音の熱量
音無 乙女(おとなし おとめ)年齢??? 身長143cm 体重38kg B:78 W:53 H:71
音を食べる妖怪。
都会の音を食べに来て・・・
「・・・やっぱ、ここはいいわ。静かで」
俺は山の中を散歩しつつ、そんな感想を呟いた。
会社の都合で都会の方に出向する羽目になった訳だが、
向こうがあんなにうるさいとは思わなかった。
たまの休日でこっちに戻ってくるのが俺にとっては何よりも安心出来る・・・
「・・・まぁあと一年だし、向こうは向こうで便利だけど」
コンビニとか、数が段違いだし・・・
「でもやっぱりこっちの方が落ち着──」
そんな事を呟いた時だった。
急に、声が出なくなった。
「────???」
おかしい。
何もしゃべれない。
何を言っても、聞き取れない。
先ほどまで土だったから気付かなかったが、よくよく耳を澄ませば足音すら聞こえない。
「──!?!!?」
耳が聞こえなくなったか!?
勘弁してくれ!!
この前新しいCDを買ったばかりなんだぞ!?
『うん・・・美味い・・・いい音だね・・・音って音だ・・・』
ふと、そんな声が聞こえた。
慌てて声の方に近寄ると、そこには小柄な少女が木の根元に腰掛けて座っていた。
まるで漫画みたいな緑色の髪の毛を短く切りそろえて、服は今時誰も着ないような和服。
そんな感じの子がひたすら口をもぐもぐさせながら何か呟いている。
・・・?
口をもぐもぐさせながら?
『・・・ん?あ、やば!!』
じっと見ていたら気付かれてしまった。
「───────!!」
怪しい者じゃ無い。
そう叫んだつもりだが、相変わらず声は出ない。
そうこうしている間にも女の子はその場から駆け出し・・・
『ふぎゃっ!!』
木の根っこに躓いて転んだ。
・
・
・
「・・・つまり、俺の耳や喉がおかしくなったわけじゃ無くて・・・」
『うん、あたいが“音”を奪っていたの』
10分後、気絶から復活した少女の話を聞いて、俺は頭を抱える羽目になった。
どうやら先ほどまで音が出なかったのはこの少女の仕業らしい。
なんでもこの子は“音無し”という妖怪らしく、音を食べる妖怪なのだという。
彼女が言うには、普段は葉っぱの擦れる音や小鳥のさえずりなんかを食べているらしいのだが、
ここ最近あまり音を食べてないらしい。
そこに散歩をしながら独り言を呟く俺が来たため、つい調子に乗って
音を一杯食べてしまったそうだ。
「はぁ・・・夢じゃないんだよなぁ・・・これ・・・」
『夢じゃないって。普通に居るよ』
何がおかしいのか、女の子はケタケタと笑っている。
この会話も全て喋っているのは俺だけで、向こうはテレパシーだと言うのも凄い話だ。
「まぁいい・・・これからどうするんだ?」
『どうって?』
「この山じゃ音が食べられないんだろ?」
『んー・・・それはそうだけどさ・・・』
迷う少女。
俺としては一つ、良い案を持っていた。
少女にとっても俺にとっても恐らく良い案。
「なら、一緒に来ないか?」
『え、なに、あたいに惚れたの?一目惚れ?』
「違う違う。俺、今こっちじゃ無くて都会の方で生活してるんだよ。
向こうなら一杯音があるから・・・」
『ああ、なるほどね・・・それもいいかなぁ・・・』
少女はしばらく悩んだ後、こう言った。
『分かったよ、アンタに付いてく』
「おっし、決まりだな」
俺は立ち上がり、少女の方へ手をさしのべる。
「名前、なんて言うんだ?」
『名前か・・・乙女とは呼ばれてるけど・・・』
「乙女?」
なんつーか・・・イメージと合わない・・・
『なんだよ・・・その目』
「いや別に・・・お前の姿って他人に見えるんだよな?」
『まぁね・・・』
「なら人前で呼ぶための名前欲しいだろ?」
『あー・・・』
少し悩んだ後、少女はこう名乗った。
『じゃあ、これからは音無乙女でいくかな?』
・
・
・
『ここが都会か・・・確かに量は多いみたいだな』
「だろうな・・・」
数日後、都会に戻ってきた俺達は都会の喧噪に飲まれていた。
森から帰ってきたばかりというのもあるが、やっぱりうるさいと思う。
「とりあえず家にいくか」
『りょーかい』
乙女を連れて家まで行き、俺は窓を閉め切ってようやく一息ついた。
やっぱりこっちの方が静かでいい。
「で、どうだ?」
『うん、行けそう』
乙女は俺の部屋をひとしきり歩き回った後、窓を思い切って開けた。
だが、俺の耳にあのやかましい音は聞こえてこなかった。
いや、正確には聞こえているが普段の4割程である。
これも全て乙女に適当な量の音を食べて貰ってるからだ。
勿論サイレンとかそういう音を聞き逃すわけには行かないから、ある程度は残して貰ってる。
それでもやっぱり全然違うのだ。
『うん・・・成る程・・・こういうタイプかぁ・・・うん、嫌いじゃない、嫌いじゃないぞ!』
「それは良かったよ・・・そうじゃなきゃここに連れてきた意味が無いからな」
乙女は都会の音をそれなりに気に入ったらしく、さっきから必死に咀嚼している。
満足げな乙女を余所に、俺はようやく訪れた平穏を満喫するのだった。
・
・
・
「・・・なぁ」
『ん?なんだ?』
二週間程経ち、乙女との生活にも慣れてきた頃。
俺は部屋でごろごろする乙女に向かってどうしても聞きたいことがあった。
「お前、少し太ったろ?」
『かもねー』
全く気にする様子の無い乙女に、俺ははぁっ・・・とため息を付く。
いつの間にやら小柄だったはずの彼女はコロコロと丸みを帯びていた。
ぽっこりと前に出てきた腹。
以前より一回り程は大きくなった胸。
その他の部分もどこもかしこも大きくなっている。
「痩せなくて良いのか?」
『別にー。あたいは困らないし・・・それに太った原因はアンタだろ?』
「ぐっ・・・」
それを言われると困る。
基本、俺の為に乙女は日々音を食ってるわけで・・・
『まぁまぁ。人生少しは気楽に行こうじゃないか』
「妖怪に言われてもなぁ・・・」
俺は何とも言えない気分のまま、乙女を横目に読書をするのだった。
・
・
・
「・・・」
『なんだいこっちをじっと見て・・・』
さらにしばらく経ったある日、俺は乙女を見ながら頭を抱えていた。
あれからさらに太った乙女は、どうみてもデブそのものである。
小柄で子供らしかったはずの体は恐らく俺以上の体重に育っている。
胸は子供とは思えない程前に飛び出ているし、その下には妊婦の様な腹がある。
太ももはまるで丸太のように太く、腕は俺の太ももみたいだ。
尻はだらしなく垂れ下がり、顔は丸々と肥えている。
『なんだい、もしかしてあたいに欲情してるのかい?』
「違うわい・・・あんまりにもお前の体が酷いからな・・・」
『そんなに酷いかい?』
「酷いだろ・・・アメリカの肥満児みたいになってるぞ」
俺の指摘に乙女も自分の体を触って確かめる。
『うん、良い感じの柔らかさだ』
「そうじゃないだろ!」
思わずつっこみを入れる俺に、ケタケタと笑いながら乙女は答える。
『まぁまぁ・・・別に食費はかからないんだから問題無いじゃないか』
「単純に質量的に邪魔なんだよ・・・マンションなんだから・・・」
『甲斐性が無い男だね・・・』
「やかましい」
俺の言葉にやれやれという態度を取る乙女。
『分かった分かった・・・少しは痩せる努力をするよ』
「マジで頼む・・・これ以上俺に変な噂が広まる前に・・・」
実際、このマンションでは俺はロリコンではないかという疑惑が広まっているのだ。
このままロリコンかつデブ専なんて噂が広まったら引っ越しをせざるを得ないだろう。
・
・
・
「・・・お前さぁ・・・痩せる努力はどうしたんだよ」
『あはははは。上手くいかないもんだねぇ』
ダイエットの約束をしてから一ヶ月後。
乙女の奴の体積はさらに増えていた。
デブの中でもトップクラスの太さを誇る乙女の肉体は、肉の小山と言った所だ。
俺が腕を回しても届くかギリギリの腹回り。
胸はそんな腹にだらんと乗っかり、足は片方が俺の両足より太そうだ。
腕も当然贅肉まみれで、顔に至っては顎がほぼ消えかかっている。
見るからに脂肪の塊になった乙女は、またケタケタと笑っている。
『まぁまぁ・・・その内痩せて来るって』
「いつになるんだよ・・・」
俺はため息を付くと、外行きの鞄を持って玄関の方へ向かった。
『買い物かい?』
「ただの散歩だよ」
それだけ言って、俺は扉を開けて外へと出て行った。
・
・
・
「・・・ったく。乙女の奴め・・・」
俺は散歩をしながら一人愚痴をこぼす。
昔から、俺は太ってる奴が嫌いだった。
農家の子供というのもあったかもしれない。
向こうの方じゃ太ってる奴というのはイコールで農作業をしない金持ちみたいな価値観があった。
俺達が必死に働いてる間に、あいつ等はただ太っていくだけなんだと
無意味な憎しみを抱いたこともある。
まぁ、それは子供の頃だけだったが・・・
今でもその価値観がどこか残ってるのかもしれない。
「・・・あれ?ここ、工事やってるのか」
しばらく歩いていた俺は、マンションの裏手で工事をやっていることに気付いた。
普段歩かない場所とはいえ、こんなすぐ近くの場所で工事をやってることに気付かないなんて・・・
「・・・もしかして」
乙女の奴・・・最近ダイエットしてるのに太り続けてるのは・・・
慌てて当たりを見渡すと、いつの間に開店したのか分からないゲームセンター。
いかにも若者向けな服屋。
路地の方には居酒屋が軒を連ねていた。
「あいつ・・・俺に気を遣って・・・?」
今まで以上の量の音を食べていた?
俺は思わずマンションに・・・自室に居る乙女の為に走り出した。
・
・
・
『おやお帰り・・・なんだいそんなに息を切らして・・・』
マンションに帰ってきた俺を見るなり、乙女の奴は少し呆れた顔をする。
「はぁ・・・はぁ・・・お前・・・最近音をどれだけ食べた?」
『きゅ、急になんだい・・・普通だよ普通。今までと変わらないさ』
俺の言葉に笑って返す乙女。
俺は乙女に近寄ると、両肩を掴んだ。
『ちょ、ちょっと!?』
顔を真っ赤にする乙女に、俺はぼそりと呟く。
「嘘をつくなよ・・・嘘なんかつかないでくれ・・・」
『・・・なんだい、気付いちゃったのか』
にっこりと笑う乙女。
「なんで嘘なんか・・・知ってれば無理して痩せろなんて・・・」
『はは・・・気を遣わせたくなかったんだよ。アンタにはコレでも感謝してるんだよ?
いい餌場を提供してくれたし、特に文句も言わず住まわせてくれてるし。
まぁ体型についてだけはうるさいけど』
「だってそれは・・・俺が誘ったんだから・・・」
『それにしたって誰かが一緒に住むのをそうほいほいと許可するもんかね?
あたいのわがままも聞いてくれるし、寝込みを襲ったりしなかったし・・・
まぁ今の体型なら襲っては来ないだろうけど。
だから・・・まぁその・・・なんだね・・・恩返しって程じゃ無いけどさ・・・
せめてものって奴かな。
あたい、アンタにできるのはこれぐらいしか無いからね』
「・・・ごめんな・・・ごめん・・・ごめん・・・!」
『あ、おい!!泣くんじゃないよ!!』
どこまでも軽口を言う乙女に、俺はただただ泣いて謝るしか出来なかった。
こんなにも気を遣ってくれている事が嬉しくて、
そんな乙女の事を全然見れてなかったことが情けなくて。
『・・・まったく、しょうがないねぇ・・・』
俺は乙女に抱きしめながら、しばらくの間泣きながら謝った。
・
・
・
あれからしばらく経った。
俺は都会での仕事を続けられるよう、上司に願い出た。
あんなにも戻りたがっていた田舎に戻らないことを上司は不思議に思ったようだが、
こっちで出来た友人の関係だと誤魔化した。
俺は今でもあのマンションに住んでいる。
『おーい・・・ちょっと手を貸してくれないかい・・・こっちは上手く動けないんだよ』
「はいはい・・・」
あれからさらに横に育った、音を食べる可愛い同居人と一緒に。
音無乙女
身長:143cm
体重38kg → 48kg → 71kg → 118kg → 187kg
B:78cm → 86cm → 99cm → 121cm → 137cm
W:53cm → 63cm → 84cm → 117cm → 155cm
H:71cm → 79cm → 97cm → 120cm → 151cm