海底の向こうへ
※注意※
この作品には作者による独自の解釈が含まれております。
公式の発表等とは異なることがございますのでご了承下さい。
「・・・敵艦を鹵獲した?」
「はい」
とある鎮守府。
人類と深海棲艦の争いが激化している最中、そんな知らせが鎮守府内を駆け巡った。
「・・・どうやって?」
頭を抱える提督に、秘書艦の霧島が答える。
「どうやら敵の前線基地に居たようなのですが・・・何故か艤装を装備していなかったようで」
「整備中だったのか?」
「そこまでは・・・現在開いている部屋に複数の見張りを付けて監視中ですが・・・」
「・・・わかった。会いに行く」
「・・・」
提督の言葉に一瞬霧島の目が曇る。
「・・・不安か?」
「幾ら艤装が無いとは言え、相手は深海棲艦です。我々艦娘はまだしも提督は・・・」
「大丈夫だ、お前達を信じてるからな」
不安がる霧島をなだめるように提督はそう言うと、霧島に道案内を頼む。
霧島は少し考えた後、はぁとため息を付いてから提督を案内し始めた。
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「・・・」
「・・・ミルナ」
10分後。
深海棲艦・・・港湾棲姫と対面した提督は言葉を失っていた。
でかいのだ、色々な意味で。
2m程有る身長に前に飛び出た胸。
人間一人など軽く切り裂きそうな爪と腕。
額から飛び出た角。
人に近いはずなのに人とは違う異質さ。
彼だって深海棲艦は見慣れている。
だがここまで接近して見たことは無かった。
いくら周りを複数の艦娘に囲まれてるとは言え、その威圧感はかなりの物だ。
彼が言葉を失うのも無理はないだろう。
「・・・」
ちらりと彼が周りに視線を配ると、待機していた長門がこくりと頷く。
「・・・あー・・・貴官は・・・貴官でいいのか?
・・・まぁいい。現在貴官は我々の支配下に・・・あー・・・支配下?なんか変だな・・・
あーえっとだなぁ・・・」
「提督、私が代わりに話します」
どういった物かと迷っている提督に変わり、霧島が一歩前に出る。
「私達は貴方を捕虜として扱い、条約に従って貴方の身の安全は保証します。
代わりにいくつか質問に答えて欲しいのだけど・・・」
「・・・」
「沈黙は肯定と受け取るわよ?」
「・・・ナイヨウニ・・・ヨル・・・」
「構わないわ。提督」
「ああ」
霧島が再び下がり、バトンタッチされた提督が頭を掻きながら質問をする。
「・・・貴官の──あー・・・君たちの目的を教えて欲しいんだが」
「・・・」
「・・・黙りね。おけおけ。じゃあ・・・好きな食べ物はあるか?」
「・・・タベモノ?」
「そう。身の安全を保証するわけだから当然食事も出す。
そっちにアレルギーがあるかどうかは分からないけど、好き嫌いぐらいは把握しておこうかなと」
「・・・ニンゲンノタベモノシラナイ」
「そりゃそうか・・・しょうがない、適当に見繕うか・・・
よし、とりあえずは食事にしよう」
そう言うと提督は部屋を出ようとする。
「て、提督!?それだけですか!?」
横に居た赤城が声を上げるが、提督は軽く手を上げて見張りヨロシクとだけ返して出て行ってしまうのだった。
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「・・・オイシイ」
「そりゃ良かった」
港湾棲姫は目の前に並んだ料理を食べつつ、そうこぼした。
チャーハンに煮物にローストビーフ。
和・洋・中なんでもありのごった煮状態のテーブルを囲む面々は提督以外表情が硬い。
「・・・ナゼ?」
「ん?」
「ナゼコロサナイ?」
港湾棲姫の言葉に、提督は腕組みをしてからん〜・・・と一人悩む。
「むやみやたらと殺せば良いってモンじゃないだろ?」
そう言うと、提督は椅子から立ち上がった。
「追加分持ってくる。お前達も食べて良いが・・・正し喧嘩は無しだ。特に赤城」
「しません!」
提督の言葉に反論する赤城だが、彼女はつい先日自分の分の料理を横取りした天龍に一撃良いのを当てている。
「嘘付け・・・まぁそんな感じで仲良くな」
提督はそのまま部屋を出て行き、残された面々は深いため息を付いた。
「・・・イツモアアナノカ?」
「・・・ほんと、何考えてるんだか」
港湾棲姫の質問に答えず、霧島は目の前の料理に手を伸ばすのだった。
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港湾棲姫を捕まえてから数ヶ月。
最初は敵対的だった港湾棲姫も少しならば質問に答えてくれるようになった。
相変わらず重要な事は答えないが、深海棲艦の生活──特に食生活に関してはある程度答えてくれている。
艦娘達も慣れてきたのか、見張りと称して暇な艦娘達は彼女の所に遊びに行く始末である。
だが・・・それに関して一つ問題が発生していた。
「・・・」
「どうかなさいましたか?」
提督は目の前にいる霧島を見ながら何とも言えない顔をする。
「・・・うん、太ったよな?」
「・・・」
提督の一言にさっと目をそらす霧島。
その際に丸みを帯びた頬が揺れる。
服に隠れて見づらいが、他の部分も以前よりも確かに揺れている。
そう、港湾棲姫の部屋での"見張り"。
彼女の部屋には彼女用に様々な食料が置いてある。
最初に地上の料理を食べさせた時、どうやら色々と興味を持ったようでなるべく色々と食べたいというお願いをしてきたのだ。
それを叶えるべく、定期的に料理が届けられるようになっている。
とは言えそれら全てを港湾棲姫一人で食べられるはずも無く、見張りの艦娘達も食べて良いことになっている。
それは本来見張り業務へのある種の報酬だったのだが・・・暴れるそぶりすら見せない港湾棲姫の見張りはほぼ形だけになっている。
結果、現在彼女の部屋はただの休憩室の様な扱いなのだ。
しかも料理食べ放題である・・・おかげでこの鎮守府の艦娘達は全員かなり丸々としている。
「・・・少し太ったかもしれません」
「少しじゃないんだが・・・」
提督の言う通り、霧島はかなり太った。
くびれていたはずの腰は前にぽっこりと膨らみ、元々大きめだった胸は更に大きくなって腹に乗る様になった。
スカートは尻にしたからぐっと押し上げられ、その下から見える足は一般的な男性と同じ程はあるだろう。
服の間から見える二の腕はやや垂れ下がり、首は大分太くなったし顔の輪郭も大分丸くなった。
だが霧島なんかはぽっちゃりで済むだけまだ良い方で、赤城辺りは最早完全なデブと言わざるを得ない程だ。
弓すら引けないほどに飛び出た胸に腹。
歩く度に互いにぶつかって擦れる足。
アゴは完全に二重顎となり、分厚い背中は艤装のヒモが食い込むほどだったりする。
「・・・うぅ。私も分かっては居るんです・・・分かってるんです・・・」
「いや・・・まぁいいよ。ちゃんと出撃してくれてるし・・・」
落ち込む霧島に一応のフォローを入れる提督。
「提督・・・私は秘書艦失格でしょうか?」
「いやそこまでは言ってないが・・・と言うか俺のせいみたいな所あるし」
「ですが・・・」
「そう思うなら少しダイエット考えてくれればそれでいいから。
じゃあ俺はちょっと様子見てくるな?」
そう言って部屋を飛び出して行く提督。
霧島はダイエットダイエットとぶつぶつ呟き、その場にうなだれるのだった。
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「・・・テートクカ」
「おう。様子見に来たぞ」
部屋に入った提督にそう声をかける港湾棲姫。
周りには何人かの艦娘が"見張り"をしており、各々くつろいだ表情をしている。
当然の様に全員丸いのは言わないお約束という物だ。
「・・・テートク、ハナシガアル」
「話?」
「・・・スコシ、ワタシタチノコトオシエル」
「・・・君たちの事?」
「ソウ」
「そりゃ助かるが・・・なぜ?」
「・・・ソノカワリ、ワタシノボウメイヲミトメテホシイカラ」
「亡命・・・なんでまた急に?」
「コンナカラダジャ、モウモドレナイ」
そう言って彼女は自分の身体を軽く摘んだ。
元々特大だった胸は今や圧倒的な存在感を誇り、腕を前に向けることすら不可能にしている。
その胸を下から持ち上げる腹は臨月の妊婦なんて目では無い程に大きく、ぴっちりとした体の線が出る服も相まって非常に目立つ。
尻は座高を少なくとも15cmは高くし、足は最早組む事すらできないほど太い。
背中は幾つもの段が出来ており、アゴは首と一体化するほどの贅肉で覆われている。
元々彼女が自由に動けるのはこの部屋だけである。
そこに大量の食事・・・体型がこうも崩れるのは当然の結果と言えば当然である。
「コノカラダジャ・・・カイタイサレル」
「解体か・・・」
提督はその言葉に責任を感じ、申し訳なさそうに目を伏せる。
「ソレニ・・・」
「それに?」
「・・・ココハショクジ、アル」
「・・・そうか」
提督はそれだけ言うと少しの間天井を見つめる。
やがて視線を戻した提督は、港湾棲姫を見ると呟くように話した。
「亡命を認める」
「・・・アリガトウ」
初めて聞いた礼の言葉に、提督は複雑な気持ちを抱くのだった。