真のアイドル
「プロデューサー!僕もアイドルがしたいです!!」
俺はカップ麺を啜る手を止め、声の方を向いた。
目の前にいるのは菊地真。俺の担当するアイドルの一人だ。
ハツラツとしたキャラクターが売りで、男性よりは女性人気が高いタイプだ。
「アイドルなら今やってるじゃないか」
そう返す俺に真は詰め寄り、すごい顔でまくし立てた。
「そうじゃないですよ!!僕だってもっとキラキラしたかわいい衣装を着たいんです!!
なんで僕はそういう路線じゃないんですか!!
そりゃあ僕だって自分がそういうタイプじゃないことぐらいわかってますけど・・・
でもそれでも着たいんですよ!!」
「いや・・・かわいい系は春香や雪歩なんかがいるからな・・・
真のキャラクターは売りでもあるんだぞ?」
なだめる俺に対して真は納得いかないのか睨んでくる。
「そりゃそうですけど・・・これじゃあ何のためにアイドルやってるんだかわからないですよ」
「そうは言うけどな・・・最近は男性からのファンレターもかなりの数届いてるんだぞ?」
「その分女性からもいっぱい届いてるじゃないですか!!」
いくら説明しても真は落ち着いてくれなかった。
どうやら今まで溜まりに溜まった物が吹き出たらしい。
「ふむ・・・菊地君、君は別の道を進みたいのかね?」
「社長!?」
そんな俺たちを見かねたのか、社長が声をかけてきた。
思わずがたっと立ち上がる。
「実は・・・今の菊地君にうってつけの話がある」
「本当ですか!?」
「ああ・・・私の昔からの知り合いが居てね。
その人が色んなプロダクションからアイドルを募って新しいグループを作ろうとしているんだ」
「ですが・・・結局真はボーイッシュキャラで売られる事になるのでは?」
「ああ、そこに関しては大丈夫だ。いわゆるかわいい系として売り出すことは確定している」
「・・・それは移籍という事ですか?」
「いや、あくまでも合同グループといった形だよ」
「・・・真はうちの看板ですよ?」
「それはそうだ。だがね、私はアイドルのみんながやりたいことをやらせてあげたいのだよ」
「・・・」
俺はちらりと真を見た。
「プロデューサー、僕やりたいです」
はっきりとした声で言われた。
その目には曲がらない意思すら感じる。
「・・・期間は?」
「まず色々な準備で3ヶ月。その後は徐々に売り出していって、最終的には丸一年かかる予定だよ」
「・・・判りました。真が行きたいなら行かせてあげてください」
「プロデューサー・・・」
「そうか・・・では私の方で連絡しておくよ」
「「お願いします!!」」
俺は真と一緒に頭を下げる。
これで少しでも真のやる気に繋がってくれれば。
そう思えば決して悪い話じゃないだろう。
俺は真の肩をぽんぽんと叩くと、自分の席に腰掛けた。
「・・・ところで俺のカップ麺はどこだ?」
「あ、さっき高音が・・・」
「大変美味でした」
「ああ!俺のラーメン!!」
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真が向こうにいってから一ヶ月が過ぎた。
「プロデューサーさん、これ届いてましたよ」
ある日、出社した俺に音無さんがハイと手紙を渡してくる。
どうやら真からの連絡らしい。
レッスンに専念するためになるべく外部との連絡を絶つというのが条件らしく、
唯一の方法がこの手紙というわけだ。
「ありがとうございます。どれどれ・・・」
封を切り、中の手紙を取り出す。
『プロデューサーへ!
お久しぶりです!僕は元気でやってます!
最近はこっちでの活動にもだいぶ慣れました。
ただ、僕の体はどうも筋肉質すぎるみたいで、
女の子らしさを出す為に最近は食べてばっかりです。
あ、勿論ダンスレッスンは続けてますよ?
でもここ最近太ったなって感じちゃいます。
まぁ変わりに胸も少しサイズアップしたみたいで、今度会うときを楽しみにしておいてください!
それじゃあまた今度会いましょう!』
「順調そうだな」
「そうなんですか?」
「ええ。あ、お茶ありがとうございます」
音無さんからお茶を受け取りながら答える。
「いえいえ。それよりも真ちゃん、ホントに向こうに行かせてよかったんですか?」
「はい。確かに真の穴は大きいですが、うちはその程度で潰れるほどヤワじゃないですよ」
俺の返事に納得したのか、音無さんはふふっと笑うと自分のデスクに戻っていった。
俺も次に会うとき、真がどんなステップアップしてるか楽しみだった・・・
そう、この時までは・・・
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次の月にまた真から手紙が来た。
一月に一回しか連絡が来ないのはやっぱり少し不安になる。
俺ははやる気持ちを抑えて手紙を読む。
『プロデューサーへ。
大変なことになりました!
すべすべになったんですよ!肌が!!
結構高いお薬を使ってくれてるようで、今までとは全然違うんです!
手なんかつやつやで、ちょっと前とはまるで違うんですよ!
クリスマスの頃にはある程度の結果が出せるそうですから楽しみにしててください!
すぐですよすぐ!
律子さん達竜宮小町に負けないようにがんばりますよ!
もうデビューが待ち遠しいです!
来週から新しいレッスンが始まるそうです。
レッスンは今のところ厳しくないですけど、これからどうなるかわくわくしてます。
楽しみにしててくださいね!』
「前回よりもずいぶん長いな・・・というか日本語おかしくないか?」
なんだか文のつながりがおかしい気がする。
「真も疲れてるのか・・・?」
厳しくないとは書いてあるが、見栄を張ってるかもしれないしな・・・
俺は特に気にしないでその手紙をデスクにしまった。
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真が向こうに行ってから三ヶ月が経った。
予定ではそろそろレッスンが終わり、いよいよ売り出す手はずのはずだ。
その前に・・・
「真からの連絡を読まないとな」
俺は届いていた手紙を開ける。
『プロデューサーへ。
早いものでもう三ヶ月経ちましたね。
やっとデビューとなります!!
苦しい事も少しはありましたが、ようやくのお披露目で胸が高鳴ってます!
ただ・・・ちょっと女の子らしくなるのを頑張りすぎたのか、体重がちょっとやばいかも・・・
すぐに落とせるんですが、トレーナーさん達がやらせてくれないんです。
けど、僕は765プロのアイドルですからね。そっちに帰ったら
徹底的にやりますよ!!』
・・・なんだ、この違和感。
色んな意味で”真らしくない”。
文章も、なんだか変なところで区切ってあるし・・・
「・・・ん?」
これは・・・もしかして・・・
俺は以前の手紙を取り出して改めて読み、確信した。
「律子!音無さん!社長今どこに居る!?」
俺は声を張り上げて近くの二人に聞く。
早くしないと取り返しの付かないことになるのかもしれないぞ・・・!!
「しゃ、社長ですか?今なら多分社長室にいらっしゃるかと・・・」
「そうか!ありがとう音無さん!」
お礼もそこそこに俺は社長室へと駆け込んでいった。
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俺は社用車を飛ばし、真が行っている合宿所に向かった。
社長に手紙の事を説明して真の場所を聞き出した俺は、
今日の仕事を全てキャンセルして事務所を飛び出したのだ。
「真・・・待ってろよ・・・!」
思えば最初からおかしかった。
明らかに儲けにならない企画。
露骨におかしい連絡手段の規制。
「早く気付いていれば・・・!!」
警察に連絡はした。
が、どこまで動いてくれるか・・・
「・・・お前だけが頼りだぞ」
俺は助手席に置いた物にそう語りかけた。
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目的の場所に着いた俺は車から降り、例の物を装備する。
そしてそのまま施設の扉へと歩いて行く。
「・・・」
一瞬の躊躇いの後、俺は扉に手をかけてゆっくりと開いた。
中には明らかにレッスン場に似つかわしくない機械が所狭しと置かれている。
中には幸いにも誰も居ない。
俺はそっと中に入ると、真を探し回った。
中は酸っぱい匂いで充満していて気分が悪くなる。
だが、ここで負けるわけには行かない。
何部屋も何部屋も回る内に、ようやく真を発見した。
そう・・・変わり果てた真を。
「真!!」
「ぷ、ぷろでゅーさー・・・遅いですよ・・・」
真がそう呟くような声で俺に言う。
その拍子に頬にたっぷりとついた贅肉がぷるぷると揺れる。
俺が発見した真は・・・肉の塊になっていた。
全身の至る所に肉という肉が付き、呼吸に合わせて全身が揺れ動いている。
手足は縛られ、空中にはチューブが吊されている。
恐らくアレが食事を運ぶのだろう。
俺は真に駆け寄ると、手足を縛っている縄を外しにかかった。
「待たせて済まなかったな・・・」
「いえ・・・やっぱりプロデューサーは格好いいなぁ・・・いよいよって時に来ちゃうんだから」
真の話だと、どうやらこの後トラックで裏ビデオの撮影場所まで運ばれる予定だったらしい。
今丁度トラックを回す為に人が出払った所だったという。
俺は縄を外しながら改めて真の体を見る。
ボーイッシュだった体つきはだらしのない脂肪だらけになっている。
俺よりも身長が低いのに、横幅は俺の三倍ぐらい有りそうだ・・・
小さかった胸はあずささんや貴音よりも3周りは大きい。
だが、その分腹も大きくなっており、まるで5つ子を妊娠した臨月の妊婦のようだ。
その大きさのせいか、股間を覆い隠す程になってる。
お尻は余りにも大きくなりすぎたせいか、重力に負けて垂れ下がっている。
太ももは俺の腰程有りそうで、腕は以前の真の腰回りより太い。
首は脂肪に埋もれ、二重顎がくっきりと浮き出た顎と一体化してる。
「よし・・・!外れたぞ!!」
縄を外すと、真はその場にドスンと尻餅をついた。
荒い息を吐く真を立たせると、俺は真の手を引いて走り始めた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・!」
たった10m程の距離を距離を走っただけで息切れが激しくなる真。
これがあの大立ち回りをした真かと思うと悲しい・・・
いや、真だからこれだけ太っても動けるのか。
「他には誰も居ないんだな?」
「は、はい・・・!僕以外に捕まった人は居ないです・・・」
その言葉を聞いて安心する。
もしも他に捕まっている人が居たら多分脱出は出来ないだろう。
俺達は何とか来るままで走ると、急いで乗り込んで発進した。
その途端、入れ違いになるかのようにトラックが敷地に入ってきた。
「うぉぉぉおおおおお!!!」
無理矢理トラックを躱して振り返ると、運転手の他に何人かの人間がこっちを見ている。
俺はそれ以上振り返らずに、事務所まで車を飛ばした。
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あの脱出劇から2週間。
俺は新聞で真を太らせたグループが逮捕された事を知った。
あの後、事務所に着いた俺は警察に改めて連絡。
装備していたビデオカメラで録画した向こうの様子を提出、真の証言も一緒に出した。
御陰でなんとか捕まったらしい。水瀬のバックアップもあったらしいが・・・
社長の知り合いがどうやらそいつらの元締めだったらしく、
その立場を利用してニッチなジャンル向けの裏ビデオを撮るつもりだったようだ。
社長は俺と真に申し訳ないと謝ってくれたが、一番辛いのは社長だろう・・・
そして真は・・・
「おっはようございます、プロデューサー!どうかしました?」
「ん・・・ああ、おはよう真。見ろよこの記事」
「どれどれ・・・あ!捕まったんですね!!」
やったと喜ぶ真。
その拍子に全身の脂肪が揺れる。
真は未だに太ったままだ。
脂肪吸引という手もあったのだが、真自身が辞退した。
親から貰った体は大切にしたいそうだ。
今はトレーナーさんの元で少しずつダイエットをしている。
「でも・・・ホントあの時のプロデューサーは格好良かったですよ!」
「はは・・・遅くなって済まなかったな」
「いえ!良く気付いてくれましたよ・・・ホントありがとうございます!!」
そう言って俺に抱きつく真。
まるで全身を肉に包まれるかのような感覚が俺を襲う。
「こ、こら!そういうことをするんじゃない!!」
慌てて俺は真を引き離す。
ちぇーとぼやく真を見て、俺は深いため息をついた。
・・・このままだと変な趣味に目覚めそうだ。
真には早く痩せて貰わないとな。
「頑張ろうな真」
「???
勿論ですよ!」
笑顔で元気よく返事する真を見てから、俺はホワイトボードで予定を確認した。
さぁ、今日も頑張って仕事しますか。
菊地真
身長:159cm
体重:44kg → 210kg
B:75cm → 134cm
W:57cm → 168cm
H:78cm → 161cm