向坂 麗子(こうさか れいこ) 18歳 身長166cm 体重45kg
“学校のマドンナ”と呼ばれるほど名前の通りに美人だが、
性格は醜いと言わざるを得ない女子高校生。
ある日いつもいじめていたクラスメイトが急に美人になって・・・
「おはよう、麗子さん!」
「ええ、おはよう」
クラスメイトの男子──名前は忘れたけど──に挨拶される。
面倒だとは思いつつもにこやかに挨拶を返す。
これだけでちやほやとしてくれるんだから安い物だと思う。
「お、おはようございます!麗子さん!!」
「あら、おはよう」
別の男子にも挨拶を返しながら、私は教室へと向かう。
女子達からは羨望と嫉妬。
男子達からは色欲と憧れ。
心地よい視線を感じながら、私は自分の席へと座る。
ちらりと、教室の隅に目をやる。
「・・・今日も来てないわね」
相沢かなえ。
いけ好かないデブで、よく“からかってあげていた”子。
だけどここ最近は全然来ていない。
彼女を“からかう”のが楽しみの一つだったのに残念だ。
「・・・うぉ?誰だあの子!?」
「か、可愛いじゃん!?」
ふと、急に周りが騒がしくなった。
顔を上げてみると、廊下を誰かが歩いて居るのが見え、男子達がそれに反応しているのが見える。
その人影はそのまま進み、がらりと教室の扉を開けて入ってきた。
ハッとするような美人。
そう形容するのが一番だろうか。
ふわりとした肩まで届く髪の毛に軟らかそうな表情。
くびれた腰と大きく張り出した胸とお尻。
謎の美女はそのまま進むと、かなえの席に座った。
『えっ!?』
教室中で驚きの声が響く。
多分、私は相当間抜けな顔をしていただろう。
ボーッと見つめる私と目が合った美女はにこやかに・・・悪意を込めた笑いで挨拶をしてきた。
「おはよう、麗子さん」
その声は、間違いなく相沢かなえの声だった。
それから教室は大騒ぎだった。
やれどうやって痩せたのかだの。
やれ今日どこか遊びに行こうだの。
昨日まで私の物だったそれは一瞬の内に奪われてしまった。
先生が入ってきて今日の連絡が始まっても、教室中がざわついていた。
その日、私がどれほど惨めな思いだったかは私にしか分からないだろう。
取り巻きのように着いていた連中もすぐにかなえの方へいってしまった。
男達も話すのはかなえの事ばかり。
かなえも一丁前にアイドル気取りなのかただただうやむやに答えるだけ。
それが余計に腹が立つのだった。
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「かなえさん、ちょっといいかしら?」
「・・・ええ、大丈夫ですよ」
その日の放課後、私はかなえを呼び出す。
屋上に連れて行き、詰め寄る。
「なにしたの!?」
「・・・」
「答えなさい!アンタみたいなデブがそう簡単に痩せる訳無いでしょ!?」
私の質問にかなえは笑いながら一枚の紙を差し出してきた。
「ここに行けば分かりますよ、麗子さん」
にっこりと・・・まるで見下したかのように笑うかなえ。
思わず手が出そうになるのを必死に堪え、差し出された紙を引ったくるように受け取る。
そのままの勢いで屋上の扉をあけ、階段を下りていく。
脳裏には、かなえのにやけ面が張り付いていた。
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「・・・ここ?」
渡された紙──チケットに書かれた住所通りに来ると、そこには一軒の小さな家があった。
看板には『整体 歯車』の名前と診療時間が書いてあるだけ。
それだけの小汚い診療所。
「・・・」
私はぐっと扉を開けて中に入る。
「いらっしゃい」
メガネをかけた女がコッチを見ながらそう言って来る。
ショートカットの金髪にすらりとした体型の外人の女で、かなりの美人だ。
・・・むかつく。
「急にごめんなさい。体型で悩んでいたらここを友人に紹介してもらったので・・・」
愛想笑いを浮かべながらそう言ってチケットを渡す。
女は少しの間それを眺めてから、にやっと笑ってへ〜と関心したような声を出した。
「いい“友人”をお持ちみたいだね。奥へどうぞ」
そう言って女は奥へと進んでいく。
私はその後ろをしずしずとついて行く。
奥の部屋にはやや大きめのベッドといくつかの器具が置かれただけの地味な部屋だった。
「そこに寝てね。体の悪いところを調べるから」
はいと笑顔で答えてから私はベッドに横になった。
女はゆっくりと私の体を撫でるように触っていく。
「うん・・・色々堅くなってるね。原因はストレスかな?」
「ストレッチなんかはしているんですけどね・・・」
「まぁ僕に任せてよ、1時間後には“生まれ変わった気分”になるからさ」
そう言ってから女はぐいぐいと私の体を押していく。
その度にまるで“カチリと何かがはまり込んでいく”ような気分になる。
「そういえば・・・っ!なぜ歯車なんてお名前・・・なんですか・・・!?」
「僕の名前が・・・っ!ギネアって言うんだけど・・・っ!
あだ名でずっとギアって呼ばれていてね!
日本語だと歯車っていうだろ・・・!!」
「なるほど・・・!」
軽い痛みに耐えながらそんな下らない話をする。
こうでもしないと暇で仕方ないからだ。
それに、こうやって相手に取り入るのは普通の事だし。
そんなどうでもいい雑談をしながら待っていると女・・・ギネアが体を起こして私から離れた。
「ふぅ・・・立ち上がってみて」
言われた通りに立ち上がってみると明らかに体が軽くなった。
まるで全身から錆びが落ちたような、そんな気分だ。
「もう何度かやれば“依頼道理”になるよ」
「ありがとうございます!」
かなえが痩せたのはここのマッサージの御陰。
つまりアイツはそう言いたいのだろう。
どれほど効果があるかはアイツが証明してくれた。
なら程よく付き合えば・・・私は更に可愛くなれるはずだ。
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・
【ぐぅぅぅううう・・・】
「うっ・・・」
数日後。
私は何とも言えない空腹感に襲われていた。
あの整体に行ってからと言うもののこの有様だ。
「でも体重は落ちてるのよね・・・」
昨日計った所、マイナス2kgという結果だった。
どうやらあの整体はやたらと効くようだ。
「・・・ならチョットぐらい食べてもいいか」
普段は寄り道で食べ物を食べたりしないけど、偶には良いだろう。
私はふらりと近くの喫茶店に入って、ケーキセットを注文する。
運ばれてきた甘ったるいはずのチョコレートケーキは、今までで一番美味しいと思える物だった。
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おかしい。
お腹が減る。
満足しない。
3回目の整体からだ。
いや、2回目の時点でもおかしかったかもしれない。
でもあの時はまだ痩せていた。
いや、本当に痩せていた?
【ぐぅぅぅぅぅううううううううううう】
ああ、駄目だ、空腹で考えが纏まらない。
食事を摂りたい。
甘い物が食べたい。
しょっぱい物が欲しい。
ああ、食べ物を食べたい・・・
【ぷよん】
お腹が揺れる。
太ってきてる。
スカートがきつい。
でも・・・
それよりもお腹が減ってしかたない。
今日は何を食べよう・・・
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・
「うわ・・・見ろよあれ・・・」
「急に太ったよなぁ・・・」
クラスメイトの声が聞こえる。
でも・・・どうでもいい。
「あむ・・・」
甘い。
美味しい。
買っておいたジャムパンを貪る。
ああ、無くなってしまった。
「・・・あむ」
2個目を取り出し、かじりつく。
幸せだ。
「麗子さん、少しいいかしら?」
「かなえさん・・・?」
3個目を食べようとした時、かなえが声をかけて来た。
なんだか分からないけど、食事の邪魔をするなんて本当に空気の読めない女だ。
「放課後に屋上、行きません?」
「・・・ええ、いいですよ」
まぁいい、こっちも話したいことがあった所だしね。
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「はぁ・・・はぁ・・・ふひぃ・・・」
階段が辛い。
一歩歩くごとに体が揺れる。
太ももにお腹が当たり、お尻がぶるぶると揺れる。
途中で休みながら、なんとか屋上まで上る。
かなえの奴は既に屋上に来ていた。
「遅かったですね」
「・・・うるさいわよ!なんなのあの店!あの店に行ってからこんなに太っちゃったじゃないの!!」
そう、私だって馬鹿じゃない。
あの店の整体の星だって事ぐらい分かってる。
だけど、3回目以降店に行ってもいつも休業しているのだ。
だから・・・コイツに聞くしかない。
私よりもあの店に詳しいはずのコイツに!
「ふふっ・・・麗子さんはこんな噂を知ってますか?
“歯車の魔女”って噂・・・」
「なによそれ・・・」
「昔々、人間の体が歯車にしか見えない女性が居たそうです。
彼女がその歯車を触ると、触られた側は色んな事が起きたそうです。
病気が治ったり、逆に病気になったり・・・
そんな彼女の事を人々は歯車の魔女と呼んだって話しです」
「それがなんだっていうの!?」
「話は最後まで聞いて下さいよ。彼女はやがて故郷を追われ、世界を巡り、日本に来たそうですよ。
整体師を名乗って、小さなお店を開業して、歯車を弄る事で体の調子を整える整体師・・・」
そこまで言われれば話が飲み込める。
つまりあの女がその魔女だと言いたいのだろう。
「はっ・・・そんなオカルト話信じる訳が・・・」
「ならなんでそんな体なんですか?」
かなえが近寄って来て、私のお腹を掴む。
むにぃと分厚い脂肪がかなえの指の間からはみ出る。
「な、なにをするのよ!」
「見て下さいよ、このお腹。昔の私よりもずっとあるじゃないですか」
にやにやと笑いながら私の体をもみくちゃにするかなえ。
逃げようにも重くなった体じゃろくに逃げられない。
「ほんと・・・醜いデブになりましたね。
彼女に・・・魔女に頼んで良かった」
「え・・・」
「私の事を話したら快く協力してくれましたよ?
チケットを私にくれて、私のダイエットに協力してくれて、貴方をこんなにデブにしてくれた!!」
「ふざけるんじゃないわよ!!なんでアンタなんかに協力なんか!」
私の叫びに、かなえはただ笑うだけだ。
「さぁ・・・まぁ私には彼女が魔女でもなんでもいいんですけどね・・・
ね、デブで救えない麗子さん?」
そう言ってかなえは私の体を揉む力を強くする。
「あははははは!!見て下さいよこの腹!
まるでお相撲さんみたいでだらしなく前に垂れて、ほら!手首まで埋まっちゃう!!
胸なんか垂れすぎてみっともないじゃないですか!!
あははははは!!ホント醜い豚ですね!!
あんなに偉そうにしてた麗子さんとは思えませんよ!
背中なんて・・・ほら!お肉が掴めるんですよ!?」
「や、やめて・・・!」
「やめません。貴方が私にしたように、私も貴方を蔑みます」
体をまるで捏ねるようにしながら、かなえは私にそう告げる。
「ああ、醜い醜い・・・デブですもんねー!
貴方の言葉ですよ?『デブは居るだけで邪魔になる程醜い』って。
ホント醜いんですね。
腕なんてハムみたいに太いし、足も丸太顔負けですよ?
それに・・・このだらしないお尻!」
そう言ってかなえがパンッ!と私のお尻を叩く。
「んひっ!?」
「あはははは!!ブルンって!全身が揺れてる!!
ホントだらしない体ですね!!
ああ、痩せようと思えばすぐ痩せられますよ?私も出来ましたから。
今貴方は代謝がやたら良い状態なんですよ。
だから一日二日断食すればごっそり体重落ちるはずですよ?
まぁ私と違って食欲が大分増加してるみたいですから?その食欲で出来るとは思えませんけどね!!」
あははははと笑うかなえの声を聞きつつ、私はその場に座り込む事しか出来ないのだった。
向坂麗子
身長166cm
体重:45kg → 199kg
B:86cm → 118cm
W:53cm → 155cm
H:83cm → 169cm