の物体が爆発した。
「おし、じゃあおめーらに課せる罰を決めないとな」
ドリフ宜しく煤が付いて真っ黒になった服を払いながら魔王が二人をにらみつつ言う。
「あらヤダですわ、あれは私達からのほんの些細なプレゼントですのに」
「うん、これ以上巫山戯た事いうと、いくら余が寛大な心の持ち主でも切れるからな?」
「おお、怖い怖い。短気は損気ですわよ?」
「いや普段ちょっとやそっとじゃ切れ無いよ?」
これ以上こいつらのペースに乗るのは危険だと判断した魔王は、
さてこいつらをどう処罰するかと悩んだ。
そして一つ面白い事を思い付く。
「・・・一つ賭をしようじゃないか」
「賭ですの?」
「そう、賭だ。おめーらは双子、それもガチでそっくりだ。ぶっちゃけ余も時々判らん」
「勿論ですわ。私とお姉様は二人で一人ですもの」
「だろ、と言うわけで一ヶ月後、お前達を一発で見分けられたら余の勝ち、
見分けられなかったらおめーらの勝ちだ」
「あら、随分と自信がおありのようですわね?」
「ですが私達をそう簡単に見分けられますかね?」
クスクスと笑う二人を前に、魔王はにやりとしている。
「それで?賭に勝ったらどうなさいますの?」
「余が勝ったらおめーらには悪戯禁止を誓って貰う」
「私達が勝ったら?」
「一人一回ずつなんでも言うこと聞いてやるよ」
「あら、面白い。ミシェはどう思います?」
「望むところですわ」
二人とも乗り気だ。
今まで自分たちを見分けられた者は居ないのだ。
それこそ自分たちの親でさえ。
魔王だってこうやって名前で呼び合っていれば判るようだがちょっと本気を出せば判らない。
そう高をくくっているからだ。
「よし、じゃあおめーらにはこれから一ヶ月間別々に生活して貰うわ。確かおめーら」
「・・・え?」
「いや、えじゃねーよ。さっきの賭け事は別に罰でも何でも無いし、こっちが本命の罰だよ」
「いえ・・・寧ろこんな事で宜しいので?」
「おう。あ、安心しろ?ちゃんと判断の前日には会わせてやるから。
それともなんか問題あったか?」
「い、いえ。魔王様が宜しいのでしたらそれで構いませんが」
「じゃあどっちか片方を今度人間側との会合があるボーシュの街に行って貰って
準備をして貰うから。
あー・・・ジャンケンでもして適当に決めてくれ」
投げやりかつ妙にサクサクと決める魔王に多少の不信感は残ったが、こちらとしては非常に有利だ。
そう踏んだ二人はどちらが面倒な場所へ行くかを決めるためジャンケンを開始したのだった。
「ミシェ様、お待ちしておりました。私はここの警備を任されておりますメイガと申します」
ジャンケンに負けて、ボーシュの街に来たのはミシェの方だった。
3日ほどかけ、街に着くと同時にリザードマンの男、メイガが出迎えに来た。
「ご苦労様ですわ。早速で申し訳ないのですけど、私疲れてますので砦の方へと案内して頂ける?」
「はっ。すぐに」
この街の両側のはずれには人間の物の砦と魔族の砦と二つある。
元々ゴーシュの街は別にこれといって特色も無い街だった。
精々近くの鉱山から質の良い鉱石がとれるぐらいの話だった。
だが先の大戦の終わりに定められた人間と魔族との和平条約の結果、
この街の中心を丁度国境が通る形になってしまったのだ。
結果、双方ともに砦を立て、牽制をする形となった。
しかし時代が経つにつれ不要の物となった。
代わりにこの街を会談の場にする事が多くなり、砦は各方面の宿泊施設として機能している。
そのおかげでこの街は魔族と人間が親密に暮らす街となっている。
「そういえば私ここでの仕事を聞いてませんの、教えて頂けるかしら?」
「はっ!ミシェ様には会合でお出しする料理を見ていだきたいのです」
「あら?その程度の話ですの?」
「他にも会場の結界を貼って頂いたりもして頂きますが主立った仕事はこちらとなります。
魔王様が仰るにはミシェ様とニーシャ様は大変料理に精通なされてるとか」
「まぁ食べ歩きは趣味の一つですが」
「ではそのお力をお貸し頂きたきたい!」
「まぁ良いでしょう」
これは簡単な任務だったなとミシェは考え、視線を馬車の外にずらした。
ゴーシュの街の空は高く、青かった。
「こちらがお部屋となります。何か有りましたら扉の前に居る者に言い付けて下さい」
「判りましたわ」
部屋に通され、ようやく一息を付くミシェ。
建築されてから1000年以上経ったというのにこの砦は非常に頑丈そうだ。
部屋自体の造りも悪くない。
壁に書かれている模様もすこしゴテゴテしているイメージもあるが悪くない。
「しかし・・・長旅というのは疲れますわね・・・ふぁ・・・」
旅疲れからか、ミシェはうとうととし、やがて眠りについた。
「ミシェ様、夕食の時間です」
「・・・んぅ・・・」
メイガに揺さぶられ、ミシェは目を覚ました。
どうやらかなりの時間を寝ていたようだ。
「あら、もうそんな時間ですの?」
「はい、お食事はすでにこちらにお持ちしてあります」
メイガが手を叩くと扉が開き、いくつもの料理が料理人と思われる連中によって運ばれてきた。
それぞれかなり高級な料理に見える。
「こちらは実際に会合にお出しする予定の物です」
「つまり味見も兼ねてるという事ですわね?」
「はい。あ、それとこちらをどうぞ」
そういうとメイガは一本の果物酒をとりだした。
「こちらも会合にお出しする酒と同じ物です。味の組み合わせなども参考にしたく」
「判りました、頂きます」
「では、お楽しみ下さい」
そういうとメイガは料理人と一緒に部屋を出て行った。
「では・・・頂きますか」
酒の栓を抜くとキュポン!と小気味の良い音が鳴り、部屋にアルコールの芳醇な香りが満ちる。
それをグラスに注ぎ、一口飲む。
「あら、中々の味ですわね」
気に入ったのかクイッと飲み干す。
また新しい物を注ぎ、料理を食べ始める。
「ふむ、これは少々味が濃いですが、まぁお酒には合いますでしょう。
こちらは少々薄味過ぎますわね。
こちらの甘い物はちょっとクリームが多すぎますわ───」
こうして割りとまじめに料理を評価しながら夕食を取ったのだった。
「よし。これでここの結界は大丈夫ですわ」
「おお!ありがたい!」
「やはり魔王様の側近であらせられるミシェ様に見て貰って正解ですなぁ!」
「あら?褒めても何も出ませんわよ?」
軽口をたたき合いながら砦に居る魔術師達と談笑するミシェ。
会場の安全を守るための結界を確認して欲しいとのことで探ったところ
意外と時間がかかってしまった。
(それにしても最近何となく動きにくくなったような気がしますわね・・・)
ここ二、三日の話だがどうも身体が上手く動かない。
最初は気のせいかと思ったがどうも違うようだ。
(慣れない環境で少し疲れがたまってるのかしら?)
そう判断を下すと談笑を切り上げ、部屋へと帰っていった。
「さて、今日はどんな料理かしら?」
今日も会合用の料理の味見を兼ねての食事をとる。
その回数が増えてることに気付かぬまま・・・
「うー・・・暇ですわ・・・」
砦に来てから一週間。する事と言えば食事の味見と、時々結界が緩んでないかの確認。
会合まであと約一月、準備自体は大体終わっており、後は出す料理を決める程度なのだが・・・
「人間と魔族、両方に合う食事というのは中々面倒ですわね・・・」
人間は宗教的に食べられない食事が多い。魔族は一部の食材に対して一種のアレルギーがある。
そう考えると色々と面倒なのだ。
「はぁ・・・流石に魔王様と違ってここの方達で遊ぶわけには行きませんものね」
あんな悪戯を食らったらそれこそ形すら残らないだろう。
結果として自粛をせざるを得ない形になっている。
ため息をつきながらゴロゴロとしていると・・・
【むにゅん】
(・・・)
嫌な感触がしたミシェは腰に─というか腹に─手を当てた。
【もにゅ】
「・・・!?」
服の上からもはっきりとつまめる位にウエストに贅肉が乗っている。
慌てて全身を触るとはっきりと判る。
「・・・もしかしなくても太ったんですの・・・?」
ミシェに衝撃が走る。
昔からダイエットなんて言葉とは無縁の生活だった。
食べても太らない。というか太ったためしがない。
そんな自分がまさか太った?
「や、痩せなくては!」
こんな身体は嫌だし、なにより魔王との賭がある。
お姉様が元の体型だとすると一発でばれる!
お姉様に相談なんかしたら絶対に色々言われる・・・
そう考えたミシェは運動をしようと立ち上がった。
立ち上がったのだが。
「失礼します、お食事をお持ちしました」
ノックとともにメイガが食事を持ってきた。
「あ、あら。そ、そういえば頼んでいたのでしたわね」
(ガーンですわ。出鼻をくじかれましたわ)
「はい、ではまた評価の方を宜しくお願いします」
「わ、判りましたわ。まとめておきますので後ほど取りに来て下さる?」
「はっ。では我々はこれで。ごゆっくりとお楽しみくださいませ」
そういってメイガ達は部屋を出て行った。
残ったのはできたてで湯気と良い香りが漂う料理。
「・・・これもお仕事ですもの。とりあえずこれを食べてからですわ」
彼女はまだ気付いていない。
食べたら絶対に動きたくなくなることを。
そしてそのままうたた寝をしてしまうという罠に。
「まずいまずいまずいですわ!」
ばたばたとせわしなく動き回るミシェ。
砦に来てから2週間。
ミシェの体型は痩せるどころかさらに増加していた。
もはやぽっちゃりで済ませる事が出来ないほどに太ってしまった。
胸は元々大きかったのだが、今や爆乳サイズで、肩が凝る。
お腹はくびれなんてどこ吹く風。どんっと巨大な腹が鎮座している。
太ももはお互いに干渉するレベルに太くなり、歩く度に揺れる揺れる。
二の腕もぷるんぷるんとたわむほどに太くなった。
せめてもの救いは顔には余り肉が付いておらず、可愛らしい顔をとどめたままであることだろう。
「なぜ!どうしてこんな事になったんですの!?」
どういうわけだか彼女が運動をしようとするとタイミング良く
差し入れやら食事やらが運ばれてくる。
さらに仕事なのでなるべく全部食べないと正しい評価が出来ないのではないか?と言われ
毎度完食をしている。
一応早朝に走ったりしているのだが効果は全く出ていない。
「・・・というか何故こんなに太ったんですの?」
ふと、考え直してみる。
何故こんなに太ったのかと。
飯の量は確かに多いとは思うが、それにしたって増えすぎだではないか?
それもここに来てから急にである。
「・・・盛られた?でも私を太らせて一体何のメリットが・・・はっ!まさか魔王様!?」
頭をよぎったのは先日魔王と交わした賭の話。
ここまで太れば姉との区別など容易いことだ・・・
「まさかこれを見越してどこかのタイミングで私に薬を・・・?
それ以外の人に私を太らせるメリットなんて無いですし・・・」
しかし、そう判れば話は早い。
何かの薬物であれ、魔術的要因であれ、なんらかの解除方法があるはずである。
そう考えたミシェは医務室へと向かった。
「うーん・・・特に薬物の反応は見えませんねぇ・・・魔術的な物も特に感じませんし」
「そうですか・・・」
とぼとぼと医務室を後にする。
診断の結果そういった薬が盛られた形跡も、魔術をかけられた痕跡も無かった。
「どういうことですの・・・?
普通ここまで影響を出す薬でしたら体内に蓄積してるはずですわ・・・」
原因が分からない。
これがミシェには非常に気味悪く思える。
「と、とにかく!少しでも痩せないといけませんわ!」
グッと拳を握り、決意を新たにするミシェ。
「でも、その前にお仕事ですわね」
・・・緩い決意かもしれない。
「ふむ、これとこれはお出ししても良いと思いますわ。あ、これは人間には苦手な方が多いですわ。
あとこっちは──」
会合の前日、砦に来てから三週間ちょっと。
ミシェは料理長達に明日だすメニューの最終確認をしていた。
明日のために今までさんざん料理を食べてきたのだ。
みんな真剣な表情で会議をする。
「──こんなものでしょう。では皆さん、明日宜しく頼みますわよ?」
「はいっ!」
かけ声とともに料理人達は各下準備やらに取りかかる。
(これなら特に問題ないでしょう)
ふぅと一息を付くミシェ。
深呼吸すると思い知らされる。
(・・・太りましたわね)
あれからダイエットやら、料理人を説得して食事の量を減らして貰ったりしたが
結果としてはより太っただけである。
(今の私って魔族の中でもトップクラスに太ってますわね・・・)
初めての人は彼女のことをもしかしたらオークの亜種と勘違いするかもしれない。
その位に今の彼女は太っている。
この間までは走ることも出来たのだが、最近は大樽のような太ももが邪魔をし、
まともに走れなくなった。
腹筋をしようにも小山のようにそびえ立つ腹が邪魔をし、正直全く上がらない。
胸が大きくなったのは嬉しいが、スイカ大のこれは今やただの邪魔な荷物だ。
丸太のような二の腕は、肩を回すのにも干渉する程である。
最近首がなくなった顎は、完全に二重顎である。
頬にも大分肉が付き、最近しゃべるのも多少苦労する。
まともに歩くことすら苦労するレベルなのだ。
移動は専ら魔術を用いてふわふわと浮くように移動している。
当然動くことが難しくなった分、体重の増加もどうやら右肩上がりになっているようだ。
(うぅ・・・どうすれば良いんですの?)
全く体重が下がらないこの状況である。
原因が分からないのでは打つ手も無い。
努力も無駄に終わった。
(まぁでも、これで私の仕事も終わりですし、食べる量も減ることでしょう)
そう、明日が本番である以上、彼女のアドバイスはもういらないのだ。
そう考えれば気が楽になる。
「あとは明日を無事過ごし、魔王城へ帰ってきちんと体重を落として終わりですわ」
ふふふと笑うミシェ。
だが、これで終わりなわけがなかった。
「おー、帰ったか。任務ご苦労」
「お褒めにあずかり・・・ふぅふぅ・・・光栄ですわ・・・ふぅふぅ・・・」
賭を判定する前日、ミシェは魔王城へと帰還し、魔王へ報告をしていた。
会合の時に魔王は転送魔法で会場入りをし─本人曰くパフォーマンスらしい─
会合が終わるとほぼ同時に城に帰ったため、問いただすことは出来なかった。
なのでミシェはここで色々と問い詰めるつもりだったのだ。
「しっかし、おめーら姉妹は良く食べ歩きしてるって豪語するだけあって良い会合だったぞ。」
「それは・・・ふぅ・・・ふぅ・・・良かったですわ・・・」
「おう、しっかしお前、この前見たときよりもさらに太ったか?」
「・・・っ!誰の所為ですか!誰の!」
そう、会合も終わったからもうあんな量の食事をすることは無いだろうと踏んでいたミシェだが、
実際はあの後も料理人達が彼女のアドバイスを求め、
結果会合開始前と同じかそれ以上の量の食事を取っていた。
しかも料理人達は「貴方にわざわざ出向いて頂いては申し訳ない!」と
みんな料理を部屋に持ってきたのだ。
おかげで運動する時間も結局とれなかった。
「まぁお前も長旅で疲れてるだろ!今日はゆっくりと休みな!」
「・・・っ!あくまでも白を切るおつもりのようですわね・・・!」
「そうかりかりすんなって!あ、そうそう。ニーシャも呼んでおいたからもうすぐ来ると思うぞ」
「え・・・?」
(お姉様が!?まずい・・・!こんな姿を見られたくはないですわ!)
【どすっ・・・どすっ・・・】
何かが近づいてくる。最近聞き慣れた足音で。
何かが。
・・・・・・・・・・・
そう、何か重い物が歩いてくる・・・
「失礼しますわ・・・はぁ・・・はぁっ・・・」
「お姉様・・・!?」
扉を開け、そこに入ってきたのは。ミシェと同じぐらいに太ったニーシャだった。
「どういうことですの?魔王様は一体どういうおつもりなのかしら?」
「さぁ・・・私には判りかねます・・・」
魔王との会見が終わった後、二人は自室に戻った。
今までは二人でも広々と使えた部屋も、今は狭く感じる。
それもそうだろう。
二人は互いに相手と自分を見比べる。
目に飛び込んでくるのは巨大すぎる胸。
ガーメスの実(魔界の植物で、メロンに近い物だが木に生えるうえ、
一粒が10kg越え当たり前の実)の様な胸。
それが二つも鎮座している。
それを支えるが如くだぽんとした腹。
肉が付きすぎたせいで服が服として機能していない。
尻はまるでキニャッシャ(桃の一種、これも巨大で中には30kgを超す物もある)のようにでかく、また綺麗に整っている。
太ももはまるで大樹のように太く、どこか安心感すら与えられる。
今の二の腕よりも細いウエストだった頃が懐かしい。
というかこれだけで多分そこいらの太った人のウエストよりも太いかもしれない。
完全に首と一体化した顎は二重顎にさらに脂肪が付いた形だ。
頬肉も付きすぎて目が細まる。
体重は量ってないがおそらく200kgを優に超えているのだろう。
そんな二人がお互いに向き合いながら部屋の中央に座っているのだ。
圧迫感は半端ではないだろう。
「魔王様が賭の妨害をしたのなら太らせるのは一人で良いはず・・・」
「わざわざあんな任務を押しつけたのですからそれで良いはず・・・ますます判りませんわ・・・」
「とにかく明日の対策を少しでも練りましょう」
「そうですわね・・・」
こうして二人は眠くなるまで相談をした。
「はい、というわけで余とお前達の賭がいよいよ決着するわけだ」
「ふふふ・・・随分と自信がおありのようですが、残念でしたわね」
「ええ、妨害をするのでしたらどちらか片方だけにするべきでしたわね」
魔王の前に並び、からかうようないつも通りのしゃべり方をする二人。
「別に妨害したつもりは無いけどな・・・ま、いいか。こっちは準備完了してるぞ」
「こちらも構いませんわ、ねぇお姉様」
「もちろんですわ」
「OKOK。じゃあ言うぞ・・・」
「・・・」
「・・・」
緊張が走る。
「余から見て、右がニーシャ。左がミシェだろ」
「・・・!」
「そんな・・・何で・・・!?」
二人が行った作戦は衣装を取り替え、メイクを変え、入れ替わる作戦だった。
単純だが、双子である二人だからこそ効力のある作戦だった。
「まぁそろそろネタばらしというか。
おめーらの見分けが付かないって言ったけど、すまん、ありゃ嘘だった」
「は・・・?」
「お前らも知ってるだろ?魂ってのは各の色があって、誰一人として同じ色じゃ無いって」
「ですがその色を見れるのはその者が無くなって魂が身体から出たときだけのはず・・・!」
「これでも魔王だからな。完全では無いにしろ、ある程度は判断できるだよ」
「なぁ・・・!」
「まぁ他にも判別方法はあるけどな。
例えばミシェはお姉様と呼ぶときのイントネーションが独特だし、
ニーシェは何か有ると指の爪を弄るくせがあるとかな。
これでも魔王だからな、部下の癖ぐらい覚えてる」
「・・・」
細かいところまで見ている魔王に二人は絶句した。
「で、でしたら何故私達をこんな姿に・・・?」
「そ、そうですわ・・・わざわざ二人とも太らせるんでしたら最初の姿でも問題なかったはず!」
「いや、それがお前らへの本当の罰。一ヶ月云々も嘘だったのよ」
「へ・・・」
「太らした方法はニーシャは花。ミシェは壁紙。こう言われれば気付くだろ?」
つまりはだ、ニーシャは少しして送られた花に呪いが、ミシェは滞在した部屋の壁紙が呪いの媒体になっていたのだ。
本人達を調べても呪いの痕跡が無いのはそのためである。
「つまり私たちは最初から・・・」
「魔王様の手の平で踊っていた・・・?」
「そーいうこった。まぁこれでお前らは賭の契約通り、今後一切の悪戯を禁止な?」
がっはっはと豪快に笑う魔王を前に、二人は魔王には絶対にかなわないと感じたのだった。
双子の最終体型 身長:161 体重:224kg B:159 W:167 H:163