残された物

残された物

 

 

「どっこいしょ・・・っと」

 

私はゆっくりとタンスの中の箱を床に置くと、ぐぐっと背を伸ばした。

 

「・・・おばさん、こんなに服持ってたんだね」

 

床一面に置かれた様々な衣装を見ながら、私はそう呟く。
おばさんが亡くなったのは2ヶ月前。
今日はその遺品整理の為におばさんの家に来ているのだけど・・・
流石にこんなに多いとは思わなかった。

 

「お洒落に気を遣う人だったからなぁ・・・そりゃこれだけあるか・・・」

 

私はおばさんとのことを思い出しつつ一人呟く。
おばさんとはそれなりに交流もあった。
いつも綺麗で若々しくて、身だしなみには人一倍気を遣う人だった。
でも・・・そんなおばさんが死んだ原因は肥満による呼吸困難での窒息だった。
フリーライターだったおばさんは記事を書くのに専念したいって言って一人暮らしだった。
だから一人じゃ助けを呼ぶことも出来なくて・・・
長い間顔を見せなかった事を不思議がった仲の良かった編集さんが
この家を訪れるまでずっと一人で・・・
お通夜で最後におばさんの顔を見た時・・・見たこともないぐらいぶよぶよな顔だったし、
棺も特大サイズだった。
周りの人はきっとストレスが溜まったんだろうとか、
綺麗になるのに疲れたんだろうとかそう言ってた。
でも私には、なんだか違う気がしてならない。

 

「・・・ちょっと休憩しようかな?」

 

考えることに疲れた私は床に座り、おばさんの服を眺める。
結婚はしてなかったし、特に趣味という趣味は無かったおばさん。

 

『う〜ん・・・服集めが趣味と言えるかもね。可愛い服着たいもの』

 

前に、そう話していたおばさんがあんな体型になるまで太るかな?

 

「・・・?」

 

もやもやを抱える私に、一着の服が目に入った。
可愛い花柄のワンピースで、お洒落ではあった。
・・・サイズが特大な事を覗けばだけど。
お相撲さんが二人は入りそうな・・・服と言うよりカーテンって感じの服。
あまりにも大きすぎて最初は服だって分からなかった奴だ。

 

「・・・おばさん、コレ着てたのかな?」

 

大きさから言っておばさんが最後の方に着てた服はコレだと思う。

 

「・・・」

 

そう思うと、私は何となくそれを着てみたくなった。
おばさんがこの服を着て、一体どんな事を考えていたのかが知りたくなったから・・・
服を拾い上げて、上から被る様に着る。
当然服はぶかぶかで、まるで子供が悪戯で大人の服を着るみたいになってる。

 

「・・・おばさん、なんでこんなに太っちゃったの?」

 

あんなにいつも努力して綺麗だったおばさんが・・・
そう思うと何だか心が苦しくなった気がする。
しばらくそのままで居た後、私は服を脱ごうと袖に手をかけた。

 

「・・・あれ?」

 

だけど・・・ぶかぶかなはずの服は、まるで体にひっついたように離れない。
いくら引っ張っても不思議な力で押さえつけられてるみたいに・・・

 

「な、なんで!?」

 

困惑する私に、さらに不思議なことが起きる。

 

【ぶくっ・・・】

 

「うぇ!?」

 

体が膨らむ様な感覚が起きて、私はバランスを崩す。
はがれない服の上から体を触ると、そこにはさっきまでは無かったはずのお肉が付いていた。

 

「や、やだ!!」

 

慌てて脱げない服を脱ごうとするけど、やっぱり駄目だった。

 

「あ、はさみ!!」

 

台所に大きめのはさみがあった事を思い出した私は、無理矢理に体を動かして走った。
その度にブルンブルンと体が揺れ、太ももが揺れる衝撃が来る。
どうやらお肉が付く速度はドンドン上がっているみたいで、体がどんどん重くなる。
何度もバランスを崩して転びそうになりながらも、私は台所のはさみを見つけた。
慌てて服を切ろうとする・・・けど。

 

「嘘!?」

 

はさみは服を切ってはくれなかった。
まるで軟らかい鉄でも切ろうとしているかのようで、全くはさみが入らない。
そうこうしているうちに私の体はドンドン膨れあがっていく。
前に垂れ下がり始めたスイカみたいなおっぱい。
バランスボールみたいになったお腹。
見えないけど多分スゴイ横幅になっているはずのお尻。
足は丸太みたいに太くなって、腕は肘が見えなくなってきてる。
あれだけだぶだぶだった服はちょっとゆったりとした服ぐらいまで余裕が無くなってきてる。

 

「やだ・・・やだよ・・・!!」

 

泣きそうになる私に、ふと変な考えがよぎる。
もしかしておばさんもこの服を着て太ったんじゃ?
そう考えるとつじつまが合う。
あれだけ痩せていたはずのおばさんが、なんで急に太ったのか。
それはこの服のせいで・・・とすると・・・

 

「私も・・・死んじゃう?」

 

ぞっと、背筋に寒い物が走った。
慌てて私は電話を探して、お父さんに連絡をした。
だけど・・・

 

『変な冗談はやめろ・・・おばさんが死んで悲しいのは分かるが馬鹿みたいな妄想はやめるんだ。
 第一おばさんに失礼だろ?お父さん忙しいから切るぞ』

 

そう言って切られてしまった。
もう一度電話をかけようとしたけど、今度は指が太すぎてボタンが押せなくなっていた。
まるでこの服が怒って、私をより太らせようとしてるみたいに・・・
私の体はドンドンドンドン太っていく。
片方でさっきまでの私一人分はありそうなおっぱいに、それを二つ合わせたよりも大きなお腹。
開かないと干渉してぶつかっちゃう太もも。
二の腕にはお肉が付きすぎて、もう真っ直ぐ下げることも出来ない。
そして、重くなりすぎた身体を支えきれずに私は尻餅を付いた。
ズドンと重い音が響いて、家が少し揺れた。

 

「・・・もう・・・いや・・・!!」

 

それもで膨らむのを止めない体。
私はもう腕を伸ばしても取ることが出来ない電話を見つめつつ、一人泣くしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SCP-■■■■-JP   合わせる服

 

アイテム番号:SCP-■■■■-JP

 

オブジェクトクラス:Safe

 

特別収容プロトコル:SCP-■■■■-JPは鍵のかかったロッカーに収容します。
実験を行う際にはクラスレベル3以上の職員の許可が必要となります。

 

説明:SCP-■■■■-JPは198■年に日本にて発見された特殊な洋服です。
SCP-■■■■-JPは女性用の特大サイズの花柄のワンピースで、普段は非活性状態です。
この状態でも外部からのあらゆる攻撃を受けても傷一つ付かない状態です。
この服を人間の女性が着用すると、SCP-■■■■-JPは活性状態となります。
活性化したSCP-■■■■-JPは、SCP-■■■■-JPを着用している対象を
SCP-■■■■-JPのサイズに合わせた体へと作り替えます。
この際、対象は痛みを感じません。
作り替えられた対象は体脂肪率が急激に上昇し、
多くの場合は呼吸器官が圧迫されて呼吸困難となります。
また、筋肉量が足りずに自身の体を支えきれずに動けなくなることも多くあります。
その後、適切な処置が施されない場合に対象は呼吸困難で死亡することとなります。
また変化の最中はSCP-■■■■-JPを脱ぐことは不可能となります。
対象の体型がSCP-■■■■-JPにぴったりとなった場合、
対象は服を脱ぐことが出来るようになります。

 

SCP-■■■■-JPは■県■町で起きた奇妙な死亡事故の情報が
財団の目を惹いたために発見されました。
その事故は30代の女性水■■子さんと、その姪に当たる山■良■さんが
同じ家で太りすぎによる窒息死を引き起こしたと言う物です。
調査の結果、元々二人とも標準体型よりもやせ形である事が確認されました。
ですが死体発見時、二人とも200kgを越える超肥満状態でした。
その後遺族達にAクラスの記憶処理を行い、遺体は財団で確保し、
遺品の中にあったSCP-■■■■-JPを発見しました。
この服の制作者及び販売者は未だ不明です。

 

 

 

実験記録001-日付198■/■■/■■
実験対象:D-1998753
手順:女性であるD-1998753にSCP-■■■■-JPを着させる。
結果:着用から5分後、体型の変化が起きる。
慌ててD-1998753が服を脱ごうとするも脱げないまま時間だけが過ぎる。
およそ20分をかけて体の変化が完了する。
体重は163kgの増加をし、SCP-■■■■-JPがようやく脱げるようになる。
D-1998753はその後死亡した。
「美人だったのに残念だ」           ──吉田博士

 

 

実験記録001-日付198■/■■/■■
実験対象:D-265425
手順:男性であるD-265425にSCP-■■■■-JPを着させる。
結果:変化無し。服は簡単に脱げた。
「男性には効果が無いようだ」        ──吉田博士

 

 

実験記録001-日付198■/■■/■■
実験対象:シベリアンハスキー(雌)
手順:シベリアンハスキーに男性職員が頭からSCP-■■■■-JPをかぶせる。
結果:変化無し。服は簡単に脱げた。
「犬には効果が無いらしい」         ──吉田博士

 

 

実験記録001-日付198■/■■/■■
実験対象:チンパンジー(雌)
手順:服を着ることを学習しているチンパンジーにSCP-■■■■-JPを着させる。
結果:変化無し。服は簡単に脱げた。
「人間以外には効果が無いらしいな・・・」  ──吉田博士


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