連コインは計画的に

終わりがあれば

 

 

上原 あかり(かみはら あかり) 27歳 身長155cm 体重49kg
彼氏とのデートを楽しみにしている女性。
ところが交通事故にあってしまい・・・

 

 

 

 

『大丈夫か!?』
『かなり酷いぞ!!』
『脈拍測って!』

 

周りががやがやとうるさい。
地面がなんだか固くて冷たい・・・
っていうか、なんで私地面に触ってるの?

 

『違う、違うんだ!!轢くつもりはなかったんだよ!!』

 

近くで男の人が騒いでる。
・・・ああ、そっか。
私、轢かれたんだっけ。
じゃあ、私死ぬんだ。
・・・イヤだな、死ぬの。
折角のデートの日なのに・・・
リョウ君、心配するよね。
行かなきゃ・・・駄目だよね。
でも・・・体が全然動かない。
やだ・・・
やだ!!
行かなきゃ駄目なの!!
行かなきゃ・・・!

 

「それ以上やるとオネーサン幽霊になるぜ?」

 

ふと、そんな声が聞こえた。
あんなに騒がしかった周りの音は嫌なぐらい静かで、その声しか聞こえない。
そして、目の前にいつの間にか何かが居た。
ローブを被って、真っ黒な顔で目だけが輝いてる。
そんな何か。

 

「オネーサン、そのままじゃ体から魂抜けちまって幽霊になっちまうぜ?」

 

わざわざ私と目を合わせるように地面に横になったそいつがそう語り掛けてくる。

 

「幽霊になったらお前さん、愛しの彼と会えなくなるぜ?イヤだろ?」

 

それはいやだ。

 

「だったら話は早い。オイラに任せなって!悪いようにはしないからサ」

 

どうするの?

 

「巻き戻してやるよ、朝まで。後はお前さん次第だけどな」

 

リョウ君に会える?

 

「会えるとも!お前さんが頑張ればな」

 

なら、お願い!!

 

「あいよ、1名様ご案内だ!」

 

そう言った瞬間、目の前が真っ白になった。

 



 

「・・・っは!」

 

がばりと、飛び起きる。
目の前にはいつもの私の部屋。
時計を見れば朝の7時。

 

「・・・嫌な夢」

 

ぐっしょりと汗で塗れた額を拭う。
デートの日に見たくない夢ナンバーワンな夢だった。

 

「夢じゃねーぞ?」

 

びくっと体が固まる。
声のする方を見ると、夢に出てきたアイツがそこに立っていた。
子供ぐらいの背丈で赤茶色のローブぜ全身をすっぽりと覆って、目だけが光ってる。
昔ゲームで似た様なキャラを見たような・・・確かファイナル──

 

「四角い所に喧嘩売るのはやめよーぜ?な?後生だから」

 

そいつは必死な感じで私にそうお願いしてくる。
と言うかコイツ・・・もしかして。

 

「おう、オネーサンの考えてることはお見通しよ」

 

・・・最悪だ。

 

「・・・で、貴方誰よ」
「おー!よくぞ聞いてくれました!!オイラはサングっていうモンさ!
 オネーサンを手助けに来た訳よ!」

 

胡散臭い。

 

「おいおい、あの"事故"を覚えてねぇとはいわせねーぜ?」

 

事故・・・

 

「え、マジで覚えてないの?オイラどん引き」
「覚えてるわよ・・・死にかけたんだもの」

 

夢で見たアレは・・・どうやら夢じゃないらしい。
体が千切れ飛ぶような痛み。
堅い地面。
寒くて動けなくて悔しいあの思い。
アレが多分・・・"死"なんだと思う。

 

「あー良かった・・・オネーサンが覚えてなかったらどうしようかと思った」
「・・・ねぇ、アレやっぱり夢じゃないのよね?」
「モチのロンで大三元。アレは実際に起きた・・・いや、“起きる”出来事だぜ」
「起きる・・・?」
「時間見てたろ?
 今は朝の7時ちょい。オネーサンが轢かれたのはデート待ち合わせちょい前の10時半。
 今から大体3時間後に起きるってわけだな」

 

ゾッとした。
あの体験が本当のことで、この後起きる事だって言うのが怖かった。

 

「まぁオイラが付いてるからには安心しなって!!」
「・・・そこが安心出来ないんだけど」
「あ、ひっで!!誰がこの時間まで戻したと思ってるんだよ!!」

 

怒る様子を見ながら、私は余計に不安になる。

 

「まったく・・・オネーサンはこのままで行くと今日絶対に死ぬ。
 オイラはそれを時間をここに巻き戻すことで回避させてやろうっていう
 心優し〜いお助けキャラなの!!」
「・・・ちょっと待ってよ、絶対死ぬって何!?」
「そのまんま、今日オネーサンは絶対に死ぬ様になってるんだ。
 さっきみたいに車に轢かれるだけじゃなくてね」
「なんで!?」
「オイラもそこまでは知らない。けどそれは決まってることなわけよ」

 

理不尽過ぎる・・・

 

「ちょっと待って、じゃあ私の時間巻き戻しても意味が無いんじゃ・・・」
「これがそうでも無いんだなぁ〜!
 このままで行くと確かにオネーサンは死ぬんだけど、オネーサンは行動を変えることが出来る。
 未来を知っているから当たり前だけどさ。そうすれば未来が変わって生き残る未来を手にできる。
 だからトライアンドエラーの精神でじゃんじゃん行動すれば・・・」
「いつかは・・・って事ね」
「その通り。まぁただ無償って訳にはいかないんだけど」
「はぁ!?」
「当たり前じゃん!!ただで生き返れる訳無いじゃんか」
「じゃあなに・・・お金とか払うの!?」
「そうじゃあないんだな〜これが。オネーサンに支払って貰うのは・・・」
「貰うのは・・・」
「カ・ラ・ダ!」
「死ね」

 

思わず暴言が口から出た。

 

「僕は死にましぇん!貴方が好きだから!!」
「古いし似てない。5点」
「うわ、傷つくわぁ・・・炭酸飲料飲みたくなるなぁ・・・」
「もう・・・で、体ってどういう事よ!」
「別にエイチ〜な意味じゃないよ。いやある意味そうかもしれないけど・・・」
「はぁ?」
「オネーサン今体重何キロ?」
「うわ、最低ね」
「いいから、重要な事なの!!」
「・・・46キロ」
「3キロぐらい鯖読まんでも」
「うっさい!!つーか知ってるなら聞くな!!」
「オネーサンの口から聞かないと駄目なの・・・まぁいいや49キロね。
 えー・・・だから・・・」

 

私の体重を聞いたサングはなにやら紙のような物を取りだして色々書き始める。

 

「うんで・・・こうなって・・・よし、計算終わり。
 オネーサンが時間を巻き戻す度に3kg太って貰う事になりました」
「・・・は?」

 

なんでそうなるの?

 

「オネーサン魂の重さって知ってるか?」
「なにそれ?」
「魂にも重さがあるんだ。人によって違うんだけどねぇー
 それを数時間とはいえ巻き戻すんだぜ?
 肉体的には戻せないからしょうがないとしても魂を戻さなきゃ始まらないし。
 んで、そうなると戻した分だけ魂の寿命を増やさなきゃ行けない。
 増やすって事は同事に肉体にも影響が出るわけ。
 うんで、その分の重さが3キロってわけだ。まぁペナルティ兼ねてるからちょっと重めだけど」
「・・・ああそう」

 

本当か嘘かも分からないから判断に困るわ・・・

 

「まぁ3キロで死なないで済むんだから得だよ!!出血大サービス!
 まぁ出血するのはオネーサンだけど」
「黙らっしゃい!!それもしかして一回一回増えてくの?」
「いや、最後にドーンと増えるぜ?後払い方式。だから死にすぎると後で大変だぜ?
 焼き鳥屋で1本100円と思って頼みまくると最後に数千円の支払いが来て涙目になるみたいに」
「オッサン臭い喩えね・・・」
「まぁ何にせよ頑張って。応援してるぜ?」
「言われなくてもやるわよ・・・!!」

 

リョウ君に会いたいし、死にたくないし・・・
絶対、諦めないわ!!

 



 

「心が折れそう・・・」
「だろうね。オイラだったら絶対やらないわ、うん」

 

アレから何回やり直しただろうか。
通り魔に刺されたこともあった。
鉄骨が落下してきたこともあった。
電線が切れて感電したこともあった。
地震で地割れに飲み込まれたこともあった。
ヘリコプターが落下してきて巻き込まれたこともあった。
ヤの字の人達の抗争に巻き込まれて撃たれたこともあった。
どのルートを通っても、どの時間にズラしても。
デートの待ち合わせ場所にすら行けなかった。

 

「・・・今何回目?」
「言ったら絶対絶望するから言わない」
「・・・そう」

 

ベッドの上に寝そべり、天井を見上げる。
何をやっても死んでしまう。
何をやってもリョウ君に会えない。

 

「・・・」
「やめるか?」

 

サングがそう尋ねてくる。
いつものおちゃらけた口調じゃなく、心配してる声。

 

「・・・やる」
「・・・ん」

 

それだけ言ってから、少しの間お互い黙る。

 

「何がいけないんだろうなぁ・・・」

 

そう言ってサングは宙に浮いたまま考えだす。
くるりと、まるで砂時計をひっくり返すみたいに時々上下を逆転させながらウンウン唸ってる。

 

「・・・逆転」

 

私は携帯電話を取りだし、メールを打つ。

 

「送信っと・・・」
「なにしたんだ?」

 

覗き込んでくるサングに、私は携帯電話を見せながらこう言った。

 

「最後の賭け・・・かな?」

 



 

【カチ・・・カチ・・・カチ・・・】

 

私は部屋に響く音を聞きながら壁に掛けた時計を見る。
時間は午前11時。
もうそろそろ・・・

 

【ピンポーン】

 

「来た・・・!?」

 

急いでドアまで走り、扉を開ける。

 

「や、こんにちは」

 

扉の外には、リョウ君が笑顔で立っていた。
会いたかった、リョウ君が・・・

 

「ビックリしたよ、急に家でデートしようって連絡来て・・・どうかした?」
「・・・リョウ君!会いたかったぁぁぁあああああああ!」
「うわわ!!」

 

思わず抱きついた。
ようやく会えた・・・ようやく会えた!
会いたかった。
ずっとずっと会いたかった!

 

「ちょ、ちょっとあかりオネーサン!?」
「会いたかったよぉぉぉおおお!!」

 

泣きじゃくる私に、リョウ君はただただ混乱するだけだった。

 



 

「はー・・・まさか家から出ないが正解なんて分かるわけねーな」
「ホントよ・・・」
「つーかカレシ若くね?あれ幾つよ」
「・・・17」
「これ通報案件じゃね?」
「シャラップ!どんな人が彼氏でもいいでしょ!!」
「はいはい・・・まぁコッチとしても助かったわ」
「・・・そういえばなんでアンタ私に協力なんてしたの?」

 

ふと浮かんだ疑問をサングにする。

 

「んー・・・まぁお仕事だしな」
「は?仕事?」
「そ、仕事。あの世で死者の管理をしているんだよ。
 オイラこう見えてもそこそこ偉いんだぜ?
 んで、明らかに寿命じゃない奴が急に死んだんで急いできてみたら
 強い力で縛られててよぉー・・・ホント参っちゃうぜ。
 明らかに人為的なのに誰がやったかの痕跡が全然見えねぇしよぉ・・・」

 

・・・ん?

 

「アンタ最初私がなんで死ぬか分からないって言ってなかった?」
「正確に言えば『人為的な力で死ぬ未来が確定してるけど、誰がどうやったかが分からない』
 ってこったな」
「・・・もしかして、アンタ私をおとりに使った?」
「ばれた?」
「ふざけんな!!」

 

だから助かったとか言ってたわけか・・・

 

「まぁまぁ、オネーサンは死ななくて済むしこっちは犯人捜しが出来る。
 WIN-WINの関係って奴じゃん?」
「主に私が被害喰らいまくってるんだけど・・・」
「その辺はまぁ・・・実際コッチもこれ以上の手助け出来ないんだぜ?」
「はぁ・・・で、犯人は見つかったの?」
「おうよ、バッチグーって感じだぜ!」
「それはよかったわね・・・じゃあお疲れ様」
「あ、お疲れ様ー・・・ってそうはいかないぜ?支払いして貰わないとな」

 

チッ・・・覚えてたか・・・

 

「・・・何回死んだの?」
「割とショックだけど・・・聞く?」
「心構え出来ない方がきついわ・・・教えて」

 

サングは少し迷った後、書類のような物を取りだした。

 

「・・・140回」
「ひゃくよ・・・!?」

 

えっとちょっと待って・・・1回死ぬ毎に3キロ増えて・・・それが140回で・・・今の私が49キロで・・・
えっちょっと?

 

「・・・合計420kg増えるな。今の体重に加算して479キロだ」

 

つまり500キロ近くになるわけ?
それじゃ・・・

 

「まぁ大丈夫だって。それじゃあハイドーン!」
「あ、馬鹿!?まだ心の準備が──うぐっ!?」

 

サングの奴がそう叫ぶと、急に体の自由が利かなくなった。
それとほぼ同時に体のあちこちが重くなっていく。
腕・足・お腹・胸・背中・・・
ドンドンと内側からぐぐっと広がって、重くなる。
膨張に耐えられなくなった服が破け、それでも体は広がっていく。
胸が飛び出し、腹がそれを支え、足が肉で押し広げられ、背中に段が作られていく。
頬肉が溜まって呼吸がドンドンし辛くなり、腕が重みで上げられなくなる。
ついには立っていられなくなり、私はドスンと大きな音を立ててその場に座り込んでしまった。
体の膨張はそれでも続き、やがて自力で動くことが出来なくなってしまった。
やっと膨張が止まった時、視界の見える部分は肌色だらけだった。

 

「支払いはこれで完了っと・・・んじゃ、オイラはこれから事後処理があるから!」
「ぜぇ・・・ふぅ・・・ふざけるんじゃ・・・はぁはぁ・・・ないわよ・・・!!」
「大丈夫!その内愛しの彼氏君が来るから!!」
「はぁっ!?こんな姿・・・ぜぇぜぇ・・・見せられる訳無いでしょ・・・!!」
「行けるって、オイラを信頼しなって!!じゃあアバヨ!いい夢みろよ!!」
「だから・・・はぁ・・・ネタが・・・ふひぃー・・・古いっての!!」

 

サングは本当にそれだけ言うと私の目の前からスッと消えてしまうのだった・・・

 



 

あの後、サングの言う通り忘れ物を取りに来たリョウ君がやってきた。
けど私はこの状態で、当然インターホンに出られる訳も無い。
部屋の電気は付いているのにインターホンに出ない私を不審がったんだろう・・・
緊急時用に渡していた合い鍵を使って入ってきたリョウ君はばっちりと私の今の状態をみてしまったわけで・・・
その時は『絶対嫌われた・・・こりゃもう死ぬしかないかなー』と一人思っていたんだけど・・・

 

「はい、あーん」
「あーん・・・」

 

何がどうなったのか、リョウ君は私の事を嫌いにならなかった。
それどころか動けない私の世話を毎日してくれる。
勿論リョウ君は学校あるから昼間は来られないけど、学校が終わればすぐに来てくれるし・・・
何か私がしたいことがあればすぐにやってくれる。
サングの奴も『仕事の報酬』とか言ってかなりのお金・・・それこそ一生を普通に暮らす分には十分な金額を送ってきたし・・・
正直何もしなくて良い状態になってしまった。
というかそれの報酬分のお金要らないから太らせるのやめろって言いたい。
結局今私はリョウ君に毎日世話をされながら生活している。

 

「何かあれば僕に言ってね?」
「分かってるって・・・ごめんね、こんなのの世話させちゃって・・・」
「いいの!僕はあかりオネーサンが大好きだもん!この位なんでも無いから!!」
「リョウ君・・・」

 

あーもう・・・可愛すぎ・・・!!
・・・こんな生活が続くなら、アリ・・・かな?

 

「うっ・・・汗かいて来ちゃった・・・」
「あ、今拭くね!」

 

リョウ君がお腹の汗をタオルでごしごしと拭いてくれる。
・・・やっぱり痩せよう。
せめて自分で体を拭けるぐらいには・・・ね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上原あかり
身長:155cm
体重:49kg  → 479kg
  B:89cm → 191cm
  W:59cm → 284cm
  H:83cm → 211cm

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・なんでよ。なんで片倉君は私を・・・アイツは死んだはずで・・・」
「こんばんはー!!」
「ヒッ!?な、なに!?」
「オイラはサング!お姉さん、片倉良一って人知ってるよな?」
「く、クラスメイトだけど・・・」
「彼の恋人、知ってる?」
「し、知らない!!」
「嘘は駄目だぞ?オイラなんでも知ってるからな?」
「し、知らないわよ!!」
「ふーん・・・ところでさ、誰が死んだはずなの?」
「え・・・な、何の話?」
「上原あかりなら生きてるぜ」
「な!?」
「あれ?オイラは片倉の恋人の名前を言っただけなんだけどなぁ・・・
 なんでそんなに焦ってるのかな?」
「ち、ちが・・・!」

「人の命を弄ぼうとした罰、受けろ」
「ヒッ・・・イヤ・・・イヤッ──!」
「・・・元とは言え、クラスメイトを手にかけるのは嫌な感じ。
 でも“あかりオネーサン”が生きてるならこれ位安い安い。
 ・・・さて、“僕”はこれからどうするのかな?」


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