神を目指して
津戸田 愛子(つとだ あいこ)15歳 身長148cm 体重41kg
高校生。昔から料理の味が今一うまく感じ取れないという障害を持っている。
「いただきます」
私は割り箸を割って目の前のそばをすすった。
もそもそとしたそばの食感が歯に伝わるが、それだけだ。
「・・・」
汁を飲んでみても、なんだか塩気の感覚はあるし熱いというのはわかるけど
出汁の風味だとかそういうのはわからない。
昔からこうだ。
どうにも私は料理の味を感じる部分が全然駄目駄目らしい。
かすかに味を感じ取れるから甘いだのしょっぱいだのは感覚でわかる。
でも旨いだの風味があるだのは全然だ。
「・・・ごちそうさま」
味気ない食事を終えて、私はお盆を食堂の端にある食器返却口へ持っていく。
人間何かを食べなきゃいけないのだが、まさに私にとって食事は栄養補給に他ならない。
慣れたとはいえ、なんとも悲しい気持ちになる。
昔から外科も内科も精神かもかかっているのだが全く持って原因不明。
「・・・ホント、嫌になる」
別に親の事を恨んだりはしていないし、私でも楽しめるように食事を作ってくれているのだから
むしろ感謝している。
だけど、それでもやっぱり・・・
「・・・食事なんて大嫌い」
食事を好きになる事は出来なそうだ。
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学校が終わり、私はとぼとぼと歩いていく。
周りの子は帰りにやれ新しいクレープ屋がどうのだの、どこどこのケーキを食べに行こうだのと
楽しそうだ。
仲がいい子が居ない訳じゃない。
けど、どうしたって距離をとってしまう。
「はぁ・・・」
なんとなくため息をついたとき、目の前の電柱に貼ってあった広告が目に留まった。
「・・・?」
新しい輸入雑貨屋が出来たという広告で、開店セール中で全品30%オフだという。
「・・・ちょっと覗いてみようかな?」
落ち込んでて居ても仕方ない。
気分転換にちょっと行ってもいいかも。
そう考えた私はその広告に載っていた地図をメモしてからそっちの方へと歩いていった。
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「いらっしゃいませー!」
目的の場所に着いた私を迎えるのは威勢のいい店員さんの声だった。
どうやら結構人が入っているらしく、忙しくなく何人もの店員さんが動き回っている。
「へー・・・結構いいかもこのお店」
近くにあった小物入れを手にとって見ると、どこかデフォルメされた動物たちが描かれていた。
横には船の形をした貯金箱なんかもあり、なかなか面白いお店だ。
「お客様、よろしければこちらいかがでしょう?」
しばらくお店を見ていると、店員さんの一人が小さな紙コップを持って私に近づいてきた。
どうやらなにか飲み物の試供品らしい。
「あ・・・私は別に・・・」
「まぁまぁそう言わずに!はいどうぞ!」
無理矢理気味に紙コップを渡された私は今更嫌とも言えず、仕方なしに飲む事にした。
赤いドロっとした液体が紙コップになみなみと入っている。
意を決して私はぐっと飲み込んだ。
「・・・美味しい!!」
それは初めての体験だった。
甘く濃厚な味。
それも砂糖をひたすらぶち込んだような奴じゃない。
風味というものを、私は初めて味わった。
「これ、なんですか?」
「こちらはぶどうジュースですよ、ローマの方で取れたぶどうをふんだんに使った物でして・・・」
「これがぶどうの味・・・」
私は店員さんの話が聞こえないほど、初めてぶどうという物を味わった感動をかみ締めていていた。
「これ、ください!!」
私は店員さんに叫ぶように言うと、そのジュースを5本程買って帰ったのだった。
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あれから私は毎日が楽しくなった。
相変わらず普通の食事は味がしないけど、あのジュースだけは私を楽しませてくれる。
ぶどうをそのまま食べてみたけど、あのジュース程の味はしなかった。
毎日学校の帰りにジュースを買いに行くのが日課になるほど、私はあのジュースに
のめりこんでいた。
「・・・けぷ。ああ・・・美味しい・・・」
私は今日4本目のジュースを飲み干すと、ビンをゴミ箱に捨てた。
学校はようやく昼休み、あと二時間であのジュースを買いにいける・・・
そう考えると授業も苦ではなかった。
私が満足げにお腹をなでると、お腹から柔らかな感触が返ってくる。
「・・・まぁちょっと太っちゃったけど、味が楽しめることに比べたら別にいいよね」
あのジュースを飲むようになってからお腹が大分出てきちゃったけど、別に問題ない。
今まで細すぎだとよく言われてたし、丁度いい位だ。
「・・・ああ、早く放課後にならないかなぁ・・・」
私は待ち遠しい気持ちでいっぱいだった。
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「お客様、少々よろしいでしょうか?」
一ヵ月後。
いつものようにあのお店に行くと、店員さんが話しかけてきた。
毎日来てるから顔でも覚えられたかな?
「あ、はい?」
「いつも当店をご利用いただいてありがとうございます。
そこでお客様に特別な商品をご紹介させていただこうと思いまして」
「は、はぁ・・・」
特別な商品っていったいなんだろ・・・?
「こちら新しく輸入したドリンクでして、よければご試飲いかがでしょうか?」
そういって紙コップを渡してくる。
いつも買うぶどうジュースに似ているが、もっと赤黒い感じだ。
「じゃ、じゃあ・・・」
わざわざ進めてくれたし、折角なので飲んでみる。
と、これもびっくりするような味だった。
今までのぶどうジュースがまるで物足りないほどに濃厚な味。
くらくらするような衝撃が私の中を走りぬけた。
「・・・いかがでしょう?」
「これ、ください!!」
私は店員さんにそう叫ぶのだった。
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家に帰った私は早速新しいドリンクを飲む。
一口飲むごとに口の中にあの濃厚なぶどうの味が広がる。
それだけで私は幸せな気分になる。
気づけば、一本目が終わってしまっていた。
「・・・げっぷ。720mlあるはずだけど・・・するする飲めちゃう」
今までのジュースは320mlだったから二倍以上あるはずなんだけどなぁ。
お腹を触りながら私はそんなことを考える。
因みに最近また太ってもうぽっちゃりと言うのも難しくなってきた。
お腹なんかぶよぶよしてるし、胸も最近じゃシャツのボタンが上手く留まらない。
足も大根足になっちゃったし、腕も動かすとぶるぶる揺れるようになった。
「まぁいいや・・・もう一本・・・」
私は二本目の蓋を開けて口につける。
これが気持ちよくてたまらない。
「・・・ああ・・・おいしいぃぃぃ・・・」
私は結局この後買ってきたジュースを全て飲んでしまい、翌朝少し後悔するのだった。
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「ふぅ・・・ふぅ・・・」
朝、私は学校への道をひたすら歩いていた。
もうすぐ冬休みだからか、周りのみんなもどことなくやる気がなさそうに見える。
「ふぅ・・・やっぱり・・・はぁはぁ・・・太ったわね・・・」
一歩一歩重い体を揺すりながら歩く私は、冬だというのに汗だくだった。
新しいジュースを飲むようになってから私はますます太っていった。
この間体重を量ったら90kg以上あった。
ここ三ヶ月ぐらいで50kg程太った計算になる。
「・・・そりゃ制服も合わなくなるか・・・ぜぇぜぇ・・・」
私が自分のお腹の方を見ると、そこには前にデーンと飛び出たお腹がある。
一ヶ月ぐらい前にサイズをあげたのだが、それでも最近はボタンがはじけそうになっているし、
隙間からちらりとお腹が見えるようになってしまった。
セーターで無理矢理隠しているが、このセーターでも駄目になるのは時間の問題かもしれない。
「・・・ダイエットしようかなぁ」
以前の私では考えられない事だった。
だが、これも贅沢な悩みというものだろう。
そう考えるとダイエットすら楽しく思える。
「ふふっ・・・さぁ学校いかなきゃ・・・」
なんとなく自分の考えがおかしく、笑いながら私は学校を目指した。
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「津戸田愛子さんよね?」
「・・・はい?」
その日の帰り、私は急に後ろから声をかけられた。
そして失敗したなと思った。
明らかに反応しちゃいけない感じの台詞だったのに・・・
「私はこういう者なの」
振り返った私に、立っていた女性が名刺を渡してきた。
『E.V.A.商品開発部部長 リリス・ケルト』そう書いてある名刺を私は受け取り
改めて女性のほうを見る。
明らかに日本人離れした綺麗な金色の髪をした美人が私を見てにっこりと笑っている。
「えっと・・・」
「貴方、私のところのジュース、よく飲んでくれてるでしょ?」
「ジュース・・・?」
言われて思い出した。
私が最近買っているジュースのメーカーが確かE.V.A.だったはずだ。
「ごめんなさいね、こっちでちょっと調査させてもらっちゃった」
「・・・なんのようですか?」
警戒する私に、リリスさんはにこにこと笑いながら一本のボトルを渡してくる。
「これ、うちの新商品。飲んでみて?」
女性は私にそのボトルの蓋を開けてからを渡すと、飲むように促してくる。
なんだかわからないけど、私はリリスさんの気迫に押されて飲んでしまった。
飲んだ瞬間に今までよりもさらに強烈な味が私の口にあふれる。
濃厚で口の中を支配するかのような味なのに、なぜかするりと飲み込め、後味も全然ない。
思わずボトルの中身を全部飲み干すと、リリスさんはふふっと笑った。
「ごめんなさい、貴方が良い飲みっぷりだったからついね・・・」
「あ、いえ・・・それでこれがどうかしたんですか?」
恥ずかしくなった私は無理矢理話題を変える。
リリスさんはにっこりと笑って、こう言った。
「テストは合格よ、愛子ちゃん」
次の瞬間、私は背中からビリッとした衝撃を受けてその場に倒れこんだ。
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「・・・っぁああ・・・!」
目を覚ました私は、ゆっくりとその場で立ち上がった。
どうやら気絶させられたらしく、周りは見知った通学路じゃなくて見た事もない場所だった。
周りは一面白色の壁で覆われていて、上のほうにスピーカーがちょこんとついている。
「どこよここ・・・」
私がつぶやくと、上のほうのスピーカーがジジッとノイズを立てた後喋り出した。
『お目覚めかしら?』
「あなた・・・リリスさん!?なんでこんな事をしたんですか!?」
スピーカーから聞こえたのはリリスさんの声。
私の問いかけにリリスさんは笑いながら答える。
『貴方は私達のテストに見事合格してくれたわ。だからここに招待してあげたの。
まぁ若干手段が手荒だったことは認めるけど』
「招待!?なんで!?」
『テストに合格したから・・・じゃ説明にならないわね。
私達、実は貴方に協力して欲しいのよ。そう、神様の復活の為にね』
そこから先のリリスさんの説明は頭がおかしくなりそうな話だった。
この世界にはどうやら“神”と呼ばれる存在が実在したらしく、私はその転生体の一人だという。
しかも私は特別だとかで、神様の依り代に丁度いいんだとかどうとか。
「ふざけないでください!!誰がそんなものになるもんですか!!」
いらだって私がそう叫ぶと、リリスさんはさらに笑い出す。
『あははははははははははは!!実はもう手遅れなの。
貴方が散々飲んでたあのジュース、あれ実はぶどうジュースなんかじゃないのよね』
「・・・え?」
ぶどうジュースじゃない・・・?
『あれはね?神様の血を薄めたものなの。
貴方が神様に近いから美味しく感じたのよ』
「えっ・・・だ、だって・・・ぶどうジュースって店員さんが・・・」
『ああ、あの子達も私達の仲間。あのお店自体依り代を見つけるためのお店だし』
なによそれ・・・!?
「か、神様の血って・・・そんなのがあるなら神様は生きてるんじゃ」
『残念ながら生きているのは私達が欲しい神様じゃないのよ・・・まぁ親戚みたいな物よ。
とはいえ貴方の神様の血を目覚めさせるには十分なのよね・・・だから』
パチンと、指を鳴らす音が聞こえたかと思ったら、私の周りの壁が開いて中から何かが
飛び出てきた。
「いたっ!!」
それは小さなナイフで、私の体に深々と突き刺さった。
『どう?痛い?』
「当たり前です!!」
『でしょうねぇ・・・でも、それだけ刺さってれば普通貴方のような子は
痛みでのた打ち回るはずよ?』
言われてみれば、痛いには痛いけど我慢できないほどじゃない・・・
『ナイフを抜いてみなさい。すぐに貴方が人間じゃないとわかるわ』
言われるがままナイフを思わず抜いた私の目の前で、傷が見る見るうちにふさがっていく。
「あ・・・あああああ・・・・」
思わずその場で崩れ落ちる私。
私はもう・・・人間じゃ無いんだ。
『じゃあ神様としてより完璧になってもらうわね?化け物ちゃん♪』
それだけ聞こえた後、私の意識は再び衝撃とともに失われた。
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あれからどれだけ経ったかわからない。
私は毎日毎日常にあのジュースを飲み続けていた。
どうやら原液を飲まされているらしく、私の体は見る見るうちに太っていった。
もう部屋の中は私の肉で埋まっている。
視界の半分以上を埋める胸。
その下にあるお腹は部屋の壁にぴったりとくっついて今にも溢れだしそうだ。
お尻なんかはどうなってるか分からないけど、
唯一動かせる腕がまるでドラム缶みたいな太さなんだからきっととてつもないことに
なっているだろう。
まぁ動かせると言っても肉が付きすぎてまともに動かないんだけどね。
『ふふ・・・もう少しで完成だからがんばってね?』
「ふごふごふお・・・・」
『何言ってるか分からないけど、まぁ予想は付くわ。
でもごめんね、貴方を解放するわけにはいかないわ。だって・・・』
一度スピーカーの向こうで息を大きく吸い込む音がした後。
『だって・・・あと少しで貴方は神に成るんですもの!!
知ってる?貴方の体重3tを超えたのよ?立派に化け物・・・いえ、神様ね!!』
「ふご・・・」
3t・・・もう・・・人じゃない・・・
『じゃあまた今度様子を見に来るわ。
その頃にはもう神様になってるかもしれないけどね!』
それだけ言うとスピーカーは何の音も出さなくなった。
私は無音になった部屋の中、ただひたすらあの液体を飲むだけだった。
津戸田愛子
身長:148cm
体重 41kg → 54kg → 74kg → 96kg → 3340kg
B:79cm → 89cm → 101cm → 117cm → 591cm
W:56cm → 71cm → 89cm → 106cm → 637cm
H:76cm → 86cm → 97cm → 104cm → 640cm