記憶の重さ
(!)この小説はフィクションであり、実際の警察の組織および捜査とは異なります。
また、この小説で描写される科学及び医学知識は間違った物です。
あらかじめご了承ください。
森目 良子(もりめ りょうこ)26歳 身長174cm 体重52kg
警察の刑事部第一課に所属する刑事。
今追っている事件解決の為にとある発明品を試すことになって・・・
「どう・・・?なにかわかった?」
『全然です・・・現場をもう一度洗ったんですけど何も出ません』
「そう・・・引き続き捜査の方頼むわね」
『了解です』
耳に当てていた携帯電話を離し、通話終了のボタンを押す良子。
はぁ・・・とため息をつくと椅子の背もたれに寄りかかった。
「くそ・・・どうなってるのよ今回のヤマは・・・」
愚痴をこぼしながら天井を見つめる良子。
彼女が今追っている事件は“異質”というべき物であった。
ある日の早朝、死体が4つ川に浮かんでいるのが発見された。
どれも近くの女子高生の物で、死因は全員拳銃で心臓を真正面から
一発で撃ち抜かれた事による心臓停止。
犯行現場は不明、死体の移動方法も車とは考えられているものの車種等は不明である。
そして、一番異質なのはその死体の状況だ。
全員、体毛を全て剃られた上で顔に奇妙なメイクを施されているのだ。
手首には縛られた後が残っており、どこかに監禁されたと考えられるが
それも詳しい事は分かってない。
現在メイクが出来るスタイリスト等を中心に捜査をしているが、一向に報告があがってこない。
「あんな特徴的なメイク・・・すぐにわかるはずなのに・・・」
良子は再びため息をつくと、机の上に散乱している解剖記録などのファイルを手にした。
すると・・・
【PiPiPiPiPiPi・・・】
「ん・・・?」
良子の携帯電話が電子音を立てる。
どうやら電話がかかって来たらしい。
「・・・げっ」
携帯電話を手にした良子は、ディスプレイに表示される名前を見て嫌そうな顔をする。
出たくなさそうな良子だが、それでも仕方なく通話ボタンを押して携帯電話を耳に当てた。
「・・・もしもし」
『やぁっと繋がったよぉ!いやぁ通話中って言われて困った困った!』
「・・・何の用です?」
通話相手の男に刺々しい言葉で返す良子。
一刻も早く通話を切りたくて仕方ない様子だ。
『まぁまぁ!この古嵐健三(ふるあらしけんぞう)の言葉を聞きたまえよぉ!
・・・どうやら捜査に行き詰っているそうじゃないか』
「・・・どこで知ったんですか、それ」
『ニュースを見ればなんとなくわかるよぉ?まぁそんなのはどうでもいいんだよ。
・・・協力しようと思ってね、丁度最近良い物が出来たんだ』
「・・・」
今までよりもさらに険しい表情を見せる良子。
なぜなら、この男と関わるとろくな目に遭わないからだ。
この古嵐健三という男は発明家である。
その発明品で捜査に何度か協力してもらっているのだが、
その度に何らかの面倒ごとが良子に降りかかるのだ。
上司は結果だけ受け取り、面倒ごとは全部良子に押し付ける物だから余計に嫌な気持ちが積もる。
『もしも〜しぃ?』
「・・・どんな発明品ですか?」
『今回、死体の脳みそ無事なんでしょ?記憶引っ張り出せるかもよぉ?』
「・・・記憶を?」
『電話で話すの面倒だからこっち来てよ、ついでに脳みそもお願いねぇ!
死体の解剖終わってるんでしょ?』
「そう簡単に持っていけませんよ!?」
『あ、そうなの?じゃあ僕がそっち行くよ。どうせいつもの病院でしょ?
30分後には行くから熱ぅ〜い出迎えよろしくねぇ〜!』
それだけ言うと健三は通話を切る。
良子は先ほどよりもさらに重いため息をつくと、上司に健三のことを報告に行くのだった。
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「いやぁ会いたかったよ良子ちゃぁ〜ん!」
「・・・私は会いたくなかったですよ」
大掛かりな荷物を車から降ろすと、健三は良子に向かってそう話しかけた。
ひょろりとして真っ黒い服を着ている彼は、まるでハリガネムシかナナフシを思わせる。。
「酷いなぁ・・・まぁいいけど。それより実験実験!」
「・・・それ、遺族の前では絶対に言わないで下さいよ?」
「流石にそこまで空気読めないわけじゃぁないさぁ!さ、行こうよ!」
そう言ってとことこと病院の方へと向かっていく健三。
良子は仕方なくその後を着いていく。
「・・・今回の発明品ってどういう代物なんです?」
何気ない良子の質問に健三は待ってましたとばかりに嬉しそうな表情をする。
「人間の脳みそってどうやって動くか知ってるぅ?」
「そりゃ・・・電気信号で・・・こう・・・刺激を与えて・・・?」
「そうだねぇ、大体あってるよぉ。つまり原理としてはパソコンとそう変わらないわけぇ。
いや、パソコンが脳みそに近いのかなぁ?まぁいいや。
つまるところ脳みそに電気信号を与えて記憶を読み取っちゃおうという話なのよぉ!」
「ま、待ってください!脳細胞は酸素が途絶えるとすぐに死滅するんじゃ!?」
「そうだよぉ!よく知ってるねぇ!!
でもさ・・・回路自体は形成されてるんだよねぇ?
一度形成された物を写し取って別の形にする。
それが今回の発明品なのだ!」
そんな馬鹿なという顔をする良子。
「あ、その顔は信じてない顔だねぇ?
まぁ実際に見たら分かるからねぇ・・・何事もトライアンドエラー!」
よほど自分の発明に自信があるのか、それとも単純に良子の評価などどうでも良いのか。
健三はにやにやと笑いながら死体のある場所へと移動していく。
良子はその後をただついて行くしか出来なかった。
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「おほー!まだまだ新鮮じゃなぁい!」
死体を前に小躍りする健三。
周りの人間が怪訝そうな顔をするがお構いなしである。
「・・・そろそろその発明品、試してみて下さいよ」
「分かってる分かってる。非合法だもんねぇ!こぉんな実験はさ・・・
さて・・・それじゃあやりますか」
そう言うと健三は近くにあった1体の死体に近づき、持って来ていた鞄から
なにやらコードの付いたサングラスの様な物を取り出す。
それをまぶたを開けた死体に装着すると、コードの先に繋がっていた端末になにやら入力していく。
「これをここにいれて・・・A神経の値がこれで・・・っと!
良子ちゃぁん、ちょっとこっち来てくれる?」
健三に呼ばれた良子が近づくと、健三は端末を良子に見せる。
「なんとか読み込めそうよ、記憶」
「本当ですか!?」
「もちもち!あと20分位かかるかな?」
「・・・以外と早いですね」
「読み込むだけならねぇ〜」
そう言ってから健三は端末を置き、別の死体へと近づく。
「こっちの子はまだいけそうだねぇ・・・もう一台用意すればよかったかなぁ?」
「予備があるんですか?」
「いや、開発しておけば良かったなって話だよ。まぁ他の子も見た感じまだまだ大丈夫そうだし、
何とかなるでしょ」
そう言って笑う健三。
だが、死体に囲まれながら笑えるというその神経を良子は理解出来なかった。
・
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・
【Pi─────!】
「おや、出来たみたいだね」
突然鳴った電子音に反応して健三が端末に近づく。
そして、端末からなにやら丸い物を取りだした。
「はい良子ちゃん。これこの子の記憶のコピー」
「・・・いや、なんですかこれ?」
「なにってキャンディだよ?飴玉」
「あ、飴玉・・・?」
「そうだよ?」
どうにも話がかみ合わない2人。
「あ、あの・・・記憶って何かの装置で読み込むんじゃ・・・」
「うん、だからこれで読み取った訳」
「さ、再生は・・・?」
「これを舐めれば舐めた人が飴玉の記憶を見られるよ?」
恐る恐る良子が尋ねると、健三はあっけらかんと答える。
「な、舐めるんですか!?」
「当たり前じゃ無いの。飴玉なんだし」
「いや、普通こう言うのってこう・・・読み取った物を何かで映像として再生するとか・・・」
「出来ると思う?」
笑顔なのに目だけが笑っていない健三の顔に固まる良子。
健三はそんな良子を見ながら話を続ける。
「これはあくまでも脳神経のコピー。
つまるところ中身がどうなってるか分からないまま丸々ダビングしただけ。
この中にはこの子が感じた感情、思考、知識、経験、記憶、触覚、その他含めて全部が入ってる。
これをそこいらの機械で再現出来ると思う?
パソコン・・・いや、コンピュータが人間と同じ計算速度を得るに何年かかった?
未だに二足歩行が満足に出来ないロボット達を知らないかい?
味覚という情報の処理を出来る機械が存在するかい?
記憶というのはその瞬間彼女が何を感じ、何を思ったかも全部記憶されているんだよ?
スパコンを何台も何台も並べるなら一部を読み取るぐらいは出来るかもしれないけど、
そんな予算はないだろ?
絵をコピーするならスキャナで取り込んで印刷するだけ、
でもそれを再現するとなると相当の技術がいるのと同じだよ」
先ほどまでとは全く違う口調の健三。
良子はそれに気圧されながら健三の話を聞く。
「人間の脳を覗くなら人間が一番適している。同じ規格だからね・・・性能差はあるけど」
「で、でもそれならわざわざ飴玉にしなくても・・・」
「頭開いて脳味噌同士を電極で繋ぎたいならそれもいいんだけどね」
「ごめんなさいなんでもないです」
「でしょ〜?これでも考えてるのよぉ?」
口調を崩し、先ほどまでの空気など無かったと言わんばかりにおどける健三。
良子は頭を軽く横に振り、健三の手にある飴玉を見つめる。
「・・・これを舐めれば分かるんですか?」
「そうだよ」
「・・・どうやって?」
「味覚って電気信号だよねぇ?
なら味覚の中に脳味噌の情報を混ぜ込めば読み込めると思わなぁい?」
「・・・」
無茶苦茶だ。
そう思う良子だが、健三はどうやら気にしていないらしい。
「ほら、そろそろ次のも出来上がるから早く舐めて。
あ!かみ砕いたりしちゃぁダメよ?意味ないから。
ぜぇんぶ口の中で溶かすこと。」
「・・・分かりました!」
この場に刑事・・・それも今回の事件に関わっているのは自分しかいない。
良子はそう考えてから意を決して飴玉を受け取り口の中に放り込んだ。
途端、今まで感じたことの無い複雑な味が口の中を襲う。
甘い味と酸っぱい味、辛みが合ったかと思えば刺激だけのような部分もある。
その味を感じたほんの少し後、良子の脳内に映像が見え始める。
自分の視界はそのままに、脳の中で映画が上映されているかの様な気分だった。
「う・・・ぁ・・・」
「ほぉら、椅子に座っておかないと倒れるよぉ?」
どこか遠く聞こえる健三の声に従い、近くにあった椅子に腰掛ける良子。
その間にも脳内の映画は続く。
死んだ少女の記憶。
新しい記憶と古い記憶が入り交じり、まるでツギハギだらけのフィルムを見ている様な感覚だ。
良子の口が特大の苦みと辛みを感じた直後、問題のシーンが連続で流れ始める。
古く、明かりも無い廃墟。
工場の様な機械。
動かない体。
意地の悪い顔をする男。
耳をつんざく様な拳銃の発砲音。
横に転がる他の少女の死体。
そこで映像は途切れ、別の記憶が流れ始める。
良子は他にもそう言った証拠が無いか探すため、
吐き気を我慢しながら飴玉を最後まで舐めるのだった。
・
・
・
あの後、良子は他の少女の分も合わせて全ての記憶を読み取った。
その結果、犯人は捕まった。
犯人はとある教団に所属する大学生であった。
その教団は特殊な神を信仰する、邪教とでも呼ぶべき物である。
今回の事件は神への供物を捧げる“儀式”の一環であったのだ。
特徴的なメイクも神への供物としての意味合いを高めるための物であり、
川に流したのは神への贈り物という理由からで有る。
犯人が殺人に使用した場所も教団が所有する古い廃工場であり、
殺害現場の調査はそうおいそれとできる物ではなかった。
当然良子が見た映像は証拠として使用出来ないため
犯人をそのまま逮捕するというのは不可能である。
では、なぜ犯人が捕まったのか?
映像の一つに車のナンバープレートが映っていたのだ。
そのナンバープレートの車は教団の所有車であり、現場近くで乗り捨てられていた。
だがタイヤが現場周辺の地面に付いていた物と違うため候補から外されていたのだ。
しかし、良子が見た映像にはナンバープレートが映っている物と
別のナンバーが映っている物があった。
どうやら死体を運ぶ時にはナンバープレートを変え、
ご丁寧にタイヤを交換してまで証拠隠滅を測ったようである。
この事を受けた捜査員が車体を隈無く調べた結果、ルミノール反応が有ったため
車体のオーナーである教団関係者を任意同行させた。
結果芋ズル式に犯人が発見され、逮捕となったのである。
「いやぁお手柄だったねぇ!良子ちゃん」
「どうも・・・私の手柄にはなりませんけど」
逮捕から数日後。
結果を知った健三が良子を尋ね、お祝いの言葉をかける。
だが良子は嬉しそうでは無い。
「まぁしょうがないさねぇ。『飴玉舐めて記憶を見ました!』なぁんて
認められるわけ無いモンねぇ!」
「・・・そこは別に良いんですよ、納得もしてますし」
「あら?じゃあなぁんでそんなに不機嫌ちゃん?」
「・・・この体のせいですよ!!」
そう言って机をドンと叩く良子。
その拍子に良子の体がブルンと勢いよく揺れた。
そう・・・良子の体は数日前とは比べものにならない程の体型へと変貌していたのだ。
まるで西瓜の様な胸に100cm以上は確実にあるであろう腹回り。
尻は大きくなりすぎてスカートを限界まで押し広げており、
下着のラインがくっきりと浮かび上がっている。
足も当然太くなり、丸太を思わせるそれは脂肪で膝が埋まりかけている。
腕は最早贅肉の固まりであり、顎には立派な二重顎が出来上がっている。
「そりゃそうでしょ。飴玉一個に人間1人の情報をぜぇんぶ盛り込んだんだから。
カロリーだってそれ相応でしょ?」
「にしたってこれはいくら何でも太りすぎですよ!!」
「まぁ1粒50万キロカロリ−はあるからねぇ・・・合計して成人女性の・・・
およそ三年分のカロリーかな?」
「さんねっ・・・!?」
あまりのカロリー量に言葉を詰まらせる良子。
健三はそんな彼女に笑いかけながらこう言った。
「まぁまぁ無事解決出来たしいいじゃないの!あ、あの機械が必要な時はいつでも言ってね?
すぐ用意するから!」
「・・・二度と使いません!!」
良子の叫び声はただただむなしく平和そうな空へと吸い込まれるのだった。
森目良子
身長174cm
体重 52kg → 110kg
B:89cm → 113cm
W:61cm → 120cm
H:84cm → 107cm