歌え、誰かのために
世界を震撼させた「ルナアタック」。
欠けた月が見下ろす世界は、今だノイズによる侵攻を受けていた。
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「──はぁああああ!」
轟と、爆音を響かせ、体をまるで弾丸のように突っ込ませる少女。
同時に腕部から高エネルギーを射出し、ノイズを蹴散らしていく。
少女の名は立花響。シンフォギアシステム3号「ガングニール」装者である。
「シッ──!」
両足を開き、手を大地につけ、まるで独楽のように、踊るように敵を切り刻む少女。
そして空高く飛び上がり、巨大な剣をその手に持ち、一閃。月夜を背に、美しい蒼の軌道はノイズを切り捨てる。
少女の名は風鳴翼。シンフォギアシステム1号「天羽々斬」装者である。
「おらぁぁあああ!」
両手のガトリングを放ち、空を覆い尽くすノイズを打ち落とす少女。
両脇から発射されるミサイルは雲を引きながら大型のノイズを、まるで獲物を狩る狩人のようだ。
少女の名は雪音クリス。シンフォギアシステム2号「イチイバル」装者である。
三人の少女・・・シンフォギアを纏い、ノイズと戦う彼女達はルナアタックの英雄と呼ばれた。
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「よっ、お疲れさん」
「師匠!任務完了です!」
特異災害対策機動部二課の移動仮説本部。
任務を終え、帰投した彼女達を待っていたのは風鳴弦十郎による労いの言葉だった。
ノイズに対抗する手段はシンフォギアを除いては非常に限られる。
そしてシンフォギアを動かせるのは選ばれた人間だけ。
彼女達に頼らざるをえない弦十郎の心境は果たしてどんなものだろうか。
響は知ってか知らずか、明るい言葉で答える。
「しっかし、未だにノイズの侵攻止まらずか・・・」
「しかたねーんじゃね?それこそ大本叩くしかねーよ」
「だが、それがどこにあるか解らない・・・」
弦十郎の呟きに、クリスが答え、翼が補足する。
ノイズ・・・13年前の国連総会で、特異災害として人類共通の脅威と認定された未知の存在。
人間のみを大群で襲撃し、触れた者を自分もろとも炭素の塊に転換してしまう。
その正体は古代文明において人類が『人類を殺すためだけに』製作した兵器である。
「まぁその辺は大人の領分だ。君たちは目の前にある事を精一杯やってくれれば大丈夫だ」
「分かってますよぉ〜。今自分にできる事をやる。それが大事なんですよね」
響は力強く頷く。その目は覚悟を持った人間の目であった。
「ああ、それでいい。じゃあ報告書を書いたら今日は解散してくれていいぞ」
「了解です」
弦十郎の言葉を受け、少女達は廊下を進む。
その背を弦十郎は暫く見つめていた。
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けたたましいアラームが鳴り、ノイズ出現の情報が舞い込む。
指令を受け、響達は急ぎ現場へ移動する。
現場は既にある程度避難が完了しており、好きに暴れられる手はずは済んでいた。
【バルウィシャル ネスケル ガングニール トローン】
【エミュテウス アメノハバキリ トローン】
【キリタァ イチイバル トローン】
起動詠唱を唱え、シンフォギアが少女達の体を包む。
数瞬の後、彼女達は戦闘態勢へと移っていた。
「よし・・・行くよ!」
響鬼の声を合図に、三人は弾けるように動き出した。
「オラオラオラァ!」
「えぇええい!」
「はぁああああ!」
三者三様に目の前のノイズを倒していく。
眼前の敵は全て塵芥へと還る。
「あん・・・?なんだアイツ、見たことねーのが来たぞ」
『新型か?気をつけろ!どんな攻撃をしてくるか分からんぞ!』
クリスが見つけたのは中型のノイズだ。
四足歩行型で、見ようによっては牛に見えなくも無い。
それは徒党を組み、一直線にクリスの方へ向かう。
「へっ!甘いんだよ!」
ガトリングを取り出し、一斉掃射する。
「なんだ、楽勝じゃん」
凄まじい勢いで数を減らし、全て終わったかと思った瞬間だった。
地面から新型のノイズが飛び出てきた。
「なっ──!」
ノイズが触れる。それは炭化し、死ぬ事を意味する。
はずだった・・・
「あがっ・・・!」
クリスの体がぶくぶくと、まるでポンプで空気を入れた風船のように膨らんでいく。
ビキリと、体の変化について行けずに装甲にヒビが入る。
「クリスちゃん!」
慌てて響がノイズを砕き、クリスを支える。
その隙を、ノイズは見逃さなかった。
「ぐぅ・・・!」
ぼこりと、地面からもう一体の新型のノイズが現れ、響の背中を刺す。
瞬間、クリスと同じような現象が響に起こる。
ぶよんぶよんと、激しく体を震わせながら響の体は丸くなっていく。
「二人とも、今助ける!」
回りの敵を一掃し、駆けつけた翼が新型ノイズを一刀両断する。
「・・・!?」
二人を寝かせ、回りを見渡すと、翼の回りには新旧合わせた大量のノイズの群れが囲んでいた・・・
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「で・・・そうなったわけか」
「はい・・・」
新型ノイズとの戦闘が終わり、三人は本部へと帰投していた。
・・・大量の脂肪と共に。
響・クリス両名が戦闘不能になった後、翼は二人を守りながら一人戦闘を続けた。
が、防衛戦であるため翼本来の戦闘が出来ず、結果として撃破は成功した物の、翼までもが太ってしまった。
弦十郎は眉間を押さえつつ、三人を見渡す。
元々ほっそりとした体つきの翼は、現状ぽっちゃりからややデブと言った所だ。
決して豊かとは言えなかった胸も、たっぷりと肉が付き、動く度に揺れる。
だが、その下の腹にたっぷりと付いた脂肪がその存在感を霞ませている。
当然元着ていた服はサイズが合わないため、急遽特異災害対策機動部二課にあった予備の制服を着ている。
それでもあり合わせの所為かはち切れそうだ。
勿論尻もサイズアップし、丈が合わなくなったスカートが悲しみを誘う。
その下に生えた足は、まるで木の幹を思わせる。
そんな翼の横でぶすっとした顔をしているクリスも当然太っている。
胸は元々大きく、翼なんか目では無い程のサイズだ。
グラマラスというか、腹部のサイズアップは他の部位よりは少なく、相対的に見て括れていると言っても良い。
だがぽっこりと飛び出ているお腹は太った事を如実に表している。
胸と並んで増加の激しい尻は、スカートを完全にめくり上げ、下着がチラチラと見えている。
太ももは足を多少開いているはずなのに隙間が全く出来てない。
そんなクリスの視線の先には響が座り込んでいる。
「うぅ・・・何で私だけこんな太るのぉ・・・私、呪われてるのかなぁ・・・」
そこには二人よりも一回りは太くなった響の姿があった。
それなりにあった胸はまるでスイカを二つぶら下げたような感じになり、非常に重そうだ。
だが、その下の飛び出た腹が支えている。
他二人はギリギリで服に入っているが、響に至っては完全にボタンが止まって居らず、可愛らしいヘソが見えている。
もっちりとした太ももは、座っているからか余り目立たないが、それでも太いのは判る程だ。
その代わりか、座り込んだ事で尻がその存在感をありありと示している。
まさに桃尻という言葉がよく似合うそれは、完全に下着が見えている。
「・・・今、解析が終わった。
君たちが遭遇した新型のノイズだが、どうやらシンフォギアを活性化させる為のエネルギーと反応して装者を太らせる仕組みらしい。
一般人には効果は無いようだがな・・・」
弦十郎がなるべく三人を見ないようにしつつ、語る。
「つまり・・・我々『防人だけを目標とした新型』、ということですか・・・」
「そうなるな。フィーネの言葉を信じるなら連中は兵器だそうだ。
もしかすれば我々に対抗するべく、『進化』したのかもしれない・・・」
「あの・・・なんで私だけより太ったんですか?」
「聖遺物と融合している響君は、より効果が高かったのだろうな。
とりあえずこの新型を無効化する為の設備を製作中だ。
・・・了子君が居ればもっと捗ったんだろうが・・・」
弦十郎の呟きを聞いて、場がやや重くなる。
櫻井了子。『櫻井理論』を提唱し、シンフォギアの開発などを手がけた天才女史。
だが、フィーネと呼ばれる超先史文明期の巫女の血を引いた所為でフィーネに意識を乗っ取られ、
『ルナアタック』を引き起こした張本人でもある。
結論から言えばルナアタックは失敗、了子自身も灰となった。
「大丈夫です!私みんなを信じてますから!」
座り込んでいた響が立ち上がりながらそう叫ぶ。
その拍子にぐぅと腹の虫が鳴る。
どうやらそれは響から聞こえてきているようだ。
「あ、あははは・・・とりあえずご飯食べません?」
「・・・だな!よし、飯にするか!」
「えー・・・あたしダイエットしたいんだけど・・・」
「駄目だよ!ダイエットの前にきちんと栄養摂らないと!」
「私も・・・少し減らそうかと・・・」
「翼さん!?」
響のお陰か、みんなも少しずつ明るい調子が戻り、いつしか本部からは笑い声が聞こえてきた。
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『おかけになった電話番号は現在電源が入ってないか電波の──』
「未来、また?」
「うん・・・」
数日後、響の親友である小日向未来は響に連絡を取ろうとしていた。
任務の事は判っているし、便りが無いのは元気の証しとも言うけど、今まで連絡はあったはずだし、そもそも私だって外部協力者なのに。
未来はそう思い響に連絡を何度も取ろうとしているのだが結果としては成果なしであった。
弦十郎に連絡を取ったが、
『こちらでやっかいな事が起き、そっちに集中して貰っている。
怪我してる訳では無いから安心してくれ』
の一点張り。
実際は弦十郎なりの響を気遣っての行動だったのだが、未来としては仲間はずれなのが気に入らないのである。
「まぁ大丈夫じゃ無い?偉い人も平気って言ってるんでしょ?」
「それは・・・そうだけど・・・」
友人に諭され、渋々携帯のコールをやめる未来。
空を仰ぎ、はぁとため息をつく。
その時、サイレンが街へ響いた。
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『みんな大丈夫だな?例の新型も出てくるだろうが・・・』
「大丈夫です」
「それよりもよー・・・本当にこの作戦上手くいくのかよ・・・」
「でも・・・やらないとより酷く太っちゃうし・・・」
『すまん・・・信じてくれとしか俺からは言えん』
出撃前の簡易なブリーフィング。
弦十郎の声を聞き、覚悟を決めた表情をする三人。
拳を合わせ、にっと笑い合う少女達は──丸々と太っては居るが──美しくあった。
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「どけやぁあ!」
「やぁああ!」
「ふん!」
クリスが空を、翼が一閃し、響が撃ち漏らしを消していく。
体が動きづらくなったとは言え、流石場慣れしているのか良い動きだ。
連携しつつ、場を制圧していく。
暫くし、例の新型が出てくる。
「ここからが本番だな・・・」
「ああ」
「じゃあ・・・」
「あたしから行くよ。遠距離のあたしの方が後半いざとなった時にフォローしやすい」
「分かった。・・・気を抜くなよ?」
「分かってるって」
新型につっこむクリス。
新型は素早くクリスに群がる。
前回と同じくクリスの体が膨れていく。
「くっ・・・おい、まだか!?」
『・・・出来たぞ!倒して良いぞ!だが』
「残せって言うんだろ?コンだけいれば勝手に残る!」
クリスは手にアームドギアであるクロスボウを展開させ、目の前の新型を撃破していく。
ある程度倒した後、翼と響の二人に引き上げられる。
彼女達の作戦、それは・・・新型ノイズにあえて襲われ、データを収拾。
個別パターンを組み新型の攻撃を防ぐ為の装置を完成させると言ったものだった。
無謀とも言えるが、シンフォギアの大本となった聖遺物が特別な物である事が汎用的なプログラムを組む事を阻害しているのだ。
結果としてはこうするしか無い。
「じゃあ・・・次は私だな」
「頑張ってください翼さん!」
「・・・フォロー位はしてやるよ」
二人の声を受け、翼は残った新型ノイズへ突進した。
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「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」
「お・・・重かった・・・」
「ごめんなさい・・・クリスちゃん・・・翼さん・・・」
翼の後、響もノイズからの攻撃を受け、肥満化した。
までは良かったのだが、余りにも肥満化速度が速く、データ解析が済んだ頃にはまるで肉塊を思わせるサイズへと変貌していた。
当然そんな体ですぐに動ける訳が無く、翼とクリスで必死に敵を倒してから響を引っ張ってきたのである。
それがいかほどの重労働であったかは想像に難くない。
「・・・でも、これで・・・」
「ああ」
「おめーらの攻撃は無効化したぜ!」
新型のノイズに向かい、三人はビシッと決めた。
そしてそのまま戦闘を再開する。
新型は今までのように肥満化させようとするが、当然響達には無駄であった。
シンフォギアによる能力の上昇を受けた翼・クリスの攻撃を受け、無惨にも散っていく。
響は彼女達の後ろからエネルギーを放ち、牽制かつ追い打ちをしてフォローしていった。
こうなった彼女達にノイズが勝てる道理など無いのである。
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こうして新型ノイズとの戦闘は終わった。
それ以降、無駄と分かったのか新型の襲撃は無くなり、安心になった。
・・・にはなったのだが・・・
「ふへぇ・・・ふひぃ・・・」
「まだまだ!もっと走れ!」
「は、はいぃぃいいい!」
弦十郎宅の庭。
かつて響が修行したその場所で、響達三人は弦十郎の指導の下、必死に体を動かしていた。
攻撃が無効化出来たとは言え、受けたダメージが無くなる訳では無いのだ。
奥で黙々と──息も絶え絶えではあるが──運動を続ける翼。
最初の攻撃から比べ、一回り太くなった体はまさに『デブ』としか言えないものであった。
豊かになった胸だが、腹回りの増加量を考えるに完全に焼け石に水と言える。
そんな腹回りは太く、臨月の三つ子でも宿しているのかと言った感じだ。
必死に上げる足は、太く、巨大な尻へと続いている。
当然二の腕も同様で、動かす度に豪快に揺れる。
顎にも肉はたっぷりと付き、荒い呼吸をする度に頬と一緒にぷるぷると揺れ動く。
そんな翼の近くで、サンドバッグを殴っているのはクリスだった。
三人の中では増加量は一番少ない物の、誤差の範囲と言って良いだろう。
元が大きかった分、その圧倒的な存在感を放つ胸。
その下で前回から急激にその質量を高めた腹。
元のウエストよりも太いのでは無いかと思える太ももに、それだけの足が無いと支えられないと言わんばかりの尻。
パンチを打ち込む度にぶるんと豪快に揺れる二の腕。
ハーフのお陰か、顔には余り肉が付かず、『顔だけ見ればぽっちゃり美人』なのが救いと言えば救いか。
そして庭を走り回っている響。
聖遺物と融合しているためか、三人の中で最も肥満化が激しく、体重は200kgを超えている。
全身余すところなく脂肪が詰め込まれたその体は、走る度に汗が吹き出し、ばるんばるんと揺れ動いている。
スイカを越え、最早肉の塊となった胸。
翼が三つ子であるならば、五つ子は居るのでは無いかという腹。
足をかなり開いているのにそれでもズルズルとすれてしまう太もも。
そんな太ももから繋がる尻は今にもスパッツを──LLLサイズのである──破いてしまうのでは無いかと思えるほどだ。
二の腕は以前の彼女の腰と同じ位に太くなり、動かす度に暴れ回る。
頬についた肉が目を細め、顎は肉が付きすぎて二重顎の上に首と一体化している。
これが現在の彼女達の姿だった。
「こ、こんな事になるなんて・・・やっぱ、私呪われてるのかな・・・ふぅ・・・ふぅ・・・」
「無駄口叩かずに走る!休んでいると未来君に連絡するぞ!?」
「そ、それだけは勘弁を!」
弦十郎の叱咤を受け、力を振り絞り体に活を入れる響。
彼女達のダイエットは暫くかかりそうである。