液体の恩恵
(!)この作品はテレビアニメ版『新世紀エヴァンゲリオン』を元に執筆しております。
また作者の独自の解釈で書いているため、作品への矛盾などがあります。
あらかじめご了承下さい。
「L.C.Lの改良・・・?」
第3新東京市地下、NER内部の赤城リツコの研究室。
葛城ミサトは椅子の背もたれを抱きかかるように座りながらリツコの言葉を聞き返していた。
第9使徒の襲来から3日後の事である。
「そう、改良」
「必要なのそれ?」
ミサトの質問にリツコは背を向けたまま珈琲を一口啜ってから答えた。
「貴方、L.C.Lを何だと思ってるの?」
「何って・・・
エントリープラグの中を満たす液体で酸素をパイロットに補給して肉体の保護をする物?」
「大体合ってるわね。それ以外にもエヴァとの精神的接続をする役割もあるわ」
「それが一体どうしたって言うのよ?」
「・・・鈍いわね」
リツコはかけていた眼鏡を外して目頭を少しの間押さえた後、ミサトの方へ振り向いた。
「いい?現状エヴァはパイロットとシンクロする事で動くわ。
でもそのシンクロ率はパイロットの精神状況にも左右される。
ならそれをより高めることが出来れば・・・」
「任務の成功率を高められるって訳ね・・・」
「それ以外にも衝撃吸収能力の上昇とかもあるけど、大まかな部分はそこね」
「なるほどねー・・・」
ミサトは椅子をくるくると足で回しながらそう答える。
「・・・それ、出来てるの?」
「基本はね・・・実験がまだなのよ」
「実験っていうと・・・」
「当然、パイロットの協力が必要になるわね」
「そりゃそうか・・・私らがやっても無意味だものね」
椅子の回転を止め、リツコを見つめるミサト。
リツコは再びパソコンに向かうと、キーボードに何かを入力する。
「予定は明後日の10:00時。被験者はレイのつもりよ」
「レイ?」
綾波レイ。
ファーストチルドレンであり、エヴァンゲリオン零号機のパイロットである。
「あの子はアスカやシンジ君と違ってシンクロ率自体は低いけど安定してるから」
「計測にはもってこいって事ね・・・碇指令の許可は?」
「『本人が参加する気があるならば』・・・ですって」
カチャカチャとキーボードを叩く音だけが響く。
ミサトはリツコの背中を見つめながら、ふーんと一言だけ呟く。
ディスプレイを見つめるリツコの表情にどこか影がある事に、気付く者は誰も居ないのだった。
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「レイ、準備はいい?」
『はい』
「おーけー・・・じゃ、始めて」
「はい!」
実験当日。
ミサト達はレイとエヴァの様子を逐一モニターしながら実験を開始する。
伊吹マヤとリツコが機器にいくつかの情報を入力していく。
そしてエントリープラグ内に新型のL.C.Lが注入されていく。
「さて・・・どうなるかしらねぇ?」
「マヤ、モニターの記録きちんと取ってるわよね?」
「はい!」
何人ものスタッフが見守る中、やがてプラグ内にL.C.Lが満ちた。
そのままシンクロテストへと入っていく。
「シンクロ率の比較を開始・・・見た感じ2割上昇と言ったところですね」
「2割か・・・無いよりはマシって感じね」
「まだ試作段階なのよ?有効である事は認めて欲しいわね」
「そりゃねぇ・・・」
そんな会話をするミサト達。
だが、その時であった。
『・・・くぅ!?』
「レイ!?」
突如モニターに映るレイがどこか苦しそうな表情をする。
「リツコ!?」
「マヤ、どうしたの!?」
「そ、それが・・・レイの・・・」
「レイがどうしたの!?」
「レイの体重が増えてます!!」
「「・・・はぁ!?」」
思わず台詞が被るミサトとリツコ。
マヤの言葉を裏付けるかのように、レイの体が変化していく。
ぷくり、ぷくりとレイの体が膨らんでいき、プラグスーツが引き延ばされていく。
『くぅぅ・・・ひぁ・・・?』
どこか艶めかしい悲鳴を上げながら自身の体の変化に耐えるレイ。
「実験の中断を!!」
ミサトの指示でエヴァ零号機からアンビリカルケーブルが外され、内部電源に切り替わる。
「リツコ、プラグを早く抜きなさい!!」
ミサトがリツコに指示を出すが、リツコの顔は曇ったままだ。
「プラグの射出指示を受け付けないのよ・・・」
「なんですって!?」
エヴァ零号機の首筋。
エントリープラグが挿入されているそこは指示を受けて"抑え"が既に外れている。
だが、プラグ自体はその先端が若干見えるだけで動く様子は無い。
「何とかならないの!?」
「今やってるわよ!!」
ヒステリックに叫ぶリツコ。
そうこうしている間にもモニターの中のレイはドンドン太っていく。
胸は大きいと噂のミサトを超え、腹はくびれがなくなりまるで妊婦の様に膨らんでいく。
足は先ほどまでの枝の様な細さがドンドンと太くなりまるで丸太のようになっていく。
尻はシートから溢れそうになっていき、その体を徐々に浮かしていく。
『くぁ・・・ひゃう・・・?』
レイの顔は既に真っ赤に染まっており、張り付いたプラグスーツのせいで乳首が立っているのが丸分かりだ。
性的な興奮に悶えるレイはその体を小さく揺らす。
それがさらなる刺激を呼ぶのか、レイの体はどんどんと揺れを大きくする。
それに合わせるかのように膨らんでいくレイの体。
やがてエヴァ零号機はガクンと力が抜けたかのように脱力する。
予備電源も切れたのだ。
だが、時既に遅く、レイの体は凄まじい変貌を遂げてしまったのであった。
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「・・・で、結局原因はなんだったわけ?」
翌日、ミサトはいつぞやのように椅子の背もたれを抱きかかえながら、リツコに話しかける。
リツコは眼鏡の位置を直すと、一息置いてから話し始めた。
「それはレイが太ったことについて?それともエヴァの暴走?」
「りょーほう。暴走しなかったらあんな大惨事にはならなかったでしょ?」
「レイが太った原因なら新型のL.C.Lのせいね。
どうも化学物質の配合を間違えたみたいで電荷の際、余分な栄養素も作り出したみたいね。
それが即座に脂肪に変わったのは研究中。
エヴァの暴走についても現在原因の究明中よ」
「栄養素・・・って、そんな事あり得るの?」
ミサトの台詞にリツコはパソコンに向かってキーボードを叩き始める。
「私だって予想外よ。
もう一度成分を全部、見直さなきゃいけないんだからあまり話しかけないで」
「はーい・・・って言いたいんだけどもうちょっち聞きたいことがあるのよ」
「何?」
「レイの体型。戻るのあれ?」
「無理ね」
リツコはそれだけ返す。
「無理ねって・・・なに?戻らないの?」
「痩せることは多分出来るわ。
それをすぐやるには脂肪吸引でもして、皮膚を切除して、それでもしばらく入院は必須ね」
「・・・まぁあの体型じゃねぇ」
ミサトはレイの状態を思い出す。
実験直後、救急治療室に搬入されていくレイはまるで肉の塊のようであった。
まるで小山が二つ連なったかのような胸。
前に横にと広がり立っても膝の辺りまで垂れ下がる腹。
足は丸太どころか大樹の幹を思わせる太さになり、腕は以前のレイの腰程は有りそうだ。
首は完全に肉に埋まり、二重顎が荒い呼吸でぷるぷる揺れる。
ミサトは同じ女性の身として今思い出しても背筋が凍る思いだ。
「じっくり痩せさせたとしたら一体どれくらいかかると思う?」
「そうね・・・年単位なのは間違いないわ」
「それまで使徒が待ってくれる訳・・・無いか」
「無いわね」
はぁぁぁ・・・と深くため息をつくミサト。
「レイについてシンジ君達になんて言えば良いのかしらね?」
「実験の関係で入院していると言うしか無いわね。
無意味に不安を煽る必要は無いわ」
「・・・しかないか」
ミサトは少し考え込んだ後、椅子から立ち上がり出口に向かう。
「上にレイの手術について掛け合ってみるわ」
「私からも後で言ってみるわ」
「お願い」
そう言って出て行くミサト。
リツコは自動ドアの締まる音を聞いてから、机の上に置いてある写真を手に取った。
そこに写っているのはリツコの母親の赤城ナオコとNERV指令の碇ゲンドウとその妻碇ユイ。
リツコはその写真をしばらく眺めてから煙草に火をつけ、吸い込む。
「我ながらみみっちい仕返しね」
煙を吐き出しながら、一言彼女はそう呟いたのだった。