天井裏のアイツ

天井裏のアイツ

 

 

俺がアイツと会ったのは数ヶ月前、このアパートに移り住んだときだった。

 



 

「今日からお世話になります、寺霧 快(てらぎり かい)と申します。
 宜しくお願いします!」
「はい、元気な挨拶で結構、私は大家の岩田 夢(いわた ゆめ)よ。宜しくね」

 

調理師学校に通うために上京した俺は母親の友人が管理するアパートに住むことにした。
安いし駅にも学校にも近いという条件だし、何より母親と知り合いなので
契約なんかもすんなりいくのが楽だった。
流石に片道3時間かけるのは無理だし・・・
初めての一人暮らしに期待と不安を持っていたのを覚えている。
少々ボロ・・・趣のある造りだがしっかりとしていそうな建物で安心しつつ、
大家さんに挨拶をしてから部屋へ案内して貰った。

 

「はい、ここね。106号室。一番端だから覚えやすいでしょ?うち1階建てだし」
「あ、はい」

 

そう言われて部屋の鍵を貰った。

 

「さ、回してみなさい?貴方の部屋の鍵を」

 

こう言われると何となく・・・こう、自分の城を持った心境とでも言うのだろうか、
良く判らない高揚感があった。

 

【カチャリ】

 

小気味の良い音を立てて鍵が開いた。

 

「さ、入って」
「はい!」

 



 

「大きな荷物は後で母さんに送って貰うし、とりあえず一通りの家具は備え付けのがあるから
 大丈夫だし、なにか足りない物はっと・・・」

 

荷物の整理をしてたときだった。
ガタッっと天井の方で物音がした。

 

「・・・」

 

暫くそっちの方を見つめるが特に動く気配があるわけでもなかった。

 

「気のせいか・・・」

 

と思ったときだった。

 

【ガタン・・・】

 

もう一度音が鳴った。

 

「・・・」

 

そっとそっちの方へと近づき、天井を見つめる。
・・・よく見ると天板の一枚が微妙にずれている。

 

「・・・誰か居るのか?」

 

そう声をかけるとビクッっと何かが身体を強張らせる様な音がした。

 

「・・・」
「・・・」

 

暫しの沈黙の後にそっと天板の隙間から何かが出てきた。

 

「・・・うわぁ!」

 

最初は三つ編みの髪の毛だと思ったソレはよく見ると
毛に覆われた触手状の物で、先には口が付いていた。
その口がゆっくりと開く。
中には鋭いキバが何本も並び、カチカチと音を立てて口を開閉している。

 

「な、なんだよ!」
「カチカチカチカチカチ」

 

ゆらゆらと揺れるソレは唯ひたすらにカチカチと言う音を出しているだけだ。
どうにも敵意はないらしい。

 

「・・・」

 

とは言えどうコミュニケーションを取れば良いのか全く判らない。
暫し呆然としているとシュルリと音を立ててソレは天井へと引き返していった。

 

「な、なんだったんだよ・・・今の・・・」

 



 

「はいはーい?って寺霧君?どうかした?」
「実は・・・」

 

俺はアレについて大家さんなら何か知ってるんじゃないかと思い、
ちょっと離れた所にある大家さんの家へとお邪魔していた。
説明をすると大家さんはあー・・・と歯切れの悪い返事をしながら
ちょっと待っててと言って別の部屋へと移っていった。

 

「お待たせ。素奈ちゃんから聞いてなかったのね・・・」

 

暫くしてから大家さんはアルバムを持って戻ってきた。
因みに素奈(もとな)とは俺の母親の名前だ。

 

「あの・・・聞いてないって・・・?」
「えーっとね・・・あの部屋には実はその・・・」

 

言いにくそうに大家さんは暫く頭を掻いたりしていたが、覚悟を決めたのか話してくれた。

 

「その・・・妖怪が住んでるの」
「・・・は?」

 



 

大家さんの説明によると元々アパートは大家さんのお母さんから譲り受けたものだそうで、
戦後間もない頃に建設されたのだという。
で、いつ頃からかは判らないが、一番奥の部屋の天井に何かが住み着いたのだという。
こちらに害があるわけでもなく、寧ろ害虫や害獣なんかを補食してくれたりするので
住まわせているのだとか。
そんなわけであの部屋はその妖怪のために──正確には妖怪が住んでるなんて言えないかららしいが──空き部屋にしておいたのだが、母はどうもそんなことを気にしない人間だったらしく、

 

『あ、もしもし夢ちゃん?今度息子がそっちの方の大学行くんだけどさ、
 夢ちゃん確かアパートやってたわよね?部屋空いてたら息子置いてやって欲しいんだけど、どう?
 え?妖怪?大丈夫でしょ!そんなことでびびるような柔な育て方してないわよ〜』

 

と電話で言われたらしい。
大家さんは『決めるのは息子君に聞いてからにしたら?』と言ってくれたのだとか。
確かに母親には

 

『母さんの知り合いにアパートの大家やってるのが居てね、
 そこが一部屋空いてるから母さん頼んでみたの。
 あんたさえ良ければ良いって!』

 

と言われたが・・・
お母様・・・肝心な説明がすっぽりと抜けてます・・・

 

「そんなわけであの部屋には妖怪が居るのよ・・・これがその子の写真」

 

と一枚の写真を手渡された。
そこには今と全然変わらないあの部屋の写真と小さい頃の大家さんと思われる少女。
そしてその横には大家さんの母親らしき女性と俺がさっき遭遇した触手が映っている。
日付は大体40年ぐらい前だ。

 

「あの・・・結局こいつってなんなんですか?」
「さぁ・・・私も判らないの。
 会話しようとはしたんだけどあの子話せないらしいの。妖怪に詳しい知り合いも居ないし・・・
 そもそもその腕・・・というか口なのかしらね?その部分以外見たことないのよ」
「は、はぁ・・・」
「それで、どうする?」
「どう・・・とは?」
「まぁその手違いみたいなもんだし、新しい部屋の紹介とかぐらいしてあげるわよ?」
「・・・」

 

暫く悩んだ後俺は・・・

 

「いえ、このまま住まわせてください」

 

そう答えた。

 



 

結局アレがなんなのか判らないままだったが別に害がないのなら構わない。
この部屋が良い条件なのは確かだし、何よりこれも一種の異文化コミュニケーションだ。
と言うことで部屋に戻ってきた訳なんだが・・・

 

「居ないか・・・」

 

どうやらさっき引っ込んだまま降りてきてないらしい。
まぁ最初が最初だったからな・・・

 

「・・・とりあえず飯にしようかな」

 

そう思い俺は台所へと向かう。
食料はさっき大家さんの所へ行ったついでに買い物をしたから大丈夫だ。

 

「さぁって・・・やるぞ!」

 

何を隠そう俺の趣味は料理だ。
家では母が仕事などで忙しく自然と料理をする機会が多かったからなぁ・・・
その趣味が高じてこうして調理師学校にも通うようになったのだから人生は不思議な物だ。

 

「・・・〜♪〜♪」

 

気分が乗ってくるとつい鼻歌を歌いたくなる。
次第に良い匂いが台所を包みはじめる。
ゆっくりと深呼吸をすると何とも言えない幸せな気分になる。

 

「・・・ん?」

 

後ろで物音がしたので振り向いてみると先ほどの触手がこちらを見ていた。
いや、見ていたというのはちょっと語弊があるか。
目らしい部分はないから・・・どういえばいいんだろうか?
匂いに反応しているのかもしれない。

 

「ふむ・・・」

 

とりあえず料理を完成させよう。

 



 

「出来た。我ながら良い出来だな」

 

こうして料理が完成した。
因みメニューは簡単に済ませられるブタの生姜焼きと野菜炒め。あと漬け物と味噌汁だ。
まだ軽い道具しか持ってきてないからなぁ・・・
でかい鍋とかは重くて持ってこれなかったし。

 

「さてと・・・お前も食べるか?」

 

俺は触手の前に料理を持って行くと声をかけた。

 

「カチカチ」

 

相変わらず口(?)を開け閉めして歯を鳴らしながら軽く先の方を上下させる。
どうやら肯定の印のようだ。
とりあえず料理を床に置いてみる。

 

「スンスン・・・」

 

暫く嗅ぐような仕草をした後思い切ってかぶりついた。

 

「カチカチカチカチ!」

 

どうやら気に入ったようだ。

 

「なんだ?お代わりが欲しいのか?」
「カチカチ!」
「ははは、そうかそうか。ほれ」

 

こうして見るとそう怖い物では無いな。
これからまぁまぁ仲良くやれそうだな。

 



 

そんなこんなで現在。
数ヶ月一緒に過ごせば慣れる物で、こいつは最早ペット感覚に近い。
大体俺が学校から帰ってくるとにゅっと出てきて俺の様子をうかがった後一度戻る。
で、俺が飯を作り始めるとまたにゅっと出てきて一緒に食事を取る。
ここ最近はずっとこんな感じだ。

 

「今日はちょっと奮発して良い肉買ってきたぞ〜俺特製のソース付きだ!」
「カチカチ!カチカチ!」

 

こいつにも判るのか嬉しそうだ。

 

「じゃあちょっと待ってろよ」

 

そういって俺が台所に向かった直後だった。

 

【ミシッ・・・】

 

「ん?」

 

何かが軋む音が聞こえた。
そして。

 

【ミシミシミシミシ・・・バキィ!】
【どすん!】

 

何かが壊れる音と一緒に何か重い物が落ちる音がした。

 

「な、なんだ!?」

 

音は部屋の方からしてきた。
慌ててそっちの方へ行くと、そこには・・・

 

「・・・・・・」
「・・・・・・」

 

そこには随分と太った女の子が居た。

 



 

「・・・で?この子は?」
「どうも件の妖怪らしいんですよ・・・」
「この子が?」
「はい」

 

壊れる音は天板がぶっ壊れる音で、ドスンと言う音は目の前の女の子──つまりあの妖怪だ──が
落ちてきた音だ。

 

「あの子がねぇ・・・」

 

そう言いながらじっくりと女の子を見つめる大家さん。
そんな大家さんををきょとんとした様子で見つめ返す女の子。
といっても目を覆う程長い前髪で顔が半分ぐらい隠れてるけど・・・
改めてその身体を見てみる。
おかっぱヘアに前ぱっつんの髪型。
そして左側だけ横髪が伸びていて一目見ただけでは三つ編みにしか見えない。
ただ、その先が触手になっており、先っぽに口が付いていることを俺は知っている。
ただ、顎には立派な二重顎が出来ているし、頬ももにゅっとつきたての餅のように軟らかそうだ。
首はかろうじて確認できるがあと少しで顎と一体化しそうだ。
その下の胸は巨大と言うしか無く、大玉スイカが二つドーンとくっついてるようだ。
こちらもやわらかそうだが、しっかりと円形を保っている。
ただ、その爆乳もお腹の存在感に負けている。
こちらはもう身近な物で上手いたとえが出てこない。
臨月の女性よりも丸い腹をしているのだから。
先ほど試しに触ってみたがズブズブと深くやわらかな脂肪に手が沈み込んでいった。
そしてお尻だが、巨大な桃のようである。

今は座っているからぶにょんと形を変えているが。
太ももと二の腕は着ている服が着物な事もあって良く変わらないが、肩周りの窮屈そうな感じや、
スリット(でいいのだろうか?)から見える部分などからこちらも相当太いことが判る。

 

「で?なんだってこんな事になってるのかしら?」
「さぁ・・・?」
「・・・」

 

なにやらキョロキョロしたかと思うと両手をばたばたし始めた。
どうやら書く物を寄こせと言う事らしい。
この数ヶ月の間にどうやら俺はこいつの言いたいことが判るようになったらしい・・・

 

「ほい、これでいいか?」

 

そういって近くにあったメモ用紙と鉛筆を渡した。
ぱあぁっと顔を輝かせそれを受け取るとすらすらと何かを書き始める。
暫しかりかりという鉛筆の走る音が響いた後こちらにメモを渡してきた。

 

「うわ・・・凄い達筆・・・」
「お前、字綺麗だな・・・」
「・・・///」

 

どうやら褒められて嬉しいようだ。
さてと、メモの中身はっと・・・

 



 

要約すると、こう書かれていた。
自分は二口女(ふたくちおんな)の一種である。
普段はゴキブリやネズミなどを食べているが快さん──つまり俺の事──が
料理をくれるようになった。
それは余りにも美味で普段異常にべるようになったのだという。
そもそもは虫なんかで足りてたカロリー+人間用の油っぽい食事、
さらに良く伸びる触手のおかげで元々動かなくても良いと言う事もあって
みるみるうちに太ったのだという。
それでも別に気にしなかったのだがまさか天井が抜けるとは思わなかったそうだ。
天井を突き破って済みませんと最後に書いてあった。

 

「ふぅむ・・・つまりは快君が原因なわけだ」
「え〜・・・」
「だってそうじゃない。この子に色々与えたのは快君でしょ?
 と言うことで責任もって彼女の面倒見てあげてね?」
「うう・・・判りましたよ・・・ただ、天井の修理費は流石に出せないッスよ?」
「そのくらい私が出すわよ。元々うちの子みたいなもんだし」
「・・・!」
「ああ、お礼なら良いわよ。お母さんも貴方にお世話になったし。」

 

大家さんの両手をがっしりと握りしめる。
一応アイツなりの感謝なのだろう。

 

【ぐぅぅ〜〜〜】

 

突然、腹の虫がなった。
俺では無く、大家さんでもなく。
奴の腹の虫が。

 

「・・・っ〜〜〜!///」
「とりあえず・・・ご飯にしましょうか?」

 

顔を真っ赤にして照れる奴に大家さんは苦笑いしながら提案をした。

 

「ですね・・・今作るんで待っててください」
「あら?私も良いの?」
「いいっすよ・・・その代わりいくらか恵んでください」
「ふふ、判ったわよ。その代わり期待してるからね!」

 

そんな軽口を交わしながら俺は中断された料理を再開すべく台所に立った。

 



 

「おい、もうちょっとゆっくり噛んで食べろよ」
「・・・」
「いや、そんな何で?みたいな顔されても困るんだけど・・・」

 

アイツのと生活は変わったようで変わってない。
アイツは俺が学校に行っている間に色々と家事をしてくれるようになった。
そして俺が帰ってくると俺の作る飯をたらふく食べるのだ。
まぁ家事してるし多少運動にもなるだろうと思ったが寧ろ運動する分腹が減るのか
ますます食べるようになり、体重はなおも右肩上がりだ。
あの二口女について調べて見たところ、後頭部に口があり、
そこから食事を食べる妖怪であることが判った。
さらに言えば本来はしゃべれるらしい。
それを奴に聞いたところさらさらとメモに書いてきた。
奴曰く、「自分は一種の亜種のようなもので、所謂二口女とは少々違うもの」だという。
まぁだからなんだって話だが・・・

 

「まぁいいけどよ。ところで・・・その・・・」
「?」
「今日も・・・抱きしめても良いか?」
「・・・///」

 

夏真っ盛りではあるが、アイツの身体を抱くととても気持ちいいのだ。
因みに抱くと行っても物理的な意味で、性的な意味では無い。
あの身体に包まれる感覚が忘れられないのだ。
アイツも許してくれてるし、まぁ食事の面倒を見ている役得だろ。

 

「じゃあ、風呂浴びる前に一度いいか?」
「・・・」

 

コクンとうなずく。
何だかんだでこいつのことが可愛く見えてきた俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

二口女 
身長:164cm 
体重:42kg→143kg
B:83→127
W:56→134
H:78→129


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