巾着袋をそばに持ち
安倍 康(あべ やすし)20歳 身長172cm 体重61kg
大学生で人の気配が無い夜景を見るのが趣味の少し変わった男。
葛葉 志乃(くずは しの)20歳 身長168cm 体重45kg
ややツリ目できつめに見える美人。だが実際はかなり気弱な性格。
康の恋人でもある。
遠くで電車の音がする。
俺はその音を聞きながら川をゆっくりと眺める。
人気の無いこの場所は昔からのお気に入りだった。
街灯で明るいのに誰も居ない。
マンションの明かりは見えるのに生活感が見えない。
そんな空気が昔から好きだった。
少し澄んだ侘びしい感じとでもいうのだろうか。
早朝の空気とか、ああいう感じ。
「・・・やっぱり落ち着くな」
俺は橋の欄干に右肘をついて手の平に顎をのせる。
そのまま深呼吸すると、どこか磯臭い空気が鼻に入った。
「・・・そろそろ帰るか」
肘を欄干からどかし、俺はぐっと背伸びをした。
「・・・ん?」
そんな俺の目に一人の女が映った。
一本向こうの橋を通った女だった。
綺麗な金色の髪をたなびかせて歩くその姿は男なら確実に振り返るだろう。
だが俺はそれよりも気になることがあった。
「・・・志乃?」
そう、俺は何故かその女を恋人の志乃だと思ったのだ。
だが志乃とはまるっきり違う。
遠目だし、顔や体つきがはっきり分かるわけでは無いが、志乃とは雰囲気が似ても似つかない。
そもそもあいつ髪の毛の長さは同じぐらいだけど黒髪だし。
「・・・第一あいつがこの時間に歩いてるわけ無いか」
腕時計で時間を見ると22時過ぎ。
あいつはこの時間なら寝てるはずだ。
「“良い子ちゃん”だからなぁ・・・あいつ」
なかなか“夜の”一緒の時間が取れなくて困るんだよな。
もう一度向こうの橋を見たが、既に女の姿は無かった。
「・・・見間違いだな」
多分後ろ姿とかが似てたからそう思ったのだろう。
俺はそう結論づけると、頭を数回振って家に帰るのだった。
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「康君、おはよう」
翌日、俺は大学で後ろから志乃に声をかけられた。
「おう、おはよう」
振り返って挨拶を返す。
ややきつめの顔立ちに、腰まで伸びる髪の毛。
かなりの美人なんだが、見た目が怖い目なのと人見知りなせいで
知らない人と上手くコミュニケーションが取れない為、
初見だと近づきにくい相手に見えるのからかこの年まで彼氏が居なかったという“優良物件”だ。
・・・まぁ俺も彼氏になるまで相当苦労したんだが・・・
「今日何時限から?」
「本当なら朝から有るはずだったんだけど、教授が急用で休講だってよ」
「ははは、ラッキーだったね」
「だな」
そんな下らない話をする。
横目でちらりと志乃を見る。
やっぱり昨日見た女性とは全然雰囲気が違う。
「ん?どうかした?」
「いや、別に。今日も可愛いなって」
「・・・!!もう!!」
照れる志乃をからかいながら、俺は面倒な授業の準備をするのだった。
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「・・・」
「な、なに・・・?」
数日後、俺は志乃の事をじっと見ていた。
何とも言えない違和感が有るのだ。
「・・・もしかして、志乃お前・・・太った?」
「・・・うっ」
露骨に目をそらす志乃。
「・・・やっぱりか」
「私もよく分からないんだけど・・・なんだかいつの間にか太り出しちゃって・・・
その・・・やっぱり痩せてた方がいい?」
「いや・・・過度に太ってなければいいんじゃないか?」
実際少しやせ気味なぐらいだしな。
「・・・ありがとう」
「バカ・・・何言ってるんだよ」
「うん・・・でもありがとう」
だから・・・別にお礼を言うほどのことじゃないだろ。
全く・・・
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「・・・」
「・・・その・・・ですね・・・私なりに努力はしたと言いますか・・・あの・・・」
二週間後、俺の目の前に居る志乃はかなりぽっちゃりしていた。
胸は服をピンと横に引き延ばし、腹は何とか服で隠れているが
もし見えたらだるんとした腹肉がズボンに乗っているだろう。
太ももはズボンにギリギリで入っているらしく、尻と一緒にズボンを引き裂かんとしてる。
腕はゆったりとした袖で隠しているけど、多分見えたらたぷたぷだろう。
幸い顎はちょっと丸くなった程度だし、ゆったりとした服を着れば余り目立たないだろうが・・・
「・・・怒ってる?」
考え事をしてた俺の顔を見て志乃が恐る恐る聞いてくる。
どうやら怒ってると思われたらしい。
「いや・・・寧ろ心配してる」
いくら何でも急激に太りすぎだ。
二週間で一体何キロ太ってるんだよ・・・明らかに10キロとかじゃないだろ・・・
「なぁ・・・病院は行ったのか?」
「行ったけど・・・特に異常は無いって言われたよ・・・」
「そうか・・・」
食生活を聞く限りは太るような事は無いはずなんだが・・・
「とにかくそれ以上太ると良くないぞ?」
「・・・うん、頑張る!」
やる気を出す志乃に無理はするなと声をかけながらも、俺は言いようのない不安にかられていた。
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「本当にごめんね・・・恋人なのにこんなデブになっちゃって・・・」
「大丈夫、俺は別に気にしてないから!」
泣きじゃくる志乃をなだめながら、俺は志乃の体を見る。
あれから一ヶ月。
志乃の体は完全にデブと言って良いような体になっていた。
丸々とした腹は前に出てきて、買い換えたばかりのシャツのボタンがはじけ飛びそうだ。
その上の胸はまるで鏡餅のように柔らかそうに横にずれている。
恐らく下着のサイズが合わないからだろう、どうもブラを付けてないらしい。
尻は大きめのロングスカートで誤魔化そうとはしているが、
サイズ的に隠せるような物ではなく浮き出ている。
太ももはまだ誤魔化せているようだが、それでも明らかに太いのが分かる。
腕は相も変わらず袖が広い上着でカバーして居るが、服のしたにはそれはもう肉々しい腕がある。
顔には相変わらず贅肉が付きにくいのか、まだ他に比べればシャープに見える。
・・・他に比べればと言うことで十分丸いのだが。
冬休みが始まったのは幸いだった。
志乃がここ最近太ってから人目に触れるのを今まで以上に恐れてる上に、
精神的に不安定になってる。
外に出なくて良いのはありがたい。
志乃の事をひたすら慰めることが出来る。
「・・・志乃、心当たりは本当に無いんだな?」
「うん・・・ご飯も全然食べてないし・・・運動もしてるし・・・夜も早く寝てるし」
志乃は真面目だから恐らくこの言葉の通り生活しているのだろう。
「・・・とりあえず今まで通り努力すれば絶対痩せられるから、落ち着いてな!」
「うん・・・うん・・・!ごめんね・・・」
「謝らなくて良いから・・・な・・・?」
とりあえず志乃をなだめながら、俺はどうするかを考えていた。
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「・・・」
その日の夜。
俺はいつものように橋の欄干に肘をつき、顎を手にのせて夜景を眺めていた。
志乃の体型が変わった理由は未だ分からない。
志乃も自分の体の変化に戸惑いっぱなしだ。
「・・・どうすればいいんだ」
思わず頭を抱える。
折角出来た可愛い彼女だ。
どうにかしたいが・・・なんの考えも浮かばない。
医者にも診て貰ったと言うし、俺に出来る事は志乃をなるべく落ち着かせることだけ。
八方塞がりだ。
「・・・ん?」
ふと、奥にある橋にいつぞやの女が居る。
・・・と思う。
髪の毛の色や、あの独特の雰囲気は多分あの女だろうが、志乃みたいに丸々と太っていた。
・・・ん?
「“志乃みたいに太ってる”?」
この短期間に?
志乃と同じように?
“志乃と同じ位の体型になった”?
「・・・ちょっとそこの人待ってくれ!!」
俺はその場から駆け出すと、必死にあの女の方へ走った。
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・
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・そこの人!!」
必死に走ってようやく女の背中が見えた。
近くで見れば見るほど志乃がダブって見える。
「待ってくれ!!」
女は普通に歩いて居るだけなのに、何故か追いつけない。
「待ってくれって!!」
必死に走って走って、ようやく背中に手が届きそうになった。
思いっきり手を伸ばし、女を掴もうとする。
その瞬間。
「康よ、ご苦労様」
女が振り返った。
その顔は目尻に赤いメイクこそしているが完全に・・・
「志乃・・・?」
「うむ、志乃でありんすよ?」
志乃の顔だった。
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「・・・お前誰だ?」
俺は志乃の顔をした女と向き合いながら問い詰める。
女はにやにやと笑いながら口を開いた。
「誰とは酷い。志乃でありんすよ」
「志乃はそんなしゃべり方はしないし、そんな顔はしない!」
にやにやする女に無性に腹が立ち、思わず叫ぶ。
「ふふ・・・主は酷い男でありんすね。
恋人の顔を忘れたと申すのでありんすか?」
「・・・忘れるわけ無いだろ。今日も会ったんだから」
「でありんすね。わっちを必死に慰めてくれたんでありんすから」
「・・・もう一度聞く。お前は誰だ?」
「ふふっ・・・志乃でありんすよ。
・・・と言っても信じないでありんしょうね。その通り、康の知ってる志乃ではありんせん。
ま、わっちも“しの”という名前ではありんすが」
「・・・」
女・・・“しの”をにらみつけると、しのはふっと笑った。
「そう怖い顔で睨むもんではありんせん。早い男は嫌われるでありんすよ?」
「・・・」
「分かりんした、分かりんした。話すでありんす。
わっちはお志乃。志乃の祖先にあたりんす」
「・・・祖先?」
お志乃は頷くと、続きを話し始める。
「わっちは所謂“妖狐”というものでありんした。その証拠に・・・ほら」
お志乃がそう言うと、髪の毛の辺りからなにやら獣の耳が出てきた。
確かに狐のような形状に見える。
「話し方で分かるとは思いんすが、吉原の辺りで生を立てておりんした。
保名様に娶って貰い、子をなしたのがこの志乃の始まりでありんすよ」
お志乃は胸の辺りをとんとんと指で指す。
大きな胸に指が当たる度にたわわに揺れるが、今はそれどころじゃ無い。
「・・・そのお志乃がなんで志乃の体にいるんだよ」
「ふふっ・・・妖狐だから、でありんすね。
妖狐は人と違い魂だけでも生きることが出来るでありんす。
まぁわっちだけかもしれんせんが・・・
そして魂という物は不思議な物でありんす。例えば・・・“一つの体に二つ存在出来る”とか」
「・・・!!」
つまりこいつは・・・志乃の体に魂だけで入っていると言うことらしい。
「・・・なんでそんなことを」
「まぁ偶にはわっちだって遊びたいという事でありんすよ。
血縁以外では上手く憑依できぬでありんすからちょっと体を借りてるでありんす」
「・・・ふざけているのか?」
「まさか。わっちは至って本気でありんす。
まぁ羽目を外しすぎてこんな体になったのは申し訳ないでありんすが」
・・・コイツが原因?
「羽目を外したって・・・なにを」
「別に、ただ少し“食べ歩き”をしただけでありんす。
今の食事はどこも味がよいでありんすから」
「金は?」
「わっちをなんだと思っているでありんすか。金ぐらいすぐ稼げるでありんすよ」
・・・つまり、何らかの方法で金を稼ぎ、その金でひたすら食べ歩きしていたと?
「・・・ともかく、志乃の体から出て行ってくれないか。志乃も急に体が太って困ってる」
「・・・そうでありんすねぇ・・・確かにそろそろ満足ではありんすが・・・」
お志乃は黙って何かを考えるそぶりをしてから、こう聞いてきた。
「康、一つ尋ねたいことがありんす」
「なんだ?」
「志乃のこと、どう思ってるでありんすか?」
「どうって・・・大事な恋人に決まってるだろ!!」
急に何を聞くんだこの駄目狐は。
「ふむふむ・・・この様になった志乃を愛せると言えるでありんすか?」
「勿論だ」
志乃は志乃だろ。
どんなに太っていようが志乃だ。
「ほほぉ・・・なら任せても大丈夫でありんすね」
「任せるって・・・何を?」
「勿論、“だいえっと”でありんすよ。わっちはもう出て行くでありんすから」
「なっ!?おいちょっと待て!」
「ではさらばでありんす!」
お志乃がそう言った直後、すっと志乃の髪の毛がいつもの黒髪に戻った。
そしてそのまま力無くその場に崩れ落ちる。
俺は慌てて駆け寄り、志乃の顔を見た。
そこにはすやすやと心地よさそうに寝息を立てる志乃の顔があった。
・
・
・
「・・・ふぅふぅ・・・も、もうだめぇ・・・」
「ほら、あとちょっとだから!」
それから一ヶ月後。
俺は志乃のダイエットの面倒を見ていた。
あの後タクシーを呼んで志乃を家まで連れて帰った俺は、そのまま志乃の家に泊まった。
起きた志乃に説明をし、一緒にダイエットをする事を約束した訳何だが・・・
「だ・・・だって・・・体が重くて・・・」
何故か志乃の体は一ヶ月前よりも太っていた。
三桁を軽く突破したその体は以前よりもさらに丸くなり、妊婦よりも大きな腹や頭以上の胸、
一人用の椅子では収まらない尻と、完全に外国人サイズという感じの体格になってしまった。
全身ぶよぶよの脂肪だらけで、動く度にダプンダプンと盛大に贅肉が揺れる。
どうやら今までの“深夜食べ歩き”のせいで胃袋が大きくなったらしく、
食欲が増えて増えて仕方ないらしい。
今までは食べ歩いていたから何とかなったらしいが、それが消えた途端これである。
・・・普通は深夜に腹が減るようになるはずなんだが・・・これもあの駄目狐のせいなのか?
とにもかくにも、俺は志乃と一緒に走り込みをしているのである。
「・・・コレ終わったらお稲荷さん食べて良いから」
「本当!?」
餌で釣ると目を輝かせる志乃。
どうやら思考まで駄目狐に影響されているらしい。
「ああ、本当だからもうちょっと頑張れ」
「うん!」
返事だけは元気の良い志乃を横目に、俺はどうにかしてあの駄目狐をシメる方法は無いかと
考えるのだった。
葛葉志乃
身長:168cm
体重45kg → 50kg → 62kg → 90kg → 150kg
B:85cm → 91cm → 96cm → 109cm → 127cm
W:55cm → 60cm → 74cm → 99cm → 134cm
H:79cm → 84cm → 90cm → 104cm → 140cm
『やれやれ・・・志乃もなかなか良い子を捕まえたようでよかったでありんすよ・・・
引っ込み思案で心配していたでありんすが・・・まぁ悪い男に捕まって無くて安心しんした。
さて・・・もうしばらくは寝ていても大丈夫でありんしょう・・・おやすみでありんす。
我が子達・・・』