底なしのその先へ
メシュ・ド・ワーレス 240歳(人間年齢16歳) 身長121cm 体重36kg
小柄なドワーフ族の中でも更に小柄な体格。王位継承をかけた伝統の大会に出るために・・・
「ふっふっふ・・・ついに完成したわ!!
我が秘密兵器がのぉ・・・!!」
地底深く。
小柄な少女──実年齢ではそこいらの人間では勝てない年齢だが──が
愛おしそうに目の前の物を見つめている。
一枚の真っ白な特大の皿・・・だが裏側を見れば複雑な模様が大量に彫り込んで有る。
「ルーン文字を独自に勉強し始めてはや20年・・・ようやくじゃ・・・ようやく完成じゃ!
これで今度の女王戦はイタダキじゃな!」
少女・・・メシュ・ド・ワーレスは皿を撫でながらそう呟く。
ここはとあるドワーフの集落の中。
そこの自室でメシュはぐっと握り拳を作りながら熱弁する。
「今まで小柄だのガリガリだのと言われてきたこの妾じゃが・・・
これでようやく周りを見返してやれるわ!!
そして・・・ここの代表となって念願の女王戦も優勝してやるわ!!」
女王戦──正確には王位獲得戦の事である。
種族的に小柄な彼等には2つ、ルールがある。
それは『王位を継承するのは最も大きな者でなければならない』というルールであった。
地底で生活する彼等の食糧事情は決して豊かでは無い。
結果、身体が大きいというのはそれだけでステータスとして見られるのだ。
それが縦でも横でもだ。
つまり男女問わず、逞しいデブ程モテるのである。
今では農耕や飼育の技術も向上・・・
さらに他の種族との貿易である程度の水準までは到達している。
本来なら食料の普及に合わせて美的感覚も代わってゆくのだが・・・
寿命が長いが故に彼等の価値観はそう簡単に変わらない。
そして昔よりも手に入りやすくなった食料・・・
よりノッポに、よりデブに。
大量に食事をしてより太るのが彼等の美形の条件なのである。
もう一つのルール、それは『王位を継ぐ者は10年事に変わり、その際異性が継ぐこと』である。
王の交代はつまるところ政治の交代・・・一度変化をいれると言うことだ。
それと同時に異性・・・つまり別の視点から物事を見るようにする。
そうすることで長く種族を繁栄させる狙いからである。
そして今年は王位獲得戦・・・それも女性が王位を狙える年なのだ。
「この皿さえあればこんな貧弱な体ともいよいよお別れじゃな・・・」
メシュは自身の体を触りながらそう呟く。
真っ平らな胸。
くびれすら有る腰。
細く折れそうな足。
地上の──人間などの女性からすれば背が低い事と胸を除けば
羨ましいと言いたくなるプロポーションである。
だが、ここは地底でドワーフの集落。
そんな価値観は無いのだ
「ふっふっふ・・・さてといよいよテストじゃな!」
そう言ってから彼女は近くにあった鉄板に近づき、下にある薪に火をくべる。
やがて鉄板から煙りが立ちこめ始めた頃、メシュは近くに吊してあった肉を無造作に鉄板に乗せた。
ジュゥゥゥウウと音を立てながら焼かれる肉。
軽く見積もっても2kgはありそうなそれを彼女は軽々とひっくり返す。
やがて焼き上がった特大のステーキを目の前にしながら、メシュはやや不安そうな顔をする。
「い・・・いざ!」
彼女は鉄板からステーキを皿に移し替える。
途端、皿の上のステーキが一瞬光りすぐに消える。
「・・・せ、成功かの?」
半信半疑のまま、メシュは皿を机に持っていく。
椅子に座ってから、メシュは恐る恐るナイフで切り分けてから一口口に放り込む。
「ん・・・!?味が普段よりもよい・・・と言う事は成功じゃな!!」
ガッツポーズをとるメシュ。
そのままがつがつと食べ進めていく。
半分を過ぎ、残りわずかとなってもメシュの速度は落ちない。
そして・・・
「・・・うーむ、物足りぬ!!」
ぽっこりと膨れた腹をなで回しつつ、メシュはそう言う。
本来なら彼女はこんな大食いをする様な・・・出来るようなタイプではない。
体型を見れば分かるが、彼女はドワーフの中でも特に小食なのだ。
2kg以上の特大の肉・・・普段のメシュなら1/3も食べられないだろう。
だが、それを可能にしたのがこの皿・・・正確には皿に掘られたルーン文字の効果だ。
この皿に盛られた料理は“品質”が大幅に上がる。
それは例えば味であったり、カロリーであったり、胃もたれの原因を取り除いたりである。
そして一番大事な効果・・・料理を食べた人物の満腹中枢を麻痺させる“副作用”である。
本来ならこれは不良品と言うべき効果だ。
だが、今の彼女にとってはなによりも欲しい効果なのだった。
「うむ、次に行くとしようかの!」
笑顔で立ち上がるメシュ。
だが・・・
「うっぷ・・・!?」
幾ら満腹中枢が麻痺したとはいえ、胃の内容量まで変わった訳では無い。
当然限界まで詰め込まれた胃はメシュの動作に合わせて揺れ、逆流を起こそうとする。
「・・・しばらくは・・・胃の拡張じゃな・・・うえっぷ・・・」
メシュはゆっくりと椅子に座り直すと、机に突っ伏しながらそう呟くのだった。
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そこから大会までの半年間、メシュはほぼ毎日
大量の食事を詰め込んでは寝るという生活を繰り返した。
最初こそすぐに胃の逆流を起こしかけていた彼女だが、
やがて慣れてくるにつれてどんどんその食事量は増えていった。
1ヶ月過ぎる頃には最初食べたステーキだけではなく、
さらにパンを1斤程度なら軽く食べられるまでになっていた。
そんな食生活に合わせるように体もどんどん横に広くなっていく。
平らだった胸は膨らみ、揺れるように。
くびれていた腰は贅肉に覆われ、前に横にと広がっていく。
枝のようだった足は木の幹の様になっていき、背中には脂肪による段が刻まれる。
3ヶ月過ぎる頃には集落内でも一目置かれるサイズとなり、
5ヶ月過ぎた頃には集落で1番のサイズへと成長していた。
そして・・・
「うーむ・・・ここまで育ては・・・けぷ・・・優勝も狙えるじゃろ」
半年過ぎた彼女の体はまるで小さな肉の山であった。
頭を軽く越す胸に膝近くまで垂れ下がる腹。
膝が肉で見えない足にアゴとの境目が消えた首。
背こそ低いが、その横幅には王にふさわしい貫禄があった。
「ふっふっふ・・・これなら・・・もぐもぐ・・・イケルぞ・・・んぐ・・・!」
口に食べ物を運びつつ、彼女はそう確信する。
「・・・さて、そろそろ出発じゃな。おーい!」
メシュがそう呼びかけると、集落のなかでも特にガタイの良い男ドワーフが数人駆け寄ってくる。
その後ろには車輪と持ち手のの付いた特大の椅子が一つ。
彼女は皿を大事そうに包むと、それを抱えてその椅子に乗り込む。
「そろそろ行くぜメシュ!?」
「うむ!頼むぞ!」
「あいよ!!しっかしお前がそんなに美人になるなんて予想もしてなかったぜ!!」
「全くだな!是非頑張って勝ってくれよ!?」
「おう!妾に任せよ!!」
男達はメシュを激励してから、椅子の持ち手を持って足並みを揃えて歩き始める。
重くなったメシュは自力で会場までの移動は出来ない。
だから彼等が会場まで運ぶのだ。
メシュは揺られる椅子に腰掛けながら、会場に想いを馳せて胸を躍らせるのだった。
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「・・・周りもでっかいのぉ・・・」
自身満々だったのも会場に着くまで。
周りの参加者を見てメシュは軽く落ち込んでいた。
でかいのだ。
縦も横も。
横幅なら確かにメシュが一番だろう。
だがドワーフの美的感覚は体の大きさ。
背が高い方が当然有利である。
「・・・ええい!負けるでないわ!!妾よりも太ってる奴はおらん!」
そう言って自分に気合いを入れるメシュ。
この女王戦のルールは単純である。
体のサイズを測ってその大きさを見せつけるだけだ。
そして全員の測定が終わった後、審査員によって投票が行われるのだ。
「次!エミル集落のメシュ・ド・ワーレス!」
「うむ!」
いよいよメシュの出番となり、壇上に上がる。
周りからは背はあれだが横幅は──などという言葉が聞こえる。
やがて周りから測定用のメジャーを持った数人のドワーフがやってきて測定を始める。
「上から・・・129!153!144!」
発表と同時に会場からどよめきが起きる。
メシュは一礼をしてから壇上を降り、ドワーフの神に祈るのだった。
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「今回の王は・・・カメーナ集落のコーハ・リ・カーツと決まった!!」
司会の宣言を受け、崩れ落ちるメシュ。
結果、メシュは惜しくも敗れた。
そのまま戴冠式へと移る会場を背にしながら、
メシュはここまで運んできてくれた男達の元へと戻っていく。
「メシュ・・・そ、そう気を落とすなって!俺はメシュが一番だと思ってるぜ!?」
「そ、そうだぜ!」
男達の励ましを聞きながらも、メシュは顔を上げない。
「・・・飲むぞ」
困り果てた男達を余所に、椅子に座ったメシュはそう呟く。
「今晩はとことん飲むぞ!!そして・・・20年、20年後にもう一度挑戦してやるわ!!」
目を赤く腫らし、それでも王座を見ながらそう啖呵を切るメシュ。
周りの男達も互いに見合わせてから、おうよ!と叫んでメシュの座る椅子を引いていく。
会場が見えなくなるまで、メシュの目線はいつまでも会場を見つめ続けるのだった。
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そして・・・20年。
「今回の王は・・・エミル集落のメシュ・ド・ワーレス!」
優勝したメシュ。
その横幅は今までのどんな王よりも大きかったという。
メシュ・ド・ワーレス
身長121cm
体重 36kg → 175kg → 356kg
B:75cm → 129cm → 178cm
W:53cm → 153cm → 217cm
H:69cm → 144cm → 209cm