電子の海に溺れて
久川 美久(ひさかわ みく) 17歳 身長155cm 体重43kg B:87 W:51 H:78
仮想現実体験型のゲーム、『DiveDream』(通称DD)をプレイしている少女。
ところがバグが起きて・・・
「ただいまー!」
靴を脱ぎ、そのまま部屋へと駆け上がる少女。
久川美久はウキウキとした顔で扉を開けると、鞄をベッドへ放り投げ、
そのまま机の上の機械を起動する。
DiveDream、2029年にサービスを開始し、瞬く間に人気となった仮想現実体験型ゲームだ。
精神を一時的に肉体から取り出し、ゲームの中のアバターと呼ばれる自分の分身に入れ替えることで、まるでその世界に居るかのような体験が出来るというそれは、瞬く間に広がった。
最初は色々と良くない噂も立った物だが、結局は噂に過ぎなかった。
それ以降、このゲームは流行語にもなるほどに広まったのだった。
美久もこのゲームを始めており、のめり込んでやっている。
「さって・・・ログインログイン・・・っと!」
専用のヘッドギアを装着しながらカチャカチャとIDとパスワードを入力し、
美久は意気込んでゲームに“ダイブ”する。
すっと意識が溶け込んでいき、徐々に視界が曖昧になっていく。
そして次の瞬間、彼女の意識はゲームのアバター、“Miku”に入っていた。
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「相変わらず栄えてるなぁ〜」
とことことゲーム内の街を歩き、なじみの店へと向かっていく美久。
目の前の広がる景色はゲームとは思えないほど現実染みていた。
カツカツと足に響く地面の感触、人々の喧噪と息づかい、日中独特の匂いまで感じられる。
「ん〜・・・やっぱりいいなぁ・・・散歩も楽しいわ」
にやにやとした顔で暫く歩いて居た美久だが、やがて一軒の店の前で止まった。
そして扉を開け、ゆっくりと中に入っていく。
「ごめんくださいな」
「・・・あら。いらっしゃい」
店の奥でカウンターに頬杖をついていた女性、“Mel”が笑って美久を迎えた。
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「はい、これ採ってきた素材です」
美久はカウンターに近寄り鞄から素材を取り出す。
「いつも悪いわね・・・」
Melは苦笑いしながら素材を仕舞い、ごそごそとカウンターの下から何かを出す。
「これ、お返しって訳じゃ無いけど良かったら使って頂戴な」
受け取った美久がアイテム情報を調べると『短縮の指輪』というアイテムだった。
「これね、ちょっと面白い話があるの。
それ本当は戦闘スキルのクールタイムを短縮する物なんだけどね?
なんでも料理のクールタイムも短縮出来るらしいのよ。
Mikuちゃん料理スキル取ってたわよね?」
「あ、取ってますけど・・・見た感じこの指輪で短縮出来るの10%ですよね?」
美久が手にした指輪を眺めながらそう聞く。
確かにアイテムの説明欄には『クールタイムを10%短縮する』とある。
このゲームでは様々なスキルが存在しており、多くのスキルは一度使用すると
次に使用出来るまでの時間、クールタイムが発生する。
料理の場合、料理スキルは何度でも連続で使えるのだが、
一度料理を食べると数時間程料理が食べられないのだ。
料理は様々な効果をもたらすので大変重宝されるスキルなのだが、
料理スキルを上げるには料理を数多く作る他に一定量の料理を食べる事も必要なのである。
このシステムの御陰で、クールタイムの長い料理スキルを上げるのは他のスキルに比べて
面倒であるのだ。
「そこでこれよ」
Melは再びカウンターの下を漁ると、もう一つ別のアイテムを出した。
それは背の高い青い瓶で、美久が手に持つと、チャプチャプと揺れるのだった。
「なんですかこれ?」
「これはね、飲だ後しばらくの間は指輪の効果を高める『愚か者の英知』って
アイテムなんだけど・・・
不具合で短縮の指輪に限り効果が10倍に高まるの」
「え''っ!?なんですかそれ!?」
美久が驚きの余り変な声を出す。
10倍に高めた場合、クールタイムは実質無くなる。
一度に数時間のクールタイムがある料理スキルを上げるには絶好のチャンスである。
「だからバグだって・・・どう?やってみる?」
「えっでも・・・こういうのって垢BANされません?」
垢BAN。
Account Banの略で、アカウントの禁止・・・
つまりゲームプレイに必要なアカウントを停止させられる事を指す言葉だ。
ゲームを運営している会社によって様々ではあるが、
基本的にこう言った“仕様の穴”を突く行為は禁止されていることが多い。
一度二度なら大丈夫だろうが、度が過ぎるとアカウント停止させられるだろう。
「これがねー・・・実はこのバグずっと昔から有るのよ。
もう二年ぐらい放置されてるんじゃない?」
「え?なんでですか?」
「さぁ・・・まぁこの短縮の指輪自体がドロップ全然しない事もあって
全く知られてないバグっていうのもあるんじゃない?
私だって当時噂を聞いて必死で探して最近ようやく見つけたんだから」
「じゃあ、Melさんこれ必要なんじゃ・・・」
「あはは・・・実は指輪を見つける前に料理スキルカンストしちゃったのよ・・・
まぁ普通にやっても半年位頑張ればカンストするようなスキルだからねぇ・・・」
カンスト、カウンターストップの略で、つまるところステータスやレベルが
最大値になった状態を指す。
料理スキルはレベル30が上限であり、他のスキルと比べてもかなり低い。
ネットなんかではレベルが低いからこそのクールタイムでの時間稼ぎ等とも言われている。
「Mikuちゃん、まだ上がりきってないでしょ?
どう?試しにやってみたら。垢BANされるとしても多分最初に警告ぐらいはしてくるでしょうし」
Melの言葉に、美久は指輪と瓶を交互に眺めながらしばし考え込む。
そして・・・
「・・・そ、そうですね・・・ちょっとやってみようかな・・・」
そう答えたのだった。
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「・・・本当にコレでいけるのかな?」
ゲーム内の自宅に戻った美久は指輪を指にはめ、光にかざす美久。
もう一方の手に瓶を持ち、しばし悩んだ後。
「・・・えぇい!!」
思い切って薬を飲んだ。
そしてすぐさま台所に向かうとすぐさま料理を作り始める。
ゲームの中とは思えない良い匂いが辺りに漂いはじめ、気付けば美久の手には
出来たての子羊のステーキが存在していた。
美久はそれを鞄にしまうと、すぐさまもう一品料理を作り出した。
数分後には美久の手に焼きたてのフィッシュパイがあった。
「・・・いざ!」
美久は先に作ったステーキを鞄から選択し食べ始める。
すぐさま料理の効果が現れ、美久は自分の体の奥底から力が湧いてくるのを感じる。
そしてそのままフィッシュパイを選択し、食べるを選択する。
本来ならここでエラーが発生し、食べられないと表示されるはずなのだが・・・
「た、食べられる!!」
思わず叫んでしまう美久。
アイテムを選択した瞬間、美久は体から別の力がわき上がるのを感じる。
どうやらアイテム効果の重複はしないようだが、無事に料理を食べることが出来た。
「流石に効果重複は無しか・・・そうじゃなかったらもっとこのバグ有名になってるもんね・・・
でも・・・これで料理スキルを思いっきり上げられる!!」
右手を突き上げ、やるぞー!と叫ぶ美久。
早速余っていた食材を使い、どんどんと料理を生産するのだった。
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「ふぅ・・・ようやく5分の1かぁ・・・どんだけ上げにくいんだか・・・」
数日後、美久は料理スキルのレベルを見ながらため息を付いていた。
確かにレベルの上がる速度は高まったが、だからといってそんなに簡単に上がるわけでは無い。
材料の仕入れや薬の調達などの為の資金稼ぎ等々、色々他にもしなければいけない事もあるのだ。
「うーん・・・今日はこの辺までかなぁ・・・」
そういってログアウトを選択し、現実へと戻る美久。
『ぐぅぅうう・・・』
と、現実に帰った瞬間美久の腹の虫が鳴り響く。
「うーん・・・ゲームで料理を作ってたからかお腹減っちゃった・・・なにか摘もうっと」
そう言って部屋から出てお菓子を探しに行く美久。
帰ってきた彼女は夕食後だというのにスナック菓子を2袋も平らげたのだった。
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「えー・・・つまりここにこの数値を代入すると式がこう変形するわけだな」
さらに数日後。
美久は学校で授業を受けていた。
数学教師が黒板に様々な数式を描いていく。
だが、美久には授業の内容が一切入ってこない。
なぜなら・・・
『ぐぅぅぅうううううう・・・・』
「うぅ・・・お腹減った」
酷い空腹感を覚えていたからである。
現在は五時間目、昼食は先ほど食べたばかりである。
「なんでこんなにお腹減るんだろ・・・」
美久は自身の体に疑問を抱きながら、購買部までの道のりと品揃えを考える。
「確かチョコレートのお菓子が・・・いやこれはパンじゃないと駄目かも・・・
だったらやっぱりメロンパン・・・いやチョココロネが・・・
でもメロンパンの食感も捨てがたいし・・・」
そんな事を考えながら、美久は早く休み時間にならないかと祈るのだった。
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「うぅ・・・どうしようこれ・・・」
一週間ほど経ったある日、美久はスカートを見ながら困り果てていた。
普段部屋着に使っているスカートのウエスト部分が入らないのだ。
「ここ最近お菓子とか食べ過ぎたから太ったのかなぁ・・・」
美久はため息を付いてから手にしていたスカートを一度置くと、ゴムタイプの物を取りだした。
デザインが可愛いので買った物だが、ゴムタイプを履くのは負けた気がして
今まで着ていなかったのだ。
「うぅ・・・やっぱ痩せなきゃ駄目だなぁこれ」
そう決意しながらも、DDを起動する美久。
「まぁダイエットは明日からやるとして、その前に料理スキルのレベル上げしないと」
誰に言うわけでも無くそう呟いて、美久はDDの世界に飛び込むのだった。
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「・・・あむっ」
さらに一ヶ月ほどたった頃。
美久はダイエット所か家の中から出なくなっていた。
最初は頑張って運動したりしていたのだが、食欲がどんどん高まり、
どんなときでも何か口にしていないと気が済まなくなっていた。
「・・・美味しいなぁ・・・これ」
美久は手にした菓子パンをかじりながらそんなことを呟く。
つい先ほどまではDDをやっていたのだが、DDを落とした途端これである。
ひょいひょいとパンを食べ終えると、机の上に置いてある別のパンを手に取り袋を開ける。
その指は以前よりも二回りは太くなり、咀嚼をする口元は頬肉で圧迫されている。
大きく育った胸はシャツをこれでもかと横に広げ、中央の印刷を無残な形に変えている。
その下にある腹はデンと前に迫り出し、シャツをめくり上げてヘソを丸出しにしている。
座っている椅子からはみ出しそうになった尻はくっきりと下着のラインをスカートに映し出し、
そこから伸びる太ももは若干開き目にしないと内側がすれる様になってしまった。
「ん・・・そろそろDD入ろうっと」
冬休みに入り、美久の生活リズムは完全に狂っていた。
起きているときはDDをやるか何か食べるかの二択で、それ以外は風呂と寝る事しかしていない。
最近では風呂すら面倒臭がり、シャワーでサッと済ませることすらざらである。
しかもシャワー中も飴玉なんかを舐めるほど徹底しているのだ。
これだけ太るのも当然と言える。
「・・・最近ヘッドギアがきつくなった気がするけど・・・まぁいいか」
顔全体を覆う様に設計されているヘッドギアはあふれ出す頬肉が邪魔で
上手く美久の顔にはまらない。
無理矢理に押し込めると、美久はDDにダイブするのだった。
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「Mikuちゃん、ちょっといい?」
「Melさん?どうしたんですか?」
さらに一ヶ月程経ったある日、美久はMelにゲーム内で呼び止められた。
「前に教えた方法って・・・まだやってる?」
「はい!もうすぐ料理スキルカンストしますよ!!」
教えてくれてありがとうとMelに礼を述べる美久。
Melはアチャーと言った態度で天を仰ぐと、意を決したような表情をしてこう切り出した。
「その・・・ごめんねMikuちゃん・・・あの方法なんだけど・・・
一個まずい報告があったの・・・」
「報告?掲示板とかですか?」
「うん・・・そこにはね、
『この方法を繰り返すと、現実の体の方に異変が起きる可能性が高い。』って有ったの・・・
Mikuちゃん何か変なこと起きてない?」
心配そうなMelを余所に、美久はさっと血の気が引いていった。
ここ最近の激太りはこれにあったのだろう。
そう思うと色々と納得がいく。
「そ、それってどんなことが書いてあったんですか?」
恐る恐る美久がMelに尋ねると、Melはゆっくりと答えて行く。
「えっと・・・確か・・・
『DDは精神を一時的にだがゲームに入れ、向こうでの体験を現実の体に再び入れ直す
システムだ。つまるところ別のPCにファイルを移し、そこでファイルを弄った後再び
元のPCにファイルを移して上書きする様なシステムだ。
このバグを長期間使った場合、恐らくだが食欲・・・というよりは満腹中枢に対して
良くない働きをするだろう。
常に食事をとり続けるような物だからな。そんな事を繰り返せば満腹中枢が麻痺しても
おかしくないと俺は考えるね』
だったと思うわ・・・Mikuちゃんもしかして・・・」
「ごめんなさい急用が出来たんで落ちます!!」
Melの言葉を遮り美久はログアウトを実行する。
美久は慌ててヘッドギアを外し、姿見で自分の体を確認する。
「・・・私、こんなに太ったんだ」
でっぷりと太った自分の体を見て、美久は絶望したような表情を見せる。
異常な食欲に応えた体はまるでテレビの衝撃映像なんかで見る海外の太った女性のそれだ。
いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。
まるで大玉西瓜を二つ付けたような胸に、1m位前に迫り出した腹。
椅子から盛大にはみ出すであろう尻に足を肩幅に広げてもすれる太もも。
丸太を繋げたかのようになった腕に膨らませた餅を付けたかのような頬。
首は肉に埋まり、顎は二重顎を通り越している。
生活の大半をゲームで過ごしていた美久にとっては余りにもショックな光景だった。
「・・・やだよぉ・・・」
今更になって彼女はその現実を受け入れ、その場で泣き崩れる。
ゲームと現実の境界が曖昧になり、ゲームの感覚で食事を続けた彼女の現実が、
今ようやく彼女に追いついたのだった。
久川美久
身長:155cm
体重43kg → 57kg → 124kg → 206kg
B:87cm → 95cm → 118cm → 139cm
W:51cm → 68cm → 131cm → 164cm
H:78cm → 89cm → 114cm → 159cm