迷い迷って道しるべ
吉村 佳奈美(よしむら かなみ) 16歳 身長160cm 体重43kg
学校の宿題で地域の歴史を調べるハメになった少女。
図書館で背表紙のない本を見つけ・・・
「あー・・・だるいー・・・」
暖房の効いた図書館の室内。
吉村佳奈美は本棚を眺めながらそんな事を呟いた。
『地域の歴史を調べ、レポートにまとめる』という課題の為に、わざわざ放課後に地域でも一番大きな図書館を訪れたのだが・・・
「逆に本が多すぎてどうすればいいのか分かんないよー!」
この有様である。
そもそも地域の歴史と言っても土地の成り立ちや著名な人物、大きな事件の記録など様々である。
彼女でなくともどこから手を着ければ良いか分からなくなるだろう。
「うー・・・こんな課題なければ先輩と一緒に居られたのに・・・」
彼女の言う先輩というのは同じ部活に所属している男子生徒である津山力也だ。
学内一のイケメンとすら言われる程の美男子であり、佳奈美も例に漏れず彼の虜であった。
折角頑張ってマネージャーになったのにーと考えながら歩く佳奈美。
あわよくば恋人になりたい彼女としては少しでもリード出来ている間に距離を詰めたい所なのだ。
「あーもー・・・適当でもいいかなー・・・」
そんな事を呟きながら歩いて居た彼女の目に、ふと一冊の本が留まった。
「あれ・・・この本背表紙がない・・・?」
普通本には背表紙に題名などが書かれている物だが、その本には何も書かれていなかった。
その割には分厚く、しっかりとした皮で綴じられているのだ。
何となく興味が湧いた佳奈美はそれを手に取り、その場で開いてみた。
その瞬間、ぞわりと佳奈美の背筋に冷たい物が走った。
「な、なに!?」
思わず辺りを見回す佳奈美だが、特に誰も居なかった。
──いや、正確には“誰一人も居なくなっていた”。
先程まで近くの本棚の整理をしていた女性も、歴史小説を探していた男性も、暇なのか走り回っていたはずの子供も。
佳奈美以外の全員が忽然と姿を消していた。
「・・・あ、あれ・・・?もう閉館時間だっけ・・・?
あ、あははは・・・もーみんなも声をかけてくれれば良いのになー・・・」
そう自分に言い聞かせるようにわざとらしく声を出す佳奈美。
だがその声はむなしく響くだけだった。
──いや、一つだけそれに反応する声があった。
『無駄っすよー?』
「・・・っ!」
突然の声に振り返る佳奈美。
そして、悲鳴を上げた。
『おわっ!?急に叫んじゃヤダっすよー!?』
そう返したのはこの世の生き物とは思えない存在だった。
一抱えはあるサイズの球体。
そこから小さなコウモリのような羽とこれまた小さな鳥を思わせる足。
真ん中には巨大な一つ目がぎょろりと佳奈身の方を見ており、その下にある横に大きく裂けた口からは鋭い牙が見えている。
まるで絵本やおとぎ話に出てくる悪魔その物が佳奈美の後ろでパタパタと飛んでいたのだ。
「な、なんなの!?」
『なんなのと聞かれたら、答えてあげるが世の情け!
世界の破壊はお手の物!世界の平和は守らない!
愛と真実の悪魔をつらぬ──』
「それ以上はやめて!!何かよく分からないけどやめて!!」
『えー・・・折角考えたのに・・・』
露骨に落ち込む化け物を見て、佳奈美は何とも言えない表情をする。
「・・・それで、貴方はなんなの?」
『俺っちは見ての通り悪魔をやってるっすよー!
ところがちょっとした行き違いからこの本に封印されてたっすよー・・・オヨヨヨ』
わざとらしく泣き崩れながら、悪魔は本を足の先で指し示す。
「行き違いって・・・?」
『ちょっとしたイタズラをしてただけッスよ・・・それなのにこんな本に数百年も・・・!』
数百年と聞いた佳奈美は少し可哀想だなと感じた。
それほど長い間封印されたとあればかなり寂しかっただろうと。
『ほんのちょっと500人位道を狂わせただけだって言うのに・・・』
「もう一度封印するのってどうやるのかなー?」
『ちょっと!?』
頭の中で前言撤回をしながら、佳奈美は本を眺めて封印する方法が書いてないか調べる。
「うー・・・なんで封印解いちゃったのと私ぃー!」
『まぁまぁ過ぎたことは仕方ないっすよー?』
「うっさい!!」
『まぁまぁまぁまぁ!俺っちこれでも感謝してるっすよ?
だからお礼をしたい気分っすよ!』
「お礼・・・?」
『そうっすよー!なんで勝負っすよ!』
笑顔・・・と思われる顔で言う悪魔の頓珍漢な言葉に固まる佳奈美。
「・・・お礼でしょ?」
『お礼っすよ』
「なんで勝負?」
『悪魔にも色々ルールって奴が有るっすよ・・・
悪魔に命令出来る奴はその悪魔より強くないといけないっすよ。
なんで勝負で勝って貰わないとお礼も満足に出来ないっすよ・・・』
またもわざとらしく崩れ落ちる悪魔に佳奈美は眉をひそめる。
「なにそれ・・・別にお礼なんか良いから封印されてよー!」
『流石にそれはお断りっすよ!それに・・・』
「それに・・・?」
『もう始まってるっす』
ハッとする佳奈美。
もしかしたら、ここに誰も居ないのはその勝負とやらのせいなのではないか?
そういう考えが佳奈美の頭をよぎった。
改めて周りを見てみれば先程まで居たはずの図書館の様子とは一変した光景が広がっていた。
迷路のように入り組んだ階段。
それに沿うように並べられた本棚。
1階建てだったはずの室内は吹き抜けの巨大な本の迷宮となっていたのだ。
「なにこれ!?」
『まぁ分かりやすく言えば俺っちの世界っすね。
ほら、どこかの王様も心の中はこんな感じの迷宮だったし』
「・・・」
思わず言葉を無くす佳奈美。
それを気にせずに悪魔は話し始める。
『と言うわけでルール説明っすよー!』
そう言うと、佳奈美が持っていた本がポンッと音を立ててそこから消えた。
驚く佳奈美を余所に、悪魔は勝負の説明をし始める。
『俺っちを封じてた本を"ここ"のどこかに隠したっすよ。
そっちがその本を開いたらそっちの勝ちって訳っす!』
「だから私は勝負なんて・・・!」
『でも勝負受けないとここから出られないっすよ?』
「うっ・・・卑怯な・・・!」
『人間には負けるっすよ。
大丈夫っすよ!そりゃ間違えた本を開いたら本ちょっとのペナルティは有るっすけど・・・
でもそっちが勝ったら“ここであった事は無かったこと”になるっすから!』
「・・・それだけ?」
『それと一つだけ俺っちが出来る範囲で願いを叶えるっすよ!!』
「私のメリット薄いよー!良いからここから出して!」
『えー・・・良いんっすか?“先輩”の事、好きっすよね?』
「──っ!」
悪魔はにっこりと微笑みながら、佳奈美に向かってこう語り掛ける。
『俺っちでも恋人にする位は出来るっすよ?』
・
・
・
「・・・こうしないと帰れないからだから・・・!うん!」
滅茶苦茶になった通路を歩きながら佳奈美は自分に言い聞かせるように呟く。
そこいらの本棚を軽く見てみたが、全てあの悪魔が封印されていた本と同じ表紙になっており一目見ただけでは本物か分からなかった。
佳奈美は勘を頼りにそれっぽい本棚まで移動し、一冊手に取ってみる。
本物の本と恐らく同じ位の重さ、同じ位のサイズ、同じ位の質感。
これが正解でありますようにと祈りながら本を開いてみる。
書いてあったのは・・・・
「・・・牛フィレ肉のオレンジソースがけ」
残念ながら料理の本であったようだ。
開いたページには美味しそうな料理の写真と作り方のレシピが書き込まれていた。
「はぁ・・・次いこ・・・うぐ!?」
本を閉じて次の本を探そうと思った佳奈美の口を、何かが突っ込まれる感覚が襲った。
そして広がる牛肉の旨味とオレンジの爽やかな味。
それは開いたページの料理の味──いや料理その物だった。
無理矢理腹の奥に詰め込まれる感覚。
しかも肉は1枚だけじゃなく2枚、3枚、4枚とドンドン入り込んでくる。
10枚ほど突っ込まれた所で、ようやくその感覚は無くなった。
「・・・っぷは!ぜー・・・はー・・・な、なんなの・・・?」
胃袋にかなりの重みを感じながら、佳奈美はそう呟く。
『これがペナルティっす!間違った本を開く度にそうやって料理を食べて貰うっすよ!』
「なんで!?」
突然現れた悪魔の言葉に佳奈美が叫ぶ様に反応する。
悪魔は何を言うのやらと言いたげな口調でこう返した。
『だってそっちガリガリで見ててもつまらないっすよ・・・やっぱ女はブヨブヨに限るっすよ!!』
「は?」
『なんなんすかそのガリガリな体型!まるで子供みたいっすよ!!』
「いや子供だし・・・」
『いやいやいやいや!俺っちが外に居た頃はもっとこうみんなふくよかで!大きくて!綺麗だったっす!!』
佳奈美はふと、歴史の教師が雑談で言っていた言葉を思い出した。
『昔の人は今と違って太ってる方が美人だったんだぞー。
世界三大美人の楊貴妃とかかなりのデブだったという話だしな。
ドイツとかロシアとか、作物が育ちにくい国は特にそう言う傾向が強くてな?
ロシアとかほんの数十年前までデブの方がモテモテだったんだぞ?』
数百年本に封印されていたという悪魔。
ならその価値観は昔のままではないだろうか?
佳奈美の考えをまるで肯定するように悪魔が続ける。
『あ、因みに今食べた料理はすぐに消化されてお肉になるようにしてあるっすから安心して喰らって下さいっす!』
その言葉通り、先程まで張り詰めていた胃袋の重さは消え去り、代わりに下腹を制服が締め付ける感覚が襲う。
見ればくびれていたはずの腰は大分なだらかになり、柔らかな贅肉が纏わり付いていた。
「ふっ・・・ふざけんなー!今すぐ元に戻してよー!!」
『嫌っす!それにこの勝負終わったら無かったことになるっすからいいじゃないっすか!』
「そうだけどー!それとこれとは違うよー!」
『まぁまぁまぁまぁまぁまぁ!俺っちの隠した本を見つければ良いだけっすよ!』
自分で隠しておいてこの台詞である。
「・・・絶対見つけてやる!!」
佳奈美は料理の本を地面に置くと、次の本棚へと歩いて行くのだった。
・・・脂肪の揺れる感覚を味わいながら。
・
・
・
「はぁ・・・はぁ・・・!」
重くなった身体を揺すり、佳奈美は歩く。
既に本を開いた回数は10回を越え、彼女の体は大分横に広がっていた。
前にでっぷりと飛び出た腹、その上にまるで餅のように乗っかる巨大な胸。
足は太く、先程までの3倍は有ろうかというサイズだ。
腕は贅肉が垂れ下がり、二の腕が動く度にぶるぶると揺れている。
背中には肉の段が出来、顎は立派な二重顎ととなっていた。
『うんうん!いいっすねぇ〜!大分美人になってきたっすよ〜!』
「うっ・・・さい・・・!」
息を切らせながら歩く佳奈美をよそに、悪魔は満足げに佳奈美の後をついて回る。
『それにしてもさっきのはよかったっすねぇ〜・・・弾ける服!揺れる体!最高っすね〜!』
その言葉に佳奈美は先程の光景を思い出して赤面する。
5回目か6回目の本を間違えた時だった。
彼女の体の膨張に制服が耐えきれず、盛大にボタンやら縫い目やらを弾き飛ばしながら破けたのだ。
その際に彼女の全身の贅肉が揺れ、凄まじい恥ずかしさが全身を駆け巡ったのである。
「この・・・変態・・・!!」
『人間の方が変態っすよ?』
絶対そんな事は無い。
そう考えながら佳奈美は本棚を見つめる。
そして気になる本を一冊見つけ、取ろうと背を伸ばす。
だが届かない。
ならばとその場でジャンプしてみたが、それでもほんの少し届かなかった。
ジャンプする度にドスンドスンと音を上げる佳奈美。
自分の体が揺れる感覚に恥ずかしさを覚え、佳奈美は仕方なく足場になる物を探す。
幸運な事に木製の脚立が近くに立て掛けてあり、佳奈美はそれを持つ。
すると自分の太くなった腕が見え、佳奈実を落ち込ませる。
それを振り払い、佳奈美は脚立を立たせて足をかけた。
【ギシッ!!】
凄まじい悲鳴を上げる脚立。
それは同事に佳奈美がかなり太った事を証明していた。
佳奈美は泣きそうな顔をしながらも勢いを付けて脚立に登る。
『おぉう・・・最高の眺めっすねぇ・・・』
小声で悪魔がそんな事を言う。
どうやら佳奈美をローアングルから眺めて居るようだ。
それが聞こえなかったのか、それともそんな事に気を回す余裕が無いのか。
佳奈美は本棚の怪しいと思う本を手に取ろうとして・・・
【ミシシッ・・・バキンッ!!】
踏ん張ろうと足に力を入れた瞬間脚立が折れた。
そのまま後ろの方へと倒れていく佳奈美。
その下には佳奈美を下から覗いていた悪魔が居て・・・
『うぎゅ!?』
見事につぶれた。
100kgを軽く超えるであろう体型の佳奈美が降ってきたのだ。
慌ててて佳奈美が悪魔から退くとそこには見事に目を回している悪魔が居た。
『う・・・げぇ・・・』
佳奈美がどうしようかと迷っていると、悪魔は何か苦しげに悪魔が呟いたかと思うと何かを吐き出した。
それは・・・
「本・・・!?」
そう、先程佳奈美が取ろうとした本とは同じ見た目の別の本。
悪魔がわざわざ持っていた本。
つまり・・・
「コイツ・・・ずっと本物を持ってたのね!!」
つまり、そういう事であった。
慌てて佳奈美はその本を拾い上げる。
それとほぼ同事に悪魔が目覚め、唸りながら起き上がる。
『う・・・ぼぁ・・・はっ!!その本は・・・!』
「これが本物でしょ!?」
『ぐぅ・・・バレたっすか・・・!』
「ずっと口の中に隠してたなんて・・・これルール違反じゃないの!?」
『違いますぅー!ここに隠したと言っただけで本棚に隠したと言ってないから違反じゃないですぅー!』
「うわウザ!!もう良いからこのゲームも終わりにするわ!お礼の件忘れないでね!!」
『こー見えても約束は守るっすよ!』
イマイチ信用出来ない悪魔の言葉を聞きながら、佳奈美は若干涎でしめっている本を開くのだった。
・
・
・
「・・・あれ?」
佳奈美は図書館の通路で目をぱちくりとさせて辺りを見回した。
近くには本棚を整理している女性や、歴史小説を探す男性、走り回る子供がおり、午後のゆったりとした時間が流れていた。
「・・・ボーッとしてた?」
佳奈美は言い様の無い気分でそう呟く。
「あーもー・・・早く課題片づけようっと・・・」
そう言って彼女は大きな体を揺らしながら地域の歴史をまとめた本を探しに行くのだった。
・
・
・
「おはよー!」
「あ・・・はぁはぁ・・・おはよー」
数日後、佳奈美はクラスメイトと挨拶を交わしていた。
「いやー今日も暖かそうですなぁー」
「あははは・・・私デブだからねー」
既に大寒というのに制服の上に何も着ていない佳奈美を見てクラスメイトはそう話す。
佳奈美とは逆に厚手のコートを羽織った彼女は佳奈美の横に並ぶと歩くのが遅い佳奈美に合わせて歩く。
「でもあの津山先輩と付き合ってるんでしょ?あー私もデブになればよかった!」
「あはははは・・・ホントなんで付き合えたんだろうね・・・」
「そりゃ先輩がデブ専だからっしょ?」
「んまぁそうなんだけど・・・」
そう、佳奈美はあの課題のために図書館に行った日の翌日に津山から告白されたのだった。
マネージャーとして頑張っている君に惚れたと。
勿論佳奈美はその場でOKを返し、二人は無事に交際を開始したのである。
なのだが・・・
「かなみん納得いってない?」
「あ、いや・・・そう言う訳じゃないんだけど・・・」
「実感が湧かないって?」
「そんな感じ」
「ほほぅ?幸せに浮ついてるわけですなー?」
「そう・・・なのかなー?」
「そうだって!きっとその内慣れるっしょ!」
「かなー?」
「それよりほら、急がないと予鈴鳴っちゃうよ!」
そう言って駆け出すクラスメイトに待って−!と声をかけながらかけ出す佳奈美。
『あそこでのことは無かったことになる・・・つまりは元々太ってた事にすれば無かったことになるっすよねぇー?
あーやっぱ俺っち天才だわー!天才すぎてつれーわー!
まぁその先輩の好感度を弄って約束も守ったし?俺っちってば出来る悪魔っすねー!
さーて!次のイタズラ行くっすよー!』
その姿を上空から悪魔が酷い予定を立てながらこっそりと見つめているのだった。
吉村佳奈美
身長160cm
体重 43kg → 155kg
B:84cm → 117cm
W:51cm → 138cm
H:85cm → 144cm