ヤッホーやまびこ
山谷 響(やまたに ひびき)16歳 身長155cm 体重44kg B:82 W:57 H79
最近田舎に引っ越してきた少女。
妖怪の事は信じていない。
「はぁ・・・不便だなぁ・・・」
私は山道を歩きながらそう呟いた。
父の仕事の関係でこのド田舎に引っ越してきたわけだが、周りは何にも無いしバスは本数少ないし、
おしゃれなお店も無い。
無い無い尽くしで退屈に殺されそうである。
「学校までも遠いし・・・あー自転車早く届かないかなぁ・・・」
私はなれない道で痛む足を引きずりながらとことこと歩く。
「はぁ・・・はぁ・・・もうちょっと・・・!」
重い足取りでなんとか目的の場所までたどり着いた私は、地べたに座り込んだ。
「全く・・・遠いよ・・・まぁこの景色は一級品だけどね」
ここは私の唯一この辺で気に入っている場所。
見渡す限りの山。
突き抜ける空。
道路のカーブに沿って作られた休憩所からは周りが一望できるようになっていて、
初めてこの景色を見た時に思わず感動したほどだ。
学校と家の間にあるこの場所は私のお気に入りスポットかつ気軽に休憩出来る場所なのだ。
「ふぅ・・・良い風」
澄んだ空気を風が運び、疲れた体を癒やしてくれる。
「すぅ・・・ばかやろー!!」
何となく叫びたくなった私は大声で叫んでみる。
どっちかというと海で叫ぶ言葉な気もするけど、別にいいや。
『ばかやろー!!』
するとどこからともなく私の声が聞こえてくる。
いわゆる山彦だ。
山や谷に声が反射して自分の声が遅れて聞こえてくるというあれである。
「山彦なんてこっちに来るまで聞いたこと無かったなぁ・・・」
そうしみじみと考えた後、私は家に向かって再び歩き始めるのだった。
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「妖怪?」
翌日、私はクラスメイトにそんな話題を振られた。
「そそ、妖怪。知ってるっしょ?」
「まぁ名前とかは・・・昔絵本とかでも読んだし」
「あれな、この辺りにゃ昔からおるけん。馬鹿にしぃと痛い目みるんよ」
「痛い目って・・・なにそれ?」
「知らんけんど、そうやぁて言われてきちゃてなぁ・・・」
「はぁ・・・」
どうやら昔からこの辺に妖怪がおり、馬鹿にするとひどい目に遭わされるらしい。
いわゆる迷信とかそう言うものだろうか・・・
「なもんで、あんたも妖怪ば見たら仲良うするんよ?」
「分かった分かったって。でも妖怪見たことあるの?」
「いんや、でも婆様が見たゆーてた」
「へぇー」
クラスメイトの話を適当に流しつつ、私は鞄から荷物を取り出すのだった。
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「全く・・・山はすぐ暗くなるんだから先生も送ってくれても良いのに・・・!!」
その日の夕方。
私は学校の用事で遅くなり、暗くなった夜道をひたすら歩いていた。
まだまだ明かりが普及していないのか、日が沈むとすぐに暗くなるのである。
私は少ない明かりを頼りに細い道を進んでいく。
「ほんとに・・・田舎なんて嫌いよ・・・!」
『ほんとに・・・田舎なんて嫌いよ・・・!』
ふと、私の独り言が少し遅れて響いた。
「・・・?気のせいかしら?」
『・・・?気のせいかしら?』
再び響く声。
どうやら近くに空洞でもあるのか、私の声が反射しているらしい。
安心した私の耳に、がさごそと言う音が聞こえた。
「誰!?」
『誰!?』
私は音のした辺りに向けて手にしていた懐中電灯を向けると、一瞬だけ何かが光を横切った。
私はそちらの方へと光を向けると、そこには変な生き物が居た。
犬のような耳の付いた猿とでも形容するべきだろうか?
奇妙な生き物はまるで私を見ながらクスクスと笑っているような態度をとる。
「うわ、不細工」
『うわ、不細工』
思わず呟いた私の言葉が反響して返ってくる。
生き物はなにやらむすっとしたような顔をし、こっちをにらんでくる。
「うわぁ、ますますかわいくない・・・まぁいいわ・・・私は帰るから」
そう言って私は再び道を歩き始める。
『うわぁ、ますますかわいくない・・・まぁいいわ・・・私は帰るから』
どこかから聞こえてくる私の声。
最後にちらりと生き物の方を見ると、生き物はまるで私をにらみつけるかのような表情をしていたのだった。
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「あ、あれ?」
数日後、私は自分の制服がきついことに気づいた。
「おかしいなぁ・・・この前新調したのに」
新しい学校の制服なのにである。
「縮んだ?洗濯方法間違えたかなぁ・・・」
頭をひねる私に、答えてくれる声は無かった。
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「う・・・うぐぐ・・・!」
さらに2週間後、私は必死にスカートを止めようと頑張っていた。
ここ数日で私の体はまるで風船に空気を入れるかのようにぶくぶくと太り、
今ではぽっちゃり体型になっていた。
胸は大きくなったけど、それ以上に目立つ腹が邪魔だし、足は太くなりすぎて最近靴下がきつい。
下着は食い込むし、肩周りが窮屈で動かしにくい。
あごもたぷたぷして来てるし、非常にやばい。
「なんでこんな急に・・・?」
別段暴食を繰り返してるわけでも無いし、毎日の通学であれだけ運動しているのだから
寧ろ引っ越す前よりも運動してる。
なのに何故か痩せないのだ。
「一度病院行かなきゃ・・・!」
私はとりあえず制服を無理矢理着込むと、ようやく届いた自転車に跨がり学校へと向かうのだった。
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「うぅ・・・なんでよぉ・・・!!」
更に2週間。
私は自室でうなだれていた。
それというのもこの体のせいである。
まるでバスケットボールの様な胸に立っても股まで隠れる腹。
足はまるで丸太みたいだし、腕は大人の太ももぐらいある。
あごは二重になったし、頬肉が垂れ下がって最近呼吸がしづらい。
ぽっちゃりどころかデブを通り越し、今ではまるで横綱のような体型になってしまったこの体。
病院で検査して貰っても何の異常も無いと言われるし、どうした物かと言う感じである。
当然着られる服なんて無いので、今や自室では全裸である。
「とりあえず少しでも運動して痩せないと・・・よいっしょっと!!」
重い身体を持ち上げ、私は一歩歩き出す。
それだけで息は上がり、家がズシンと揺れる。
やっとの思いで扉まで近寄った私だが、ここからが更に大変なのだ。
「ふっ・・・ぐぐぅ・・・!!ぬ、ぬけない・・・!!」
腹が扉にひっかかり、中々通れないのだ。
やっとの思いで体を扉から引っこ抜くと、ゆっくりと階段を下りる。
腹や胸で下が見えないため、一歩一歩ゆっくりと確かめる様に降りないと転びそうで怖い。
まぁ転んでもこの体なら怪我もしなそうだけど・・・
「はぁ・・・やんなっちゃう」
一階に着き、ため息を付く私。
『はぁ・・・やんなっちゃう』
そんな私の耳に誰かの声が聞こえた。
「誰!?」
『誰!?』
私の問いかけに再び聞こえる言葉・・・だがそれは・・・
「私の声・・・?」
『私の声・・・?』
そう、私の声がまるでオウム返しのように響いてくるのだ。
辺りを見回す私は、窓の外に変な生き物が居るのに気がついた。
以前見かけた犬の耳を持つ猿の様な生き物だ。
「あんた・・・この前の?」
『あんた・・・この前の?』
私の方を見ながらにたにた笑う生き物。
どうやら先ほどから聞こえるこの声はその生き物から聞こえてくるらしい。
「あんた・・・なんなの!?」
『あんた・・・なんなの!?』
ニタニタと意地悪そうに笑う生き物。
その顔が無性にむかつき、私は窓に必死で詰め寄ると窓を開けてその生き物を掴んだ。
「この・・・!!」
『この・・・!!』
苦しそうな表情をしながらも私の声まねをする生き物。
なおのことむかついて、私はさらに手に力を込めた。
「反省した!?」
『反省した!?』
『反省した!?』
ふと、一回多く私の声が聞こえた。
私が声のした方に顔を向けると、そこにはもう一匹同じ様な生き物が居た。
いや・・・違う。
『反省した!?』
『反省した!?』
『反省した!?』
『反省した!?』
『反省した!?』
『反省した!?』
『反省した!?』
『反省した!?』
一匹じゃ無い。
ぞろぞろと同じ様な生き物が窓の外に居るのだ。
「・・・ひっ!?」
『・・・ひっ!?』
『・・・ひっ!?』
『・・・ひっ!?』
『・・・ひっ!?』
『・・・ひっ!?』
『・・・ひっ!?』
『・・・ひっ!?』
『・・・ひっ!?』
『・・・ひっ!?』
『・・・ひっ!?』
『・・・ひっ!?』
『・・・ひっ!?』
『・・・ひっ!?』
四方八方から聞こえてくる私の声。
どうやら、私はこの生き物に囲まれたらしい。
そしてそいつらは私を見てにやにやと笑うのだ。
「や、やだ・・・なんなの!?」
『や、やだ・・・なんなの!?』
『や、やだ・・・なんなの!?』
『や、やだ・・・なんなの!?』
『や、やだ・・・なんなの!?』
『や、やだ・・・なんなの!?』
『や、やだ・・・なんなの!?』
『や、やだ・・・なんなの!?』
『や、やだ・・・なんなの!?』
『や、やだ・・・なんなの!?』
『や、やだ・・・なんなの!?』
『や、やだ・・・なんなの!?』
『や、やだ・・・なんなの!?』
『や、やだ・・・なんなの!?』
『や、やだ・・・なんなの!?』
『や、やだ・・・なんなの!?』
『や、やだ・・・なんなの!?』
『や、やだ・・・なんなの!?』
『や、やだ・・・なんなの!?』
『や、やだ・・・なんなの!?』
『や、やだ・・・なんなの!?』
その数はドンドンと増えていき、やがて私が開けた窓から一匹、また一匹と侵入してくる。
「で、出て行ってよ!!」
『で、出て行ってよ!!』
『で、出て行ってよ!!』
『で、出て行ってよ!!』
『で、出て行ってよ!!』
『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』
『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』
『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』
『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』
『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』
『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』
『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』
『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』
『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』
『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』
『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』
『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』
『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』
『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』『で、出て行ってよ!!』
大群だった。
私は生き物たちに囲まれ、そして壁際へと追い詰められていく。
そして、ぎらりと生き物たちは私の方を睨む様に見つめると、にたりと一斉に笑うのだった。
・
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・
あれから数日が経った。
私はあの後なにもされずにすんだ。
いや、実際は既に彼等に仕返しされていたのだ。
彼等は"山彦"という妖怪らしい。
声が反射するのは山の斜面や谷に声が反射するからと思っていたが、
実際は彼等が声をまねるからだという。
しかし、それもどうやらただの一面に過ぎないらしい。
彼等は何かを反射するのだ。
声も、消費したはずのカロリーも。
そう、私のここ最近の激太りは彼等の仕業だったのだ。
私が消費したカロリーを私に反射させる。
それも何人もで。
つまり一日1000kcal消費したとすれば、そのカロリーは10倍にも20倍にもなって返ってくるのだ。
当然それで痩せられるわけが無い。
体型を気にして痩せようとすればするほど太るという悪循環。
これも彼等を不細工と言って怒らせた私が悪いのだが、それにしても・・・
「やりすぎよねぇ・・・」
私は自分の体を見ながらそう呟く。
彼等は私に対する反射をやめたわけじゃ無い。
私はなるべく動かない様にしているが、それでも自然と消費するカロリーというものはある。
そして、当然腹は減る。
結果として、私の体は毎日数万kcalを摂取している状況になっているのだ。
御陰で今、私の体はただの肉の塊となっている。
見渡す限り私の脂肪だらけ。
胸は小学生並の大きさになり、腹だけで100kg近い重さがあるだろう。
足は肉が付き過ぎて全く動かせなくなり、唯一動かせる首や腕も肉が干渉して
動かすことすら一苦労だ。
当然頬肉は既にあごと一体化し、今や私が人間と言っても信じる人は居ないだろう。
「・・・暇ねぇ」
あの景色も見に行けない私にとって、ここは地獄だ。
「・・・ホント、田舎って最低ね・・・」
私は一人愚痴ると、重くなった身体に頭を預けて眠るのだった。
山谷 響
身長155cm
体重 44kg → 48kg → 61kg → 121kg → 494kg
B:82cm → 86cm → 94cm → 124cm → 147cm
W:57cm → 61cm → 71cm → 121cm → 281cm
H:79cm → 83cm → 88cm → 118cm → 241cm