その名の如く

その名の如く

 

 

安藤 ミカ(あんどう みか) 27歳 身長160cm 体重55kg
そこそこ売れてる新人女性作家。最近市販されたBCI技術を試した所・・・

 

 

 

 

 

ブレイン・マシン・インタフェース・・・
自身の脳に特定の機器を埋め込み、そこで読み取った脳の電気情報を
コンピュータ等に出力する技術。
最近ようやく市販され始めたその技術は、一般人には手が届かない額である。
だが・・・

 

「異常はありませんか?」
「はい・・・大丈夫です・・・」

 

カプセル状の装置から出てきた女性、安藤ミカは体を軽く動かしながらそう答える。

 

「では、お疲れ様でした」
「ありがとうございます」

 

白衣を着たヒューマノイドにそう告げ、彼女は部屋を出る。
そして髪をかき上げてこめかみをそっと弄る。
巧妙に隠されているが、一ヶ所だけ皮膚とは違う感触が指先に伝わる。
軽く押すとぱかりとその部分が開き、中から小さな端子が出てくる。

 

「・・・本当に出来たみたいね・・・BCI埋め込み」

 

再び蓋を元に戻し、なんとも言えない顔をするミカ。
そう、BCIの正規の手段での手術は高額である。
だが・・・少し“そういった店”に行けば半額以下の価格で手術をやる場所はある。
ミカもそう言った店を利用し、手術を行ったのだ。

 

「・・・これで私ももっと早く書ける・・・!」

 

ぐっと手を握り、ミカは自宅へと帰っていく。
この時代に良く残っているなと思える程古ぼけたマンションに入り、自動ロックを開けるミカ。
玄関を上がり、脱いだ靴を面倒そうに揃えてからミカは仕事に使うコンピュータに
先ほど付けた端子を繋ぐ。
その途端に視界の端にコンピュータの情報が表示され、同時に膨大な量の情報が流れ込んでくる。

 

「おえっ・・・」

 

思わず口を押さえるミカ。
だが数分もしないうちに情報の濁流は収まり、吐き気も消える。
ミカは軽く頭を振ってから手を使わずにコンピュータの文章作成プログラムを立ち上げようとする。
ミカの思い通りにプログラムは立ち上がり、ミカの視界にテキストを打ち込む部分が現れる。
そのまま脳の感覚だけで文章を打ち込んでいく。

 

「・・・ふふっ、これいいかも!」

 

腕を使わない事がこんなにも楽なのかと感動するミカ。
これならば・・・とどんどん文章を打ち込むミカ。
調べ物があった時もすぐに検索ブラウザが立ち上がり、必要な情報を瞬時に探してくれる。

 

「これなら・・・いくらでも書けるわね!」

 

ぐっと握り拳を作るミカ。
そう・・・彼女の仕事は小説家なのだ。
人工知能の発達、ヒューマノイドの台頭。
様々な職業での自動化が進む中、作家や音楽家などのクリエイティブな作業をする職業だけは
代用が不可能と分かった。
ミカはそんな作家の中でも中々の注目株であった。
彼女の作品は面白い物が多いという意見は多く、新人作家ながらそれなりの売り上げを稼いでいる。
だが・・・彼女には弱点がある。
それは筆が遅いのだ。
正確には文章を思いついてから行動に移すまでが遅いと言うべきだろう。
脳内で考えた文章をすぐにどこかに出力するわけでもなく、そのまま頭の中で考えて居るのだ。
結果、色々な物の速度が上がったこの世の中では彼女のそういう面が評価を下げている。
だから、彼女は少しでも自分の評価を上げるために危険だとは思いつつも
わざわざBCIを埋め込んだのだった。

 



 

「で、出来た!」

 

数時間後。
普段の数倍の速さで小説を書き上げたミカは嬉しそうに立ち上がる。
頭の中のメモ帳が瞬時に出力される感覚・・・ミカはその便利さに酔いしれていた。

 

「でも・・・端末に直接繋がないといけないのは面倒かも・・・」

 

折角すぐさま出力出来るのに、結局体はコンピュータの近くに居ないといけないのだ。
人間、便利になれるとすぐに満足出来なくなるのはどの時代も変わらないようである。

 

「・・・」

 

少し考えたミカは検索ブラウザを立ち上げ、検索ワードを入れていく。

 

「・・・あった」

 

ヒットした全文英語で書かれた文章・・・翻訳をかけながら読み解いていくと
こんな事が書いてあった。

 

【折角入れたBCIをもっと自由に!
 それは無線接続を可能にする魔法の端末!】

 

機械的な翻訳と相まって怪しさ満点の文章を読み進めていくミカ。
やがて彼女はその文章に書かれているアイテム・・・BCI用の無線端末を購入するのだった。

 



 

「ふふ・・・売り上げも良い感じね」

 

1ヶ月後。
銀行の中でミカは振り込まれた給料を見てにやにやしていた。
以前よりも格段に上がった売り上げでミカの給料も大幅に上がったのだ。
電子端末が増え、本を読むと言うこと自体が高速化したこの時代は
出される本にも速度が必要となる。
それが補われた今、ミカの売り上げが伸びたのは当然とも言えるだろう。

 

『ぐぅぅ・・・』

 

と、そんなミカの腹の虫が急に鳴りだした。
時計を見ると昼飯には少々早いが、不自然な時間でもない。

 

「・・・折角お給料入ったし、今日は色々食べちゃおうかな?」

 

何を食べようかな〜等と呟きながら移動をするミカ。
だが、どんどんと空腹感は高まっていく。
自然とミカの足は速まっていき、頭はどんどんと食べる事だけを考えるようになる。
やがて彼女の視界に入ったのは一軒のチェーン牛丼店。
普段の彼女なら入ることの無い店に、ミカは飛び込むように入店した。

 

「牛丼、特盛り!」

 

席に着くなりそう注文するミカ。
席に料理が運ばれてくると、それを貪るようにかっこむミカ。
口の中が火傷しようと関係無く腹の中へと収めていく。
やがて全てを食べ終えたミカはようやく一息つくと、
自分の前に転がる丼を見て目をぱちくりとさせた。

 

「・・・」

 

普段彼女はあまり大量に食べる方では無い。
どちらかと言えば色々な種類を少量で楽しみたいタイプだ。
だから牛丼なんて滅多に食べないし、食べたとしても並盛りが精々だ。
だが目の前にある丼は特盛り用の物だし、伝票にも特盛りの文字が明記されている。

 

『ぐぅぅぅぅ・・・』

 

そんな彼女の耳に聞こえるのはまたしても空腹を告げる腹の虫だった。

 

「ど、どうなってるの・・・?」

 

ミカの疑問を余所に空腹感はどんどんと増していく。
ミカは慌てて支払いを済ませると、店の外へと飛び出した。
そのまま自分の家へと向かうミカ。
だが先ほどのように徐々に理性が消え、食べる事しか考えられなくなっていく。
やがてもう少しで自宅という時に見えたコンビニ。
ミカはそのまま店内に駆け込むと、持ち帰りも出来る折りたたみのカゴの中に
手当たり次第食べ物を突っ込んでいく。
そのまま乱雑にレジカウンターへとカゴを置くと、
クレジットカードを突きつけるようにカウンターに置く。

 

「早く・・・早く!!」

 

商品をカウンターに備え付けられた読み取り機が自動で素早く読み込んでいくが、
ミカにはそれすらも遅く感じる。
やがて全ての商品が読み込まれて金額が表示されるが、
ミカはそれも確かめずにカウンターにあったカードを機械に通す。
支払いが完了したことを告げる音が鳴るが、
ミカはそんな物はどうでも良いと言わんばかりにカゴをひっつかんで外へと飛び出した。
そのまま自宅に駆け込むと、靴を適当に脱ぎ散らかしてずんずんと奥へ進む。
部屋の中央まで進んだ彼女はカゴから適当に食べ物を取り出すと、それを口に突っ込む。
それを食べ終えると次の食べ物。
それが終わればまた次。
何かに取り憑かれたかのようにただ食べる事だけを繰り返し行う姿は、まるで機械のようであった。

 



 

それから、ミカは一歩も外へと出なくなった。
基本、家の中でただひたすらに食べ物を食べる。
偶に理性が戻った時に小説を書き、その売り上げでまた食べる。
支払いは全てカードで行い、ほぼ唯一の運動は排泄と届いた食べ物を受け取る時だけ。
当然彼女の体は醜く膨れあがっていた。
前に飛び出てて垂れ下がる腹。
腹の上にみっともなく乗っかる胸。
少し動くためだけの筋肉しか付いておらず、ほぼほぼ肉だけとなった足。
背中だけでも分厚い百科事典程の厚みの贅肉がつまめるだろう。
腕は最早食べ物を食べるため以外には使われなくなったからか足同様筋肉のハリは失われている。
首は脂肪の中に埋まり、頬肉はだらしなく垂れ下がっている。
かつては美人作家として売り出したはずの彼女の面影は、少しも無かった。

 

『・・・続いて、次のニュースです。
 とある男性が食欲の急な増加を訴え、医師が調べた結果
 遺法なBCI手術を行った事が発覚しました。
 専門家が言うには違法なBCI手術は価格を抑えるために
 ウイルスへの防壁を付けないことが多いらしく、
 なんらかコンピュータウイルスに感染した結果
 この様なことになった可能性が極めて高いとのことです。
 続きまして本日の天気を──』

 

情報端末が自動でニュースを読み上げるが、ミカの耳に届くことは無いのだった。

 

 

 

 

 

 

安藤ミカ
身長:160cm
体重: 55kg  → 121kg
  B:84cm → 117cm
  W:61cm → 109cm
  H:97cm → 133cm


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