恨みの香り

恨みの香り

 

 

吉岡 沢子(よしおか さわこ) 24歳 身長162cm 体重46kg
それなりに頭が良く、スタイルが良いことを鼻にかけており、
以前大学のミスコンで優勝したこともあってかプライドが高い。
職場の他の女性を自分より不細工だからと下に見ている。

 

 

 

 

 

「ちょっと山下さん!これ今日までって頼んでましたよね!?」
「だ、だから忙しいから無理って断ったのに・・・」
「聞いてません!とにかく早くお願いしますね!」

 

昼下がりのとあるオフィス。
強めの口調でそう叫ぶと、吉岡沢子は書類を別の女性の机の上に叩き付けた。
そのままつかつかと自分の机に戻ると、イライラした様子でパソコンを弄り始める。

 

「全く・・・ホント使えないんだから・・・」

 

そう呟きながら作業する彼女を他の女性社員はじとっとした目で見ている。

 

「・・・なんですか?」

 

沢子が睨むようにその視線に返すと、女性社員達はやれやれと言わんばかりの態度で
自分の仕事へと戻っていった。

 

「・・・ふん、文句だけは一人前ですか」

 

わざと大きめの声で呟く沢子。
だが、その言葉に返事する声は無かった。
しばらく無言で作業が続き、やがて夕方の6時を回った頃・・・

 

「お疲れ様でした」
「あ、吉岡さん!まだ仕事・・・」

 

自分の仕事が終わったのか、沢子は席から立ち上がるとそのまま出て行こうとする。
そんな背中に山下と呼ばれた女性が声をかけるが・・・

 

「だーかーらー、それは山下さんの仕事でしょ?私には関係無いです」

 

それだけ言うと、沢子は外へと出て行ってしまった。

 

「あ・・・」

 

山下は何か言いたげな表情をしていたが、そのまま仕事へと戻るのだった。

 



 

「・・・全く、不細工な上に仕事も出来ないなんて・・・あんなのが先輩だと苦労するわ」

 

帰り道。
沢子は一人そう呟きながらイライラを押し込めるようにしていた。
だが・・・山下は確かにやや太めではあるが、沢子が言うほど不細工では無い。
むしろ顔立ちとしてはかなり整っている方であり、ぽっちゃり美人と言われるタイプだ。
とはいえ沢子と比べれば劣るのは確かでもある。

 

「はぁ・・・なんであんなのがモテるのかしら?」

 

沢子は職場の男共を思い返し、ため息を付く。
山下はその雰囲気と顔立ちのためそれなりにモテる。
沢子が入る前は一番モテていたらしい。
現在沢子が入社した事でそうでは無くなったが、それでもまだ一定数支持する男達は居るのだ。
だが、沢子としてはそれが面白くないらしい。
美貌に関しては沢子は何よりも自信があった。
幼い頃から可愛い可愛いと持て囃され、大学のミスコンで1位を獲得した時も
2位と大差を付けてのことだった。
くびれた腰に大きめの胸、色気のある尻に細い手足と目の覚めるような顔。
昔からの要領の良さもあって、どこでも人気者であった沢子。
そんな沢子とは対照的に鈍くさく、自己管理も出来てない体型の山下が人気だと言うことが
沢子には納得出来なかったのだ。
それが嫉妬という感情である事に、沢子はまだ気付いていないのだった。

 



 

「・・・なんですか、これ?」
「お香を焚く為の奴よ。最近私凝ってるの」

 

次の日、出社した沢子は珍しく職場の女性陣からプレゼントを受け取った。
箱の中身はいわゆる香壺(こうご)と呼ばれる物で、白地に青い模様が描かれた小さな物だ。
脇にはかなりの量の粉末が小袋に詰めて入っており、どうやらこれを焚けば良いらしい。

 

「最近吉岡さん疲れてるみたいだし・・・ね?」
「そうそう、私も使ってるけどかなりリラックス出来るわよ?」
「私も使ってるの!疲れて食欲無い時とかも効くわよ〜?」
「はぁ・・・ありがとうございます」

 

妙齢の──やや呼び方に苦労する年齢の──女性陣達に囲まれ、沢子はお礼を言いつつ受け取る。
今までこんな物を貰ったことは無く、急なことに何か裏があるのでは無いかと思う沢子。
だが女性陣は沢子に渡すと、すぐさま他の女性社員の所へと向かい同じ様な物を渡す。
どうやら妙齢の女性特有のお節介らしい。
そう考えた沢子は鞄に香壺をしまい込むと、今日の分の仕事をし始めるのだった。

 



 

「ただいま・・・はぁ、疲れた」

 

仕事が終わり、自宅のあるマンションに帰った沢子はそう呟く。
今日も山下の鈍くささに振りまわされたと、沢子は相も変わらずイライラしているのだ。

 

「・・・食欲でないわね。これもアイツのせいね」

 

買ってきたスーパーの袋を見つつ、そう呟く沢子。
ふと、沢子は朝女性陣に貰ったお香のことを思い出した。
がさごそと鞄を漁り、お目当ての物を探し出した沢子は、早速テーブルの上に置いてみた。
一緒に入っていたお香を入れ、火をつける。

 

「・・・あ、良い香り」

 

優しい仄かな甘さを感じる香りがすぐに漂い始め、沢子は思わず関心する。

 

「あの人達にしては良いセンスね・・・」

 

そう呟きつつ、服を着替えて床に座る。
すると・・・

 

【ぐぅ・・・】

 

突如空腹感を覚えた。

 

「・・・リラックス効果かしらね」

 

さっきまでとは打って変わって、空腹感が沢子を襲う。
丁度良いとばかりに買ってきた惣菜を適当に開け、箸で摘む沢子。
普段よりも少し多めに食べた沢子は、そのままシャワーを軽く浴びてから寝るのだった。

 



 

「・・・あ、あれ?」

 

一週間後、沢子はスーツを着ようとして戸惑っていた。
妙にきついのだ。

 

「・・・縮んだ?」

 

一瞬、そう考える沢子。
だがすぐに思い直した。

 

「・・・お腹に贅肉がある」

 

ぷにっとした感触が自分の腹から返ってきたからだ。

 

「最近食べ過ぎたかな・・・」

 

ここ最近の食事を思い返し、そう呟く沢子。
貰ったお香の効果か、ここ最近食欲が増加して以前よりも食べる量が増えていた事に気付いたのだ。

 

「でもあれ焚くとよく眠れるし・・・」

 

リラックス効果は本物で、ストレスのイライラからの睡眠不足も解消されている。
ちらりと香壺を見た沢子は少し考えた後、スーツを無理矢理着てから外に出た。

 

「今日から一駅歩こう・・・」

 

リラックス効果が消えるのは何よりも辛い。
それを差し引けば、少し運動する方が特だろう。
そう考えた沢子はやや早歩きで隣の駅へと向かうのだった。

 



 

ところがである。

 

「・・・はぁ」

 

一ヶ月経っても沢子の体重は落ちては居なかった。
むしろ右肩上がりを続けており、今では60kgを超えていた。

 

「コルセットで無理にしめてるけど・・・これじゃあいつかバレるわね」

 

腰の辺りをぐにぐにと揉みながら、沢子は自分の身体を見つめる。
たるんだ腹、だらしなくなってきた胸。
下着が食い込む尻に見事な大根足。
山下と同じかそれ以上に太くなった自分の身体を見つめ、沢子はため息を付く。

 

「明日から・・・本格的にダイエット・・・しなくちゃ・・・とりあえず一食だけにして・・・」

 

そんな台詞を、まるで自分に言い聞かせるかのように繰り返す沢子。
彼女は太くなった身体を大きくしたパジャマに通し、布団へと潜り込むのだった。

 



 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・!!」

 

荒い息をしながら、早朝の街を走る沢子。
ちょっとした外出用にと言い訳しながら買った大きめのパーカーを着込み、フードを目深に被る。
冬場だというのに汗はだらだらで、額には大量の汗が浮いている。
その様子はあの美人として名を馳せた沢子とは思えない姿だった。
ダイエットに本腰を入れてから2ヶ月。
彼女の身体は更に横へと太くなっていた。
だるんだるんと走る度に揺れる腹。
巨大な胸はパーカーの上からでもはっきり分かる程の大きさで、
スラックスを押し上げる尻は下着のラインが浮かび上がるほどだ。
足も当然ラインが丸分かりであり、腕は指先の太さからどれほど太いかが容易に想像出来る。
荒い呼吸の度に頬肉が揺れ、首に付いた脂肪が呼吸を無残な物にしていく。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・!ふひー・・・ふひー・・・」

 

徐々に勢いが落ちていく沢子の走り・・・
ついに立ち止まってしまった沢子は、その場で今にも崩れ落ちそうになりながらも
呼吸を整えていた。

 

「・・・ぜぇ・・・はぁ・・・」

 

呼吸を整えながら、自分の身体を見つめる沢子。
ミスコンで優勝を飾ったあの身体は既に無く、今あるのは無残で醜いデブの身体だ。
今はまだ仕事は有給を取って休めているが、それもそろそろ終わる。

 

「・・・嫌ぁ」

 

こんな醜い自分の姿を見せるのは嫌だ。
それもあれだけ見下していた職場の女性達に見られるのだ。
特にあの山下には・・・山下にだけは見られたくない。
そんな彼女の目に、一人の女性が映った。

 

「・・・あ」

 

山下だ。
早朝・・・まだ朝の6時である。
可愛らしいややゆったりめの私服を着こなし、ペットなのか犬を連れて歩いて居る。

 

「・・・」

 

ふと、沢子は自分と山下を比べた。
山下よりも太くなった身体。
お洒落さのかけらも無い格好。
優雅とは程遠いランニング。
急に、沢子には山下がまぶしく見えた。
それが引き金だったのか、沢子はその場にバタリと倒れ込んだのだった。

 



 

「う・・・ぁ・・・」

 

まぶたがまぶしい。
突如訪れた感覚に、沢子は声を上げてから目を開ける。
窓から差し込む光が沢子の顔にかかり、目の奥を刺激しているのだ。

 

「・・・どこ、ここ?」

 

天井に見覚えが無い事に気付いた沢子は身体をゆっくりと起こした。
辺りを見回すと女性らしい小物で飾られた部屋の中に居ることが分かったが、
相変わらず沢子はここがどこか分からない。

 

「起きた?随分疲れてたみたいだけど・・・」

 

困惑する沢子に、奥の部屋から優しげな声がかけられる。
その声の方を見ると、山下が犬と一緒に沢子の方へと歩いてくるのが見えた。

 

「あ・・・山下さん・・・」

 

となるとここは山下の家だろう。
そう思って、沢子ははっとした。
よりによってこの姿を山下に見られたのである。
恥ずかしそうに、気まずそうにする沢子に山下は笑いながらカップを差し出す。

 

「やっぱり吉岡さんだったんだ・・・はい、飲める?」

 

声で分かったのか、そう言う山下。
沢子はどうもと短く呟くと、山下の差し出したカップを受け取り一口啜った。
暖かなしょうがスープが喉を通り、ほっとした気持ちにさせる。

 

「・・・笑いなさいよ」
「えっ?」
「こんな醜くなった私を、笑いなさいよ」

 

自虐的にそう呟く沢子。
困惑した様子の山下を横目に、沢子の自虐はどんどんと続いていく。

 

「えーえーそうよ!どうせ私は駄目な女よ!
 散々色々言ったくせに、いざとなれば自己管理も何も出来ない女よ!
 偉そうなこと言って、仕事投げて、好き勝手やった女の末路を笑ってよ!」

 

声を震わせながら、そう叫ぶ沢子。
そんな沢子の身体を、山下はそっと抱きしめた。
柔らかな・・・沢子のだらしない身体とは違うふわっとした感覚が沢子を包みこむ。

 

「・・・笑わないよ」
「・・・なんで」
「多分、吉岡さんにも色々あっただろうから」
「・・・ないわよ、そんなの」
「でも、私は笑わない」
「・・・」

 

さっきまでの勢いなんて最初から無かったかのように、
沢子はカップを握りしめたまま大人しくするのだった。

 



 

それからしばらくして、沢子は職場に戻った。
当然体型が元に戻るはずも無く、急激に太った沢子を男性職員はがっかりした目で見て、
女性職員は蔑んだ。
だが・・・山下だけはずっと沢子のフォローに回り、
沢子もそれに応えるように以前のような態度が消えて角が取れた。
しばらくすると沢子は以前とは違うが、再び彼女の元へと人が集まるようになっていた。
それは見た目のカリスマ性で集まったのとは違う、人柄で集まった人達だった。
更に少し経った頃、女性陣達が頭を下げに来た。
以前送ったお香はリラックス効果と共に、食欲増進の効果を持たせたお香だと。
そしてある種の中毒性を持たせたやや危険な物で、ちょっとした悪戯にしてはやり過ぎたと。
沢子はそれに対して寧ろ礼を返した。

 

『この体型にならなかったら、自分はきっともっと嫌な人間になっていた』

 

そう返したのだ。
その頃には沢子も気付いていたのだ。
なぜ山下がモテたのか。
それは彼女の人柄だと。
自分に足りなかったのはその人柄なのだと。
ダイエット努力むなしく沢子の体重は未だに増え続けているが、それでも沢子は嬉しそうであった。
『自分は本当にモテる人間になれたのだ』と・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

身長162cm
体重 46kg  → 52kg  →  62kg →  93kg  → 110kg
 B:86cm → 90cm  → 97cm → 109cm → 119cm
 W:53cm → 59cm  → 68cm →  94cm  → 107cm
 H:82cm → 87cm  → 93cm → 115cm → 121cm


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