鬼比べ
槐(エンジュ):年齢:124歳 身長:179cm 体重:53kg B:98 W:54 H:91
まだ若い鬼。
現在とある山の妖怪のトップである鬼が引退するため世代交代でトップになることを名乗り出た。
隗(カイ):年齢:132歳 身長:182cm 体重:62kg
槐に対抗している男の鬼。
槐に惚れているが何となく言い出せずに居る。
「えーそれでは只今より第32465回、長決めの儀を執り行います。
なお、司会進行は私、狐紗(こしゃ)が取り仕切りさせて頂きます。」
ここはとある山の中にある洞窟のさらに中程にある集会場。
ここには様々な妖怪達が集結していた。
何故彼らが集結しているかと言えば、それは2週間前に現在の山のトップである榊鬼(さかき)が
「そろそろワシも年老いた。
そこでワシは隠居し、新しい者達にまかせようと思う」
と、突如引退を宣言。
結果、妖怪達のトップを決める事になったからだ。
現在の候補者はどちらも『鬼』で、隗という男と、槐という女であった。
二人とも周りの妖怪達からは支持されており、どちらが長になっても文句は出ない状況だ。
榊鬼に指名させるという案もあったが、榊鬼が
「若い者のことは若い者が決めろ。
老いた者が何時までも居座っては良い事にならん」
と返答したのでお流れとなった。
その結果、昔からの伝統である「長決めの儀」にて決める事となった。
これは何人か長に立候補が居た場合、その中で特出した者が居ない場合に物事をスムーズに
決めるため、また山の妖怪達をまとめる力があることを示すために行われる儀式である。
その方法は山の洞窟の奥に進み、そこで試練を受けるという物。
ただ、最近は力を持つ妖怪の数が減ったため、あまりやる機会が無かった。
「さて、長決めの儀ですが、お二人には同時に入って頂きます。
途中で道が分岐いたしますのでそれぞれ分かれて頂き、その先にて試練を受けて頂きます。
その後、先に試験をクリアした方が長となります。
また、途中でやめることも出来ます。
その場合は自動的に相手の方が長となります。
やめる場合はこの式をお使い下さい」
そういうと狐紗は二人に紙を渡した。
この紙は所謂インスタント式神とでも言うべきもので、
紙を燃やすだけであらかじめ用意された命令を自動的に行う物だ。
「あい判った。槐には悪いがこの勝負俺が貰うぞ」
「はは!いいね!男はその位ぐいぐい来ないとね!だけどこっちだって負けないよ!」
真剣そのものな表情の隗と対照的に、カカッと笑う槐。
「それではお二人とも準備は良いですか?」
「問題ない」
「こっちも大丈夫だよ」
「結構、では行ってらっしゃいませ」
こうして長決めの儀は開始された。
「ここが分岐地点か」
二人が洞窟を進んである程度進むと、道が二手に分かれた。
ご丁寧にそれぞれの名前が書いてあり、そちらへ進めと言うことらしい。
「それじゃ、私はこっちだね」
「そのようだな。・・・槐」
「なんだい?」
「俺が勝ったら聞いて欲しいことがある」
「へー・・・珍しいね」
からかうように槐がにやりと笑いながら言う。
「からかうな・・・まったく・・・お前はいつもそうだ」
「あんたが堅すぎるのさ。
まぁいいさ。それじゃあね」
「ああ、気をつけろよ」
「そっちこそ!」
最後に拳を合わせ、二人はそれぞれの道を進んでいった。
「しっかし道ばかりで何も起きやしないねぇ?」
大分進んだというのに何も起こらない。
「やれやれ、拍子抜けだねぇ・・・ん?」
道の先に動く影のような物が見えた。
「うぇーん・・・うぇーん・・・」
「子供・・・?何だってこんな所に居るんだい」
影の正体は小柄な人間の少年だった。
背丈からして大体8歳ぐらいだろうか。
「わかんない、ママとはぐれちゃった」
「わかんないって・・・とりあえず今日はどういう風に行動してたんだい?」
「えっとね・・・」
少年が言うには母親と山へ山菜を取りに来たのだが、蝶を追いかけていると中で迷い、
とりあえず近くにあった洞窟へ入ったのだという。
「じゃあ出口は近いのか・・・しょうが無い、案内してやるか・・・」
「おねーさん道判るの?」
「ああ、昔からこの近くに住んでるからね」
「ホント!?やったぁ!」
無邪気にはしゃぐ少年を見て和やかな気分になる槐。
少年の手を握り、二人は歩き出した。
「おねーさん・・・僕、疲れちゃったよ」
「ん?ああ、結構歩いたからね。じゃあそこで休憩するかい?」
「うん!」
暫く歩いたが一向に出口は見つからない。
仕方ないので二人は少し休憩を取ることにする。
(しかし妙だね・・・この子の体力を考えるに出口がこんなに遠いはずがないんだけどねぇ・・・
もしかして試験を始めた所為で洞窟が変わった・・・?)
槐が考えてるのは、この子が入った時は普通の洞窟であったが、槐達が試験を始めた為に
洞窟が試験場になってしまい出られなくなったのでは無いか?ということだ。
(そうするとこの子には悪いことをしたね・・・)
「ねぇおねーさん」
そう考え込んでいると少年が話しかけてきた。
「ん?なんだい?」
「この先からなんか良い匂いしない?」
「・・・そうだね」
そう、先ほどから槐も感じていた匂い。
まるで人間の飯屋のような匂いだ。
「行ってみようよ!」
「あ、こら!」
少年はその匂いのする方へどんどん進んでいく。
慌てて追いかける槐。
その先には
「わぁ!すごーい!」
「・・・なんでこんな料理が?」
テーブルにこれでもかと乗った食事の数々があった。
ほどよく焼けた肉。山盛りのサラダ。綺麗な刺身。
さらには菓子類まで様々だ。
「ねね!食べちゃおうよ!」
「いや駄目だろ。これ誰のか判らないし、そもそも何が入ってるんだかすら・・・」
食べようとする少年を止める槐。
「えーいいじゃん!ほら!おねーさんも!」
だが既に少年は食べ始めていた。
「い、いつのまに・・・はぁ・・・まったく・・・まぁ毒の匂いはしないし・・・」
「ほら、おねーさんも食べて!」
「いや、私は良いよ・・・」
「えー・・・一緒に食べようよー
それとも僕と食べるの・・・イヤ?」
「あー・・・判ったから・・・食べるよ」
「わーい!」
上目遣いで見つめる少年に観念したのか、槐も食べ始める。
「うーん・・・甘くて美味しい!」
「良かったね。・・・しっかし確かに旨いわこれ」
暫く少年と食事をともにする。
どことなく違和感を感じながら。
「ねーおねーさんもこれ食べたら?」
「はいはい・・・」
そうして腕を伸ばしたときだった。
ぷるんっ。
そんな擬音が聞こえた。
「・・・は?」
二の腕が随分と太くなっていた。
筋肉で引き締まっていたはずなのに。
いや二の腕だけじゃない。
よく見ればあんなにくっきりと割れていた腹筋も。
ちょっと力を入れればメキッっと筋肉の盛り上がる太ももも。
元々巨大だった胸はさらにでかく。
全身に脂肪が回っていた。
「ちょっと!?なんだいこれ!?」
「ん?おねーさんどうしたの?」
「いやだって私の身体が!」
「え?おねーさんは最初からおデブさんだったよ?」
「そんなはず─」
いや、本当にそうだったか?
自分は元々太っていたのでは無いか?
大体おかしいではないか、目の前の少年はマッタクフトッテナイジャナイカ─
「そうだよね?おねーさんは最初からおデブさん。それも類を見ないぐらいにおデブさん。
そして甘い物が大好きで、目の前にあればいくらでも食べちゃう意地汚いおデブさん」
そう言われるとそういう気がしてくる。
私は元々太っていて、お菓子が大好きで、目の前にあると我慢できなくて─
「あはっ!そうそう、それでいいんだよおねーさん」
今の槐には何が嘘で、何が本当か判っていない。
「ほらおねーさん、これも甘いよ」
「ホントだねぇ!」
ケーキを鷲掴み、ムシャリムシャリとむさぼるように食べる今の槐は、
最早さっきまでの面影を全くと言って良いほど残してない。
ボン・キュッ・ボンで筋肉質の鬼らしい体系だった槐の身体はまるで巨大な鏡餅のようだ。
頬肉のせいで細まった目、存在しない首、片方で一体どのくらいあるのか判らない胸。
やわらかな牛皮の塊のような二の腕、それらを支えるが如く突き出た腹。
太ももはドラム缶のようで、尻は巨大なクッションのようになっている。
それらが動く度にブルンブルンと揺れる。
「いやーおねーさんの食べっぷりはすごいねぇ!」
「当たり前じゃない!私は鬼だよ!」
そう言って槐ははっとする。
私は長決めの儀に参加していたのだと。
そして私はこんなに太っては居なかったと。
「・・・なぁ坊や、あんた何者だい?」
「あはっ!ようやく気付いたようだね」
キッと槐がにらみつけると少年はニヤニヤと笑う。
「あんただね?この状況を作ったのは」
「その通り、僕は長決めの儀で産み出された存在さ」
「精霊・・・いや、式だね」
「そうさ、君たちのずっと前の長が作り出したシステムの一部なのさ」
少年の話によると少年はこの長決めの儀の為に作られた式で、参加者に試練を与えるのだと言う。
その試練とは「本人がもっとも怠惰であると考える事を幻覚によって与え、快楽の中へ落とす」と
言うものだ。
先に幻覚から目覚め、現実へと戻った方が長となる。
「いやーおねーさんの落ちていく姿はなかなか面白かったよ!」
「良い趣味とは言えないね・・・で?この勝負私の勝ちかい?」
「うん、もう一人の方はまだ目覚めてないね」
「やれやれ・・・先人もけったいな仕掛けを残したもんだね・・・
で?幻覚とやらは何時解けるんだい?」
うんざりした風に槐が聞くと少年は
「ああ、おねーさんの身体は幻覚じゃないよ」
あっけらかんと答えた。
「はぁ!?だってあそこで食べたのは幻覚じゃ!」
「正確には僕の持っている霊力だよ。それをあれだけ食べたんだ。
霊力の過剰摂取、そりゃぁ妖怪である君たちは太るさ!
でもその代わり力に満ちあふれてるでしょ?」
少年の言う通り槐の身体にはこれ以上無いほどに力が満ちている。
「はぁ・・・なんてこったい・・・」
「でもまぁいいじゃないの。
長なんてのは風格があった方が決まるんだから!」
けらけらと笑う少年。
「・・・で?この後は?」
とりあえず立ち上がり、身体の調子を確かめつつ、質問をする。
「ああ、そこの門を叩けば戻れるよ」
いつの間にやらそこに立派な─今の槐でも余裕で通れるぐらいの─門が立っていた。
「やれやれだね、じゃあ私は戻るよ。
あ、それと隗の奴は?」
「心配しなくても君が戻った後に戻るよー補佐にでもしてあげれば?」
「考えとくさ」
そう返しながら槐は門を叩いた・・・
「長、今月の陳情書だ」
「有難う隗、後で読んでおくよ」
あれから数週間経った。
槐は無事長につき、隗はその補佐として職務を果たしている。
「しっかし、痩せないな」
「うるさいよ!しょうが無いだろ、霊力が完全に融合してるってんだから」
槐が過剰に摂取した霊力は槐の元の霊力と波長が合ったのか
完全に融合してしまったらしく、そのまま残っている。
しかも代々続く妖怪の長の家に引っ越したところ、
地下に龍脈がある所為で日に日に霊力が増えている。
つまり慢性的に太り続けるのだ。
「まったく・・・面倒だね・・・」
「諦めることだな」
「・・・所で隗、あんたの試験ってのはなんだったんだい?」
「あー・・・嫌・・・そのあれだな・・・そんなことより仕事がたまっているぞ!」
露骨に話題をそらす隗。
「ほほぅ・・・私に言えないってのか」
「いやだからそのあれだ」
「さぁキリキリ吐いて貰おうか!」
(言えるわけ無いだろ!お前を嫁に貰って尽くして貰った幻覚だなどと!)
こうして山の長は無事決まった。
因みに隗と槐が結ばれるのはこの3年後である。
槐:最終状態
身長:179cm 体重:358kg B:205 W:216 H:198