猫が招くのは福だけか?

猫が招くのは福だけか?

 

 

三毛谷 寧子(みけや ねこ)16歳 身長165cm 体重40kg B:78cm W:51cm H:75cm
近くの高校に通う高校一年生。昔から猫に好かれる体質で、毎晩変な夢を見るようになる。

 

根津 未来(ねづ みらい)16歳 身長149cm 体重35kg B:76cm W:53cm H:71cm
寧子のクラスメイト兼友人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──まねきましょう まねきましょう
   てんにおんわす かのかたを
   まねきましょう まねきましょう
   くもつをささげ そのみをここへ
   まねきましょう まねきましょう
   どうかわれらの ねがいをおききに
   まねきましょう まねきましょう──』

 

夢・・・
これは夢だ。
そんな気がする。
私の周りを囲むように歌声が聞こえる。
目の前には大量の料理。
どれも非常においしそうだ。
それ以外の物はもやにかかったようでまるで見えない。

 

「さぁ、どうぞ召し上がってください」
「すべては貴方の物です」

 

横にいる女の人らしき着物を着た二人に料理を勧められ、私はそれを受け取った。
一口。

 

「おいしい・・・」

 

思わず口からこぼれる。
一口。
また一口。
とまらない。

 

「ええ、どうぞお食べください」
「すべては我等のために」

 

横の人が何か言っているが、よくわからない。
私はただ、食べる事に集中していき──

 

 

 

【Pipipipipipip!】
【カチッ】

 

「ん・・・」

 

目覚ましの音で私は目を覚ました。
12月に入ったばかりだというのに、1月か2月かと思えるほど寒い。
布団の中から出たくない・・・

 

「・・・でも学校いかなきゃね」

 

仕方なく、私は後ろ髪を引かれながら布団から這い出てきた。

 



 

「じゃ、行ってきます!」
「いってらっしゃーい」

 

お母さんに声をかけてから、私は玄関を開けて外へ出た。
お父さんは先に出ているので、きちんと戸締りを確認する。
以前、ぽかやって閉め忘れたときはお父さんに「お前その歳で・・・」と小言を言われたし。
もう一度言われるのは御免被りたい。

 

「ニャァ」
「マーオ」
「お、おっはよぉ」

 

近所に住む二匹の野良猫が挨拶してくれる。
以前から何かと猫に好かれる体質なのか、私はどこにいっても猫が近寄ってきてくれる。
私も名前“ねこ”だし、どこか近親感が沸くのかな?

 

「・・・な訳ないか」

 

二匹の猫と挨拶をしてから私は学校へと向かった。

 



 

「おはよ、ネコ」
「あ、未来。おはよ〜」

 

教室でだらだらしていると、友人の未来が声をかけてきた。

 

「今日一時間目ってなんだっけ?」
「国語でしょ?」
「現国?古文?」
「あー・・・確か先週現国一区切りついたから、古文じゃない?」

 

そんな雑談をしばらく続けていると、予鈴が鳴った。
もうしばらくすれば担任の巽先生が来てHRが始まるだろう。

 

「じゃ、私戻るね」
「うん。また後で」

 



 

「はい、席について〜今日の授業を始めるわよ」

 

一時間目になり、国語担当の猿渡先生が入ってくる。
日直の犬山君の号令で挨拶をする。

 

「今日は古文をやるわよー。
 ・・・ってつもりだったんだけどね。資料が届かなくて急遽別のことをやります。
 プリント配るからよく見てねー」

 

配られてきたプリントにはずいぶんとファンシーな絵と、短めの文章があった。

 

「・・・干支の始まり?」

 

また変なタイトルだ。

 

「みんなに行き渡ったかな?
 タイトルが変だと思ったやつ、後で先生のところに来るように。結構必死で考えたんだぞ、それ。
 さて・・・知ってる子も居るかもしれないけど、干支十二支が決められた逸話・・・というか
 童話ね。その話よ」

 

干支が決められた理由?

 

「プリントに書いてあるのは一例だから、
 実際は結構細かいところが違ってたりするけど、大筋は同じよ。
 興味があったら探して見なさい。
 さて、肝心の内容だけど・・・そうね。猪野狩君、読んでみて」
「はい」

 

がたがたと立ち上がる音が聞こえた後、猪野狩君の朗読が始まった。

 

「昔々、人々が生まれる前。
 神様は悩んでいた。
 それは動物たちの長を決める問題だった。
 毎年変えては来たが、安定する年もあればそうでない年もある。
 だからといってそいつらを長にすえては他の動物から異議が出る。
 そこで神様は考えました。
 『それならば、ひとつ試してみるか』
 そう言うと、神様は動物たちを集めました」
「そこでいいわ。
 昔は動物達のリーダーを一年ごとに変えていた。
 でも当たり年があればはずれ年もある、って感じだったんでしょうね」

 

しばらく先生が解説をしてくれた後、鳥山さんが続きを読み始める。

 

「集まった動物達に向かって神様はこういいました。
『一月一日に私はこの社の門を開いておく。そこで宴会をするからだ。
 そして早くやってきたものから順に12匹を干支として任命する』と。
 そうして神様は集会を終えました。
 ところが、猫は遅れてきたためこのお話を聞いていませんでした」

 

ん?・・・猫?
干支に猫なんて関係あったんだ。

 

「猫は近くを通りかかった鼠に聞きました。
『鼠さんや、これはどんな集会だったんだい?』
 鼠は答えました。
『神様が干支をお決めになる方法を言ってくださったんだ。
 一月二日に宴会を開く、その時に来た者たちの中から早いもの順でお決めになるそうだ』
 鼠は嘘をつきました。だがそれを信じた猫は
『そうだったのか。ありがとう!助かったよ鼠さん』と感謝しました。
 そして12月31日。体の小さいネズミは誰よりも早く出発しました。
 所が体が小さいため休憩を挟みながらだと全く進めません。
 そんな時、後ろから牛が来ました」
「はい、そこまでで良いわよ」

 

先生が一度区切って解説をし始める。
だが、私は別のことを考えていた。
猫は鼠に騙された。
なぜ・・・猫だったのだろうか?

 

「──ってわけね。それじゃあ・・・三毛谷さん、続きお願い」
「あ、はい!」

 

先生の声で現実に引き戻される。

 

「鼠が『牛さんも早いね』と尋ねると、牛は 『私は足が遅いし、
 道を詳しく覚えてないので早めに出た』と答えました。
 鼠は『それならば私が道案内をしよう。その代わり頭に乗せてはくれないか?』と頼みました。
 牛はそれを快く承諾し、二人で社へと歩き出しました。
 暫くすると大きな門が見えてきました。神様の居る社の門です。
 牛と一緒に来た鼠は門の前でひょいと飛び降り、一番に門をくぐりました。
 それから一歩遅れて牛が入りました。
 しばらくして虎がやってきました。
 続いて兎が、竜が蛇が馬が羊が。
 次に来たのは鶏でしたが、猿と犬が喧嘩して仕方がないので間に入りました。
 そして猪がやってきました。
 こうして干支が決められました。
 鼠に騙された猫は一月二日にやってきましたが、勿論門は閉じていました。
 何度か門をたたき、神様にお話を聞くと本当は昨日集まる日であったことに気づきました。
 そして猫は騙した鼠を追うようになったのです」
「はい、ありがとう。以上が干支のお話です。なかなか面白いわよね。例えばここが──」

 

先生が解説を始めるが、私はもう一度文章を見直していた。
騙された猫。
なんとなく、もやっとしたしこりのようなものが残った。

 



 

『──まねきましょう まねきましょう
   てんにおんわす かのかたを
   まねきましょう まねきましょう
   くもつをささげ そのみをここへ
   まねきましょう まねきましょう
   どうかわれらの ねがいをおききに
   まねきましょう まねきましょう──』

 

またこの歌・・・
またこの夢・・・
やっぱり回りはもやがかかって見れない。

 

「さぁ、どうぞ召し上がってください」
「すべては貴方の物です」

 

そしてまたあの二人。
いわれるがままに食べる。
どうせ夢だ。
なら別に食べてもいいや。

 

「ええ、どうぞお食べください」
「すべては我等のために」

 

そうだ、食べよう。
ただひたすらに食べよう──

 



 

【Pipipipipipip!】
【カチッ】

 

「ん・・・」

 

なんだか変な夢を見た気がする。
それも昨日も同じものを見たような?

 

「・・・あれ?どんな夢だっけ?」

 

だが思い出そうとして、私はまったく思い出せない事に気づいた。
まぁ夢なんてそんなものだろうが。

 

「・・・起きよ」

 



 

「おっはよ、ネコ」
「おはよう、未来」

 

いつも通り野良猫に挨拶をしてから私は学校へとやってきた。
しばらく教室でだらだらしていたら未来がやってくる。
いつも通りの朝。

 

「・・・?ネコさ、調子悪い?」
「なんで?」
「いや、なんかむくんでる様に見えるから」
「ホント?」

 

そんな雑談をしながらHRが始まるのを待つ。
さぁ、今日も授業だ。

 



 

『──まねきましょう まねきましょう
   てんにおんわす かのかたを
   まねきましょう まねきましょう
   くもつをささげ そのみをここへ
   まねきましょう まねきましょう
   どうかわれらの ねがいをおききに
   まねきましょう まねきましょう──』

 

またこの夢か。
目の前の料理を誰に言われるでもなく食べる。
それが正しい夢の楽しみ方だから。
だからこれで良いはずだ。

 

「どうぞお食べください」
「すべては我等のために」

 

ああ、いわれなくても食べるわよ。
さぁ食べよう。
お腹がいっぱいになるまで──

 



 

「・・・ネコさ、あんまり言いたくないけど太ったよね?」
「うっ・・・」

 

冬休みまで一週間と言う頃、未来に痛い所を突かれた。
ここ最近、急激に太った。
ぶっちゃけると一週間程で10kg位。
正直ちょっとやばい。

 

「・・・何か悩んでるなら言ってね?」
「いや・・・別にそういうんじゃないけど。ただ、私も何で太るのかわからないんだよね」

 

別段過食してるとか、間食食べまくってるとか、そういうことはしていない。
なのにこの体重増加・・・
もしかして変な病気にでもかかった?

 

「何それ・・・あれだったら病院行った方がいいよ?」
「そだね・・・週末だし、行って来るわ」

 



 

「どこにも異常はないですねぇ・・・血糖値も安定してますし、食べすぎか運動不足でしょう」

 

病院に行って診てもらったが、結果としてはそれだけで終わってしまった。
なんというか、拍子抜けである。

 

「・・・なんだかなぁ」

 

なんだか不安になる。
何がと言われても困るのだが。
そう、何かを忘れてる気がするのだ。

 



 

『──まねきましょう まねきましょう
   てんにおんわす かのかたを
   まねきましょう まねきましょう
   くもつをささげ そのみをここへ
   まねきましょう まねきましょう
   どうかわれらの ねがいをおききに
   まねきましょう まねきましょう──』

 

ああ、この夢か。
毎晩見ている気がする。
でもどうでもいいか。
今日もいっぱい食べなきゃ。
食べて食べて・・・それでどうするんだっけ?
まぁいいや・・・食べよう。ひたすら食べよう。

 



 

「えー明日から冬休みに入るわけだが、宿題はそれなりに出てるだろうし、
 あんまりぐだぐだと過ごさない様にな」

 

巽先生のHRを聞きながら、私は自分の体をまさぐっていた。

 

【ぶにょん】

 

分厚い脂肪がつまめる。
無理やり大きめのセーターを着てごまかしているが、
Yシャツのボタンがお腹の辺りは完全に止まっていない。
ダイエットを始めては見たものの、全く効果なし。
それどころか右肩上がりで体重も大変なことにそろそろ70も目前である。
この前鏡を見たときの衝撃は忘れられない。
寧子の名のとおり、細身であったはずの体はまるで豚を思わせるように太ってしまった。
顎肉がついたせいで二重顎だったし、胸が大きくなったのは嬉しいけど、
その下のお腹を考えると全然喜べない。
腕も太ももかと言われる位太くなったし、その太ももは丸太みたいだった。
お尻も椅子からはみ出るぐらいに大きくなっちゃったし・・・

 

「はぁ・・・どうしちゃったんだろ、私」

 

何度考えてもわからない・・・
でも何かを忘れてる気がする・・・
なんなんだろ・・・このもやもや・・・

 



 

 

『──まねきましょう まねきましょう
   てんにおんわす かのかたを
   まねきましょう まねきましょう
   くもつをささげ そのみをここへ
   まねきましょう まねきましょう
   どうかわれらの ねがいをおききに
   まねきましょう まねきましょう──』

 

そしてこの夢だ。
私はひたすらに食べる。
というか食べる以外のことをする必要があるのかしら?
・・・ダメだ、思い浮かばない
まぁ思い浮かばないなら良いのよね。
じゃあ食べよう。

 



 

冬休みも始まって一週間、私はダイエットを──

 

「・・・モグモグ。これ意外と当たりかも」

 

して無かった。
最初は折角自由な時間が増えるしと思って頑張ってはみた物の、
全く痩せない体にモチベーションが上がる訳なく。
気付けばだらだらと過ごしていた。
あれ以降暫く体重は計ってない。

 

「・・・久しぶりに計ってみるかな?」

 

そう思い、浴室横の物置に仕舞ってある体重計を引っ張り出す。

 

【ギシッ・・・】

 

何となく嫌な音を立てる。

 

「どれどれ・・・!?」

 

表が示した数値は最大値である130kgをちょっと超えた当たり。
つまり、計測不可能だ。

 

「ちょっと・・・じゃあ私は今130キロ以上ある訳・・・!?」

 

流石に自分でも引いた。

 

「もうすぐお正月・・・って事はお餅やら何やらの誘惑もある訳で・・・」

 

そうなると少し所では無く私はピンチである。

 

「し、新年明けたらダイエットよ!」

 



 

『──まねきましょう まねきましょう
   てんにおんわす かのかたを
   まねきましょう まねきましょう
   くもつをささげ そのみをここへ
   まねきましょう まねきましょう
   どうかわれらの ねがいをおききに
   まねきましょう まねきましょう──』

 

いつもの歌が聞こえる。
この夢ももう何度目だろう。
もう、覚えてない。

 

「あれ・・・?」

 

今日は料理が無い・・・?

 

「皆々様におかれましては幾星霜に渡る不遇の時を過ごされたかと思います。
 ですが、それも今日まで。
 ついに、その時が参りました。
 さぁ、お見えになります」

 

お見えになるって・・・誰が?
そもそも喋ってるのは誰だろ・・・?
そんなことを考えていると、いつもは周りが見渡せない程立ちこめてるもやが晴れた。

 

「・・・猫?」

 

私の周りを何十、何百匹もの猫が囲んでいる。
みんなすっと立ち上がってるし。

 

「さぁ、供物をあちらへ」

 

リーダーっぽい猫が指示を出すと、私の体が持ち上がった。
どうやら御輿のような物に乗せられているらしい。

 

「ちょ、ちょっと!?」
「さぁさぁ!神様へ捧げるのです!」

 

私は見る見るうちに祭壇のような場所に運ばれてしまった。
そして──

 

「神様神様、貴方に供物を捧げます。
 我等が願いを御聞き下さい。
 我々を騙した鼠の代わりに我等を干支へ」
「それって・・・干支の出来た話?」

 

それに供物って・・・私!?

 

「ちょっと!?何で私が供物なのよ!?」
「貴方は我等が悲願を達成するに相応しい魂をお持ちのお方。
 幼少の頃より常に貴方の事は見ておりました。
 そして、今ここに我等は貴方を供物に干支へ入るのです」

 

小さい頃から妙に猫になつかれると思ったら・・・そんな昔から監視してたの!?

 

「じゃ、じゃあ!?私に食べ物を食べさせたのは!?」
「全てはこの為。神様は人をお好きでいらっしゃる、それも良く肥えた方が。
 誠によくお太りになられました」
「ちょ、ふざけないでよ!?大体これは夢じゃ無いの!?」
「夢ではございません。貴方は毎晩ここで我等の食事を召し上がっていたのです。
 最も、薬のお陰で夢だと思っていたようですがね」

 

冗談じゃない!
そう思い逃げだそうとして気付いた。

 

「ああ、申し訳ございませんが動けないようにさせていただいてます」
「な!ちょっと!」

 

私が抗議しようとした時、動きが止まった。
どうやら目的の場所に着いたらしい。
目の前には巨大すぎる門がそびえ立っていた。

 

「おお、神様!我等が願いを聞き入れたまえ!
 我等が悲願をお聞き入れくだされ!」

 

暫くしてギシリと重い音がして門がわずかに動いた。
その間だからまばゆい光があふれ出す。
そして門が開き、光の中に私も猫達も、全てが包まれた──

 



 

「未来、新年開けましておめでとう。今年もよろしくね」
「あ、おねーちゃん。明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします」
「・・・ねぇ。新年早々変な話だけど、あんたって何年だっけ?」
「もう、お姉ちゃん忘れたの?今年巳年だから逆算すれば分かるでしょ?
 私の干支は子年、つまり猫よ」


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