梅の香りに包まれて
「ふ・・・ぁあああ・・・疲れた・・・」
俺は目頭を押さえながら、ゆっくりと車から降りる。
目の前には古びた屋敷が建っている。
元々は爺さんの持ち物だったが、管理していた親父が亡くなって、俺の管理になってしまったのだ。
まぁ・・・お袋はとっくに他界してるからな・・・他に管理できる親戚や知り合いも居ないし・・・
「うーん・・・雰囲気はいいけど・・・掃除が面倒くさそうだな・・・」
目の前の屋敷をしげしげと眺めながら、俺は呟いた。
作りはしっかりとしているが、いかんせんでかすぎる・・・
そもそもこのサイズの家を一人モンの俺に管理させようって言うのがアレだと思う・・・
「まぁ・・・仕方ないか・・・」
俺は意を決して屋敷の中に入っていった。
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中は埃っぽく、あちこち蜘蛛の巣だらけだった。
どうやら親父も土地やらの管理だけで、家そのものの管理は手を付けてなかったらしい。
まぁそれなりに忙しい人だったからな・・・
仕方なく俺は玄関においてあった掃除用具を出して簡単にではあるが掃除することにした。
このままではそもそも生活すら出来なそうだし・・・
そうして2時間程やって、ようやく粗方の作業が終わった俺は、縁側でゆっくりとする事にした。
「ふぅ・・・疲れたぜ・・・」
そもそも何だってこんなことをせにゃならんのか・・・
俺はただ、日々小説を書いて適当に過ごせればそれで良かったのに・・・
「・・・ん?」
そんな下らない事を考えてながら庭を眺めていた時だった。
「梅・・・か?」
俺は庭の隅の方に一本だけぽつんと生えている木を見つけたのだ。
10月という事もあるが、それにしてもいくら何でもみすぼらしくないか?
「栄養が足りないのか?」
日当たりもそんなに良くないし・・・そもそもなんでこんな隅に・・・
「・・・まぁいいか。そのうち肥料でも撒けばいいだろ」
俺は縁側に寝そべると、そのまま昼寝を始めたのだった。
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『あの・・・』
・・・誰だ?
『もしもし・・・?』
ああ、聞こえてるよ。どこに居るんだ?
『こっちです・・・』
・・・どうした?ここは私有地だぞ?
『その・・・助けて下さい・・・』
おいおい・・・そういうのは警察にだな・・・
『貴方じゃ無きゃ駄目なんです・・・お願いします・・・私を助けて──』
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肌寒さを感じて、俺はゆっくりと目を覚ました。
どうやら少し寝過ぎたのか、辺りはすでに真っ暗だ。
「・・・にしても変な夢だったな」
小柄な女の子がひたすら俺に助けを求める夢。
なかなかに可愛らしかったが、随分と時代錯誤な格好だったよな・・・
おかっぱ頭に梅色の着物なんて・・・
「今更中学二年生みたいな夢見てもな・・・」
昔なら天啓か!?と騒いだものだが、この年じゃな・・・
「うぅ・・・流石に冷えてきたな」
俺は震える体を押さえてながら、部屋の中へと戻っていった。
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次の日、俺は庭の草むしりを終えて少し縁側で休憩していた。
幸い仕事の締め切りはまだ先だからもう暫くは家の事が出来る。
「・・・そういえばあの梅の木の様子も見ておかなきゃな」
俺は縁側から庭に出ると、梅の木に近寄った。
見たところ、特に病気にかかったような様子は無いな。
ただ、元気が無い。
「やっぱり栄養かねぇ・・・」
そう呟いて木に触った時だった。
『助けて下さい・・・』
俺はあの夢で聞いた声を再び聞いたのだ。
慌てて手を離すと途端に声は止んだ。
どうやら木に触れていると聞こえるらしい。
俺は一度深呼吸をしてから、注意深く木に触れた。
『ああ・・・良かった・・・もう一度触れてくれた・・・』
「・・・やっぱり、お前が喋っているのか?」
俺は木に話しかける。
こんな姿を見られたら間違いなく通報されるな・・・
『はい・・・そうです・・・お願いです・・・助けて下さい・・・』
「助けてくれって言われてもな・・・まずどうしたんだ?」
そう質問すると、梅の木はこう答えてきた。
『お腹が・・・減ったんです・・・』
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「つまり・・・うちの爺さんが死んでから庭をまともに手入れする人が居なくて、
その結果土はひたすらやせ衰えたと・・・」
俺はあの後簡単にだがこの梅の木から話を聞いた。
どうやら爺さんが面倒を見ていたのだが、それ以降はみんな放置してたらしく、
土の養分が最早絞りかす程度しか無いらしい。
『はい・・・私は植物ですから・・・動けませんし・・・』
「実を付けて養分にするとかは・・・」
『流石に実の子を食べるのはちょっと・・・それに結局産むのも力を使うんで・・・』
そりゃそうだ。
「そういえば、あの夢に出てた女の子はなんなんだ?」
『あれが私の姿です。
本来なら実体化できるのですが・・・今は力が足りなくて・・・夢にお邪魔するのが精一杯です』
つまりこの梅はそれだけぎりぎりって事か・・・
「・・・ふぅ。しゃーねーなー・・・何とかしてやるよ」
『本当ですか!?』
「ああ、なんだかんだでここの管理人だしな・・・」
『本当に・・・本当にありがとうございます・・・』
必死にお礼を言う梅の木に何となくこっぱずかしい思いをしながら、俺は木から手を離した。
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翌日、業者が来て調べてくれた。・・・正確には樹木医と言うそうだが。
その結果、木そのものは特に問題無いらしい。
だが、長年放置したせいで土そのものが駄目になっているそうだ。
結果、一度土を入れ替えるそうだ。
「かなり大事だな・・・」
一度業者の方には帰って貰って、俺は梅の木と相談していた。
というか一時的とは言え、完全に栄養を絶っても大丈夫なのか・・・?
・・・まぁ他にやりようが無いんだが。
『少しの間でしたらなんとか大丈夫です』
「そういうものなのか?」
『はい・・・元々今と余り変わりませんから』
「それなら業者に頼むぞ?」
『はい・・・お願いします・・・
私、元気になったらいっぱいお手伝いしますから!』
「・・・別にいいよ、んなこと気にしなくても」
『あ・・・』
俺は木から手を離して、早速今日来てくれた業者さんに連絡した。
次の日に来て貰う事となり、ほっと胸をなで下ろした。
作業自体はすんなりと終了し、決して安くは無い額を支払って業者の方には帰って頂いた。
来て貰ったり帰って貰ったりと色々と迷惑をおかけして申し訳なかったなぁ。
「さてと・・・今回入れた肥料は元肥というらしくて、すぐに効果が出る奴じゃ無いらしい。
そのうち別の肥料も入れてやるから・・・もう少し待ってろ」
『ありがとうございます・・・』
一通りの説明をして、俺は縁側に戻り、梅の木を眺めた。
「・・・」
心なしか嬉しそうにそこに佇む梅の木を見ながら、俺はのんびりとするのだった。
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「おはようございます!」
数日後、朝起きた俺の目の前に夢で見た少女が立っていた。
どうやら実体化とやらが出来る程度には回復したらしい。
「ああ、おはよう・・・ある程度は元気になったのか?」
「はい!でもまだ長時間は難しいです・・・」
まぁそう簡単にはいかないよな。
「まぁ・・・何はともあれ良かったじゃないか」
「はい!本当にありがとうございます!」
ぺこりと元気よくお辞儀をする少女。
よく見れば夢で見たときよりも肌の血色が良い。
「これから色々とお手伝いしますね!!」
「おいおい・・・それで栄養使っちゃ本末転倒だろ・・・」
適当に返事を返しつつ、俺は布団から起き上がったのだった。
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それから俺と梅との奇妙な共同生活が始まった。
少女こと梅の木の名前は面倒なので梅と呼ぶ事にした。
少々古くさい名前だが、あり得るだろうから違和感ないしな。
そして2週間ほど経ったある日の事だった。
「梅も大分活動出来るようになったな」
俺は梅の作った飯を食べながら、そう呟いた。
「はい!最近頂いた肥料が良い感じみたいです」
そう言って元気に跳ねる梅。
よく分からないので肥料を少し多めに入れてみたが、どうやら調子よさそうだな。
「ところで・・・お味はどうです?」
「うん、旨いよ。どこで練習したんだ?」
「貴方のお爺さんに良く作ってましたから!」
えっへんと小さな胸を張る梅。
俺はスルーすると、食事に戻った。
「あっ!ちょっと、無視しないで下さい!」
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共同生活が始まってから二ヶ月。
梅の居る生活にも慣れ、俺は新作の制作に集中できるようになってきた。
ただ・・・
「・・・?どうかしました?」
「いや・・・別に・・・」
何となくだが、梅に違和感を感じるようになった。
内面的な話では無く、見た目に関してである。
なんかこう・・・ぼやけた様な感じとでも言うべきか。
俺は気のせいと言う事にして、再び原稿に向かうのだった。
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それから一ヶ月が経ち、年が明けた。
そんな中、俺はとある現象に悩まされていた。
「・・・」
「???」
俺の目の前には困惑する様子の梅。
困惑しているのは俺の方なのだが・・・
「なぁ梅?」
「はい?」
「なんでそんな太ったんだ?」
面倒になった俺は直球で話す事にした。
ピシリッと空気が固まる。
「・・・な、なんのことでしょう?」
「いや、どう見ても太ったろ・・・」
俺は梅の体を改めて見る。
元々小柄でがりがりに痩せていたはずの梅だが、今ではぽっちゃりと言えるほどである。
子供らしいサイズだったはずの胸は軽く動くだけで弾むようになったし、着物の間から
谷間すら見える。
腹は丸くぽっこりと飛び出て、帯が窮屈そうだ。
尻は着物の上からでもはっきりと分かるほどに育ち、太ももの太さもよく分かる。
腕は服に隠れて良く分からないが、顔は元々の丸顔がさらに丸くなっている。
「えっとですね・・・た、多分ですけど体の方が長い栄養不足のせいで栄養を普段より多く
吸収する様になったのかと・・・」
「あー・・・」
よく考えればかなり長い間栄養が足りなかったもんな・・・
乾いたスポンジに水を入れるようなもんか・・・
「そうなのか・・・仕方ない、少し肥料を減らすか・・・」
「だ、駄目ですよ!!
樹木医の方も今は大事な時期だから減らさないようにって言ってたんでしょう!?」
「それはそうだが・・・」
いくら何でも太りすぎじゃ無いか・・・?
「・・・もしかして食事というか栄養が欲しいだけじゃないよな?」
「そんなことはないです!!」
「お、おう・・・悪かった・・・」
真っ赤な顔をして反論する梅をなだめつつ、俺は今後の事をどうするか考えていた。
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「よいしょっと・・・!」
さらに数週間経ち、二月も中頃になった。
梅は何時ものように色々と家の事をやってくれている。
だが・・・
「ふぅ・・・ふぅ・・・」
今の梅を見ると、少しでも息が荒くなると運動不足かと勘ぐってしまう。
実際は力を入れるための呼吸法らしいが・・・
その呼吸をする度に腹の脂肪が揺れる揺れる。
一緒に大きくなった胸も揺れてるが、腹の印象が強すぎる。
屈もう物なら尻が今にも着物を破くのでは無いかと思うほどだし、
太ももはどうも内側で擦れるのか歩く度に奇妙な音がする。
時々見える腕はかなり太く、以前の梅の太ももとどっちが太いか分からない。
顎にもたっぷりと肉が付き、完全に二重顎である。
肥料を減らしているんだがなぁ・・・
「ふひぃ・・・ようやく終了・・・」
大きく息をつく梅。
やはり何度聞いてもただの息切れにしか聞こえない・・・
「・・・?お仕事終わったんですか?」
「あ、いや・・・一区切り付いたんでな、少し休憩中だよ」
視線に気付いたのか、梅がこっちに声をかけてくる。
俺は適当に誤魔化しつつ、庭の方に視線をやった。
「ん?お前、もうすぐ花が咲くのか?」
見てみれば、梅の木にはいくつものつぼみがあった。
「はい。今年度はもう無理だと思ってましたけど、お陰様で無事に。」
「そうか・・・それはよかったよ」
俺は花が咲いた光景を思い浮かべながら、しばらくの間梅の木を眺めていたのだった。
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「おー!こりゃすごいな!!」
世間的には春も中頃。
だが、割と北の方にある我が家はようやく梅の花が咲いた。
正に満開と言った様子で、桜とは違う華やかさがある。
淡いピンク色の花が風にそよぐ様は本当に見事だった。
「すごいな梅!」
「ふふ・・・ありがとうございます」
横で正座している梅に声をかけると、嬉しそうな、誇らしげな。
そんな声が返ってきた。
だが・・・
「なぁ・・・無理せず足崩したらどうだ?」
その体型での正座は俺が見てて不安になる。
「そうですか・・・?じゃあお言葉に甘えて・・・」
そういって梅が足を崩す。
それだけでドスンと凄い音がする。
同時に梅の体中の脂肪という脂肪が揺れる。
「ふぅ・・・」
深く息を吐く梅。
「・・・やっぱり太ったなぁ」
俺はそんな梅を見ながらそう呟いた。
すでに体重は俺の二倍以上はあるだろうなぁ。
全身贅肉だらけだ。
巨大過ぎる胸に妊婦顔負けの腹。
長いはずの丈が膝上までのミニ状態になるほどの尻と太もも。
パツンパツンで窮屈そうな二の腕。
肉に埋まった首に、たっぷり・・・いや、でっぷりと頬肉が付いた顔。
なんていうか、丸い。全体的に丸い。
「ひ、酷いですよ!!」
「そうはいうけどな・・・明らかにそれはアカンだろ」
むぅ!と膨れる梅。
そうやって適当に梅をからかいつつ、俺は花見を楽しんだ。
・・・後日、俺が与えた肥料はすこし薄めて使う物だったらしい事が判明するが、
それはまた別の出来事。
梅
身長143cm
体重37kg → 51kg → 73kg → 134kg
B:76cm → 86cm → 98cm → 112cm
W:52cm → 69cm → 87cm → 128cm
H:75cm → 84cm → 97cm → 133cm