依存の先へ
カルモ・ターバ 22歳 身長163cm 体重58kg
元傭兵の女性。戦場で負った傷を治療される時に依存性の高い薬を使われて・・・
「・・・なぁるほぉどぉ・・・つぅまぁ〜り、君ぃは依存をぉなぁくしたぁい訳ぇ〜ですねぇ?」
「おう・・・ここなら出来るって聞いてよ・・・」
目の前のオッサンはくねくねと気持ち悪い動きをしながらそう聞いてくる。
これでも医者としちゃー有能だっていうんだからなんだかなって感じだ。
「えぇ〜っと・・・カルモ君はぁ・・・剣での傷を治療するためにぃ〜・・・
モラリア草で作られた治療薬を投与さぁれたぁ訳ぇですねぇ?」
「おう・・・御陰であの忌々しい草を摂取しないと気が狂いそうになるぜ・・・」
オッサンの質問にあの糞医者の事を思い出す。
半年前・・・とある貴族に雇われた俺はゴブリン共と一戦交える事となった。
その際、びびった雇い主を助けるために一発きついのを貰っちまった。
それをその街の医者が見たんだが・・・コイツがとんでもない物を使いやがった。
モラリア草、馬鹿な俺でも名前を知っている程に有名な薬草だ。
勿論、“悪い意味で”だ。
治癒効果の程は絶大、適当に千切ったそいつを傷口に当てるだけでも
傷がふさがるなんて話すらある程だ。
ところがコイツには“落とし穴”がある。
それは異常なまでの中毒性だ。
1回でもこいつを使うと、毎日“地獄”を味わう。
頭がガンガンと殴られるように響き、身体全体がまるで
何かに這いずり回れてるかのようにかゆくなる。
それこそ薬を求めて一般人が暴動を起こるほどの・・・だ。
最前線じゃぁ仕方なく治療薬として使われているらしいが、こっちの方じゃ全面禁止だ。
だというのに・・・
俺を診た医者はよりにもよってその薬を使ったんだ。
おかげで俺は事ある事にモラリア草を求めるようになっちまった。
それを解消するべく、近くの街にいるこのオッサンに頼みに来た訳だが・・・
「個人てぇき〜にはぁ正しい判断とぉ〜おぉもいますけぇどねぇ?」
「どこがだよ!!」
このオッサン、色々とつかみ所が無い。
「だぁってぇ〜貴方はぁ生きてぇますかぁ〜ら」
「・・・」
「まぁ貴方の生死なんて興味無いですけどね」
オッサンは一瞬真顔になるとそう呟いた。
「ってめ!?普通に喋れんのかよ!?」
「気ぃのせぇ〜いですよぉ?」
すぐにニタニタと笑いながら相変わらずくねくねするオッサン。
思わず一発ぶっ叩きたくなった。
「とぉにぃも〜かくにぃ〜も、貴方はうちにぃ患者ぁとしぃてぇ来た訳でぇ〜
早速治療をはぁじめまぁす!」
「・・・おう、早くしてくれや。お前と話してると頭痛くなる」
「でぇはぁ・・・まずはこれを試しましょうかぁ?」
そう言って、オッサンはどでかい注射を取り出す。
「お、おいまさか・・・」
「これを一発ぅいれればぁたちまちに貴方の感情ぅは消えてぇ
依存性ともおさらばバイバァイですよぉ!!」
「ば、馬鹿やめろ!?」
「駄目でぇすか?」
「駄目に決まってるだろ!?」
「じゃぁ・・・こっちはどぉですぅ?一生動けなくなるので
依存しようにも薬が使えなくなるお薬ですよぉ?」
「ふざけんな!!」
「もぉう・・・ちゅーもんが多いですねぇ?」
「そんな奴使わせる訳ねぇだろ!?依存性も無くして身体も健康になる奴!
それ以外は使わせねぇぞ!?」
「はいはい・・・しょうがなぁいですねぇ〜・・・」
俺の言葉を聞いたオッサンは立ち上がると、近くの戸棚から何かを取り出す。
拳ぐらいの小さな瓶で、中には丸っこくて赤い小さな・・・
「なんだそりゃ・・・飴玉か?」
「にぃたよぉな物でぇす。これもぉ貴方の依存症をなぁくすお薬でぇすよぉ?」
「これがぁ?」
はぁいと笑いながらこっちにその瓶を渡すオッサン。
「こぉれを1日に1粒飲めばぁ・・・すぅぐさま元気元気ぃで健康なぁ身体にぃなりまぁすよ?」
「本当だろうなぁ・・・またさっきのみたいに変なことにならないだろうな!?」
「ほんとぉうですよぉ?身体を健康にしつつ、依存性を消しさぁる・・・
そぉんなかぁんぺぇきなお薬ちゃあんです!」
「・・・嘘だったら承知しねぇぞ」
「だぁいじょうぶです!私を信じなぁさい」
「・・・わかったよ」
俺はそれを受け取ると、1粒口に入れてからオッサンに金貨を渡すのだった。
・
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「・・・ただいま」
「あ・・・お帰りなさい!」
その日の午後。
俺は俺を雇った貴族の屋敷に戻っていた。
あの一件以降、俺は怪我のせいで剣をまともに振れなくなっていた。
そこいらのゴロツキに負けるほどじゃないが、傭兵としてやっていくのは無理がある。
そんな矢先、俺を雇った貴族の息子が俺を護衛にしたいと言ってきた訳だ。
俺はその言葉に甘えて今でもその屋敷に厄介になってる。
因みにさっきの治療費もここ持ちだ。
「おう・・・悪かったな、護衛なのに屋敷離れてて」
「う、ううん!!いいの!おとーさん守った怪我のせいなんでしょ?なら気にしちゃめ!」
「そ、そうか・・・」
なんでかはわからないが、このお坊ちゃんは妙に俺になついてる。
・・・こんながさつな女のどこがイイのかねぇ?
「お風呂、沸いてるよ?」
「護衛の俺が先に入れるかよ・・・俺の事は気にしなくて良いから先に風呂入ってこい」
「でも埃っぽいよ?」
「俺は慣れてるからいいんだよ・・・」
「じゃあ一緒にはいろ!!それならいいでしょ!?」
「はぁ?」
おいおい・・・
「ほら、はやく!」
「・・・あぁもう!!分かったよ入るよ!!」
お坊ちゃんに腕を引かれて、俺は諦めながら風呂に入るのだった。
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「わー・・・凄い腹筋・・・」
「・・・あんまり女の裸をじろじろ見るんじゃない」
「あ、ごめんなさい・・・」
「いや・・・別にいいけどさ・・・」
脱衣所で服を脱ぎ、お坊ちゃんと一緒に浴場に入る。
このお坊ちゃんと一緒にいるとなんか調子が狂う。
「・・・傷、いっぱい有るね」
「まぁな・・・」
長いこと傭兵やってればそうもなる。
「・・・痛い?」
「・・・まぁな」
「・・・なんで傭兵やってたの?」
「なんでって・・・」
それ以外、生きる道が無かっただけだ。
「・・・色々あるんだよ、オトナには」
「ふーん・・・でもこれからは僕のごえーだからあんまり怪我しないよね?」
「・・・どうだろうな」
はっきり言ってしまえばここは弱小貴族ってやつだ。
辺境の場所で小さな村を一個管理してるだけの、極々小さな・・・
それこそ村長とそこまで変わらない程度のだ。
それでも盗賊ぐらいは来るだろうし、身代金を求める山賊とかと出会うかもしれない。
そうなれば、この子を守るのは俺の役目だ。
「・・・?」
・・・この子自身はあんまり分かってないようだけどな。
「まぁあれだ・・・多分大丈夫だ」
「・・・そーだよね!!」
安心させるために頭を軽く撫でてやる。
・・・どうなるんだかねぇ、これから。
・
・
・
あれから2ヶ月。
薬が効いているのか、あの地獄のような依存性はすっかり影を潜めた。
御陰で大分過ごしやすい。
・・・が。
「油断したか・・・」
俺は自分の身体を見つつ、ため息を付く。
以前はくっきりと見えていた腹筋が見えなくなりつつあるからだ。
代わりに柔らかな贅肉がうっすらと乗り始めてる。
どうやらここしばらく平和過ぎて、身体がなまったらしい。
「素振りでもするかねぇ・・・何年振りの話やら」
「ん?どうかしたの?」
「なんでもねぇよ・・・」
近くで頭を洗っていたお坊ちゃんがこっちに来る。
・・・気がつけばお坊ちゃんと風呂に入るのも日課になってるな・・・
「ならいいけど・・・何かあれば言ってね?」
「分かってるよ・・・心配性め」
「えへへ・・・」
「褒めてねぇっての・・・」
お坊ちゃんの頭を撫でつつ、俺は身体をどうやって鍛えるか考えるのだった。
・
・
・
「・・・なんでだよ」
それから2ヶ月。
俺の身体は引き締まるどころかどんどんとだらしない格好になっていた。
胸と言うより胸板だった胸は丸く重くなったし、
腹は腹筋が完全に見えなくなったどころか前に出ている。
尻はだらしなく垂れ下がるようになったし、足は昔の脛あてが完全に入らなくなった。
腕は剣を振るどころか普通に動かすのも億劫になるほどだし、頬は大分肉でプニプニになってる。
「いくら何でもおかしいだろ・・・」
太ったなと自覚してからは色々やってきたはずだ。
素振りだけじゃない、走り込みもやったし筋トレもやってる。
なのになんでこんなに太るんだよ・・・
「わぁ・・・ぽよぽよだね」
「うっ・・・」
湯船から上がってきたお坊ちゃんが俺の身体を触りながらそんなことを言う。
「えへへ・・・軟らかぁい」
「さ、触るなよ・・・」
こんな身体じゃ・・・護衛とは言えないよなぁ・・・
「・・・駄目だよな」
「え?」
「・・・俺、護衛の仕事降りるわ」
「な、なんで!?」
驚き顔のお坊ちゃんから目をそらしつつ、俺はそう呟く。
「護衛だってのに・・・こんなデブじゃ・・・」
「それは・・・だ、大丈夫だよ!!太った人がごえーでもいいもん!」
「駄目なんだよ!!護衛ってのは対象を守れないと駄目なんだよ!!
こんな身体じゃ守れないんだよ!」
「じゃあごえーしなくてもいいもん!ずっと僕のそばにいてよ!!」
俺の叫びに叫び返すお坊ちゃん。
・・・なんでだよ。
「それじゃあ俺は仕事してねぇだろ!?」
「仕事しなくてもいいもん!僕のそばにいてよ!!」
なんで・・・
「なんでそこまで俺にこだわるんだよ!?」
「お姉ちゃんが好きだから!!」
俺の言葉に、お坊ちゃんはとんでもない発言で返してきた。
「は、はぁ!?」
「最初見た時に思ったんだもん!!この人良いなって思ったんだもん!!
事情知ってかわいそうって思ったんだもん!!好きだなって思ったんだもん!!」
泣きそうな顔しながら、お坊ちゃんはそう叫ぶ。
・・・可哀想か。
多分、普通の男にそう言われてたら俺はキレていただろう。
『俺の人生を知った風に語るな』と。
でも、多分このお坊ちゃんはそうじゃない。
俺の事をずっと見て、俺の事を考えて、俺の事を心の底から可哀想って感じたんだろう。
短い期間の付き合いとは言え・・・だ。
安い同情じゃない、一種の愛情だ。
「・・・泣くなよ」
「っ・・・泣いてない!!」
目元を擦りながら、お坊ちゃんはそう言う。
・・・敵わないわ、こりゃ。
俺はお坊ちゃんを抱きしめながら、頭をゆっくりと撫でる。
「分かったよ、お坊ちゃんの言う通りにするから」
「・・・どこにも行かない?」
「・・・ああ」
「えへへ・・・ずっと一緒だね」
全く・・・8歳のガキに求婚されるとは思わなかったな・・・
・
・
・
「なぁるほどぉ!お幸せそぉうでなぁによりぃ!」
「うるせぇ」
数日後。
俺はあのオッサンにもう一度検査して貰っていた。
流石にあの体重増加はいくら何でもおかしいからな・・・
「いやいやぁ!まぁさかぁこぉんなぁ結末にぃなるなんて思ってませんでしたぁよ?」
「うるせえっての・・・それで?結果はどうなんだよ?」
「そぉうでぇすねぇ・・・健康その物!順調でぇすよ?」
「こんな体型なのにか!?」
「“そんな体型だから”でぇすよ?」
「・・・あ?」
私の言葉に変な言葉を返すオッサン。
というかだな・・・
「まさかてめぇ知ってたな!?」
「ええ、ええ!目論見どぉりに見事ぉに育ってぇまぁすね」
「ふざけんな!」
オッサンの胸ぐらを掴もうと勢いよく立ち上がる。
・・・が、バランスを崩して床に倒れ込んだ。
ドスンと鈍い音がして、身体が軽く弾む。
「・・・絨毯でよぉかったぁですね?」
「うるせぇ・・・」
にらみつける様にオッサンを見るが、オッサンはにやにやとしたまんまだ。
「まぁまぁまぁまぁ!身体は健康!依存症も解消!
きちぃんと言われた事ははたしてぇまあすよ?」
「・・・ならなんでこんなに太るんだよ?」
「そう言う薬だぁからぁですよ?
そもそもモラリア草の依存症というのはぁでぇすね?脳味噌その物に異常がでぇるわけです。
そして何故異常がぁでぇるか?体内の臓器その物がある種のぉ感染をぉすぅるわけでぇす。
“汚染”と言ってもぉいいでしょうねぇ?
モラリア草の成分がぁ臓器に染ぃみ込ぉんで一体化するぅのです。
この一体化のぉ御陰で傷口がぁ修復さぁれるのぉですが、
傷その物がぁ直っても今度は臓器がぁその刺激を欲しがぁるのです。
なぁにせぇ細胞がこのモラリア草で作られるわぁけですからぁ?
素材を欲しがるわけぇです」
「・・・だからそれと太るのに何の関係があるんだっての」
「臓器その物ぉを入れ替えぇるたぁめですよ?
汚染されたぁ臓器があるかぁぎり依存症はぁなぁおりませぇん。
なぁらいっそぜぇんぶの細胞を入れ替えるしかぁなぁいんです。
貴方に渡ぁした薬は臓器から脳味噌へ送られぇる情報を一時ぃ的に抑えるこぉうかと、
健康な細胞の再生を促ぁすたぁめの効果・・・
その両方がぁありまぁす。まぁそれだけぇだと栄養素が足りまぁせんからぁ?
栄養剤も一緒に入ってまぁすけど」
「・・・」
駄目だ、話が長い。
「・・・つまるところ、飲むと依存症を起こす部分を作り替える薬という訳です。
太るのは副作用ですね」
「それならそうと早く言えって!!というかやっぱり普通に話せるじゃねぇか!!」
「気ぃのぉせぇぇぇいです!」
「嘘付けぇ!!」
やっぱりこのオッサンと話すと疲れる・・・
「ったく・・・なんで太るって言うのをいわねぇんだよ?」
「聞かれぇなかぁったからでぇすよ?」
「そう言うのは普通そっちが説明するんだよ!?」
「次回からぁは努力ぅしまぁす」
「・・・」
「睨まない睨まないぃ!身体はぜぇんぶ綺麗に生まれ変わってるんですから健康その物でしょう?」
「・・・確かに腕も違和感なくなったけどよ」
そう、この前の怪我以降あった腕の違和感。
それが無くなっているのだ。
・・・今は別の意味で違和感だらけだが。
「そぉれいがぁいの選択ぅ肢はなかったのぉですよ?
ならいいでしょぉ?」
「・・・なんか納得いかねぇ・・・」
やっぱ藪医者じゃねぇのこいつ・・・
「まぁまぁ、それより式のご予定はいつですか?」
「急に普通に喋んな!あとまだそんな段階じゃねぇし決まっててもお前だけは絶対に呼ばねぇ!!」
にやにやと笑うオッサンに一発ぶち込んでから、俺は深くため息を付くのだった。
結局、俺とお坊ちゃんが結婚したのはそれから8年後だった。
体重については・・・言うな。
歩くのがやっとでみっともなかったんだから・・・さ。
カルモ・ターバ
身長:163cm
体重:58kg → 63kg → 124kg → 231kg
B:87cm → 93cm → 134cm → 167cm
W:62cm → 68cm → 89cm → 149cm
H:88cm → 96cm → 138cm → 178cm