我が家を守るは
マリア ???歳
遠い昔に人形に封じ込められた女性。
「・・・へぇ、色々置いてあるんですね」
「はは、節操なしといってくれていいよ」
俺は俺の叔父さんが最近開いた店を眺めながらそう言う。
いわゆるアンティークショップなんだが・・・確かに節操が無いとも言える。
アジア系の模様が描かれた皿にどこかの民族の仮面やらなんやら・・・
なにより目を引くのは・・・
「あれ、随分でかい人形ですね」
店のカウンター横で椅子に座っている人形だ。
大きさは座っているから何とも言えないけど・・・多分150cm位か?
人間大って奴で、まるで生きた人間みたいに精密に作られてる。
・・・まぁ、球体関節が膝や肘にあるから人形だってわかるんだがな。
「ああ、あれか・・・なんでも今から200年だか300年だか昔に作られたらしいんだけどね?
・・・動くんだってさ」
「・・・は?ゼンマイとかでですか?」
「いや・・・夜な夜な独りでに・・・ね」
叔父さんはくいっと眼鏡をあげてにやりと笑う。
・・・ああ、そうだ。
この人こういうの好きなんだった。
「曰く付きですか・・・」
「だね。面白いと思わないかい!?」
「いや全然」
「ちぇー・・・」
露骨に落胆する叔父さん。
この人は昔からそうで、旅行をする度にこういう物を買ってきているのだ。
・・・さっきの仮面もなにかあるのかもしれない。
御陰で60歳で定年したのに嫁さんは居ないし・・・
【Pipipipipipipi・・・】
そんな事を考えていると、叔父さんの携帯電話が急に鳴り出した。
「おっと、ごめん・・・はいもしもし。
はい・・・はい・・・え?はい・・・はい、わかりました」
叔父さんはそういうと通話を切り、はぁ・・・と重めのため息をする。
「どうかしました?」
「ああ・・・お得意さんというか・・・まぁ僕に開店用のお金を貸してくれた人が居るんだけどね?
その人がどうしても見て欲しい物があるって言うからすぐ来いっていうんだよ・・・」
「あ・・・じゃあ店番してますよ」
なんだかんだでこの人には昔からお世話になってるからな。
色々お土産とかくれたし・・・
「頼めるかい?じゃあ1時間位で戻るから!」
そう言うと叔父さんは店を飛び出し、原付に跨がってどこかへ行ってしまった。
俺はその背中を見送ってから、店の中へと戻った。
「・・・さてと、どうするかなぁ」
店の中を見て回るのも良いけど・・・正直変な曰く付きの物に下手に触りたくないし。
『・・・なら、私とお話でもする?』
うんうんと悩んでいると、そんな声が聞こえた。
「だ、誰だ!?」
『あら、通じたわね・・・こっちよ、こっち。椅子の上よ』
頭に響く声を頼りに椅子の上を見る。
そこにはさっきの人形が座っているだけで──
『そう、ここよ』
だが、その人形は俺の目の前でぱちりとウィンクをして見せたのだった。
・
・
・
「・・・つまり?君は元々人間で?人形に封印されたって事か?」
『そうよ』
俺はずきずきと痛む頭を抱えながら人形・・・マリアの言うことをまとめていた。
彼女曰く、元々は農家の娘だったらしい。
ところが彼女に惚れた伯爵だかが彼女に求婚、両親は大量のお金を受け取って
マリアを伯爵に渡したそうだ。
『そこは怒ってないの。家が貧乏だったのは事実だし、お父さんもお母さんも嫌がってたし。
・・・まぁあの糞爺が家の作物に色々やってくれたせいで結婚せざるを得なかった訳だけど』
と彼女は言っていたが、それでも少し寂しそうだった。
それで伯爵の家に嫁いだ彼女は地下室に案内されたそうだ。
その後、気がつけば体が人形になっていたらしい。
『あの糞爺、なんで人形にしたと思う!?
“君のような可愛い女性を動けなくしてただただ愛でたいのだ”だっていうのよ!?
ふざけんじゃないわよ!!ただの人形じゃ反応がないからつまらないとか
知ったことじゃないし!!』
無表情のままな人形がぎゃーぎゃーと頭の中で騒ぐ光景は二度と見れないだろう。
彼女曰く、まぶた以外自力では殆ど動かせない状態になったらしい。
よっぽど力を込めれば片腕を何とか上げられるらしいが、
そうするとそれ以外の事が出来なくなるらしい。
結局彼女はそのまま伯爵が死ぬまで伯爵の家の中に閉じ込められたそうだ。
その後、彼女は伯爵が死んだと同時に質屋に出されてしまったという。
転々と各地に売られては色んな人の手に渡り、やがて叔父さんが買ったそうだ。
「・・・なんで助けを求めなかったんだ?」
『ばぁ〜か、求めたに決まってるでしょ。
でも私の声を聞けるのはどうにも限られてるみたいなのよ。
霊感とでも言うのかしらね?なんとか体を動かしてみたけど
誰もが不気味がってすぐ売られたのよ』
そりゃそうだろう。
無言で無表情の人形がこっちにカタカタと音を鳴らしながら手を伸ばしてきたら
誰もが不気味に思うだろう。
「はぁ・・・話は分かったけど・・・それで?俺にどうして欲しいんだ?」
『別に?ただ暇つぶしに話をしたかっただけだし・・・』
「・・・?人間に戻りたくはないのか?」
『それは無理ね。長いこと人形と一緒に居たせいでとっくに人間じゃなくなってるし』
「そうか・・・」
『まぁいい加減少しぐらいは自由になりたいけどね。人形の体じゃろくに動けないし』
「・・・どうすればいいんだ?」
『・・・あんた本気?』
「本気だよ」
マリアは信じられないという顔で見てくるが、こっちは本気も本気だ。
そもそもなんでもかんでも諦めてるって感じの態度が気に入らない。
なら・・・俺が解放してやる。
そう思っていよいよと言う時だった。
「ただいま〜いやぁ悪いねぇ店番させて」
叔父さんが帰ってきた。
「・・・どうかしたいかい?」
「あ、いえ・・・」
俺を見て固まる叔父さん。
そりゃそうだろう。
傍目には人形と見つめ合ってる男にしか見えないだろうし・・・
「それならいいんだが・・・もしかしてその人形気に入ったのかい?」
「え、あ・・・」
どうやら勘違いをしているようだが・・・いや、これはチャンスだ。
「そ、そうなんですよ!!こう・・・見てると吸い込まれるって言うか!!」
「そうか・・・君もこう言う品の善し悪しがわかるか!!ならそれは君にあげよう!」
「え、はい?」
テンションが上がってしまったのか、叔父さんは俺の話なんか聞かずに
涙まで流しながら拳を握りしめている。
「その代わり君はいつか僕の店を継いでくれ!!
さぁ、新しい君の門出だ!流石に目立つだろうから車で運んで上げよう!!」
「・・・ありがとうございます」
・・・大変な事になってしまった。
・
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『解除の仕方は私の・・・その・・・体のどこかにある文字を削るのよ』
家に着き、自分の部屋に運び込んだ俺は早速マリアからどうすれば良いのかを聞いていた。
「・・・どこか?」
『ええ、どこか』
「・・・触っても」
『直に変なとこ触ったら殺す』
・・・早速詰んだかもしれん。
「と、とりあえず見える範囲ならいいだろ!?」
『・・・いいわよ』
俺はそれを聞いてから彼女の体を触る。
二の腕、足の裏、首筋。
そして・・・
「お?」
おでこになにか文字がある・・・
nを崩したような文字が二つとxを崩したような文字が一つ。
どうやらこれを削れば良いらしいけど・・・
「どれを削れば良いんだ?」
『さぁ?』
「さぁって・・・」
『私だって知らないわよ。態々あの糞爺が喋る訳も無いでしょ?』
「いや俺はその人を知らないんだが・・・」
どうする?勘で行くか?
それとも全部消すか?
でもこれで下手にやったら・・・
『・・・中止しなさい』
「は・・・?」
『下手に弄られて私自身が消えたら洒落にならないもの。だからここまで』
「お、おい!?」
そりゃそうだろうけどさ!
『いいのよ。私は久しぶりに人と話せるだけで十分だし』
「・・・」
だから・・・そんな悲しいこと言うなよ。
「・・・いや、いい。決めた」
『・・・人の話聞いてる?』
「ああ、聞いてる。だから約束してくれ」
『なにをよ・・・』
「成功したら・・・もうそんな事言わないって」
『・・・勝手にしなさい』
やってやる。
彼女の顔を見てそう決心する。
俺は意を決して一番右にあるxみたいな文字を削る。
すると彼女の体はガクンと力が抜けるように床に倒れた。
「お、おい!?」
『・・・』
彼女は何も答えない。
もしかして失敗したか・・・?
そんな風に思った瞬間。
彼女がすくっと立ち上がった。
「・・・」
驚いて声が出ない俺に向かって、彼女は飛びかかってくる。
「うぉ!?」
『やったわ!!動ける!!私動ける!!』
俺を押し倒すかのようにして俺の上に馬乗りになるマリア。
はしゃいでいるその顔は見た目相応の歳に見える。
良かったと俺が一安心した、その時だった。
【むくっ・・・】
『はへ?』
彼女の体が一回り大きくなった。
ミシミシと音を立てる服。
球体関節を覆う様に広がる皮膚と贅肉。
徐々に重くなる彼女を目と体で感じる俺。
やがて・・・
【ブチン!】
目の前で彼女の服がちぎれた。
『いやぁぁぁあああ!?』
慌てて体を押さえるマリア。
その抑えてる部分を乗り越えるかのように膨らむ体。
ようやく彼女の膨らむのが収まった時、彼女の体は完全に原形をとどめてなかった。
うっすらとしていた胸はバスケットボール大に大きくなり、
その下の腹は膝近くまで隠すほど飛び出ていた。
足は太く、俺の太ももの二倍以上はあるだろう。
腕はまるで巨木を思わせる太さだし、首は丸ごと肉に沈んだ。
広がった頬が垂れ下がり、口元を贅肉で覆い隠している。
『どうしてぇ・・・こうなるのよぉ・・・』
涙を浮かべる彼女に、俺は悪いと思いながらも言わないといけない台詞があった。
「とりあえず・・・どいてくれ」
・
・
・
それから2時間後。
俺が悪いと騒ぐ彼女を落ち着かせてから、俺達はこうなった原因を考えることにした。
『・・・魂が肉体に引っ張られるように、肉体も魂に引っ張られる・・・
そういうことかもしれないわね』
マリアの呟きに、俺は顔を上げて考えるのをやめる。
「なんだよそれ?」
『・・・見て、私の腕』
彼女に言われて腕を見てみると、さっきまであった球体関節部分は皮膚に覆われている。
・・・と、思う。
なにせ贅肉がたっぷりと付いててよく見えないのだ。
『私の魂はこの体と長いこと居すぎて同化してたみたい。
でも、あの糞爺の呪文か何かであの姿で固定されてたんでしょうね。
人形の姿で・・・それを貴方が壊したから時間が一気に進んで、
私の中に蓄えられていた何かが溢れたのかも?』
「は、はぁ・・・」
よく分からないが、俺が太った直接の原因というわけでは無いようだ。
『・・・はぁ・・・どうしましょう』
さっきまでと違って随分と表情豊かになった彼女。
相変わらず会話は頭の中だが、それでも大分分かり易くなったな。
「・・・とりあえず、家に居るか?」
『・・・いいの?』
「よくわからねぇけど、俺にも原因があるっぽいし?
解放するっていったの俺だしさ・・・」
『・・・貴方、変わってるわね』
クスクスと笑うマリアを見ながら、俺も笑うのだった。
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・
その後、マリアは半分幽霊半分人形として家に住み着いた。
普段は俺の部屋の押し入れに入っているが、偶に出歩いているようだ。
本人曰く、家を守ってるらしいが単に暇なんだろう・・・
「ただいま」
『あら、おかえり』
家に帰ると、玄関でマリアと出会った。
今日も勝手に出歩いていたらしい。
「おい、出歩くなって言っただろ?」
『パトロールよ』
「よく言うよ・・・父さんや母さんに見つかるなよ?」
『分かってるわよ〜』
そう言って手をひらひらさせながら二階の俺の部屋へと歩いて行く。
・・・一歩毎に階段が重い音をさせて軋んでいるのは気にしないようにしよう。
俺は彼女のでかい尻を見ながら、ゆっくりと階段を上がるのだった。
マリア
身長152cm
体重:40kg → 220kg
B:70cm → 138cm
W:50cm → 166cm
H:73cm → 153cm