最強の代償
アリシア・リリエール 24歳 身長168cm 体重59kg?
冒険者として有名な剣士の女性。ただ、その鎧には呪いがかかっていて・・・
『グギャァァアアアアアアオオオオオオオオオオ!』
酷い声の悲鳴を上げながら目の前の巨体が倒れ込む。
ふぅ・・・と一息付いてから、私は手にした剣を軽く振って血を飛ばした。
「依頼完了・・・だな?流石は名高きアリシアさんだぜ」
臨時でパーティを組んだ男性──カインさんが手にした斧を地面に突き刺しながらそう言う。
「いえ、私は盾役ぐらいしか・・・」
「ばーか、盾が居るから俺等が安心して攻撃できるんだっての!なぁ?」
「そーそー!」
男性が横に顔を向けながら尋ねると、魔術師の女性──アベールさんが同意するかのように答える。
「しっかしすごいねーその鎧!ベヘモスの攻撃でも全然傷ついてないモンね!」
私の鎧を見つめながらそう言うアベールさんに、私はあははと苦笑いしながら答える。
「以前とある場所に潜った時に見つけた物なんですが・・・その一つ呪いがあって・・・」
「うぇ!?大丈夫なの!?」
「ええ・・・ただそのせいで脱げないんですよ」
・・・嘘は言ってないから、うん。
「じゃあ汗とかどうしてるの?」
「鎧にそういった汚れなんかを清潔にする機能が付いていまして・・・」
「へぇー・・・変わった鎧だね?」
・・・ホントに作った人物の性根を疑う鎧だ。
「ええ・・・なので今はお金を稼ぎつつ呪いを解呪してくれる方を探しているところでして・・・」
「なるほどねー!あてはあるの?」
「ええ、イーガストの街に凄腕の方がいらっしゃるとか・・・」
「おお!イーガストならあとちょっとだ!」
「おう、そろそろ帰るぞ?」
カインさんの呼びかけに私達は返事を返し、先程倒したベヘモスに縄をかけて町へと戻りはじめるのだった。
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「ふぅ・・・」
宿についた私は荷物を置くと、床へと腰掛けた。
ちらりと横目で柔らかそうなベッドを見る。
ここ数ヶ月、この鎧のせいで柔らかなベッドとは無縁の生活だった。
それもこれも・・・
「この呪いさえなければ・・・!!」
自分の身を包む鎧を見つめながら、私は手を振るわせる。
この鎧、高い物理・魔法耐性と動きやすさを併せ持つ非常に素晴らしい一品・・・なんだけど・・・
一つだけ、ただ一つだけ酷い"呪い"が付いている。
それは【鎧を外した時、使用者が着ていた時間に比例して使用者の体重を増やす】という呪い。
最初これをとある廃墟になったアトリエで見つけた時はその性能を見て喜んだ。
その時使っていた鎧は長年の使用でボロボロだったことも有って、その場で着替えた。
使い心地は抜群、モンスターの攻撃は全然痛くないし動きやすいしで幸せな気分だった。
効果に気付いたのは宿に帰った後、風呂に入った時だった。
・・・あの衝撃は今でも忘れられない。
割れていたはずの腹筋に軽くつまめる位の脂肪が乗っていた時のあの衝撃は。
慌てて鎧を再度調べたら、新しく呪いの効果が現れたのだった・・・
恐らく一度使用した者にしか分からないように効果を隠していたのだと思う・・・
まさに谷底にたたき落とされた気分だった。
せめて町に帰った時に気付いていれば・・・前に使っていた鎧を売らなくてすんだのだけど・・・
資金はアトリエ探索用の準備で使い果たしていたし、新しく鎧を買う余裕はなかったのが今でも悔しい。
新しい鎧の代金を稼ぐにはこの鎧を着ないと行けないし、そうすればその分だけ太る。
数時間戦って、その分付いた脂肪を落とすには数週間・・・下手すれば数ヶ月かかるかもしれない。
そうすれば鎧を買うどころかその日暮らしすら危うくなる。
結果今の今までこの鎧を着たままである。
・・・皮肉にもこの鎧の御陰でそこそこ冒険者として名前が売れてお金が貯まったのは幸いだ。
「・・・寝ましょう」
横にあるベッドをしばらく見つめてから、私はごろりと床に寝そべるのだった。
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「・・・ここが」
2ヶ月後。
凄腕の解呪師が居るという噂を聞いてから早一年近く。
ようやく私はその解呪師の家へとたどり着いた。
資金はそれなり・・・というかかなりある。
私は一呼吸置いてから、扉を軽くノックした。
「・・・どちらさん?」
扉から出てきたのは眠そうに欠伸をしている、極々普通の男性だった。
身だしなみはお洒落とは言えなくても清潔感はあるし・・・
もっとこう、"いかにも"な格好をしてるかと思っていた私には逆に衝撃的だった。
「あの解呪をお願いしたくて・・・」
「ふーん・・・どうぞ」
ふぁーと欠伸をして、男性は家の中へと入っていく。
私も慌てて後をついて行くと、玄関を越えた先には特大の魔方陣が描かれた大部屋があった。
・・・なんというかギャップがスゴイ。
「・・・その鎧、ドコで見つけたの?」
「え?」
「解呪の品ってそれでしょ?ドコで見つけたの?」
「る、ルーランドの東にある森の中で・・・アトリエがあって・・・」
「ああ・・・やっぱりか」
男性は右肩を左手で揉みながら目を閉じる。
「あの・・・なんで鎧の解呪だって・・・」
「長年やってればどれが呪われてるか位は分かるようになるんだよ・・・
うんで、呪いって言うのは個人の癖というか・・・そう言うのがあるんだよね。
で、その鎧にかかっている呪いは見覚えがある・・・悪名高き“東の魔女”の物だね」
「東の魔女・・・?」
「曰く、あまりにも卓越したアーティファクト制作技能を持ち・・・それ故に全力でイタズラに走った魔女。
作り出した品はどれもこれも超一級品だが、その殆どの作品に呪いがかかっている。
呪いも命を奪うほどではないけど、それでも嫌がらせというにはやや度が過ぎた品ばかりだったという・・・
まぁもう100年以上前の人だけどね」
・・・絶対その人だ。
この鎧に付いてる消臭効果とか自己修復効果とか絶対嫌がらせのためだし。
「で・・・どんな症状?」
「え?」
「呪いの症状・・・効果は何が起こるの?」
「・・・そのえっと・・・」
恥ずかしくて言いにくい・・・
けどここで言わなきゃ駄目だし・・・
「・・・使用した時間分だけ太ります」
「ああ・・・」
何度か東の魔女の作品を見てきたのか、どこか納得した様子で男性は呟いた。
「・・・まぁいいや。とりあえず解呪するでいいわけね?」
「あ、はい!それでお金は・・・」
「ああ・・・別に良いよ・・・趣味みたいなもんだからそっちの払いたい額で・・・」
「え、いや・・・!そう言う訳には!」
「いいから・・・あんまりお金持つの好きじゃないし・・・」
男性はそう言うと私に魔方陣の真ん中に立つよう指示した。
私はどうしようかと迷いつつも、とりあえず指示通りに魔方陣へと向かう。
「じゃあそこで楽にしてて・・・」
「は、はい!」
私が魔方陣の真ん中に立ったのを確認すると、男性はそう言ってから呪文を唱え始める。
すると魔方陣が少しずつ光り始め、全体が光ったかと思えば私の足下が一段と強く光り出した。
しばらく光の中で待っていると、徐々に光が弱まり消えてしまった。
「・・・はい、おしまい」
男性がため息を付いてからそう伝え、私はお礼を言うために魔方陣を出ようと一歩踏み出した。
・・・その瞬間だった。
【ブクッ・・・】
「ひっ!?」
体が内側から盛り上がるような、気色悪い感覚に思わず声が出る。
見れば、体が徐々に膨らみ始めていた。
「しまった・・・二重か!!おい早く鎧を脱ぐんだ!!」
男性の声に反応して慌てて鎧を脱ぐ。
その間にも私の体は厚みを増していき、細く筋肉が見えていたはずの腕は丸太のように太く、すでに見る影もなかった。
お腹には肉が山の様に付き、胸は冒険するにはあまりにも邪魔なサイズになっていた。
足は開いているはずなのに太もも同士が押しつぶし合う感覚があり、ドンドンと増える体重に耐えるため震えている。
だがそれも数分の話で、すぐさまドシンと尻餅を付いてしまった。
その際に自分のお尻がどれだけ育っているかを感じ取り、『ああ、大っきいなぁ』なんて他人事のように思ってしまった。
尻餅の衝撃に合わせるかのように体の至る所が揺れ、ダポンッと中々聞かない音が鳴る。
それ位太ったのに、まだ私の体は大きくなろうとしている。
前に投げ出した足の膝を覆うぐらいにお腹の肉が増え、背中にも厚みが出来るのを感じる。
下ろしているはずの腕が徐々に脇腹で持ち上げられていき、それと同事に首回りの肉が増える感覚がする。
ようやく太る感覚が終わった時、私は息も絶え絶えだった。
それは別に運動したからじゃなくて、ただ単純に贅肉のせいで呼吸しづらいって事に気付くまで少し時間がかかった。
試しに腕を上げてみようかと思ったら凄まじく重く、剣を振り上げるよりもずっとずっと大変だった。
「あー・・・すまん・・・二重で仕掛けてるのは見破れなかった・・・」
男性は気まずそうに私に背を向けたまま、そう言って来る。
「つまり・・・ぜぇはぁ・・・どういう・・・ふひー・・・事ですか・・・?」
「呪いの解呪をトリガーに別の呪いを発動するようにしてあったらしくてな・・・
普段なら・・・いや言い訳だな・・・すまん」
「いえ・・・それで・・・はぁはぁ・・・この体は・・・」
「悪いが治すのは俺じゃ無理だ・・・それは既にお前の肉体として馴染んでしまってるからな・・・
・・・お詫びじゃないが、知り合いの医者を紹介する。ゴドラムの街に居るから少しこっちに来るまでかかるが・・・」
ゴドラムっていうと2年前に領主が傭兵と結婚した街だったはず・・・確かここに来るまで1ヶ月位かかったはず・・・
「変人でうるさいが腕は確かだ・・・治療費もコッチで負担するから・・・そのなんだ・・・しばらくここで待つか?」
「お願い・・・ふひゅ・・・します・・・あと・・・服も・・・」
私はこの体で着られる服があるか分からないけどと心の中で思いながら、男性にそうお願いするのだった。
アリシア・リリエール
身長168cm
体重: 59kg → 827kg
B:81cm → 187cm
W:59cm → 397cm
H:78cm → 257cm